十三話 嘘の報告書
毎年同じ時期に、王都アスカレアの冒険者ギルド本部では、各ギルドから代表者が集まり、一年間の報告を行う。
報告することを簡単に分けると
・ダンジョン攻略の進捗状況
・魔物の出現状況
・収益
・冒険者の在籍人数
の4つとなる。
その中で冒険者の在籍人数は、冒険者管理部が担当となっており、常に把握しておかなければならない。そして、死亡者数も報告義務の一つになっているため、ギルドカードの管理も頻繁に行わなければならないのだ。
そして現在俺は、昨年の報告書を見て驚愕していた。
「死亡者数……3人……だと?」
昨日ギルドカード保管庫で、石となっているギルドカードの数を数えると、82枚あった。つまり、今手にしている報告書が正しければ、今年だけで82人の冒険者が死亡していることになる。
これは、王都アスカレアの冒険者ギルドでいうと、Cランク相当の魔物が大量発生し、緊急クエストが発令された時の被害とほぼ同じだ。しかし、そんなことは聞いたこともないし、ここ最近の報告書にもあがっていない。
この報告書……正しいのか?俺は疑問に思った。報告書を書いたのは、前任者だ。そして、その報告書には、バリザスの判子も押されている。
虚偽の報告書は間違いなく重罪に値する。なぜなら、報告書の内容によっては、本部より対策がなされるのだが、対策が遅いと、町一つがなくなってしまう危険を孕んでいるからだ。それほどに、この世界では人の生活に魔物が密接に絡んでいる。そして、その最前線に位置する冒険者ギルドという機関は、とても重要視されているわけだ。
俺はギルドマスターの部屋へと走った。ノックも無しに部屋に入ると、バリザスとミーネさんが驚きの表情を浮かべた。そして、訪問者が俺だと分かると、途端に不機嫌な態度を見せる。
「またお前か。ノックも無しに……礼儀もしらんのか?」
「ちょっとテプト君?いくらなんでもこれは……」
「ギルドマスター。確認したいことがあります」
俺はミーネさんの言葉を遮り、バリザスに詰め寄った。
「一体全体なんじゃ?」
そして、バリザスの机にその報告書を置いた。
「この報告書についてです」
「ん?……これは昨年のやつではないか。それがどうしたというのだ」
俺は、冒険者在籍人数の項目にある、死亡者数を指差した。
「この数字は本当ですか?」
「死亡者数……3人……だからなんなのじゃ!?」
俺はゆっくりと答える。
「昨日、ギルドカードのチェックを行ったところ、石となっているカードが82枚ありました」
「……82?」
ミーネさんが眉間に皺をつくる。
「はい。つまり今年だけで82人もの冒険者が命を落としているということになります。最初は多いなと感じながらも、毎年これくらいの人数なのかと思いました。なにせ、タウーレンは冒険者の町ですからね?在籍している冒険者も他の比じゃない。でも、昨年の報告書には3人と載っています。この数字は本当なんですか?」
それにはバリザスも渋い顔をした。事の大きさに気がついたらしい。
「しかし、この報告書を作成したのはお前が来る前の職員じゃ。わしには……」
「ここ。判子押してますよね?確認されたんじゃないんですか?」
バリザスは黙ってしまう。黙っていてもわからないだろ。
「これは……どうゆうことですか?ギルドマスター」
ミーネさんもバリザスに問う。
「知らんもんは知らん!!今年の報告書に正しい数字を載せれば良いだけであろう!なにをそんなに騒ぐことがある!?」
その言葉に、俺は自分の血管が切れた音を聞いた。
「正しい数字を載せれば良い?……お前は何を言ってるんだ?これはただの数字じゃない。町の人たちのために命を散らした冒険者の人数だぞ?」
俺は無意識にスキル(殺気)を使用していた。元Sランク冒険者のバリザスは、顔を青くして目を見開いた。
「確かに、一人一人はそんなこと考えちゃいないのかもしれない。けど、その功績は確実にこの町の暮らしに貢献していたはずなんだ。そんな人たちの命を知らないだと?ふざけるのも大概にしろ!!」
「ひぃ!?」
机を叩くと、バリザスは情けない声をあげた。ミーネさんはいつのまにかへたりこんでいる。俺はスキルの使用に気づき、すぐさま解除するも、既に遅かったようだ。
これ以上聞くことは何もないな。そう思い部屋を出ようとすると、バリザスが声をあげた。
「おい!もしその数字を報告書にすれば、責任を問われるのは冒険者管理部だぞ?それでも良いのか?」
その言葉にため息をつく。
「そうだな。そしてその時は、監督不行き届きで、あんたも同罪だ」
バリザスは、もはや何も言い返せないようだった。
俺はギルドマスターの部屋を出ると、怒りのままに扉をしめた。
……このギルドは間違っている。冒険者にモラルを問うなど、おこがましい。なぜなら、彼等を支援するはずのこちら側が、こんなにも不誠実なのだから。