第十五話
「ええ〜と・・・・も、もう少しわかりやすく説明して欲しいかな?」
間のびした声でフリッガが手を挙げた。
私とレーヴェの間に流れていた緊張が途切れる。これはフリッガに助けられたかな。
「フリギュアはエノクの遺物を狙っていて、その遺物がレイガルドの王城にある。ここまではいい?」
「どうしてフリギュアがそれを狙ってるってわかるのかな・・・?」
「・・・・・フリギュアがワルキアと争ってなんの得があると思う?フリギュアのような中級国家にとってワルキア公国のような
ブルームハルト帝国との緩衝役を果たしてくれる小国はむしろありがたい存在なのよ。実際、紛争の種になってるククルカン城塞は
フリギュアが過去にブルームハルトに負けて移譲したものなわけだし。」
「確かに、フリギュアと軍事的に対立して以来ワルキアの政治姿勢もブルームハルトよりになっているしな。」
豪腕のロバートがうなづいてる。そういえば、ロバートはブルームハルトの出身だったか。
「それに対ブルームハルトで同盟関係にあるエステトラスやコルドバとも対立を免れないわ。ワルキアの民は自立自尊の伝統が強い
から占領政策だって恐ろしく手間がかかるだろうし・・・・ようするに真っ当な頭の持ち主ならワルキアと争って利益がでるとは思わない
わ。」
ゆっくりと全員を見渡す。・・・・・・どうやら全員納得してくれたようだ。
「・・・・・ここから話が前後するんだけど・・・・、もともとフリギュアはワルキアの遺跡を占領するつもりで何年もまえから準備を進めていたの。
ここ数年の平民下士官の教練とかね。だから・・・・妖魔の領域にエノクの遺物が眠る新遺跡が見つかるとは想定していなかったのよ・・・。」
「おいおい、ギルドを襲ったほうが想定外だっていうのかよ!」
「そもそもあの遺跡を見つけたのはわた・・・兄さんがマールベリの殺戮魔を追っている途中で偶然もいいとこだったわ。でも、別に関係ない
と思っていたから最初のうちは見逃していたの。」
「・・・・・その根拠は?」
「最初からエノクの遺物があるとわかっていたらギルドの管理下におくなんて許可するわけがないわ。・・・・・だからあの時点では本当に気づ
いていなかったのよ。」
迷惑な話だ。気づいていたなら・・・あの殺戮はなかったのだから。
「・・・・そんななか宮廷でやたらと慌しくしている小物が一人・・・・。」
「それってまさか・・・・・」
「サリエルよ。」
レーヴェたちの表情が苦虫を噛み潰したようなものに変わる。
「・・・・・先祖から伝わる古文書で遺跡の場所を知ったサリエルは古文書の解読に躍起になっていた。そんな時、ふと、禁書の情報を吹き込ん
だ人間がいた。サリエルは夢中で禁書を盗み出し、古文書の謎を解いた。そして禁書の封を解いた罪で宮廷魔術師を追放された・・・。」
「見てきたように言うんだな・・・・。」
「違ってるかしら・・・・?」
「いや、・・・・・・オレもそう思うぜ。」
レーヴェは吐き捨てるように言った。
「・・・・サリエルにギルドをまとめる器量はねえ。ずっとそれが気にかかっていた。」
「そう、サリエルを躍らせた人間は別にいる。」
「それは誰だ?」
「・・・・・流石にそこまでは言い切れないわね。候補は3人・・・フリギュア国王その人。王国宰相フサスラ、宮廷魔術師長クロトワといったところね。」
「骨の折れそうな相手だぜ・・・・。」
そりゃ、たしかにフリギュア一国まるごと相手するに等しいからな。
ここで再びフリッガが手を挙げた。
「それじゃあ、サリエルが近くにいるっていうのはどういうこと・・・・・?」
「うん、今はそっちのほうが重要かな・・・?」
それほど時間も残されていないしな。
「フリギュア王国の準備が整ったっていうことだよ。先遣隊はもう国境付近で突入準備を始めてると思う。遺物に執念を燃やすサリエルなら・・・・十中
八九そこにいるだろうね。」
「・・・・・・どうしてそこまでわかるのかな?」
「フリギュアが早期にレイガルドを落したいなら、それはこの武闘会・・・竜の実りの期間中以外はありえないからね。このレイガルドにいる冒険者・・・
本当にレーヴェ達を追ってる人間はどれくらいかな・・?たぶん大した数じゃないと思うよ?よほどのバカか、よほどの腕利き以外は戦っても勝てない
のを知ってるから。」
「それじゃあ〜、たくさんいる冒険者さんたちは〜武闘会に来ただけだったんですね〜。」
・・・・・ファンリー、もう少し話の流れを読もうよ。
「フリギュアの侵攻と時を同じくしてレイガルドで騒乱を起こすはずよ。それで公国の近衛騎士団を足止めできれば、先手を取ったフリギュアの優位は
動かないわ。」
「・・・・・・エルファシア殿と申されたか。若さに見合わぬその見識、このオイゲン感服いたした。これで、サリエルの所在が知れぬ理由が解けましたな。」
「そういえばオイゲンさんにも聞きたいことがあったわ。」
何気なさを装って私はオイゲンに聞いた。
「冒険者でないあなたがどうしてレーヴェたちの仲間になったのかしら・・・・?」
「・・・・・・ふむ・・・疑っておいでか。」
「疑ってはいないわ。わからないことはわからないままにしておきたくないだけ。」
オイゲンがちらりとレーヴェに視線を送る。
レーヴェが頷くのを確認すると、オイゲンは語りだした。
「・・・・・・さて、どこから話したものか・・・・・。」
ってせっかくシリアスに盛り上がってるところ悪いんだけど・・・・・・!
今とってもご不浄にいきたいんですけど・・・・!というかリアルにピンチ!
女性の身体になってから尿意が近いのはどうも慣れない・・・・ごめんなさい、我慢するのも慣れてないんです。
誰か助けて〜!!
「話が長くなりそうだから、ちょっとはずさせてもらっていいかしら。」
え・・・・・・?
「いったいどこに行くって言うんだよ。」
「女性にそんなこと聞くものではないわ。」
焚き火から炎精が吹き上がり火の粉を撒き散らす。主にレーヴェに集中している模様。
「エルちゃんも・・・いくでしょ?」
もちろんですとも!!
ありがとう。セイリア!この恩は忘れないよ!
・・・・・・・ふう・・・・すっきりすっきり。
「・・・・・・エルちゃん・・・・・・」
うひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
「・・・セイリア姉さん気配を殺して背後にまわるのやめて下さい!」
「ちゃんとおそその周りは拭いたかしら・・・?」
「ええ、もちろん。」
私はポーチに入れたティッシュを見せる。最初男だったときの癖が抜けなくてエライ目にあったからな。
女性がティッシュを離さない理由を身をもって味わったというか・・・・いかん、また恥ずかしくなってきた。
「だめよ、エルちゃんみたいに可愛い女の子は香りにも気をつけなきゃ!。」
そういってセイリアは色鮮やかな紙を取り出した。
ふんわりと漂う蘭の香りが鼻腔をくすぐる。香紙という奴だ。確かかなり値が張ると思ったが・・・・。
なぜにセイリアさんにじり寄ってくるですか?
もしかして拭く気ですか?
「セ、セイリア姉さん、自分でできますから!」
いろいろ終わってしまった私だけど、それを許したらもっと終わってしまうというかなんというか!
「あら、女同士なんだから遠慮しないの!」
だから厳密には女同士ではないというか・・・・・
「ふふふふふ・・・・お姉さんに任せて・・・・この香紙はね、いったん四つ折にしたほうが香りが出るのよ・・・・。」
ああっ!なんかもう誰もこの人を止められない流れに・・・・!!
お願いだから誰か助けてーっ!!
・・
・・・・
・・・・・・・
「・・・・・・なんか嬢ちゃん、えらく煤けてないか?」
お願いだから聞かないでください!!
高見梁川の心象世界
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