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001ー勇者は いせかい に しょうかんされた!
 視界が白い光、一色に塗りつぶされる。
 徐々に光が収まると、紫色に発光している魔法陣の上に、二人の少年が横たわっていた。

「「「「おおおおっ」」」」
 中央に魔法陣しかない簡素な部屋に、どよめきが沸き起こった。



「「「「おおおおっ」」」」

 ッ!! ……くそっ。ミスった。

 低いどよめき声に、長身痩躯の少年は飛び起き、身構えた。
 床から発光する紫の淡い光だけが照らす薄暗い部屋を、鋭い眼で見渡す。

 少しずつ、眼が慣れていくにつれて、部屋の中に十数人の人影が見て取れた。

 すぐさま動けるように膝を軽く曲げ、足を半歩開いた少年は、
 その時、初めて、足下にもう一人、寝ていることに気づいた。

 黒目黒髪の長身痩躯の少年は周りに鋭い視線を向けながら、
 寝ている少年を片足で蹴り小突く。
「おい。起きろ。光一」

「うっ、……うぐぐぐ……」
 呻きながら身を起こした茶髪の少年が、眼をぱちくりと瞬かせる。
「……どこだ? ここは?」
「さあな」

「竜斗、どういうことなんだ?」
「俺に聞くな」
 竜斗と呼ばれた長身痩躯の少年は憮然と答えた。

 光一は起きあがって、遠巻きに見てる人間に声をかける。
「あの……すいません。ここはどこですか?
 俺たちは、黒い光に呑み込まれて…………あっ、俺たち怪しいものじゃありません。
 俺は、柳光一(やなぎこういち)。で、こいつは上白竜斗(かみしろりゅうと)
 二人とも高校2年で――」

 光一の言葉を遮るように、正面に居た小さな人影が前に進み出た。

「ようこそ、いらっしゃいました。
 勇者様」

「はっ?」
「勇者?」



 光一の前に進み出た少女は青い瞳に、青い髪をストレートに延ばし、
 神官のような金糸に縁取られた白い服を着ていた。

「えっと……勇者って、どういうこと?」

「ここは、ファーレン王国と言います。
 我が国では危機が起こる度に、この召喚魔法陣で『勇者』を召喚するのが習わしなのです。
 通常ではファーレン王国、またはその周辺から召喚されるのが常なのですが、東方の方が召喚されるのは初めてです。
 『仁』の国の方でしょうか?
 それとも、さらに極東の『(しのぶ)』の方でしょうか?」

「いや、……俺たちは日本人で……」
「ニホン……?
 そうそう。申し遅れました。
 わたくしは水の神殿の巫女をしております、シェラ・エスティン・ウィンデネル・フェリアースと申します」
「あ、はい。こちらこそ、よろしく。
 いや、そうじゃなくて、……その『勇者』って?」
「はい。このファーレン王国に、『魔王』が現れたのです。
 精霊の儀を行ったところ、あなた様が勇者として召喚されたのです」
「勇者?」
「はい」

「俺はかまわないけど……」
 光一は、ちらりと後ろを一瞥する。

 腕を組んだ竜斗が口を噤んで、こちらを睨みつけるように会話を聞いていた。
 光一の視線に気づいたシェラは小首を傾げた。
「勇者様の従者の方が、どうかしましたか?」
「竜斗は従者じゃなくて――」

 光一の説明を遮って、竜斗が口を開く。
「おい。チビ巫女」

「ち……チビ!?」

 髪が逆立つようなショックを受けるシェラを無視し、
 目つきの悪い竜斗がさらに眼を鋭くした。
「俺はコウの従者じゃない。
 それから、俺たちは異世界の人間だ」

「異世界? ……別の世界という意味ですか?」
「そうそう。シェラさん。
 俺も竜斗も、この世界の人間じゃないんだ。
 俺の世界に、ファーレンなんて国はないし、仁も(しのぶ)もない。
 歴史上にも無かったはずだし」

「失礼ですが、それは勇者様たちが知らなかっただけでは……」
「残念だけど、それはないよ。
 俺たちの世界……いや、国では、地球全土のことぐらいわかる所に住んでいたから。
 知らないなんて……少なくとも聞いたことすらない国名なんて、ないからね」
「そうですか……。
 勇者様の故郷のことは後で、ゆっくりとお聞きしたいと思います」

 シェラは光一の前で片膝をつき、胸の前で手を組んだ。

「勇者様、わたくしたちの国をお救い下さい」

「わかった」
「断る」
 二人の言葉が重なった。

 全員の視線が拒否した竜斗に突き刺さる。
「勇者とやらは、コウがやれば十分だろ。
 俺は、元の世界に帰らせてもらう。
 チビ巫女。俺を元の世界に戻せ」

「私はチビ巫女などという名前ではありません」

「お前の名前なんざ、問題にしてねぇんだよ。
 俺を元の世界に戻せるのか? 戻せないのか?
 どっちだ?」

 シェラが細眉をひそめる。
「あなたのような無礼な方に、答える気はありません」
「この……ガキ……。
 ぶちのめされてぇのか」

 途端に、壁際の数人から強烈な殺気が発せられた。

「お、落ち着けよ。竜斗。
 シェラさん。竜斗も突然の出来事で、動揺してるんです」
 手を振りながら、慌てて弁護する光一の後ろで、
「へぇ~」
 竜斗は醒めた眼で殺気を放った数人を眺めていた。

 どうやら、こいつらも一枚岩じゃないみたいだな。
 チビ巫女を侮辱されて、殺気を放つ者、嘲笑う者、無関心を貫く者。
 今、見る限り、3派……いや、4派の派閥か。

「お、おい、竜斗。お前も謝れよ」
 光一を黙殺し、怒り心頭に発している演技を続ける竜斗は周りへ、声を張り上げる。
「お前らが元の世界に戻さないというのなら、俺は勝手にやらせてもらう」

 踵を返し、出口へ向かう竜斗の前に、一人のメイドが立ちふさがった。

 竜斗が眉を顰める。
「何の真似だ。
 勇者は光一がいれば、俺はいらんだろう」

 濃紫の髪のメイドが口を開こうとした時――、

「二人とも、勇者と認定します」
 背後から、女性の声が響いた。

「お母様!!」
 それに対して、シェラが抗議の声を上げる。
「今まで、勇者が二人だったことはありません。
 こちらのヤナギコウイチ様、一人で十分だと思います」

 青い髪の女性が透き通るような落ち着いた声で諭す。
「シェラ。今までの召喚の儀で2人以上、召喚されたこともありません。
 ならば、どちらも勇者の資格ありとするのが正しい見方でしょう」
「そうかもしれませんが……」

「おい。俺は承諾した覚えはねぇぞ」
 睨む竜斗に、シェラの母親(先代巫女)が、ひっそりと微笑んだ。
「『精霊の儀』に逆らうことは、誰にもできません」
「そりゃ、そっちの都合だろうが」

「勇者に選ばれるのは、名誉なことなのですよ」
「使い捨てマスコットの、どこが名誉なんだよ。
 だいたい、あんたらの国にも軍隊ぐらいあるんだろ?」
「ええ、ありますが。それが何か?」
「自分たちの手で自分のたちの国を守れず、何が軍隊だ。
 たった一人で状況がひっくり返るって、どんだけ弱いんだよ。お前ら」
 騎士の格好をした者たちから、叩きつけるような殺気が放たれた。
 竜斗も殺気を放つ集団を睨み付ける。

「ま、待った待った。竜斗。
 さらに喧嘩を売ってどうすんだよ。
 勇者ってのは、騎士の人たちとともに魔王を(たお)すもんだろ。
 だいたい、俺たちが斃すべきは魔王であって、内輪で争うことじゃない」
 間に止めに入った光一が、両者を大声で諫める。

 緊迫した雰囲気を崩すように、シェラが大げさに溜息を吐いた。
「わかりました。
 カミシロリュウト……でしたっけ。
 あなたが魔王を斃せたのなら、元の世界に帰しましょう。
 これで、よろしいですか?」

「依頼が、魔王退治。
 報酬が、元の世界に戻す。
 期間は、無期限か。

 …………いいだろう。妥当な線だ」




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