表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
13/206

十三話 嘘の報告書

毎年同じ時期に、王都アスカレアの冒険者ギルド本部では、各ギルドから代表者が集まり、一年間の報告を行う。


報告することを簡単に分けると


・ダンジョン攻略の進捗状況

・魔物の出現状況

・収益

・冒険者の在籍人数

の4つとなる。


その中で冒険者の在籍人数は、冒険者管理部が担当となっており、常に把握しておかなければならない。そして、死亡者数も報告義務の一つになっているため、ギルドカードの管理も頻繁に行わなければならないのだ。


そして現在俺は、昨年の報告書を見て驚愕していた。


「死亡者数……3人……だと?」


昨日ギルドカード保管庫で、石となっているギルドカードの数を数えると、82枚あった。つまり、今手にしている報告書が正しければ、今年だけで82人の冒険者が死亡していることになる。

これは、王都アスカレアの冒険者ギルドでいうと、Cランク相当の魔物が大量発生し、緊急クエストが発令された時の被害とほぼ同じだ。しかし、そんなことは聞いたこともないし、ここ最近の報告書にもあがっていない。


この報告書……正しいのか?俺は疑問に思った。報告書を書いたのは、前任者だ。そして、その報告書には、バリザスの判子も押されている。

虚偽の報告書は間違いなく重罪に値する。なぜなら、報告書の内容によっては、本部より対策がなされるのだが、対策が遅いと、町一つがなくなってしまう危険を(はら)んでいるからだ。それほどに、この世界では人の生活に魔物が密接に絡んでいる。そして、その最前線に位置する冒険者ギルドという機関は、とても重要視されているわけだ。


俺はギルドマスターの部屋へと走った。ノックも無しに部屋に入ると、バリザスとミーネさんが驚きの表情を浮かべた。そして、訪問者が俺だと分かると、途端に不機嫌な態度を見せる。


「またお前か。ノックも無しに……礼儀もしらんのか?」

「ちょっとテプト君?いくらなんでもこれは……」


「ギルドマスター。確認したいことがあります」


俺はミーネさんの言葉を遮り、バリザスに詰め寄った。

「一体全体なんじゃ?」

そして、バリザスの机にその報告書を置いた。

「この報告書についてです」


「ん?……これは昨年のやつではないか。それがどうしたというのだ」


俺は、冒険者在籍人数の項目にある、死亡者数を指差した。

「この数字は本当ですか?」


「死亡者数……3人……だからなんなのじゃ!?」


俺はゆっくりと答える。

「昨日、ギルドカードのチェックを行ったところ、石となっているカードが82枚ありました」


「……82?」

ミーネさんが眉間に皺をつくる。

「はい。つまり今年だけで82人もの冒険者が命を落としているということになります。最初は多いなと感じながらも、毎年これくらいの人数なのかと思いました。なにせ、タウーレンは冒険者の町ですからね?在籍している冒険者も他の比じゃない。でも、昨年の報告書には3人と載っています。この数字は本当なんですか?」


それにはバリザスも渋い顔をした。事の大きさに気がついたらしい。


「しかし、この報告書を作成したのはお前が来る前の職員じゃ。わしには……」


「ここ。判子押してますよね?確認されたんじゃないんですか?」


バリザスは黙ってしまう。黙っていてもわからないだろ。

「これは……どうゆうことですか?ギルドマスター」

ミーネさんもバリザスに問う。


「知らんもんは知らん!!今年の報告書に正しい数字を載せれば良いだけであろう!なにをそんなに騒ぐことがある!?」


その言葉に、俺は自分の血管が切れた音を聞いた。


「正しい数字を載せれば良い?……お前は何を言ってるんだ?これはただの数字じゃない。町の人たちのために命を散らした冒険者の人数だぞ?」


俺は無意識にスキル(殺気)を使用していた。元Sランク冒険者のバリザスは、顔を青くして目を見開いた。


「確かに、一人一人はそんなこと考えちゃいないのかもしれない。けど、その功績は確実にこの町の暮らしに貢献していたはずなんだ。そんな人たちの命を知らないだと?ふざけるのも大概にしろ!!」


「ひぃ!?」

机を叩くと、バリザスは情けない声をあげた。ミーネさんはいつのまにかへたりこんでいる。俺はスキルの使用に気づき、すぐさま解除するも、既に遅かったようだ。


これ以上聞くことは何もないな。そう思い部屋を出ようとすると、バリザスが声をあげた。


「おい!もしその数字を報告書にすれば、責任を問われるのは冒険者管理部だぞ?それでも良いのか?」


その言葉にため息をつく。

「そうだな。そしてその時は、監督不行き届きで、あんたも同罪だ」


バリザスは、もはや何も言い返せないようだった。



俺はギルドマスターの部屋を出ると、怒りのままに扉をしめた。



……このギルドは間違っている。冒険者にモラルを問うなど、おこがましい。なぜなら、彼等を支援するはずのこちら側が、こんなにも不誠実なのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ