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029ー偽勇者は こうほ゛う を てにいれた!
 晴れ渡った青空。
 麗らかな午後の昼下がり、竜斗とメイドは中庭でお茶をしていた。

 竜斗が紅茶を飲み干す。
「メイドさん」
「はい?」
「魔王って、西の魔大陸から来るんだよな」
「はい」
「魔大陸じゃ、魔王同士が覇権でも争ってるのかね」

 メイドが濃紫の長髪を揺らして、小首を傾げた。
「あら。リュウト様には言っておりませんでしたか?
 西の魔大陸には、次元の穴が開いているのです」
「は?」

「簡単に言えば、異世界への通り道ですね」

「異世界って……」
「異世界は、別にリュウト様たちが居た世界だけではありませんよ」
「その穴ってのは?」
「まさに、穴ですね。
 神話時代の話になりますが、神獣でも神竜でも神鳳でも、どうにもできなかったそうです。
 空間そのものを破壊しても、異世界への穴は消えなかったとか。
 そのため、次善策として大陸そのものに結界を張ったのです」

「てことは、魔王は異世界からの侵略者ってことか」

 カップを置いたメイドが溜息を吐く。
「だからこそ、厄介なのです。
 神話時代、何度か魔族と交渉の場が設けられたそうです。
 しかし、こちらの言葉は通じるのに、思想が通じませんでした。
 私たちとは全く別の進化を遂げてきた彼らは、
 姿形は似ているものの、脳の仕組みそのものが違うようなのです。

 故に、彼らには『平和』という概念がありません。

 そして、闘争をしてるという意識さえもありません。
 何故なら、息をするように、闘争を生存本能に組み込んでいるからです」

「な~る。全く違う生物(エイリアン)と交渉したところで、思想は通じないってか。
 血の色も紫だしな」
 竜斗は背もたれに体重を預け、空を眺めた。

 メイドが竜斗のカップに、紅茶のお代わりを煎れる。
「さらに言うならば、彼らがどうやって仲間を増やしているか、今もって不明なのです。
 魔物が生殖行為をしていたという報告は聞きませんし、卵を産むという報告も聞きません。
 しかも、全て成体ばかりで幼体の姿を見たことがありません。
 世の魔術師たちは単体分裂とか、単体生殖とか、女王蟻のような存在がいると、主張してる者もいるほどです」
「まあ、雄と雌がいて生殖するのが、奇妙に見える異世界も存在するかもな」

 竜斗はクッキーを口に放り込み、紅茶を口に含んだ。
「確か、今の魔王は4人だったよな」
「はい。それぞれ、各国の勇者が対応しています」

「勇者と言えば、コウの周りが随分、きな臭くなってきたな。
 各派閥の思想が絡んでドロドロのグ~ルグル。
 ま。あいつは、まったく気づいてないようだけど」
 苦笑する竜斗に、メイドが尋ねる。
「手助けなさらないのですか?」
「なんで俺が。
 依頼されてるわけでもないのに。
 それにコウなら、いつもの如く主人公属性を発揮して、何も気づかないうちに全て終わった状態になってるさ。
 しかも、コウにとって一番良い状態で」

「そんなことが?」
 眼を丸くするメイドに、竜斗が鼻を鳴らした。
「あるんだよ。
 あれは一種の特殊能力だな」

 紅茶を一口啜ったメイドが、ふと顔を上げる。
「派閥と言えば、先日、リュウト様の紹介で商人の方が来ました。
 ちょうど、ネズミ捕り用の罠が欲しかったので注文しましたが」
「あん? ああ、商人ギルドの関連だよ。
 情報を探ってるうちに行き当たってな。
 王宮にツテを作りたがってたから、メイドさんを紹介しといた。
 メイドさんなら何よりも王宮のツテだろ」
「はあ。
 商工派の方々でしたか」

「魔王軍と本格的に事を構えるとなると、商人を――『物流』を味方に付けた方が心強いからな。
 コウなら兎も角、凡人の俺は利用できるもんは全て利用するさ」

 円卓に肘をつく竜斗に、メイドが金の眼を細めた。
「リュウト様が派閥に関わるとは思いませんでした」
「コウのように、気づいたら最良の状態で終わってることなんてないからな。
 俺の場合、気づいたら最悪の状態の渦中なんてことはザラだよ。
 なら、前もって手を打つのは当然のことだ」

「ですが、彼らは金の切れ目が縁の切れ目ですよ」
「それで良いんだよ。
 必要無い時には、いないってことだから」
「しかし、必要な時、必要以上に群がる存在でもあります」

 竜斗は唇の端を吊り上げ、笑みを見せる。
「確かにな。
 奴らを利用しきるか、俺が使い捨てられるか。
 力押しの魔王相手なんかより、
 狡猾な人間相手の方がはるかに面白いぜ」

「リュウト様は宰相向きでもございますね」
「だから言ってるだろ。
 俺に勇者は合わねぇって」

 竜斗は、椅子から立ち上がった。
「じゃ、俺、そろそろ行くわ。
 紅茶。ごちそうさま」

「はい。それでは、また」


 槍を持って立ち去る竜斗を見送ったメイドは紅茶を飲み干し、金の双眸を細める。

「……そろそろ、状勢が動き始めそうですね」



「偽勇者さん!」
 竜斗を見つけたウィズが駆け寄ってきた。

「騙しましたね!!」

「何がだ?」
「勇者だなんて聞いてませんよ」
「勇者じゃない。偽勇者だぞ」
「同じです!!」

「本物と偽物を同じと言い切るのか。
 むっ、……――深いな」
 顎に手を当てる竜斗に、ウィズがツッコム。
「そんな哲学的な話はしてません!!
 単純に騙されたって言ってんです!!」

「何を?」
「冒険者だって言ったじゃないですか!!」
「冒険者とか(・・)やってるとは言ったが、冒険者だとは断言してないぞ」
「でも、勇者だとも言われてません!!」
 口をへの字に曲げるウィズに、
 竜斗が拳を握って、空の彼方を見つめた。
「ツッコミ。
 お前は俺に、世のため人のため役に立ちたいと言ったろ。
 あの時、俺は感動した。
 こいつは、冒険者とか偽勇者とか小さいことにこだわらず、多くの人を助ける男だと」
「小さくありません!!」
 感動で誤魔化す竜斗を、
 ウィズはばっさりと切り捨てる。

「それに……ほれ」
 竜斗が指さす先には、レイフォンとセラの二人連れがいた。

 レイフォンが上目使いでウィズを覗き込む。
「ウィズさん……やめちゃうんですか……」
「うっ! …………うぅ」
 上目使いのレイフォンに、ウィズが後退さる。

 レイフォンの金の眼がウルウルとし始めた。
「……行っちゃうんですか……」
「ま、まさかぁ! 
 僕は小さい頃から勇者に憧れてたんです。
 さあ、頑張って魔王を斃すぞ!!」
「そうですか」
 拳を振り上げるウィズと、ほわっと安堵するレイフォンに、
 竜斗とセラはニヤニヤと笑う。

 そんな二人の様子に、じわっと涙目になったウィズは、
「ひ、卑怯だーーーーー!!」
 両眼に腕を当てて、明日に向かって駆けだした。

「ウィズさん。……走って行っちゃいました……」
 突然、駆け出したウィズに、眼をパチクリさせるレイフォンへ、
 竜斗が重苦しく告げる。
「走りたい年頃なのさ。
 さらなる青春の疾走のために、内気が追いかければ、もっと走るぞ。
 さあ、お前の日頃の努力の成果を見せてやれ!」
「あの……いいんでしょうか?」
「勿論だとも!
 走ることはストレスを発散させる効果もあるんだ」
「はい!」
 レイフォンが緑の髪を跳ねさせて、追いかけ始めた。

「な、なんで、追いかけてくるんですかーー?」
「ウィズさん。走りましょう!」

「なぜーーーーっ!?」

 遠くから、レイフォンの声とウィズの悲鳴が聞こえてくる。

 
「ツッコミと内気のトレーニングには最適だな。
 ああやって、定期的に運動させるかな」
 満足げに頷く竜斗に、セラが呆れた眼を向けた。
「鬼」
「偽勇者だよ」


「偽勇者」

 竜斗とセラが振り向くと、
 背中まである緑の髪を風に靡かせたレンフェィが立っていた。
「あら、筆頭魔術師じゃない」
「おう、無口っ娘」
「レンです。
 工房の用意、できた」
「そっか。ありがとな」
「……別に」

 セラが小首を傾げる。
「工房って?」
「ツッコミの工房だよ。
 ライフル改良のためには必要だろ」
「ああ、なるほどね」

 つつっと竜斗の隣にすり寄るレンフェィ。
「ん?」
「…………別に」

 何かに気づいたように仰け反ったセラが無言で、竜斗の反対側の腕を取る。
「なんだ?」
「…………何でもないわよ」



 ウィズとレイフォンの追い駆けっこを笑いながら眺めてる竜斗の背後で、
 セラとレンフェィが視線の火花を散らしていた。




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