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002ー勇者は ひっとぽいんと か゛ かいふくした!
 先程まで、窓も明かりもない神殿の一室だったのでわからなかったが、
 外はすでに暗く、満天の星空が見えていた。

 詳しい話や、二人のお披露目は明日に回し、今日は休んでも良いらしい。
 逃げ出す機会でも作ってくれているのかと思ったが、竜斗はすぐに違うことに気づいた。
 何人もの視線を感じる。
 きっちりと監視されているのだ。

 目の前を歩いてる光一は部屋まで案内してくれている濃紫の長髪ストレートのメイドに、幾つも質問している。

 その問答を聞き流しながら、竜斗は城の中を観察していた。
 重厚な石造りの西洋式の城。
 中世の城のようだと言いたいところだが、灯りは蝋燭ではなくランプで、しかもランプにしては明るすぎる。
 窓はガラスなど嵌まっておらず、吹きさらしなのだが、風は一切入り込まない。
 石の上にカーペットが敷いてあるだけの廊下も、快適な温度に保たれている。

 中世の城というよりは、ファンタジーの城と言った方がピタリと当てはまった。
 視覚と感覚にズレがあるため、どことなく嘘っぽく感じられる。
 ゲームの中のヴァーチャル空間のようなと言えば、伝わりやすいだろうか。


 竜斗がそんなことを考えていると、メイドがピタリと足を止めた。

「こちらが、リュウト・カミシロ様の部屋です。
 その隣が、コウイチ・ヤナギ様の部屋です」

 案内したメイドは光一の話から、名前と苗字が自分たちとは逆になっていると気づいたようだった。


 神殿の部屋を出ようとした竜斗の前に立ちふさがった、あの時の濃紫の髪のメイドである。

 ――このメイドも油断ならないんだよな。

 ていうか、そもそもメイドが、あの重要そうな場にいたこと事態、冷静に考えればおかしいし。


「では、明日がさらに良い日に(お休み)なることを願って(なさいませ)

 金の瞳のメイドが二人に向かって、完璧なお辞儀をして見せた。




「ふぅ~~」
 光一は溜息を吐きながら、ベッドに腰掛けた。
 ベッドは見た目よりも、堅い感触を返してくる。

 光一はもう一度、部屋の中を見回して吐息を吐いた。
「すっごいなぁ」

 一目で高級とわかる家具。
 キラキラと光を放つシャンデリア。
 踝まで埋まる赤い絨毯。
 宝石やら金銀が填め込まれた墨色の椅子と机。
 どこかの丘と草原が精密に描かれた油絵。


 もう一度、大きく息を吐き出した光一は膝の上に肘をつき、手を組んで、顎を乗せた。

 勇者か……、さっきは承諾してしまったけれど……。

 でも、俺なんかに、勇者が務まるのだろうか。
 剣道に自信はあるけど、実践とは違う。
 俺だって、それぐらいはわかる。

 だけど……俺は、助けを求めてきた人たちを助けたい。
 勿論、全てを助けるなんて無理だ。
 
 でも、助けを求めてきた人たちぐらいは助けたい。
 
 助けを求めてきた人を助けることは、間違ってないのだから。
 
 目の前で窮地に陥っている人がいると、助けたいと思ってしまうことは、俺の悪い癖だけれど、
 俺の存在が、助けになるならば、

 助けることが、勇者になることならば――、
 俺は、勇者になろう。

 それで、助けを求めている人たちが助かるなら――、
 俺は、勇者になろう。

 ちっぽけな俺の力が、誰かを助けられるのならば――、

 ――俺は、『勇者』になる。


 ところで、部屋に入った時から、疑問だったんだけど…………、
 あのシャンデリアの光は、どうやって消すんだろう?

 ぼぅっと光一が天井を眺めていると、
「いよっと!!」
 掛け声とともに、窓から人が転がり込んできた。

 ビクッと震える光一に、窓から乗り込んできた竜斗が片手を上げる。
「よっ。
 部屋の造りは同じようだな。無駄に高級なのもな」

「お、お前、どっから入ってくるんだよ」
「窓」
「見れば、わかる。
 なんで、ドアから入ってこない?」
「廊下には、見張りが立ってたんでな」
 竜斗は椅子を引き寄せ、背を前にして座った。

「だからって、窓から入ってくる理由にはならないだろ」
「まあな。ちょっとばかし、知られたくなかったんでな。
 ところで、コウ。お前、本当に勇者になるのか?」
「ああ、決めた。
 俺は、『勇者』になろうと思う。

 目の前で助けを求めている人がいたら助ける。

 勇者とか関係なく、それが人間てものだろ」

「さあな。
 俺は、できた人間じゃないんでね」

「竜斗。お前はどうするんだ?」
「う~~ん。依頼を受けたからな。
 でも、魔王の首を取るだけなら、勇者じゃなくてもできるよなぁ。
 報酬が支払われるかどうかも、怪しいところだしな。
 今後の方針を決めるためにも、俺はもう一度、あの魔法陣を調べてみようと思う。
 コウも来るか?」
「それ、怒られないか?」
「ああ、バレたらヤバイかもしれんな。
 だから、無理には誘わないさ」
「俺は遠慮しとくよ」
「そうかい」

 椅子から立ち上がり、窓へ向かった竜斗が、ふと振り返った。
「なあ、コウ。
 お前は、元の世界に戻ろうとしてねぇな」
「うん、まあ。
 こちらの世界でやることが出来たしね。
 帰るのは、それが終わってからでも良いかな、と思ってる」
「全てが終わった後、向こうが手放すとは思えねぇけどな」

 竜斗が窓枠に手をかけて、外に乗り出す。
「竜斗」
「あん?」
「やっぱ、不味くないか。
 あの魔法陣、重要そうだったし、
 誰かに見つかったら、牢屋に放り込まれるかもしれないぞ」

「いいか? 常識は疑うためにあるんだし、規則は不備の穴を突くためにあるんだ。
 守らなきゃならないもんは、約束ぐらいだよ」

 そう言い捨てると、竜斗は窓から身を乗り出し、石壁に足を掛けた。


 この城は、きっちりと石が積み重なっておらず、
 足を引っかけるくぼみや、手を掛けるでっぱりが幾つもある。
 窓から窓へ移動したときも、ロッククライミングよろしく、壁を渡ってきた。

 2つの月(・・・・)明かりの中とはいえ、真夜中に4階の窓から地面まで降りる。
 足を滑らせれば、あっという間に滑落死体の出来上がりだ。

 竜斗は注意深く降りながら、ボヤく。
「……やれやれ……」

 外壁に張り付いて移動など、元の世界でビルの8階に、2時間程張り付いていた時、以来である。

 うん。あの時はヤバかった。つーか、寒かった。
 ビル風直撃で、足幅10センチなかったもんな。
 それに比べりゃ、軽い軽い。

 あ~~。そういや、あの後、所長に大笑いされたっけなぁ。

 バカ笑いしていた所長と同僚を思いだし、鬱に凹んだ竜斗は黙々と壁を降り続けた。




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