第三話
意識が戻ったときは驚いた。自分でいうのもなんだが、あれは致命傷だったはずだ。
あたりを見回してみるが何も見えない。ただ、せまい空間に寝かされているのはわかる。そう、まるで棺に横たわっているような・・・。
「ってちょっと待て!生きてる!生きてるって!出せ!ここから出せええええ!。」
「やれやれ、主様にしては乱暴ですな・・・。」
「へっ?」
音もなく天井が開くと、温厚そうな紳士がうやうやしくこちらに頭を下げていた。
「2500年ぶりほどになりましょうかな?主様。」
「いや、人違いじゃないですか?オレはエルロイといいまして、というかここはどこ・・・?」
あれ?なんか違和感が・・・パニックが収まって脳が戻ってきたらしい。しかしこの違和感ありまくりな状況はなんだ?。
何故にオレはこんな鈴が転がるような愛らしい声をしているのだろうか?。
何故にオレはハダカでいるのだろうか?。
何故に男であるはずのオレの胸に釣鐘型の2つの双丘が存在しているのだろうか?。
何故人並みより大きめのサイズが自慢だったオレの男性の象徴は影も形もなくなっているのだろうか?。
ところで、ハダカのオレを微笑みとともに見つめ続けるこの紳士はいったい誰・・・・ん・ハダ・・カ?
急に羞恥心が限界を突破してオレは叫んだ。
「こっち見るな!着替え!とりあえず着替えを用意して!。」
「着替えならそこの衣装棚にひとつ残らず保管してございます。では、私は少し席をはずしましょう。着替えがおすみになりましたらおよび下さい」
紳士が部屋を退出して一人取り残されると、なんとか落ち着いて思考する余裕が出来る。
とはいえ、自分のハダカながら、女性のハダカは精神衛生上はなはだよろしくない。とりあえずは着替えて・・・。衣装棚を開けたオレの思考は再びそこで停止した。
見渡す限りのフリル、白と黒、光と影のコントラスト、いわゆるそれは・・・・ゴスロリ。
「こ、これをオレに着ろというのかあああ!!。」
いくら探してみてもゴスロリ以外の着替えはなかった。ああ・・涙流すのなんて何年ぶりかなあ・・・・。
着替えが終わりオレはあらためて姿見で自分の変わり果てた肢体を眺めていた。
年のころは10代の後半といったところだろうか。やや幼い顔立ちだが、整った鼻梁と艶やかな唇がなんともいえない色気を醸し出している。
髪は豪奢な金髪だ。腰まで伸びたクセのない髪はまるで精巧な金細工を思わせる。
すらりと伸びた肢体は小柄ながら優美な曲線を描き出し、肌はまるで磁器のように白くそれでいて、みずみずしさに満ちていた。
つくづく思う。これがオレでさえなかったら、このすばらしい芸術をこころゆくまで堪能できたであろうに。
「まことにお似合いでございますぞ。主様。」
いつのまにか背後にいた紳士に声をかけられてオレは飛び上がった。い、いつ入ってきたんだ?
「呼んだ覚えはないのだがな。」
「いささか時間がかかりすぎておりましたので。」
ううっ服選びにやたらと時間をとられたからなあ・・・。
「すまないが、オレはあなたの言う主ではない・・・・と、思う。こんなことを聞くのは恐縮だが、ここはどこで、オレは何故ここにいるんだろうか?」
紳士は口元に笑みを浮かべながら首を振った。
「私のことはカリウスとおよび下さい。今回のことは当方の想定の範囲内でございます。あなたが主であることは間違いございません。」
「するとカリウスさんは事情がわかっているのですね。」
「カリウスで結構でございます。主様。ご説明いたしますと主様が入られている身体は世に言う亜神エノクの身体でございます。」
「あ、亜神エノク〜??」
今日は何回脳が揺さぶられるのだろう。星が・・・星が見える・・・。
「ちょっと待って!エノクが女性ってなんの冗談ですか!」
「冗談ではありません。エノク様は真実女性でございました。ただ、ごく限られた人のほかには幻術で男になりすましておられましたが・・・・。」
「誰も気づかなかったのですか?」
「エノク様の魔術を破れる魔術師など、過去にも現在にもおりはしませんよ。」
流石亜神、レベルが違う。
「とはいえ、エノク様も人の身ではございましたので年齢による衰えは隠せませんでした。亜神となって現世を捨て去るには王国はあまりに危険な状態でした。そこでエノク様は現世での仮の宿りとして魔術身体と魂の転送装置を開発したのでございます。」
「それが第三法術・・・・。」
「さようでございます。その身体には、エノク様が1000年統治を果たした時の強大な魔力と卓越した身体能力、それに不老不死の力が備わっ
ています。もともとその身体はエノク様の実験の失敗や、重大な欠損があったときのためのスペアだったのですが・・・。」
「たまたまオレが乗り移ってしまったと。」
「いえ、たまたまではございません。故に私はあなたを主とお呼びするのです。」
考えても答えは得られそうにない。オレはカリウスに先を促した。
「エノク様は亜神に登られるとき一旦はこの技術を消去しようとなさいました。しかし、それを思いとどまりある条件をお付けになったのです。」
「条件?」
「わが子孫が魔術を志し、この力を求めるなら、という条件でございます。」
「オレがエノクの子孫だって?!。」
「何故工房のオペレーターがあなたをマスターと認めたのか不思議に思いませんでしたか?。オペレーターはエノク様の遺伝子を継承し、かつ優れた魔術師とあなたを認めたからこそ、マスターと認識したのです。」
なるほど、それで辻褄は合う。よくもまあそんな奇跡的な偶然で生きのびられたものだ。あれ、?なんか忘れてるような・・・。
「新たな主を得られましたのは私にとっても僥倖でございました。この2500年、工房の管理以外にすることもなくヒマを持て余しておりました
のでね。もうじきここも消去が始まりますし・・・いったん外界に出て主様にふさわしい食事をご用意するといたしましょう。そういえば・・・」
カリウスの次に言った一言が、オレに忘れていた悪夢を思いおこさせた。
「主様の新しいお名前をご用意せねばなりませんなあ。よろしければこのカリウス、主様の愛らしさに負けぬ名前を粉骨してお考えいたしますが・・・・。」
「あれ?もしかして・・・戻れない・・・の・・・か?ハハハハ・・それはまずいよね。だってオレ男だし、エノクくらいの魔術師なら、子孫が男だったときのことくらい考えてるよ・・・ね?。」
このときくらい神に祈ったことはないだろう。冒険者は神に祈らない。しかし、ひとりの成人男子エルロイ・アーケイル・ノルガードとして、今だけは神の恩寵にすがらせてほしい。
「ご心配には及びませんぞ主様。魂は器に引きずられるものとエノク様もおっしゃっておられました。主様がどこにだしても恥ずかしくないレディーになられるまで、このカリウス全身全霊を尽くす所存。」
「いえ・・・・あのそういうことではなくてですね。・・・もとの男の身体の戻れないかなあ・・・と思ってみたり・・・。」
「なんと!これは異なことを申される。エノク様のお身体では不足と申されますのか?!」
「そ、そういうわけではなく・・・男の身体が恋しいというか・・・技術的にそういうことができるかなと思ってみたりとか・・・。」
「ふむ・・・いまひとつ納得はいきませぬが・・この工房の情報は私もある程度把握しておりますゆえ、この魔術知識をもって工房を再構築すれば可能性は・・・どちらにしろ主様のもとの身体が必要となりますが・・・。」
全身から力が抜けた。そう、オレの・・・オレの身体はもう死んでるんだ。
そんなことを考えながら、どこかで仕方ないと納得している自分がいる。これが魂は器に引きずられるってことなのだろうか。
天国のお父さんお母さん、ごめんなさい。オレは・・・私は・・・・女の子になってしまいました。
高見梁川の心象世界
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