019ー偽勇者は きんか を てにいれた!
一つの月が新月、もう一つの月はすでに沈み、いつもより圧倒的に暗い夜半。
竜斗は、豪華な屋敷の前にいた。
暗がりから、人影が走り出てくる。
「いよっ。旦那。
薬、混ぜてきたぜ。
みんな、おネンネさ」
「働かせすぎは良くないな」
「まったくだ」
男と笑い合った竜斗は懐から、銀貨を数枚取り出し、手渡した。
「約束の残りの5銀貨(5万円)だ。
今日のことは口を噤んでろよ」
「そりゃ、もう」
男が去ってから、角からセラたちが出てきて、問いかける。
「今のは?」
「ネコババ大臣の屋敷の警備兵になりすましてた男。
名前は知らんし、知る必要もない」
竜斗が渡りをつけた侵入専門の人間だった。
「じゃ、ちょっくら、身ぐるみ剥いでくるぞ」
「それじゃ、強盗じゃない」
「だから?」
「ちょっと!!」
「大臣は、俺らの金を盗んだんだ。
当然、やり返されるのは想定内だろうよ」
竜斗は首を、コキリと鳴らす。
「間取りは頭に入ってるな?」
「一応、覚えてきたけど」
「じゃ、行くぞ」
「……で、でも」
「なんだ?
ツンデレは、泣き寝入りしたいのか?」
「まさか!!」
「手を出してきたのは、向こうからだぜ。
やられたら、やりかえす。
それが、俺の主義だ」
「そ、……そうよね。
やられたら、やりかえす。
うん。当然よね」
何かを納得できたセラは、大きく頷いた。
「異存はないな?
筋肉、内気」
「ウヌ。ない!!」
「あんた、本当に神官騎士見習い?」
「セラ嬢よ。神殿は、金と筋肉に関しては強欲だぞ」
「筋肉はウソでしょ」
「ヌッ!? 何故、わかった?」
「わ……わたしは……悪いことは……」
「文句は、終わってから聞いてやる」
「お、終わってからだと……遅いと思いますけど……」
「行くぞ!! 内気!!」
「はい!」
「うわっ。押し切っちゃったわ。こいつ」
「……ううぅ……流されるわたしは、ダメダメです」
竜斗を先頭に、セラたちは塀を乗り越えて、大臣の屋敷に侵入した。
「お~~、警備兵は全員眠ってるな。
いい仕事してやがるぜ」
「どうやって、眠らせたのかしら?」
「食事に、遅効性の眠り薬でも混ぜたんだろ。
元の世界で、俺もそうやってたし」
「あんた、元の世界で何をやってたのよ?」
「だから、仲介屋と仲裁屋」
と、その時、竜斗とセラが武器に手をかけ、暗闇を見通す。
闇の中から吠え声が響いた。
「犬か?」
「睡眠!!」
微かな月明かりに照らされた数匹の犬たちに、セラが眠りの魔術を放つ。
抵抗もなくバタバタと倒れる犬たち。
「知能の低い動物相手には、これが一番ね」
「へぇ~、便利だなぁ。
俺も覚えよ」
屋敷の中の使用人たちも見る限り、全員眠っていた。
竜斗たちは、迷わず一室に向かう。
「おっ。金庫。
さすが、情報屋の間取り通り」
「まさに、盗賊ね」
「失礼な。偽勇者だよ。
それに、勝手に他人の家のタンスをあさるのは、勇者の特権だぞ」
「何よ、それ?」
「《魔術関知》」
大きなダイヤル式金庫の前で、竜斗は魔術を唱えた。
竜斗の眼には、魔力の流れと、その力を発している精霊石が発光して見える。
「内気。この魔法陣は、何の効果がある?」
竜斗は魔力が発光して見える魔法陣を指でなぞった。
「え……っと……あ、はい。対アンロック魔法陣ですね」
「やっぱりな。
内気。この精霊石に思いっきり魔力を流し込め」
竜斗が指さした1センチほどの小さい精霊石に、
レイフォンが両手を当て、全力で魔力を流し込む。
パキッ!!
数秒後、精霊石がレイフォンの魔力に耐えきれず、ひび割れ、砕け散った。
「砕けた?」
「えぇっ!?」
「はは。予想通り。
内気の魔力に耐えきれなかったんだ。
精霊石をケチったツケだな。
そんじゃ、遠慮なく――解錠!!」
竜斗の魔術で、あっさりと金庫の鍵が外れ、扉が開く。
金庫の中には、金貨の山が築かれていた。
「おおっ!!」
「すごい」
「ムウ」
「こんな大金……生まれて初めて見ました」
「筋肉。金貨を全部、この革袋に詰め込め」
「ウヌ。任せろ」
「ツンデレ。内気。大臣の部屋に行くぞ!!」
「了解」
「は、はい」
*
「睡眠!!」
セラは、寝ている大臣とその妻に、眠りの魔術をかけた。
麻酔と同じ効果があり、何しても目覚めなくなる。
竜斗が二人を縄で縛り、目隠しと猿ぐつわをした。
「あれ? 内気は?」
「後から来ると思うわ。
私たちの足についてこれなかったのよ」
「ま、屋敷の間取りは教えたし、大丈夫だろう。
俺は書斎に行く。
ツンデレ。小物で価値のある物をかっさらえ。
大きすぎる物は手を出すなよ」
「了解」
躊躇いなく廊下を走って行く竜斗を見送り、セラは頬を掻く。
「あいつ。生き生きとしてるわねぇ。
いやに手慣れてるし、ほんと、元の世界で何をしてたのかしら」
セラが振り向こうとした時、背中に衝撃を受け、押し倒された。
俯せに倒れたセラの背中に、太った男が跳び乗る。
「はは。夕飯食いそびれて、腹減って起きてきたら、みんな寝てるんだもんな。
絶対に、何かあると思ったぜ」
セラは無言で、じっと反撃のチャンスを伺う。
「さあ、ゆっくりとこっちを向け。
警備兵に突き出されたくなかったら、ぼくの言うことを聞いた方が良いぞ、女。
牢屋は辛いぞ。
ぼくにたっぷりと奉仕するなら、警備兵に突き出さないでおいてやるよ。
美人だったら、ずっとぼくの物にしてやる」
セラの眼から感情が抜け落ち、コキッと指を鳴らした。
「ぼくは大臣の息子だぞ!
ちゃんと奉仕できたら、ご褒美もやるさ。
さあ、こっちを向け!!」
大臣の息子が、セラの頭に手を伸ばし――
ゴン!!
鈍い音が響き、大臣の息子が前のめりに倒れ――、
ゴキッ!!
セラが首筋に肘打ちを打ち込んだ。
セラが気絶した肥満の男を、床に転がすと、後ろには魔法杖を握ったレイフォン。
初めの鈍い音は、後ろから来たレイフォンが、大臣の息子の後頭部を杖で殴った音だった。
「睡眠!」
一応、大臣の息子に眠りの呪文をかけたセラは手早く縄で縛り、目隠しと猿ぐつわを咬ませる。
一息吐いたセラは、顔を上げた。
「ありがとう。魔法つ……レイフォン。
あなたのおかげで、顔を見られずに済んだわ。
じゃなきゃ、このバカを殺さなきゃいけないところだった」
「無事で良かったです。ランセルさん」
立ち上がったセラは、唇に指を当てる。
「ん~。レイフォン。
私、家名って嫌いなの。
セラって呼んで」
「じゃあ、わたしのことも、レイって呼んで下さい。
セラさん」
「了解。
じゃ、レイ、行くわよ!」
「何処にですか?」
「クローゼット」
「はい?」
首を傾げながらレイフォンは、セラについて行った。
「ふふふ。あるある」
化粧台の引き出しを開けたセラは、手当たり次第、宝石を引っ張りだして、床に積み上げる。
「身に付つける宝石のたぐいは、化粧台にあると思ってたわ。
うちも母様もそうだし」
「て、手慣れてますね。セラさん」
「失礼ね。手慣れてなんかないわよ。
偽勇者と一緒にしないで」
「……は、はあ」
「さ。とっとと革袋に詰めるわよ。
レイ、手伝って」
「うぅ、良いのかなぁ……」
*
書斎に入った竜斗は、デスクの椅子に座った。
竜斗は、この書斎に金銭のたぐいがあるとは思ってない。
今回、大臣の家に襲撃をかけたのは、強盗が主目的ではない。盗みはついでだ。
竜斗の目的は別にある。
本来の目的は、この大臣を完膚無きまでに叩きつぶすこと。
竜斗は唇を歪めた。
俺に喧嘩を売ってきたこと、心底、後悔してもらおう。
聞き込みや印象、そして今回のピンハネから、この財務大臣は相当な額を横領している。
そして、几帳面な性格から、必ず裏帳簿やそれに類似するものを残しているはずだった。
金が増えていくことが好きな人間は、総じて財産管理をしているものである。
それでなければ、どれくらい増えたかわからないし、
数字の増加が、他の何より金が増えていくことを実感できるからだ。
なら、どこかにその帳簿があるはずである。
竜斗は元の世界で、そんな隠し物の捜索を数多く経験していた。
竜斗は椅子に座りながら、周りを子細に観察する。
後ろめたい重要書類を隠す時、不安な心理から、
いつも仕事をしてるこの位置から、眼の届く範囲にあるはず。
しかし、他人に知られてはならない。
机の引き出しのような不用心な場所じゃない。
机の上には、書きかけの書類、インクにペン立て。小型の精霊石式ランプ。
真正面には、どこかの風景の絵画。
左手には窓ガラス。すぐ外には木が茂り、遠くまで見通せない。
床は、茶色を基色とした複雑な模様の絨毯。
天井にはシャンデリア。
右手には、裸婦像。すぐ隣には、家族の肖像画。
…………裸婦像?
それだけが、周りから浮いていた。
椅子から立ち上がった竜斗は裸婦像をじっくりと眺めてから、おもむろに台座を調べる。
案の定、台座の裏が開閉できるようになっており、そこに書類の束があった。
書類を、ざっとめくった竜斗は、鼻で笑う。
「ハッ! ちょろい」
*
「筋肉。金は全て馬車に積み込んだか?」
「ウヌ! この筋肉の通り」
「内気。ちゃんと、乗ってるな?」
「はい。乗ってます」
「ツンデレ。お前は?」
「宝石。全部、かっさらってきたわよ。
それで、あんたの方は?」
「ばっちりだ。
これで、大臣は終わりだな」
竜斗は書類の入った封筒を見せた。
「よし、筋肉。
そのまま、隣の国に行くぞ!!」
「ちょっと待って。偽勇者。
他国に入るには、通行許可証が必要なのよ?」
「大丈夫だ。ここにある」
「そんなの、いつの間に、申請してたのよ?」
「ん。まあな」
返答を濁した竜斗は、偽造通行証をハタハタと振る。
「てなわけだ。筋肉、遠慮はいらねぇ。
ウィンデルム王国までぶっ飛ばせ!!」
「ウム!」
*
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