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004ー勇者は おうさま に あった。
 

翌日。

 光一と竜斗は、鉄製の巨大な扉の前にいた。
 扉には、精巧な細工が施され、金と銀が細工を鮮やかに浮かび上がらせている。

 2人とも、礼服に着替えさせられていた。

 光一は白の礼服に、黒いブーツ。
 生来の整った顔(イケメン)に、光の当たり具合で、金色に見える明るい茶色の地毛と、黒の瞳。
 端正な美男子の甘いマスクの中、目元がキッと引き締まり、自然と目を引き寄せられる。

 まさに人が想像する、魔王に立ち向かう勇者の姿があった。

 対する竜斗は、空色の礼服を着崩している。
 背が高く、容姿は良くも悪くもない平凡の一言につきるが、いかんせん、目付きが悪すぎた。

 その鋭い目付きと長身痩躯のため、盗賊が変装しているように見える。
 さらに、靴がブーツではなく、運動靴なのも、その雰囲気に一役かっていた。

 それを見、光一が竜斗に小声で話しかける。
「竜斗、なんでブーツじゃなくて、運動靴なんだ?」
「あんな動きづらい靴、何かあった時、とっさに動けんだろうが」


『勇者コウイチ・ヤナギ様。
 勇者リュウト・カミシロ様』
 その声とともに、鉄の扉が開く。

 きらびやかな大広間が目の前に開けた。
 着飾った男女が左右にずらりと並んでいる。
 シェラと先代巫女も上座の方に立っていた。

 正面には、椅子に座った男と女。
 たぶん、国王と王妃だろう。

 その背後に武装して立っている、年若い青い髪の騎士と赤い髪の女騎士は護衛だろうか?
 

 光一は胸を張り、堂々と真っ直ぐ、歩き出す。
 竜斗は溜息を吐いてから、その後を付いて歩いて行った。

 好奇、憧れ、希望、嫉妬、軽蔑、嘲笑、呆れ、様々な視線が2人に集まる。
 主に好意の視線が光一に、場違いな者を見る視線が竜斗に集まった。

 あらかじめ教えられていた通り、光一と竜斗は片膝をついて、頭を下げた。

 国王が、一つ頷く。
「そなたたちが、勇者か」

「はい。国王様」
「依頼の間だけだ」

 竜斗の言葉に、大広間にざわめきが起こった。

 国王も戸惑った表情を浮かべたが、光一が正規の受け答えをしていたため、問題なしと続ける。
「そなたは勇者として、何をもたらす?」

「はい。国王様。
 私、柳光一は、正々堂々、魔王に立ち向かい、国家に安寧を、国民に安心と笑顔をお約束いたしましょう。
 そのためならば、この命、惜しくはありません」

 光一は僅かに顔を上げ、国王の眼を見つめた。
 光一の真っ直ぐな眼に、国王は満足げに頷く。


「して、もう一人の方は?」

「魔王だろうが、何だろうが、正々堂々、幾重にも罠をかけて、背後から不意を打ち、首を叩き落としてやるよ」

 周囲のざわめきが大きくなった。
 竜斗の物言いは、到底、勇者のものではない。

「り、竜斗」
 光一が小声で、竜斗を叱咤した。

 その時、国王の後ろに控えていた紅の髪の女騎士が、先代巫女に問いかける。
先代巫女(アラリエル)よ。
 本当に、この男は勇者なのかや?」
「はい。ルキア姫。
 確かに、召喚魔法陣で召喚された勇者です。
 確認のため、精霊にも聴いてみましたが、間違いなく魔王を討ち取る者だという答えが返ってきました」

 騎士の格好をしている、火のような紅の髪に、青い瞳の姫は、面白そうに笑う。
「なるほどの。正統派勇者に、規格外勇者か。
 実に、面白いものじゃな」

 頭を下げたまま、竜斗は冷や汗を垂らした。
 ………また、厄介な奴に眼をつけられたか。
 なんで、俺の周りには奇人変人ばっかり集まってくんだよ。
 
 ちなみに、『類は友を呼ぶ』という格言は、竜斗の辞書からはきれいに削除されている。


 
 珍獣の気持ちって、こんなのだろうか……。

 光一は、そんなことを思いながら、次々に挨拶に来る貴族たちに笑みを見せている。

 隣に座る竜斗のところには誰も挨拶に来ず、
 大広間後方に並べられている料理を、給仕に取って来て貰い、片っ端から食べていた。

 ううぅ……俺も腹減った……。
 なにせ、朝から何も食べてないのだ。

 何かくれと、竜斗に目配せするものの、
 竜斗は優越感に満ちた笑みを浮かべて、これ見よがしにチキンを美味そうに咀嚼し、至福の笑みを見せつけてくる。

 …………いつか、殺す……。

 食べ物特有の根深い恨みを抱きながら、上から目線の貴族の挨拶に、
 光一は笑みを浮かべ「こちらこそ、よろしくお願い致します」と頭を下げた。

 貴族が立ち去り、顔を上げた光一は、眼を見張る。
 次の人物は、貴族たちとは、明らかに一線違う雰囲気を放っていた。

 白く輝く簡易鎧に身を包んだ青年。
 女性のように繊細な美貌に、輝くような金の髪に、明るい青い瞳。

 へぇ~、本当に金髪碧眼ているんだなぁ。

 光一が光を反射する金髪を見ていると、金髪碧眼の青年が右手を差し出してくる。
「初めまして、ファーレン王国の勇者コウイチ。
 僕は隣の国、ウィンデルム王国の勇者、セドリック・ユニク・ラングリット。
 同じ勇者として、世界を平和に導こう」
「へ……へ?
 勇者? ……隣の国?」
「ああ。そうだよ」

 そこへ、竜斗が突然、口を挟んでくる。
「すまない。一つ訊きたいんだが?」
「ん? なんだい?」
 竜斗は先程までの、悪戯な表情は消え、鋭い双眸を向けていた。

「勇者って、何人もいるのか?」

 センドリックは大きく手を広げる。
「勿論、1国に1人は必ずいるよ。
 不満は、魔王は1国に1魔王といかないところかな。
 僕の国には、魔王がいないから、僕の活躍の場が少ないんだよ」

「……なるほど。……いや、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。
 ところで、君は誰?」
「……俺のことは気にしないでくれ」
 吐息を吐いて、竜斗は眼を伏せる。

「……そうか……すまない。失礼だったな」
「いいって。わかってくれればいいんだ」
「君は良い人だな」
「やめてくれ」
 竜斗は、首を左右に振った。

 セドリックは、光一に向き直り、
「では、僕はこれで失礼しよう。
 いずれ、また会おう。勇者コウイチ」
 再び差し出した右手を、光一が握り返す。
「……あ、はい。
 また会いましょう。勇者セドリック」


 セドリックの後ろ姿を眺めながら、光一は竜斗に問いかける。
「なあ、さっきのは何だったんだ?」
「なにが?」
「ほら、俺のことは気にすんなとか言ってた、あれ」
「ああ、アレか。
 俺もわからん」
「はあ?」
「物憂げな表情をして、それっぽいこと口にしたら、向こうが勝手に納得してくれた」

 しれっと答える竜斗に、光一は呆れ顔になった。


 と、その時――、

「皆の者、準備は整った。
 これより、2人の従者たちを発表する!!」
 大広間に、国王の声が響き渡る。

 光一は驚きに眼を丸くし、竜斗は眼を眇めた。



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