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第四話

「お目覚めでございますか、主様。」
カリウスの言葉に半覚醒状態だった意識が現実に引き戻される。一晩寝たら夢だった、なんて安直なオチは許されなかったようだ。
「おはよう、カリウス。」
だが、今朝は甘い夢を破られただけではすまなかった。
「主様、昨晩よりこのカリウス、寝ずに考えぬいた渾身の名をお聞きください。」
「はっ??」

「エルファシア様とお呼びしてもよろしいか!?」

神様、オレはあなたに恨まれるような真似をしたでしょうか。

「・・・・お気に召されぬのか・・・。」
だからそんなに肩を落とすなよ。エノクの練り上げた使い魔がいいのかそんなで。
「エルロイ様の名を取り入れ、かつ主様にふさわしく高貴で美しい名前だと思ったのに・・・・。」
「い、いや。気に入らないわけではないですよ。ちょっとビックリしただけで・・・。」

「では採用していただけるのですか??」

「・・・・好きにしてください・・・・。」
またひとつ、男の象徴がはがれて落ちた・・・後戻りが出来ぬなら、せめてゆっくり心の準備をして、というのは贅沢な願いなのでしょうか?

カリウスのいた工房はエステトラス連邦共和国からはずれたカリード山脈の中腹にあった。
入り口に迷彩魔術を施してあったため、これまで発見されずにすんでいたらしい。
とりあえずオレたちはフリギュア王国に戻り・・・仲間の安否を確かめ、サリエルとガングールに報復を行うため西にむかっていた。
レーヴェもセイリアも無事に逃げ出せていればワルキアあたりで合流できるだろう。どちらにしろ情報を集めるにはエステトラスは遠すぎる
だが、オレが直面している危機はそんなことではない。オレは今、生涯最大の危機を迎えていた。

「エルファシア様、お背中をお流しいたします。」

セクハラに悩む世の女性にオレは声を大にして言いたい。あなたたちの気持ち、今ならわかる、と。
旅籠のなかでは珍しい個人用の風呂で、しばしの命の洗濯としゃれ込んだのもつかの間、頬を赤く染めた中年使い魔が入ってきたとき、オレは迷わず石鹸を投げつけていた。
「痛いではありませぬか。」
「痛いなら痛そうな顔をしろ!というか女の入浴中に堂々と入ってくるんじゃない!とっとと出て行けー!。」
「これはしたり、私は使い魔ゆえこの姿は仮のもの。まして主様に対して邪な存念など毛頭ござませんぞ!主様にお尽くし申し上げるのが執事の本懐。さあ、いざ!。」
「いざ、じゃねえええええ!。女風呂に男が入ってくるのがそもそもの間違いだ〜!!。」
「なるほど、私としたことが配慮がたりませんでしたな。」

ボン

光の粒子が一瞬のうちに拡散と収縮と遂げたかと思うと・・・そこには見慣れた40近い渋めのナイスミドルではなく・・・艶かしい肉感に溢れた妙齢の女性がいた。
「カーチャと申します。以後お見知りおきくださいませ。」

「おまえの血は何色だあああああ!!!」

「使い魔に血など流れておりませんわ。」
「いや、そういう意味じゃないし!」
「ふふふふ・・・・主様の玉の肌を磨くのは使い魔に課せられた役得・・もとい義務ですわ。さあ、お背中といわず、身体の隅々まで洗って差し上げます。うふふふふふふふ・・・・」
「いやあああああああああっっっ!!!」

もはやなすすべも無くカーチャに身体の隅々まで洗われてしまい、髪の洗い方から肌の手入れまでレクチャーを受けてしまった。
ひとこと言わせてもらうなら、オレの男としての尊厳は終わった。
「それにしてもエルファシア様のお肌、本当にお美しいですわ。それに御髪も・・これから毎日わたくしがお手入れして差し上げますから!
本当、楽しみですわ〜!。」
「カーチャさんがお手入れするのは確定ですか。」
「もちろん必須事項でございます。この崇高なる使命はたとえ神といえども邪魔はさせませんわ。」
「主の意思でもダメですか?」
「無理ですわ!」

エノクさん、あなたは使い魔の作り方を間違えています。

「私はカリウスと違って主様のためならば、主様のご意思に背くこともいといません。まあ、あの男も自分の趣味に走ると見境をなくしますが。」
「カーチャさんとカリウスさんはどういう関係なんです?まさか・・・二重人格とか。」
「もともと私たちは世界樹の若枝から創られた使い魔です。ですから性別はございません。それでは面白くないとエノク様が意識野を分割してカリウスと私を生み出しました。そういう意味では二重人格というのも間違いではありませんね。」
カーチャはその豊満な裸身を惜しげもなくさらして立ち上がると、オレの身体を舐めるように一瞥して言った。
「エルファシア様、美しいものには美しいものの義務というのがございます。まず手始めに下着のつけ方からご教授いたしますわ。」

だが、オレはカーチャの台詞を最後まで聞き取ることはできなかった。

「エルファシアさま?エルファシア様!お気を確かに!」

オレの目の前にさらされたカーチャの淡い繁みは、オレの意識を暗闇の彼方にひきずっていった。

天国のお父さんお母さん、私は汚れてしまいました。

高見梁川の心象世界


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