039ー偽勇者のまえに ねくろまんさー か゛ あらわれた。
「盗掘を防ぎ、犯人を捕まえること。
尚、ゾンビやスケルトンの妨害あり」
二つの満月の下、眼を細めながらセラが依頼書を読んだ。
「偽勇者。これランクEの仕事でしょ。
なんで、受けたの?」
「スケルトンなら、人間の骨だろう」
「――切り刻むわよ」
「…………冗談です。師匠」
「で?」
「ちょっと、気になることがあってな」
月明かりの下、深海に沈むような青い闇の中、白い墓石が整然と並んでいる。
月光の当たらない闇はなお暗く、深淵に落ち込むような黒い影が口を開いていた。
風の音や物音に、ビクッと震えるレイフォン。
「……うぅ、怖いです」
「魔術師のレイさんでも、幽霊は怖いんですね」
「はい。思わず、魔術を暴発させてしまいそうなほど怖いです」
「こっちが、コワッ!!」
「ヌッ! 偽勇者よ。
あそこを」
アーサーが指さす先――、
地面の上を、何かが這い回っていた。
それは、幾つもの背中。
何人もの集団が、素手で墓場を掘り返している。
「やるぞ」
「警告は?」
「夜の墓場で、集団が素手で墓堀り。
いらんだろう」
「それも、そうね」
近づいた竜斗は、四つん這いの人影に槍を振り下ろした。
首が飛ぶ。
腐り爛れた首が。
返す刃で、隣のスケルトンを両断した。
「ほ~ら。やっぱり」
墓場を素手で掘り続けながら、ゾンビとスケルトンが、首だけを竜斗たちに向ける。
「光球」
竜斗の魔術で、周りが明るくなった。
ゾンビやスケルトンが光に痛みを感じたように、身を縮こまらせる。
竜斗たちの視線はゾンビやスケルトンを越え、闇の奥。
宙に浮く、黒いフードを被ったボロマント姿の影に向けられていた。
フードの中から、双眸が不気味な黄光を発している。
「ネクロマンサーか?」
「このゾンビを見ればわかるでしょ」
ネクロマンサーが両腕を前に掲げた。
ネクロマンサーの両手の間に発生した黒い渦が、竜斗たちへ真っ直ぐ、飛んでくる。
キン!
レイフォンが魔法杖で展開したシールドで弾いた。
双眸の黄光が不気味に瞬き、両腕を上げたネクロマンサーから紫の煙が発生する。
「グッ!」
「クゥ!」
煙を浴びた前衛のうち、竜斗とセラが口許を押さえ、後ろに飛び退さった。
竜斗がキャップを飛ばして、中身を半分煽った瓶を、セラに渡す。
「毒消しだ!!」
飲み干したセラが軽く咳き込んだ。
「ケホッ、ケホッ。
ありがと。偽勇者」
「筋肉!!」
竜斗が、一人、毒霧の中に立っているアーサーに呼びかけるが、
アーサーは平然と、|右足を前に出して右半身になり、メイスを持つ左手首を掴み、胸と腕に力を込める《サイドチェスト》。
「この鍛えし筋肉に毒など利かん!!
これぞ、筋肉の力!!」
白い歯をキラメかせるアーサーへ、
目の前のゾンビとスケルトンが揃って、ふるふると左右に首を振った。
「ヌウッ!?」
「筋肉。そいつは任せた!」
「ウヌ、任せろ。
腐れた筋肉など、この鍛えし筋肉には利かん!!」
竜斗とセラは周りのゾンビとスケルトンに立ち向かう。
「いい、偽勇者。
斃すにはバラバラにするか、首や胴体を叩き斬って、自分が死んだことを思い出させるかのどちらかよ」
「了解」
竜斗はスケルトンの首を跳ばし、セラがゾンビを袈裟斬りに切り落とした。
「まったく、単なる墓場荒らしだと思ったのに、なんでこんなヤツが出てくるのよ」
「アンデッドの手下だからだろ」
「え?」
「だから、アンデッド城の主が、戦力を増強してるんだろうよ」
「「「ええっ!?」」」
セラ、レイフォン、ウィズの声が重なる。
「……知られた……からには……死んでもらう……」
掠れた声に、竜斗がネクロマンサーへ視線を向けた。
「ほう。喋れたのか」
「……もう……遅い……」
ネクロマンサーが一つの墓に、ボロ布に隠れた手をかざすと、半球状に20もの魔法陣が取り囲む。
「……目覚めよ……ウェルツ・サイクロプ・ハーデス」
異音とともに名の無い墓標が起き上がり、銅のような赤銅色の全身鎧が起きあがった。
兜の内は白骨化した頭蓋骨と、その眼下の奥に青い光。
「ウェルツ……赤銅のウェルツ?」
油断なく双剣を構えるセラの前で、赤銅色の全身鎧は大刀を抜きはなった。
反りのある黒い片刃の刀が、月光を冷たく反射する。
輝きから見ると、鉄ではなく、石から削りだした刃のようだった。
「なんで、あの『ウェルツ』が、こんな共同墓地に葬られているのよ!!」
「強いのか?」
「伝説通りならね」
赤銅鎧が音を立てて、黒い太刀を構える。
赤銅鎧が一歩踏み出すと同時に、竜斗とセラが突進した。
赤銅色の全身鎧が横薙ぎに振った刀を、セラが屈んで避ける。
竜斗が腕甲の隙間に槍の穂先を突き刺さした。
人間なら肘の腱が切れてるだろうが、中が骨の赤銅鎧は構わず黒刀を振り下ろす。
「げっ!?」
竜斗に体当たりをしたセラが、替わって刃を交差させた細剣で受け止めた。
「ぐっ!」
押し潰そうと力を込めてきた刃を滑らせるようにして、横に逸らしたセラは赤銅鎧の胴を蹴って退がり、距離を取る。
セラは月明かりに、細剣を透かして、安堵の溜息を吐いた。
「……魔剣で良かったわ。
アダマンタイト製の刀なんて、普通の剣で受けたら、それだけでボロボロよ」
「アダマンタイト?」
「ドワーフだけが精製できる鉱物よ。
ダイヤモンドよりも堅く、鉄鋼よりも衝撃に強いわよ」
「ダイヤより堅いって……さすが、異世界」
赤銅鎧が、ずしりと一歩踏み出す。
赤銅鎧が放つプレッシャーに負け、攻撃を仕掛けようとした竜斗の足を、セラが払った。
「なっ?」
仰向けに転んだ竜斗の真上を黒刃が風切音を立てて、通過する。
竜斗の前髪が数本舞った。
「偽勇者。邪魔!!
向こうへ行ってなさいっ!!」
「………………はい」
すごすごと、ウィズの所へ向かう竜斗。
竜斗は、魔槍を掲げ、
「八つ当たりーーーッ!!」
雷で前方のゾンビを吹き飛ばした。
「……偽勇者さん……」
「ツッコミ。
言いたいことはわかるから、その可哀想な子を見る眼は止めてくれ」
「まあ、ゾンビを破壊してくれたのは助かりました。
風の爪!!」
ウィズの魔術で、残っていたゾンビが5枚に斬り裂かれる。
「へぇ。ツッコミって風の魔術も使えたのか」
「基礎と風、限定ですが」
「よし。左うちわ役ゲット!」
「将来設計万全!?」
ウィズと竜斗が漫才している後ろで、
「こ~な~い~で~~!!」
レイフォンが半泣きになりながら、魔法杖のシールドでスケルトンを弾き飛ばしていた。
アーサーがスケルトンの一群をメイスで薙ぎ払う。
それだけで、スケルトンはバラバラの骨となって転がった。
霊体を直接攻撃できるアーサーのメイスは、掠っただけでもゾンビやスケルトンには致命的な一打となる。
前が開け、突撃したアーサーがネクロマンサーにメイスを振り下ろすも、ひらりと躱され、黒い渦を数発、撃たれた。
「ヌッ!!」
アーサーは腕を十時に組み、黒い渦の衝撃に耐える。
その間に、ゾンビとスケルトンがネクロマンサーの前を塞いだ。
「ヌウ!! ひらひらと、よく躱す」
「……これで……15度……目……。
……おまえ……こそ……しぶとい……」
墓場に剣戟が鳴り響く。
赤銅鎧の袈裟斬りを、セラは細剣で滑らせて弾いた。
赤銅鎧が黒刀を横薙ぎに振り斬る。
セラの横にあった墓石が斬り落ち、鏡のような断面が月光を反射させた。
剣圧で大木から白い花弁が散り、振り子のようにひらりひらりと舞い落ちる。
黒刀の横薙ぎの一撃を掻い潜ったセラは、赤銅鎧の肘の内側を切りつけた。
セラの氷の魔剣が、赤銅鎧の肘を凍らせる。が、一瞬後に光の粒子となって、大気に散じた。
魔術が利かないことに一切動揺せず、セラは喉元に細剣を刺突。
半身になり、細剣を躱した赤銅鎧は、半円を描くように掬い斬る。
細剣で受けながらも威力を外に逃し、黒刀の峰を叩き上げた。
高く上がった黒石の刃と、白鉄の刃が、冷然な月の青光を写す。
黒刃と白刃が上段から振り下ろされ、打ち合わせた瞬間、セラはもう一本の細剣を細剣に打ち重ね合わせた。
刹那、赤銅鎧は黒刀を引き、セラの喉元へ刺突。
上体を逸らしたセラの顔の真上を黒刃が風の渦を巻いて、通過する。
その場で回転したセラが赤銅鎧の腕甲を蹴り上げ、後ろに跳んで距離を取った。
赤銅鎧が黒刀を青眼に構え、
セラが双剣を構える。
宙を舞っていた白い花弁が、月光を冷たくはね返す墓石の上に舞い落ちた。
赤銅の兜の奥で青い双眸が妖光し、
セラの緑の双眸から感情が抜け落ちる。
セラが地を滑るように低く突進し、
赤銅鎧が右足を一歩踏み出した。
セラが双剣を斬り上げる。
赤銅鎧が黒刀を上段から斬り下ろした。
黒刃を振り下ろす赤銅鎧が上半身を捻り、胴鎧と腰鎧の合わせ部が擦れ合う。
――錆び付き、腐食した鉄製の合わせが――。
刹那の遅れ。その遅れで、セラには十分だった。
《リュケン流断斬》
左の細剣で赤銅鎧の首筋の隙間を断ち切り、右の細剣で首を跳ね飛ばす。
胴体だけとなった赤銅鎧が3歩、歩き――――、地面に倒れた。
首を断ち切り、動かなくなった赤銅鎧を見下ろすセラ。
「武器と武具は、己の命と同等なもの。
あんたの言葉だっけ?
錆びないヒヒイロカネの鎧と言っても、百年も土の下じゃ、そこらの一般品以下よ」
「……ぐ……おのれ……」
ネクロマンサーは赤銅鎧が倒れると、すぐさま暗闇の向こうへ逃げて行った。
周りのゾンビやスケルトンが一斉に崩れ落ちる。
「ヌ!? 待たんか!」
「この死体って、誰が片づけるんでしょうね」
「怖かったです~。怖かったです~~」
「あ~あ、任務失敗ね」
「首謀者にしっかりと逃げられたからな」
「偽勇者の口八丁でなんとかならない?」
「俺のは、そこまで万能じゃねぇよ」
*
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。