第一話
迷宮内に剣戟の音が響いていた。
もう何階層降りてきたか記憶にないが、追撃の手が止む気配はない。
「これでも日頃の行いはいいほうなんだがなあ・・・」
「アホ!暢気なこといってる場合か!」
迷宮のなかでは扱いずらいであろうショートスピアーで神速の突きをくりだしながらツッコミを忘れないこの男の名はレーヴェ。
槍をとっての近接戦闘においては大陸有数の使い手だ。
「炎雷」
ポツリとつぶやくように呪言を紡ぐ美女はセイリア。炎の制御に関しては右にでるものはいない。
なんかオレの上着がこんがり焦げているような気がするのはご愛嬌だ。
気づけばもうオレの傍にいるのはこの2人だけになっていた。
「どこでこんなことになったのかなあ・・・」
あまりにも想定外の事態だった。オレ、エルロイ・アーケイル・ノルガードの計画にはこんな予定はなかったのだ。
このヴェルミデラ大陸において、冒険者という職業は決して地位が高いものとは言えない。
その一番の理由は冒険者の収入源とも言える古代遺跡の管理が国家に握られていることであろう。一般に要人警護や傭兵じみた任務の多い冒険者だが、それは副業にすぎない。冒険者は傭兵ではないのだ。
また、冒険者は同業者間の連帯がないために報酬を叩かれる傾向にあった。
そこで、オレは一計を案じて、妖魔の勢力内にある遺跡の管理を願い出た。妖魔と国境を接するフリギュア王国は国境の警備の負担が減らせるなら、と、この提案にのってきた。フリギュアは隣国のワルキア公国と軍事的緊張が高まっていたため、渡りに舟と思ったのかもしれない。
この計画に賛同してくれた冒険者は126人。
驚いたことに大陸でも名の知れた冒険者であるレーヴェ・ブロンベルグや氷炎の魔女といわれたセイリア・ミトラ・ファルネーゼなど数々の精鋭が集まってくれた。
それでも流石に妖魔を駆逐するのは骨の折れる作業で、仲間にも犠牲者がでるのは避けられなかったが、苦闘のすえに遺跡を確保すると、それから先は早かった。
最小限の手数料でバックアップまで受けられるとあっては冒険者は千客万来である。懸案の街道の安全確保もあっという間に完了してしまった。
さらには冒険者ギルドの立ち上げ、報酬の規格化、冒険者の格付けなど、トントン拍子にことは進みいつの間にかオレは冒険者ギルドの長に収まっていた。
それが何ゆえこんなことになっているかというと・・・
遺物コレクターでギルドの上客でもあるガングール大公が迷宮内探索をしたいと言い出したのが始まりだった。
大公が武装した家臣を引き連れてやってきたことを、誰も不思議に思わなかった。
そして、大公を迎えに出したサリエルほかの仲間たち・・・いや仲間であった者たちと言いなおすべきか、彼らもまた大公の引き連れてきた者が、ただの私兵などではなく、完全武装の王国騎士団であるということを報告しなかった。
あとはまあ・・・地獄だった。冒険者も、そうでないカタギの者も、皆殺しになった。いかに腕利きの冒険者であっても武装を解いた状態で集団戦に巻き込まれれば為すすべはない。
初撃で戦力の大半を失ったオレは、かろうじて一振りの剣を手に入れると、数えるほどにまで討ち減らされた仲間とともに迷宮のなかへと逃げ込んだわけだ。
だが騎士団の追撃は執拗を極めた。迷宮の隠し通路はあっさりと暴かれ・・・サリエルの助言があったのだろう、逃げ道は全て塞がれた。オレたちに許されたのは危険な妖魔と戦いながら、迷宮の深部へただ降りていくだけ。
いつしか仲間たちは1人減り2人減り・・・現在にいたるというわけだ。
「しつこいな・・・やつ等もそれなりに痛手は受けてるはずなんだが。」
レーヴェに言われて気づいたが、確かにこれは執拗すぎる。王国騎士団のおそらくは精鋭であろうが、その損害は100人に達する
だろう。国境紛争を抱えた中級国家が許容してよい損害ではない。
「損害を無視してよいだけの遺物があるはず。サリエルは遺物の管理官だった。」
なるほど、セイリアの予想とおりなら納得がいく。しかし、神話級の遺物は噂だけは有名でも発見されたためしはない。
いったいどんな確信があってここまでのことに及んだのか。
「サリエルと一緒にいた連中・・・なんと言ったかな。確かフギンとかムギンとか言った・・・・あいつらが探索に入ったのは1週間くらい前の話だろう。
どこまで潜ったか・・しらないか?」
「あなたが知らなければ私たちが知るはずはない。」
「サリエルが素直な報告をあげてるとも思えんしな。」
・・・・ごもっとも。
「遺物ねえ・・・魔力水晶とか魔剣の類は出てたと思ったが・・・まさか神の鉄槌ってことはないよな。」
古代王国アカーシャを滅亡に追い込んだ魔術兵器、そんなものが埋まっていたらどんな犠牲を払っても手に入れようとするだろうが・・・。
「神の鉄槌はモルディーニ地方で使用されたからそれはありえない。」
冷たい声でセイリアが否定する。
「それに神の鉄槌は自爆兵器だから残骸も残らなかったはずだぜ。」
レーヴェまでつっこんできた。それくらいオレにもわかってるっての。
「じゃあフリギュアに縁の遺物って言えば・・・エノクの魔道具あたりかな。」
「・・・・・・・・エルロイ正解。」
こころなしかセイリアの声が震えているような気がしてオレは思わず目を向けた。いついかなる時も沈着冷静なはずのセイリアの目は迷宮の奥のある1点に向けられていた。
世界樹にとまる鴉の紋章。魔術に造詣のある人間なら誰もが知るその紋章は・・・・
「亜神エノク・・・・・」
そう、古代王国の大宰相にして始原の魔術師、有史以来、大英雄ルフェージュとともに、ただ2人だけ人から神にいたったもの。
その紋章がオレたちの眼前で鈍い光を放っていた。
高見梁川の心象世界
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