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桜ヶ丘高校の『哲学者』と『絶対零度の魔女』 作者:桐生 慎

第二章 絶対零度の魔女

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 第三章 審判の門

 イザナミ流の呪詛師・完部玄白の孫を依代とした術が発動します。
 燃え上がる三角マンション。意に反して次々と投身自殺する住民達。そんな悪夢を止めたのは浩平の「生きろ!」と言う叫びでした。
 そして浩平と鈴香は完部玄白との最終対決に望みます。
 結果、玄白は浩平の隠された顔と出会うのでした。
(一)
「……ふぅ」
 私は軽く吐息をつくと窓辺から見える夕映えのグラウンドを眺めた。グラウンドの奥に大きな桜の樹がある。根元に防具袋を置いて、神崎君が座っているのが見えた。
 これで半月。
 彼は、ここ最近、毎日、部活の終わりにここで過ごして帰る。ただ愚痴を聞くためだけに。
(……私には出来ないな)
 敵わない。そう思いながら、私は恋慕を込めた視線で彼を見つめる。
「―――彩宮さん?」
 部長にそう声をかけられて、私は我に返る。「なんですか?」と小首を傾げると、部長は言った。
「もう一人、視て貰いたいって人が来ているのだけど、大丈夫かな?」
 髪をポニーテールにして眼鏡をかけ、真っ白な肌をした、いかにも文学少女と言う容貌の部長は遠慮がちにそう言った。しかし、なぜ上級生の先輩まで私に敬語を使うのかな?
「後一人なら、大丈夫です。でも今日はこれで最後にします」
「悪いわね。ごめんなさい」
 部長は本当にすまなさそうにして女生徒を一人部室に入れた。

 私は布団の中で目を開けた。
 ―――夢か。
 つい最近のことなのに、随分、昔に思える夢だった。
 何故だろう? 私は涙を流していた。何に涙したのか私には分からなかった。
 あんな夢を見たのは昨夜、神崎君から電話があった所為だろう。
 神崎君は、珍しく少し興奮していた。
「小泉さんは操られているんだ!」
 そう言う。
「男を取られたら、普通は取った相手を恨むものなんだ。いきなり伊達を呪殺するなんて事はあり得ないんだよ!」
 なるほど、道理だ。私だって神崎君を取られたら、まず、取った相手を恨む。でも、そんな女心の機微に神崎君が気付くとは思えない。
「―――杉浦さんね。それを教えたの。今、側にいるの?」
 冷めた声で私は詰問した。
「いや、ちっ、違う。違う。今は部屋からだから、僕一人だ。響子姉(きようこねえ)とは偶然会ったんだ。そりゃ、教えてくれたのは響子姉(きようこねえ)だけど……一緒にいたわけじゃないよ」
 電話口で神崎君は狼狽える。
 男ならしゃんとしろ! そう思う。狼狽えず大きく構えていれば、こちらも安心するのに、ここで狼狽えたら、要らぬ詮索をすると言うものだ。
「でもさ、呪詛が小泉さんの意志じゃないなら、救える可能性が増えるじゃないか。全ては、きっと、あの爺さんが仕組んだんだよ!」
 私は携帯を耳から離すと、大きく吐息をついた。凶つ(まがつへび)の説明するのも面倒だった。
(―――救いがたいな。この人は)
 私は再度、携帯を取る。
「―――救えないわよ。小泉さんは」
「―――っ。だって!」
「黙って聞いて! 明日、お見舞い行く前に、小泉さんの家に寄りましょう。その上で、その台詞が言えるなら聞きましょう。じゃぁ、切るわよ」
 我ながら、いささか手厳しいかなと思ったが、初めての電話で甘い言葉の一つも言わずに、他の女の話をする輩にはふさわしい対応だろう。
 なんか腹が立って来た。
 意趣返ししてやろう。そう考えた私は、翌朝、制服に着替えた。

 目的の家は木造モルタルの二階建てだった。穏やかな気が結界となって家を覆っている。
(あの人らしい……)
 私は内心ほくそ笑んだ。
 早朝の清々しい気を深呼吸すると、私はその家のチャイムを鳴らした。
『はい。どちら様ですか?』
 インターホンに出たのは浩美ちゃんだった。
「おはよう。彩宮です」
 そう答えると、インターホン越しに息を飲む気配が伝わってきた。
『―――っ、ちょっ、ちょっとお待ち下さい。お兄ちゃん! お母さん! 大変だよ! 彩宮さんが来たー!!』
 インターホン越しに浩美ちゃんの叫び声が聞こえた。
 私は怪物かなにかか? まともに朝の挨拶出来ないのはどうかと思うわよ。浩美ちゃん。 平和な朝の神崎家が乱れること約五分。家から出て来たのは制服姿の神崎君とそのお母さんだった。慌てて化粧したのだろう。ルージュがずれている。
「朝早くから失礼いたします。桜ヶ丘高校の彩宮鈴香と申します」
 私はびしりと礼を決める。
 お母さんは慌てふためいた。浩美ちゃんと反応が似てる。神崎君は一見、泰然自若と突っ立って、耳の後ろを掻いている。相当混乱していると見た。
「いや、その、浩平の母でございます。浩平がお世話になっているそうで……」
「はい。お付き合いさせて頂いております。お母様にはご挨拶が遅れまして申し訳ありません」
 その言葉に、お母さんはキッと神崎君を睨む。神崎君は明後日の方向を見る。
「まぁ、玄関先ではなんですから、中でお茶でもどうぞ」
「今日は神崎君と約束があるのですが……。お邪魔ではないでしょうか?」
 慎ましくそう言うと、お母さんは相好を崩して笑った。
「浩平がお世話になっているのに、邪魔なんてことはないですよ。上がってください」
「では、お言葉に甘えます」
 恨めしげに私を見る神崎君に私は舌をだして見せた。 

「朝から、あれはないよなぁ~」
 並んで歩く神崎君はぼやいている。
「あれぐらいしないと、付き合ってるって言う自覚を持たないでしょう? ぼやかないの!」
 私は繋いだ手に力を込めると叱咤する。
「ほら、見えて来た。あれが小泉さん。小泉幸恵が住むマンションよ。貴方にはあれがどう視えるのかしらね」
 私は底意地の悪い声で言った。

 ――――――。
 僕は息を飲んだ。全面ガラス張りで青く輝く二等辺三角形の奇妙なマンション。『悪魔の塔』と言う言葉が脳裏に浮かぶ。
 だが、驚くのはそれだけではない。
 ぼんやりとだが、黒い大きな紐のようなモノが塔に巻き付いている。あれが何か僕は知っている。
「……くちなわ」
 思わず呟いていた。
「やはり、視えるのね。気の質を探っておきなさい。誰があれの主なのか知らないとね……」
 彩宮さんは悔しげにも取れる口調でそう言った。そして繋いだ手を強く握って前に出た。
「まさか? あそこへ入るつもりなの?」
「ええ。筋を通しておかないとね。あそこに完部玄白がいるのよ」
 彩宮さんは酷薄な笑みを浮かべた。
 ――完部玄白。
 その名を聞いて、僕は肝を据えることにした。
 そのマンションはインターホンを押して管理人の許可を取ってから中へ入れる仕組みになっていた。マンションに入るのは、くちなわ(・・・・)の中へ入ることになる。入った瞬間、果物の腐ったような臭いの塊が鼻腔に押し込まれた気がした。
 僕にだって男の矜持がある。彩宮さんの前を行き、インターホンを押した。
「どなたかな?」
 尋ねる声は間違いなく完部玄白のものだった。
「神崎浩平です」きっぱりと答える。
 彩宮さんは冷徹な表情のまま無言でいる。
「ほほう」
 完部玄白は興に乗った声色で答える。
「入りなさい」
 その声で玄関の分厚いガラス戸の扉が開いた。完部玄白はこのマンションの管理人をしていたのだ。僕たちは管理人室へ通された。
 管理人室の応接間で僕たちは完部玄白と対峙した。
 彩宮さんは『絶対零度の魔女』の名のとおり、氷のように冷たい表情だ。感情の読み取れない強い眼差しで完部玄白を見据えている。
「神崎浩平君に彩宮鈴香さんじゃったな。改めて挨拶しよう。儂が完部玄白じゃ。粗茶だが、まぁ、飲め。良く冷やした玉露じゃ」
「こんな所で飲み食いしたら、それこそ黄泉戸喫(よもつへぐい)じゃない。結構よ」
 彩宮さんが冷たい声で言う。
 完部玄白はククと喉の奥で笑う。
「この建物の意味も、くちなわもお見通しなのじゃな? それで入って来るとは良い度胸じゃ。このくちなわを発動させればお主等命はないぞ」
 ぎょろりと完部玄白は目を剥く。
「貴方がこの凶つ(まがつへび)の主なら入っては来ないわよ」
 彩宮さんは老人の放つ禍々しい気に押されることなく言い放つ。確かに眼前の老人の気とくちなわの気は別物だ。
「呪われていることを自覚させれば、呪詛はより効果のあるもになる。そう言ったわね?」
 彩宮さんは独特のウイスパーボイスで囁いた。かなり怖い。
「申したが……それがどうした?」
「こちらも宣言しておこうと思ってね。呪詛は返す。貴方の命。この私が貰い受けるわ」
 怜悧な口調のまま彩宮さんは言い切った。凄い度胸だ。
 老人は一瞬凄まじい形相で目を剥いた。すぐ俯く。やがて微かにクッックククと笑いを漏らした。
「愉快! 愉快じゃ! これまで我が呪詛にそういう対応をした者はおらなんだ。小僧。お主もそうか? お主も儂の命を取ると言うか?」
 僕は吐息を漏らした。馬鹿馬鹿しいことこの上ない。
「ご老人。貴方の命など、僕には興味がない。僕はただ小泉さんを救うだけだ。その為に必要なら、貴方と小泉さんの繋がりを断ち切るのみなんだよ」
 僕の言葉に老人のみならず彩宮さんまで目を剥いた。
 ―――なんか変なこと言ったかな?
「小僧? この凶つ蛇を見た上でまだその台詞を言うか?」
「―――ああ」
 面倒臭くなってなげやりにそう答える。
「小泉さんは僕が救う」
 しばし沈黙があった。
 老人が沈黙を破った。
「お嬢ちゃん。お前の男は正気か?」
「――正気なのよ。これが」
 彩宮さんはため息をつく。なんか扱い酷くない?
「まぁ、良い。これから幸恵のところへ行くのじゃろう? お主等の手腕とくと見せて貰おう。我が人生の幕引きに相応しい相手に巡り会えて嬉しいぞ」
 老人がそう言ったときには彩宮さんは席を立っていた。

 ―――あきれ果てた。
 あの凶つ蛇を見れば、小泉さんを救うなどと言う馬鹿げた考えは捨てると思っていた。
 なのに―――なんだ? この人は?
 敵からも正気を疑われるほどに頑なだ。
(まぁ、仕方ないか)
 ため息をつき、そう思う。そういう人だから私が惚れた訳なのだから。早足で先にマンションから出た私を神崎君が追って来る。
「彩宮さん。僕、何か怒らせるようなことを言ったかな?」
 馬鹿正直にそう尋ねて来る。頑なで融通が利かないと言うのは、ある意味致命傷だ。でも、そういう性格だから、あの凶つ蛇の中でも己を貫けたのだ。あそこはまさしく魔界だった。中に入れば、気力を無くしたり、短気になったり悪影響が出る。
 神崎君は影響を受けなかった。それだけでなく完部玄白と対峙してみせた。それだけ強い自我を持つ証拠だ。それは誉めて良いだろう。
 私は追いすがる神崎君に振り返り満面の笑顔で言った。
「怒ってなんかいないわよ?」
 私の極上の笑顔に神崎君は何故か顔色をなくした。心持ち後ずさる。……なんでよ?
「……なんか背筋が寒いんですけど」
「私の笑顔が怖いとでも?」
 私は神崎君ににじり寄る。
「――いや。可愛い! 可愛いんだけど、いたぶられている気がする」
 神崎君は困ったように耳の後ろを掻く。
「……いたぶられたいの?」
 神崎君はぶんぶんと首を横に振った。
「そういうのは止めて欲しい」
「――そう? まぁ、貴方が病院で小泉さん相手にどうでるかを拝見してから決めるわ」
 笑顔のままそう言う私に神崎君は青ざめた。
 私は神崎君に片手を差し伸べた。
「行きましょう。思い出の市民病院へ」

 小泉さんの病室は最上階の特別室だった。病室のドアまでが特別の木製で重厚感がある。
 神崎君は先に立ってドアをノックする。
 陰気な音を立ててドアが開く。憔悴した中年女性が出て来た。小泉さんのお母さんだろう。制服姿の私達を見て、「学校のお友達でしょうか?」と覇気のない声で訊く。
「はい。桜ヶ丘高校の神崎と、こちらは彩宮さんです。ご容態は如何ですか?」
 見舞いの花束を抱えて神崎君が尋ねる。
「どうも。幸恵の母でございます。……それが、容態は回復したのですが、誰とも会おうとしないのです」
 小泉さんのお母さんは、くりくりした目を絶えず動かしながら、怯えた齧歯類のように答える。
「彩宮と神崎が来たとお伝え願いますか? 会ってくれると思います」
 私はよそ行きの声で言った。
「少々、お待ち下さいね」
 小泉さんのお母さんは何度も頭を下げて病室へ入っていった。
 しばし間があった。ドアが開いてお母さんが顔を出した。
「……あの、会うそうです。お入り下さい」
 妙に不安げな表情でお母さんはそう言った。

 特別室は一DK位の広さがあった。応接セットまで置いてある。
 小泉さんはその応接セットに座って私達を出迎えた。急いでファウンデーションを塗ったようだが、顔色の悪さは隠せない。淡いピンクの入院服と点滴で、彼女が病人なのだと改めて認識する。影で『冷血』と指さされる私でも、多少同情の念が湧いた。
(いけない! いけない!)
 私はその同情の念を打ち消した。
 出来るなら、今日、この場で彼女に呪詛を止めさせるよう努めねばならないのだ。
「こんにちは。はじめましてかな? 剣道部の神崎です」
 神崎君はそう挨拶すると花束を小泉さんに手渡した。小泉さんは慌てた仕草で花束を受け取る。子リスのような顔を朱に染めている。入院服の為に体型が良く分かる。トランジスターグラマーと言う奴だ。いかにも肉感的で伊達君が好みそうな女の子だった。愛らしい顔と好対照をなしている。
 小泉さんは、花束をぎゅっと抱きしめて上ずった声で言った。
「知ってます! 神崎先輩も、彩宮先輩も! お二人とも学校のアイドルですから! その、お見舞いありがとうございます!」
 純粋無垢に喜んでいる顔だった。とても呪詛をしているように見えない。
「あら、私のことも知ってるなんて光栄だわ。でも、お礼は要らないわよ。私達も目的があって、わざわざお見舞いに来たのですもの」
 私は笑顔で含みのある言葉を返した。
 それで小泉さんの笑顔は凍り付いた。
 視線を落として、小泉さんは俯く。
 小泉さんのお母さんは、そんな私達を心配そうに見ながら、私が用意したお茶菓子と緑茶をテーブルに並べる。
「お母さん―――」
 視線を落としたまま、小泉さんが呟く。
「一時間ほど出て行って」
 お母さんはその言葉に狼狽えた。
「……でも、でも、お前……」
「良いから! 出て行って頂戴!!」
 面を上げて、そう叫んだ小泉さんは相貌が変わっていた。まなじりが異様につり上がっていた。見る者を萎縮させる眼力だった。
 お母さんは怯えながら「娘を頼みます」と何度も頭を下げて病室を出て行った。
 神崎君が「大丈夫ですから」とお母さんを気遣いながら病室の出口までお母さんを誘った。
「――――――」
「――――――」
 その間、私は『絶対零度』の視線で小泉さんと対峙していた。私の視線を前にして、動じずに睨み返してくるとは大した玉だ。なるほど、これがこの娘の地顔と言う訳だ。
 ソファーに戻った神崎君が身を乗り出して、小泉さんの顔を見つめる。
 その優しい視線に小泉さんはたじろいで見せた。
「小泉さん、そうムキにならないで欲しい。僕たちは君を責めに来たんじゃない。君を救いたくて来たんだよ」
 私は小さく吐息をついて、小泉さんから視線を外した。まだ言うか? この人は?
 小泉さんは呆気に取られた表情をした。
 そりゃ、そうだろう。
 この状態で助けに来たなんて台詞は普通出ない。
「―――神崎先輩は、伊達せんぱいのことで来たんじゃないんですか?」
「勿論、そうだ。でも、この状態で君が伊達本人を恨む理由はないだろう?」
「あります!」
 鬼女の形相で小泉さんが怒鳴る。中々の迫力だ。武道でもやらせれば大成するだろう。
「あの人は何もかも奪った! 私の処女も! 思慕も! 面子も! それなのに、私を裏切って他の女に乗り換えて平気な顔をしているんですよ!」
「だから呪殺するのかい? 論理が飛躍している。相手を好きなら、泣いて縋って復縁を求めるものじゃないのかな? 死んで欲しい位なら、顔も見たくなくなるのが普通だろう?」
 そこで神崎君はひたと小泉さんの瞳を見つめる。
「恨むのは想いが残っているからだ。それなら恨む相手は伊達を取った女じゃないのかい?」
 その言葉に小泉さんは息を飲んだ。そこへ神崎君は叩き込む。
「あのプールで―――君は伊達の姿を幻視していた筈だ。その気になれば、今の伊達の相手が誰かも見えた筈なんだ。なのに君は伊達だけを幻視していた。
 何故だい? 伊達を奪った相手に恨みがなかったのかい? 矛盾してるだろう?
 君はまるで呪詛をするために伊達を恨んでいるように見えるよ。
 僕たちは君のお爺さんに会った。君はお爺さんに呪詛を教えられたんじゃないかい?
 それなら君は救われる。呪詛を止めれば救われるんだ。
 君は十分に魅力的な女の子だよ。伊達なんかより良い男とこれから幾らでも付き合えるさ。呪詛を止めれば、まっとうな陽の下を歩けるんだ。でも、伊達を殺せば、君は二度と引き返せなくなる。まっとうな陽の下を歩けなくなる。
 ――小泉さん。今ならやり直せる。
 くじけそうになったら、僕たちが助けてみせる。だから、呪詛なんか止めるんだ!」
 神崎君は最後は小泉さんの手を取って熱弁をふるった。
 小泉さんは、握られた自分の手を目を見張って見つめていた。
 私は鼻白んだ気分でその光景を眺めていた。
 やがて小泉さんは頭を垂れた。
 肩口まである髪が、小泉さんの顔を隠した。小泉さんは囁くような小声で言った。
「伊達せんぱいの相手って誰です?」
 神崎君は表情を堅くした。
「それは言えない。知らない方が良いだろう?」
 小泉さんは握られていた手をそっと離すと、暗い嗤いを噛み殺した。
「助けてくれると言いましたよね? じゃあ、神崎先輩が私と付き合ってくれるんですか?」
 あまりの論理の飛躍に神崎君は言葉を失う。
 ようやく私の出番のようだ。
「悪いわね。小泉さん。神崎君は私と付き合っているのよ」
 小泉さんの含み笑いは狂気を帯びる。
「だと思いました。私をこんな目に遭わしたのも神崎先輩と彩宮先輩ですものね。でも、ずるいじゃないですか? 彩宮先輩。神崎先輩には手を出さないって不可侵条約があったのに……」
「あんな子供の遊びに付き合うほど暇じゃないわ。想いが真摯なら是が非でも手に入れるのが女でしょう? 違うかしら? 小泉さん?」
 冷酷に私は告げる。
 俯いたままの小泉さんは、含み笑いを大きくする。
「あはは。ははは」
 やがて顔を上げ声を出して笑い出した。神崎君は狼狽えて、私は冷徹にその変貌を見つめる。
 小泉さんは笑いながら言う。
「あははは。私、惨めじゃないですか? 友達は私と伊達せんぱいが付き合ってたの知ってるんですよ? 私が、いつ処女を失ったかまで知っているんですよ? 見舞いに来てくれたけど、私に会わす顔がありますか? 神崎先輩が付き合ってくれるなら、私の顔も立ちます。フォローする? お笑いじゃないですか? 彩宮先輩の言う通りです。真摯な思いこそが真実です。ですから、せんぱいは私が殺します」
 かちんと来た。
「貴女、男をステータスだと思ってるわけ?」
「ええ。そうです。今までさんざん自慢してきたんです。それを裏切るなら殺されて当然じゃないですか?!」
 神崎君は声もなく、笑い転げる小泉さんを見つめている。もう彼女は狂っている。これで流石に救いようがないことが分かっただろう。
 神崎君は吐息をつくと言った。
「……小泉さん、僕には君が泣きじゃくっている子供のように見える。面子で人を殺すなんて言うものじゃない。君の友達も心配しているから見舞いに来てくれたんだ。その好意に気付けば、前に進めるんだよ」
 火に油を注ぐ正論。
 この人もいい加減救われないな。
 小泉さんは笑うのを止めた。異物を見る目で神崎君を見る。
「―――もう遅いんですよ。神崎先輩。私の呪詛式はもう組まれています。くちなわが起きているんです。後は発動させるだけ。そうしないと私が死ぬんです」
 小泉さんは静かにそう言う。
「くちなわは見たよ。あれの臭いは君と同じだ。でも、僕と彩宮さんなら、あれを祓える」
「――あれが祓われたら、私が死ぬだけです。神崎先輩は私を殺すと言うのですか?」
「僕は君を助けに来た。最初にそう言ったよ。考え直してくれ。小泉さん」
 小泉さんは大きな吐息をついた。
「―――こんな人が彼氏だなんて、彩宮先輩も大変ですね」
 私は答えなかった。彼がこんな人だから好きになったのだから……。
 でも、まぁ妙な事に巻き込まれたのは事実だった。
 小泉さんは姿勢を正すと、正面から神崎君を見据えた。
「それでも殺すと言えば、どうします?」
「伊達は僕が守る。そして君を救ってみせるさ」
「障害は排除します。それなら私も神崎先輩を先に殺します」
 完全に呪詛師の顔で小泉さんは言った。
「させないわ」
 私は小泉さんを見据えた。
「彼は私が守るもの」
「では、お二人の命、私が頂きます。祖父に前々から言われていたんです。私はイザナミ流完部派第二十九代宗主の名を継ぎます。
 襲名の儀として、神崎先輩と彩宮先輩のお命頂戴いたします。
 伊達せんぱいの命はその後にゆっくりいたぶり尽くして頂きましょう」
 ああ。宣言しちゃった。この娘。もう戻れないよ。
「私達がただ殺されるのを待つと思う? 神崎君はともかく、私は殺される位なら、先にやるわよ? 覚悟はあって?」
「―――宗主を襲名するにはうってつけの贄だと評価いたします」
「――そう? では交渉決裂ね。まっ、私にとっては降りかかる火の粉を払うだけの話よ。気を変えるなら早くすることね」
 私の言葉に、小泉幸恵はぎろりと目を輝かせた。
「一週間後です。今日から七日目に私は凶つ蛇を解き放ちます」
「では、一週間後に、伊達君の家でくちなわ共々貴女を倒す。それで良いわね?」
「―――はい」と小泉幸恵は頷いた。
「帰るわよ。神崎君」
 私はそう言って立ち上がった。
 神崎君は深く沈んだ顔でソファーに座ったままだ。
「小泉さん。僕は命をかけて君を救うよ。君は呪詛の世界で生きていく人じゃない。それだけは覚えておいて欲しい」
 小泉さんはまだ、そんな言葉を口にする神崎君を奇異の目で見たが、言葉は返さなかった。
「―――神崎君!」
 苛立った私の声にようやく彼は立ち上がった。
 私達は病院を後にした。

(二) 
「……しくじった」
 喫茶店で神崎君は頭を抱えてそう言った。
「そう? 見事な誘導だと感心していたのだけどな……」
「――誘導?」
 神崎君は怪訝な表情で顔を上げる。私はその顔に微笑みを返して言った。
「小泉さんに自ら呪詛をしていることを言わしめ、一週間の期限を設けさせた。これは大きいわ。私達は七日間と言う短期間で呪詛に備えれば良い。何ヶ月もかけてくる呪詛はやっかいだからね」
 神崎君の顔に不満の色が浮かんだ。
「僕はそんなつもりで小泉さんと話したわけじゃない」
「ええ。分かってる。貴方はそうでしょうね。でも、結果はベストに近いものになったわ」
「ベストは小泉さんに呪詛をやめさせることだった。だから失敗だよ」
 神崎君は低い声で言った。怒っている。私はそれに気付かぬように振る舞った。
「あの時点で彼女を救うのは、どんな聖人君子でも無理よ。貴方は良くやった。悔やむ必要なんかないのよ」
「それでも、僕は―――」
 神崎君が何か叫びかけたところで、私は右手の指で口を封じた。
「大声はいけないわ。で、どうなの? この後、どうする気? 案が無いなら、私から提案があるわ」
 人差し指を唇に当てただけで、神崎君は真っ赤になって固まる。そして、いじけてる。
 ちょっと目では分からないけれど、私にも彼の表情が読み取れるようになった。
 可愛いい。そう思う。
 唇から顎と撫でるように指を動かして、その指先を彼の喉笛にそっと刺すと、神崎君の顔から血の気が引いた。―――何でよ?
 神崎君は引きつった表情でバンザイの姿勢を取る。
「参った。降参だ。彩宮さんの言うことを聞く。だから指を収めてください」
 色々、腑に落ちないことがあったが、私は手を納めた。神崎君は安堵の息をつく。
「……ふう。怖いな。彩宮さんは……。で、提案ってなに?」
 むっとしたけど、ここで拗ねても、あやしてくれるような人じゃない。私は話を前へ進めることにした。
 テーブルにプリントアウトした衛星写真を広げて見せる。 私は写真の中央を指さした。「ここが小泉さんの家。矢尻みたいな二等辺三角形でしょ? しかも辻に立っている」
「僕は風水とかは判らないけど、このマンションからは邪気を感じるよ。……しかし、なんでこんな変な形のマンションを建てたのだろう?」
「呪詛だからよ。このマンションは鬼門を指していると言ったでしょう? じゃあ、鬼門の先には何があるかよね?」
 私は定規でマンションの頂点が指す方向を示した。
「――あっ! 兜山か!」
 兜山は平地のど真ん中に立つ円錐形の山だ。古代のピラミッドだったと言うトンデモ説があるくらいだ。いずれにせよ、この辺りの霊脈を集める場所には違いない。
「霊脈は分かるわね?」
 私の静かな問いに神崎君は答える。
「大地のエネルギーだろ? うねって伸びているから龍脈とも言うんだよね?」
「大地だけじゃないけど、まぁ正解。この辺りの霊脈の中心は兜山よ。―――神崎君。貴方、自分に矢を向けられたらどうする?」
「……払いのけるだろうね」
 私はその返事に頷く。
「兜山の頂上には白山神社があるわ。ここの神様はキツイから、こんな建物を使った相手を認めない。払い除けようと祟るわよ。あのマンションの住民達は全員呪詛の対象となるわ。完部玄白はその負のエネルギーを利用して呪詛をかけていると思うのよ。だから、これから筋を通しに行く。どのみち、この地で呪詛合戦するんだから話は通しておかないとね」

 ―――兜山。

 山裾の向こうに広がる平野のど真ん中に、戦国時代の武将の兜を置いたような形でそびえる異質な山、その形状故に兜山と称される。
 地元の人はあまり近づかない。―――曰く、鬼が棲む山だと言う。
 昔から神隠しが多いのだ。近年でも行方不明者が後を絶たない。標高300メートル程度の山だが、頂上の白山神社への参拝道から外れると迷うと言われる。
 参拝道は急勾配のL字形をしている。L字形の直角に当たる所は高台になっていて、小さな公園になっている。(遊んでる子供は皆無だが……)
 公園の右手はN市を一望出来る。古ぼけた双眼鏡も置いてあった。高台からは三角マンションが、こちらを指し示すように建っているのが見えた。これは神様が怒るのも同然だ。
 一方、左手の竹藪の奥には滝があり修行場になっている。禊ぎ場の入り口には素戔嗚尊を祀る祠があった。滝に不動明王はつきものだが、素戔嗚尊が滝に祀られるのは珍しい。
 彩宮さんは二拍一礼して素戔嗚尊の祠を丁寧に拝むと、脱衣所を抜けてお滝場に向かった。一瞬、「裸になるのかしら?」と期待したが、彩宮さんは一気に脱衣所を通り過ぎ、歩みを早め、真っ直ぐ歩いて行く。確たる目的のある顔だ。邪魔になると思って、僕は脱衣所の入り口でしゃがみ込み、額の汗をぬぐった。制服で登山は無茶があった。
 これなら、軽装で出直すべきだった。だが、同じ制服の彩宮さんは汗すらかいていない。
『筋を通しておかないといけないの』
 彩宮さんの言葉が頭に響いている。どうにも僕の予想を超えた大事になるらしい。しかし、彩宮さんはこの手のことに本当に詳しいなと思う。
「――ええぃ!!」
 お滝場から、彩宮さんが九字を切った裂帛の気合いが響いた。声に淀みが無く透き通るような声なので、離れていても一刀両断された気分だった。事が終わったようだ。僕は立ち上がり彩宮さんを待つ。
 彩宮さんは右半身がずぶ濡れだった。驚いて「どうしたの?」と尋ねると「えへへっ」とばつが悪そうに可愛い舌を出して笑う。
「濡れなきゃいけない所にあったから……」
 そう言って、ぐいと右手を僕に差し出す。開かれた掌には水気を吸って腐りかけた藁人形があった。聞くと滝の裏側に小さな洞窟があり、そこに置かれていたのだと言う。質が悪い。滝行する人は真摯に塵芥を流して、その魂を清めようとする人たちなのだ。
 怒り。憎しみ。悲しみ。恨み。
 それらを集めて増幅するのがこの藁人形だったわけだ。
 完部玄白。
 こんな呪詛をするのは奴くらいしか思いつかない。僕は怒りを覚えた。
「それなら、僕に言ってくれれば良かったのに……」
「こんな妖物(ようぶつ)、他所様にふれさせるわけにいかないわ。特に貴方には」
 うわ! いきなり他人扱いされた。傷ついた僕は無表情になる。そんな僕の心の機微を読み取ったのか、彩宮さんは少し膨れた顔で言った。
「あのね。私には貴方が一番大事なの。だからこんな瘴気にまみれたものは渡せないの! 分かった?」
 嬉しかった。大事な人と言われて本当に嬉しかった。でも、今回の一件は僕が首を突っ込んだ話だ。彩宮さんは関わりを嫌っていた。今、彩宮さんは率先して動いてくれている。それも、僕を守る形でだ。これでは男・神崎浩平としての立場がない。
「彩宮さん!」
 僕は思わず彼女の両肩を掴んだ。彩宮さんは驚きに目を丸くしている。
「僕は男だ。男なんだよ!」
「―――わ、分かっているけど……」
「だったら、何でも自分でせずに頼って欲しい。その僕たちは……」
 そこで僕は声が出なくなった。顔が紅潮する。
「……恋人同士なんだから?」
 彩宮さんは子供のように、真っ直ぐ僕を見つめた。
 僕は彩宮さんの瞳から目を離して、俯きながら頷いた。
 彩宮さんは僕の頬にキスして、とんと軽やかに距離をとった。
「―――ありがとう。神崎君。でも、私、甘えるときは際限なしだから気をつけてね」
 以前、どこかで聞いた言葉だ。なぜか思い出せない。大事なことなのに……
 彩宮さんは上機嫌の顔でアッカンベーをした。
 胸にどきゅんと来た。
 ……又、惚れ直してしまった。

「心臓殺しの百八段」
 お滝場から直角に曲がると白山神社へ登る階段に出る。あまりの急勾配に下から見上げると垂直に見える石畳の階段はそう呼ばれている。ちなみに石は墓石が使われていて、夏の真昼でも鬱蒼としている。魂抜きをした無縁さんの墓石を再利用していると言うが、登る者には気分が重くなる。まるで参拝を拒んでいるような造りなのだ。
 彩宮さんは、上に見える鳥居をきっと見据えると足を進めた。
「手すりを使いなよ。少し楽になる」
 そう声をかけると、彩宮さんは無表情で答えた。
「そうも行かないわ。ここが私の意地をはるところなのよ」
 彩宮さんは頂上の鳥居をきっと見据えている。僕には何も見えないが、彩宮さんの視線からして、そこに何者かがいるのだろう。鈍い僕にも何かに見られている感じがするのだ。
「『あの日』の前後にここら辺りで『件』の目撃例が増えたのを知ってる?」
 彩宮さんは喘ぐように囁く。
「――くだん(・・・)か。知らない人の方が少ないんじゃないかな? 牛頭の着物の女の妖怪だろ? 震災の前には話題になったけど、事が事だったから、『あの日』以来、誰も口にしないだけで……」
 僕は口籠もった。やはり『あの日』の話は重い。
「―――凶事を伝える妖怪だと言うのよ」
 一瞬、五月蠅い蝉の声が消えた気がした。
「人偏に牛と書いて『くだん』。凶事を伝える妖怪。それがこの山に祀られているの。奥の院にね」
 彩宮さんは滔々と語る。顔はいつもの無表情に戻っていた。なにか無性に怖かった。
「件の一番古い記録は平安時代まで遡るわ。鉄砲水で村が崩壊するのを走りながら叫んだそうよ。村の人々はその異形を畏れるばかりで、その言葉には耳を貸さなかった。結果、村は予言通り全滅し、異形の『件』の話が喧伝された。
 私はね、神崎君。『件』の心情を考えてしまうの。
 走り回ってまで『異変』を伝えたのに、自らの異形に畏れられるだけで、誰も助けられなかった。まるで私達みたいじゃない? 泣き叫んで訴えたのに、精神安定剤を打たれて、ベッドに縛り付けられて……哀しいじゃない?」
 立ち止まって、上にいる僕を見つめる彩宮さんは、白い仮面をかぶっているようだった。
 迂闊な答えは出来ないなと思った。
 しばし間を置いて、僕は答えた。
「―――それでも僕は叫ぶよ。たった一人でも理解出来る人がいたら、たった一人しか救えなかったとしても叫ぶ」
 呆然とした顔で僕を見ていた。彩宮さんは、「あはは」と笑った。少し涙ぐんでいた。
「ああ。貴方らしい。そうよね。迷いごとだったわ」
 僕には彩宮さんの心情が分からない。それでも笑うところじゃないだろうとは思った。
「……なんで、笑うかな? 真面目に答えたんだぜ?」
「ごめん。ツボに入った。本当に貴方、太陽のような人ね。時々、眩しいわ」
 彩宮さんは階段の途中でお腹を押さえてまだ笑っている。
「まっ、真っ当にお天道様の下を歩けってことよね。呪詛なんか貴方の前では意味もなさないからね」
 彩宮さんは笑いながら、そう言うとポンと僕の肩を叩いて、階段を上る。すれ違いざまにぼそりと呟いた。
「でも、それだけ真っ当な人間を見たら貶めたくなるけどね……」
 鬱蒼とした森の影にぞわりと浸食される心地がした。
 鳥居の前で二人仲良くお辞儀して、神社の境内に入る。本殿の前は開けていて陽がさしている。人気が無く、蝉の声だけがこだましていた。
 お手水の所で彩宮さんはポケットを探って、掌に収まる大きさの着物の生地で作られた袋から、水晶玉を出した。
 手水の水を、彩宮さんは、水晶玉に入念にかけていた。その奇異な行動に僕は彩宮さんに声をかけた。
「それ何をしてるの?」
「……う~ん、足跡帳兼探知機かな? 寺社仏閣には大抵、水場があるからね、この子にどういう場所か探知してもらうの。この子、私の百倍は感度よいからね」
 どうにも理解し難い台詞を言う。
 彩宮さんはハンカチを口に加えた姿で水晶を絹袋に戻した。
「強い神様が居るところでは、水晶から電気が出るみたいにビリビリ来るのよ。そう言うのは要注意。ここは大丈夫みたいね」
 そう言って彩宮さんは僕に笑顔を向ける。なんとも返事が出来なくて耳の裏を掻く。
 彩宮さんは慈愛に満ちた表情で僕を見つめていたが、すっと視線を外すと社務所の方へ歩いて行った。
 社務所にまとめられた竹箒の一本を逆さに持つと、本殿の前で畳一畳分の長方形を書き、四隅にルーン文字の刻まれた水晶の石を置く。
「……何してるの?」
 再び尋ねる。彩宮さんは右手の中指を立てて宙を眺める。
「神下ろしの場所を作るのと、人払いの結界の強化だね。山に入る前に人払いの結界張ったから誰も来ないと思うけど、用心しないとね」
 すいません。何を言っているのか分かりません。
 彩宮さんは素足になると、長方形の中に入った。後方の隅に正座すると、一礼して柏手を二つ打って、再び拝礼すると手を合わせて目を閉じる。
 何となくだけど、お行儀良くして控えてないといけないんだろうなと思って、彩宮さんの斜め後ろに背筋を伸ばして立ってみる。瞑目して手を合わせ、何事かを真摯に唱えている彩宮さんのうなじに僕は魅せられる。
(―――凄い娘だな)
 心底、僕はそう思う。ルーンを扱えるだけでも凄いのに神道の知識まである。とびっきりの美少女で霊能力まであるなんて、「天は二物を与えず」と言うのは嘘だなぁ~と思っていると、「――神崎君!」
 彩宮さんが瞑目の姿勢を崩さず、凜とした声を発した。
「はい!」思わず背筋を伸ばした。
「そのまま後ろ足で鳥居まで戻って! 間違っても振り返らないで! 境内から出て頂戴!」
 うわ! いきなり出て行けと言われた。言葉が心臓に突き刺さる思いだった。それを察したのか? 「お願いね」と最後に優しい声をくれた。良く分からないけれど、剣道の歩法で鳥居の所まで行き、体を鳥居にもたれかける。空を見上げる。雲一つない蒼天。痛い程の日差しが真上から降り注ぐ。
「かぁ!」とカラスが僕を馬鹿にしたような声を上げると鳥居の上から飛び立った。
 違和感があった。音だ。ここでは五月蠅いまでに聞こえる蝉の声が神社では無かった。境内とその外側は全く別の空間になっていたのだ。
 彩宮さんはと見ると、彼女の前に淡い金色の光りの柱の様な物があるような気がした。彩宮さんは丁寧に一礼すると、立ち上がり柏手を打った。その瞬間、境内の蝉が激しく鳴き出した。彩宮さんはルーンの石を拾い、やや小走りに僕の方へやって来た。
「ごめんなさい。追い出して。気分悪くしたでしょう?」
 彩宮さんは不安げに僕を見つめて言う。そんな表情にも見とれてしまう僕がいる。
 僕はただ首を振って微笑むしかなかった。
 彩宮さんの顔に安堵の色が浮かぶ。
「ブレザー。脱いで良いわよ。暑いわね」
 彩宮さんは言いながら、自分もブレザーを脱ぎワイシャツ姿になる。白いワイシャツを通して淡いピンクのブラが透けて見えるのがなんとも心をくすぐる。僕は無表情になってブレザーを脱ぐ。社務所の側に自動販売機があったので、冷えた缶ジュースを買って来て、彩宮さんと階段に座って息を抜く。
「――結局さ、彩宮さんは何をしたわけ?」
「見てたじゃない?」
 彩宮さんは冷えたジュースの缶を頬に当てて言う。
 見ていて分からないから訊いているんです。
「神崎君は神様見えなかったの?」
 彩宮さんは不思議気に尋ね返した。
「金色の柱みたいのは見えた気がするけど……」
「―――なんだ。見えてるじゃない?」
 彩宮さんはくすりと笑う。僕の方は事情がいよいよ分からなくなってきた。
「……なんで僕は境内から追い出されたの?」
 そう尋ねると、彩宮さんの表情が凍った。『絶対零度の魔女』の顔になる。
「訊きたいのは、こっちよ。貴方、いったい何者? 神様が『畏れ多い』と現れないなんて……」
 ――――――!
 思考が停止する。神様が僕を畏れたと言うのか? 理解出来ない。
 無言でいると、彩宮さんは「はぁ……」とため息をついた。
「まぁ、いいわ。神降ろしも成功したし、話もつけたしね。あのマンションに手を出さない、パワーを送らないと言う約束の対価は貴方よ」
「へ?」
「へ? じゃないわよ。貴方はこの神社に入らない。それが対価よ。業突張りの神様が多い中で、破格の対応よ。貴方、あちらの世界では有名みたいね?」
 まるで話が分からない。僕のどこが恐いのだろう? 後ろのお姉さんに訊こうと思ったが、笑いを必死でこらえている状態で相手にしてくれない。表情と言うものがどんどん抜けて行くのが自分でも分かる。そんな僕の肩を彩宮さんが元気良く叩いた。
「哲学者にならないの! お昼食べに行きましょう。クーラーが、がんがん効いている所へ行きましょう」
 そう言って彩宮さんはエイと立ち上がった。子細の説明はなかった。おそらく説明しても無駄だと判断したのだろう。階段を下りるとき、僕は一瞬後ろを振り返った。音もなく降り立ったカラスが五匹、鳥居の上で僕を睨み付けていた。
(―――僕の何が悪かったのだろう?)
 少し哀しくそう思う。二度と来ることのない鳥居を目に焼き付けて僕は階段を下りた。
 少し下りると、微かな風が吹き、竹藪がさわさわと鳴った。僅かだが涼感を味わえる。
「去年の秋の話だけどさ」
 彩宮さんは慈しみのある笑顔を僕に向けて言った。
「神崎君、部活が終わると、桜の木の下で暗くなるまで休んでいたでしょう?」
「……そう言えばそんなことがあったね。帰りが遅いとよく浩美に怒られた」
 僕は頬を膨らませて怒る浩美の顔を思い出して苦笑した。彩宮さんも笑顔を返す。
「―――何をしていたの? 夜の桜の樹の下で?」
 一瞬、頭の中が真っ白になった。何故そんなことをしていたか、理由が分からない。ただ、なんとなく桜の樹が泣いている気がしたのだ。だから、部活で火照った体の熱を伝えるように樹の幹にもたれかかっていた。
「……寂しそう……だったからかな?」
 彩宮さんはその答えにくすりと笑う。
「私はずっと見ていたわ。文学部の部屋からはあの桜が良く見えるのよ。それで再び貴方に恋をしたの。明美が気付いてくれて良かった。でないと眺めるだけで終わっていたわ。あの娘、本当は女らしくて繊細なの。で、私達はこうしている訳。明美に感謝しないとね」
 こう面と向かって言われると照れる。それ以前に、なんで、ただ桜の樹の下で座ってるだけで惚れられるのかが分からない。
「嬉しいけど……。彩宮さん、桜の樹の下に座ってるだけで惚れるの?」
 我ながら直球ど真ん中だが、伊達のように口先の魔術師ではない僕にはそうするしかない。
 彩宮さんは「どうしようかなぁ~?」と明らかに僕をからかいながら、階段を下りて行く。
「ごめん。教えて。なんか気になって仕方がない」
 そう言って拝むと彩宮さんはにっこりと笑う。
「私もね夏休み前にはあの樹の下に通いつめた口なの……。でも、諦めちゃった。天上界への道を開いて上げているのに、気づきもしない。私の話も聞かない。ただ、怨嗟と泣き言を言うばかり。だから私は諦めた。でも、あなたは延々二ヶ月愚痴を聞くだけで、あのしぶとい地縛霊を浄化してみせた。
 敵わない。
 心の底からそう思ったわ。その瞬間に思いは恋へと変わったのでした」
 彩宮さんはそう言うと、照れ隠しに「えへへ」と笑った。
 その可愛さに僕は思わず彩宮さんの頭を撫でていた。
「――な、なによ?!」
「いや、彩宮さんは可愛いなって思った」
 素直にそう言うと彩宮さんは真っ赤になって距離を取る。
「貴方、本気で女たらしね!」
 そう不思議な怒り方をする。
「浩美ちゃんがブラコンになる訳だわ。これじゃあ、危なかしくって外に出せないわよ」
 ぷんすかとお怒りになる。
 浩美ってブラコンかな? どちらかと言うと怒り顔しか見てないような気がするが……。でも昔は可愛かったな「お兄ちゃん。お兄ちゃん」と懐いて、最近、機嫌の悪い顔が増えたような気がする。
「だいたい、貴方は――」
 そう言いかけた彩宮さんの口を手で押さえて、僕は彼女を抱きかかえるように石段から竹藪に倒れ込み、彩宮さんに覆い被さる。体中から危険信号が出ていた。
「―――来る!」
 僕はそう叫んだ。彩宮さんもその気配を感じ取ったらしい。僕の胸の中で身を屈める。
 言うなれば、それは巨大な津波に似ていた。
 怨嗟に満ち満ちた黒い巨大な津波。
 それが兜山へと襲いかかる。背中にその怨嗟を感じた時にはマグナを被ったような気がした。正気を失いかけた。だが、ここが気張りどころ。
 津波は元へ戻って行く。
 その流れに心を持って行かれないようするのが肝要だ。
 数十分に感じたそれは、実の所、数十秒の体験だったらしい。黒い呪詛の波は気配が消えた。蝉が雨のように、木々から落ちてくる。僕の下で彩宮さんが名を呼んでいる。でも、それに答える余裕は僕には無かった。存外にだらしない。生気を半分程持って行かれたようだ。
 彩宮さんは僕の体を仰向けにすると、呼吸と心音を確かめ、バッグからペットボトルを取り出し、口移しに僕に飲ませた。冥利に尽きる。内心そう思う。水は甘味があった。どこかの聖水のようだ。体に力が戻って来た。僕は起きあがろうとして言った。
「彩宮さん、ありがとう」
「この馬鹿!! お礼言うなら立場が逆でしょ!」
 怒鳴りながら彩宮さんの顔からボロボロと涙がこぼれる。僕の顔は彼女の涙で清め洗い流される。彩宮さんは僕が知っている『鈴ちゃん』の顔になっていた。僕は彼女の首に手を回して、その体を抱きしめる。
 彩宮さんは何か必死に呟いていた。耳をそばだてる。
「行かないで……。私を置いて行かないで……。私を一人にしないで……。行かないで……。私を置いて行かないで……。私を一人にしないで……。行かないで……。私を置いて行かないで……。私を一人にしないで……。行かないで……。私を置いて行かないで……。私を一人にしないで……。行かないで……。私を置いて行かないで……。私を一人にしないで……。行かないで……。私を置いて行かないで……。私を一人にしないで……。」
 僕は彼女が落ち着くまで、ただ無言で抱きしめ続けた。浮気とかそんなのではなく、僕は彩宮さんを抱きしめながら響子姉(きようこねえ)のことを思い返していた。響子姉(きようこねえ)は一人っきりだ。彩宮さんですら、ここまで崩れる。響子姉(きようこねえ)は抱きしめてくれる人がいない。どうやって、その穴を埋めているのだろう。
 空を見上げて、響子姉(きようこねえ)そのものであるような青空を見つめる。
 その裏にある脆さを思うと涙がでそうになった。
 やっぱ、これは浮気だな。

 彩宮さんは、ようやく我に返った。恥ずかしげに顔を背け、僕から慌てて離れた。
 そして、鞄の中にあった別のペットボトルとタオルを出すと、タオルに水を濡らして、僕の顔を拭く。嫌がる僕を「動かないで!」の一言で凍結させる。一通り拭き終えると背中を向けて化粧直しを始めた。曰く「見たら、殺すわよ」。洒落にならないことを仰る。
「――なぜ、気付いたの?」
 背中を向けたまま。絶対零度の魔女の声で言う。
「殺気の類には敏感なんだよ」
「―――そう」
 彩宮さんはこちらを振り返った。もう涙の後はない。目が少し赤いだけだ。そしてなにも無い空間に視線を走らせる。
「義理堅い神様で良かったわ。あれで激怒して返しの風を送られたら、どうなっていたか分からない」
「どうなるのさ?」
「……人死にが出たでしょうね、こことあの三角マンションを繋ぐラインで。でも流石と言うべきかしら? 兜山の霊脈を断たれたとたんの呪詛返し。並の者に真似出来るものではないわ」
 僕は不快を感じた。完部玄白は当然としても、ここの神様とやらにも腹が立った。
 ―――全く、人の命をなんだと思っているのだ?
 二人して無言で立ち上がり、山裾の町を見つめながら階段を下りる。
 さっきの続きだが、この階段も腹が立つ。
 墓石だぞ。
 魂抜きをしてあるから大丈夫と言う理屈らしいが、墓を人に踏ませる神経は理解し難い。
 と、唐突に彩宮さんが僕の左腕にしっかりと捕まって来た。顔は何かに耐えるような苦渋に満ちている。
「どうしたの?」
 なるべく優しい声で問うた。
「……サイレン。ほらサイレンの音が聞こえない?」
 言われれば微かに救急車らしきサイレンの音がする。
「さっき、あんなことがあったし、『あの日』以来サイレンの音は苦手なのよ」
 か細い少女の声で彩宮さんは言う。
 僅かな合間に、サイレンの音が増えた。救急車と消防の他にパトカーの音すら響いている。真昼のけだるさに音をひそめていた町が騒然としている。
 いつのまにか側に来たのか?
 彩宮さんも高台の展望所に来ていた。
「……これ。ただごとじゃないわね」
「ああ、街中の救急車・消防車・警察が総出だぞ。これ!」
 僕は目をこらした。街のどこで異変が起きているのか? 何が起きているのかを見定めようとした。
「彩宮さん」
「なに?」
「三角マンションが炎上している」
「―――ウソ!!」
 彩宮さんが双眼鏡にしがみつく。
 完部玄白の三角マンションは3階辺りから出火していた。それ以上の高さには、何故か消防の高層マンション用のはしごがかけられている。避難したのだろうか?ベランダに若い女性がいた。次の瞬間には、その女性はマンションから飛び降りた。

 戦いののろしは上がっていたのだ。

(三)
 三角マンションの前で私達は立ちすくんだ。
 ―――阿鼻叫喚のるつぼ。
 そう表現するしかない。十五階建ての賃貸マンションで燃えているのは四階から下。ほぼ全室で火災が起きているようで救いを求める絶叫が聞こえる。ガソリンの臭いがつんと鼻を突く。放火だ。
 玄関ホールの上には脳漿を飛び散らかした男性の体がある。死体だろうが、キャンバスで隠す人はいない。手が足りないのだ。そしてベランダからは次々と飛び降りが続く。「助けて!」と、そう叫んで、飛び降りる。
 マンションの回りは奇妙に体をくねらせた死体のオブジェが取り巻いている。
 そのオブジェ(多少に息があろうか構うことなく)を作業靴で踏みにじり、飛び降りても大丈夫なように警官隊と消防隊がマットが敷く。かって人間であったモノを踏みにじるその顔には怒りと恐怖が混じり合っていた。一階の消火は先程終わったようだ。まだ黒い煙が異臭を漂わせている。その臭いは『あの日』を思い起こさせる。集まって来る群衆は後を絶たない。機動隊が盾で壁を作っている。それでも人々は集まって来る。何も出来ない。そんな事は分かっている。だが、それでも見届けようと群衆は集まり続けた。

「説得は聞きません。『助けてくれと』言って飛び降りて来るんですよ!! どうやって助けるんです?! ええ。一階の消火は今出来たようです。ちょっと待って下さい。一階フロアに生存者無し! 無理心中に自殺ばかりの様です。とにかく増援を下さい。それから報道を下げさせて下さい! ヘリの音にマンションの住民が怯えます!」

 最前列に居たから、指揮官らしき警官の声を聞き取る事が出来た。
 隣にいる神崎君の顔は能面の様に表情がない。が、彼は私の手を強く握った。燃え上がる炎をものともせず飛び降りて来る様を眼に焼き付けんばかりに見据えていた。私は彼の手を強く握り返す。震えが止まらなかった。膝が笑っている。どうしたって『あの日』の事が蘇る。私を襲った壮絶な痛みと嗚咽。それが今再現されている。見たくない。こんな光景は見たくない。でも、終わるまでは見届けなければいられない。
 それは私だけの思いではなかった。
 この群衆は野次馬ではない。それが証拠にしんと静まりかえって、皆、かたずを飲んで祈るように見つめている。『あの日』を生き抜いた人々が集まっている。
 私の正面上、八階のバルコニーを乗り越えようとしている二十歳後半の女性と視線が合った。強い思念が流れ込んで来た。
(いやだ! 死にたくない! 誰か私を止めて! 恐い! 近づかないで! ああ――。落ちる。落ちちゃう! いやだ! 死にたくない!)
「「いやー!! 死にたくない!!」」
 私とその女性は同時にそう叫んだ。
 私は卒倒して、神崎君に抱きしめられた。
 凄まじい爆音がしてアスファルトの地面が揺れた。女性は誰にも抱きしめられる事なく、まだマットが敷かれていない大地に叩きつけられた。その音が爆音に聞こえたのだ。
 大きな悲鳴が群衆から上がった。私同様卒倒する人が何人か出た。悪夢は終わらない。今度は赤子を抱いた女性がバルコニーに現れた。怯えきった表情で、幼子をしっかりと抱きしめている。女性はバルコニーに置かれた洗濯機の上に登った。
 それを見守る群衆からは微かなどよめきが漏れた。次の光景が分かるから、それでも救えないから、吐息を漏らす。
 私を支える神崎君の手に力が入る。
「―――死ぬな!!」
 腹の底に力を籠めた大音声、それは周囲の空気を震撼させた。
「死ぬな!!」
 再び響く神崎君の大音声。それは明らかに女性の動きを止めさせていた。それで回りの人々も叫んだ。
「死ぬな!」
 その叫びは伝播した。群衆は「死ぬな! 死ぬな! 死ぬな! 死ぬな!」と連呼する。
 その叫びは怒号となりマンションを取り巻いた。私も神崎君の腕の中で拳を上げて叫んだ。
「死ぬな!」
 その願いは届いた。今まさに飛び降りようとしていた住民達はへたり込み嗚咽をもらす。警官隊や消防の人々にマンションの住民達は次々と運ばれて行く。最後に警察の指揮官が群衆に感謝の言葉を贈り、群衆は歓声を上げて解散―――しなかった。皆、神崎君を賞賛しながら集まって来る。中には泣きながら神崎君を拝んでいるお婆さんまでいた。報道陣のクルーや、警察官の指揮官が感謝状を贈りたいからと住所と名前を訊いて来る。
 神崎君は無表情で耳の後ろを掻いていた。
「そこ!」
 神崎君は輪のような群衆の一角を指さして叫んだ。
「道を空けてください!」
 モーゼのように群衆の渦に道が出来る。
「それでは失礼します」
 神崎君はそう言って頭を下げると私を抱きかかえて疾走した。陸上部でも通用するほどに早かった。
 神崎君は―――あの日と同じ。やはり私の救世主だった。

   ◇
「ひや! ひや! ひや! 見よ! 見よ!」
 奇声を上げて完部玄白は嗤う。
 市内のホテルの最上階に完部玄白はいた。32インチの液晶TVには燃え上がる三角マンションの様子が『ライブ』と言う表示と共に流れていた。マンションの下半分は業火に焼かれ、上からは面白いように人が飛び降りている。
「ぎゃっ! ぎゃっ! ぎゃ!」
 最早、笑い声なのか奇声なのか分からぬ音を吐きながら玄白はTVの前で踊る。
 その姿は狂人のそれだった。
 警察の指示なのか、空からの映像は、地上からマンションを見上げるものに変わった。臨時ニュースの画面は、燃え上がる三角マンションをバックにしたアナウンサーに変わる。アナウンサーの表情は硬く青ざめている。
『真昼の怪異! 謎の集団自殺!』
 そうテロップが流れる。
「現場から原田がお送りします。現場の光栄マンションから最初の飛び降りがあったのが十二時五十二分です。それから時を同じくして火災が発生。飛び降りは今も連鎖的に繰り返されています」
 アナウンサーはそこで唾を飲む。
「―――悪夢としか言えません―――」
 その言葉の直後。どぉーんと言う爆発音のような音が響き大地が揺れた。
「―――お聞きになられたでしょうか。たった今、飛び降りがありました。十八人目の自殺者です。私感を交えて良いものなら、十八人目の被害者です」
 アナウンサーは膝が笑っている。
「スタジオの荻原です。原田さん、ただの自殺ではなく、被害者と思われているのは何故ですか?」
「被害者のみなさんは飛び降りる時、例外なく『死にたくない』と叫んでいるのです。にも拘わらず、警官や消防隊の救助には応じないのです。私には怪奇現象としか思えません。又、マンション下層の火事は無理心中のもののようです。火災のためマンション入り口からの突入は出来ず、高層マンション用のはしご車で警官と消防が救助に出ているのですが、逆に住民は怯えて逃げてしまいます」
「一旦、放送をスタジオに戻します。花沢大学心理学部の諸星教授に来て頂いております。
 教授。この現象をどう思われますか?」
 諸星と言われた初老の男は、緊張した面持ちで答えた。
「教科書的な回答なら集団ヒステリーです。元々、光栄マンションは震災の被害者に安価で住居を与えようと完部玄白氏が私費を投じて建てられたものです。従って、居住者は全て震災の被害者で、結束力は相当に高いものでした。故に、何かを機に集団ヒステリーを起こしても不思議ではありません。
 しかし、集団自決のような行為を起こす事は考えられません。どこそこから飛び降りろと言う暗示はかけられますが、それが死に繋がる場合、本能的に暗示をキャンセルするからです。
 終末信仰のような宗教的集団が集団自決を計ったケースはありますが、今回、宗教的に住民が繋がっていた形跡はありません。
 マンションは『三角マンション』と呼ばれる奇異な形をしています。風水とか霊能者が解説する方がしっくり来るかもしれませんな」
 そこで完部玄白はチャンネルを変えた。
 現場を見たかったからだ。知ったかぶりの学者の意見など面白くもない。
 玄白は白山神社からの霊的攻撃を、受け流し、その力をため込んでいた。菩薩眼を持つあの少女が来た以上、その霊脈が断たれるのは必然と言えた。
 だから玄白はあのマンションを阿鼻叫喚で満たすことにした。憎悪、悲しみを集めることにした。イザナミ流でこの規模の呪詛を行えるのは自分以外にないと玄白は自負している。
 そしてそれは成就した。
 呪詛師として玄白が喜色に踊り狂うのも当然だった。
「―――奇跡です!!」
 唐突のアナウンサーの叫びに玄白は我に返った。
『死ぬな! 死ぬな! 死ぬな! 死ぬな! 死ぬな! 死ぬな! 死ぬな! 死ぬな!』
 そのシュプレヒコールが大きな波となってマンションを包み込んで行くのを、玄白は驚きに目を見開いて、それを見た。
 マンションを覆う呪詛が人々の叫びで消えて行く。カメラはそのアジテーターの青年を映し出す。
「―――神崎浩平!」
 そう呟いて、大きな眼をさらに狂気で凶暴なものにして玄白はTVを睨む。
 彩宮鈴香―――その少女に術を破られたなら、玄白も納得がいっただろう。
 だが、多少霊感が過敏なだけの平凡な少年に、自らの術が破られた事に玄白は深い憤りを覚えた。玄白はぎりりと唇を噛む。正直な話、玄白はこの少年が恐ろしい。強い式神が憑いている点を踏まえても、あの彩宮鈴香の霊能力に比べれば少年の脅威は木石に近い。
 だが、玄白の本能が自らの天敵が神崎浩平だと告げている。
「……あの小僧は幸恵にまかせるか……」
 凶つ蛇の最初の生け(にえ)は神崎浩平に決めた。あの呪詛は破れない。玄白にはその自信がある。そして自分は生身で現れようと決めた。神崎なる小僧が倒れれば、あの氷のような小娘は正気を失う。そこを蹂躙してやろうと玄白は決めた。元々、伊達とか言う男に興味はない。幸恵が呪詛師として後を継ぐ事だけを玄白は考えていたのだから……
「……っくくく」
 玄白は狂人の表情で笑みを漏らした。  

 慌ただしくサイレンが鳴り響く病院の特別室で、小泉幸恵は母と共にTVを凝視していた。そのマンションの下層は黒い煙と炎をちらつかせている。そして炎に覆われていない所では、人形のように次々と人が落ちていく。その恐怖・悲しみ・恨みを糧に玄白の術式が組まれていく。
 怖気に体が震えた。自分の体をしっかりと抱きしめて、小泉幸恵はTVに魅入る。
「……これが……これがイザナミ流完部派の呪詛なの?」
「――完部玄白。希代の呪術師の術よ。いくらイザナミ流でもここまで出来る者は少ないわ」
 やはり震える声で、それでいて芯の強さを備えた声で小泉幸恵の母は答えた。
「好恵ちゃんは? 由佳ちゃんは? 日下部のお婆さんは? 美子さんは? 浜崎さんは?
 死んだの?
 私はそんな事、望んでいない! ただ、伊達せんぱいを貶めたかっただけなのよ!! こんな事、私は望んでいない!」
 狂乱する娘を前にして、その母親は落ち着いている。普段なら、ただおろおろするだけの愚鈍な女が毅然としている。それが幸恵の癇に障った。
「なによ? なんとか言ったらどうよ? あんたなんか完部流を継ぐ事も出来なかった癖に!」
 瞬間、幸恵の頬を母が叩いた。幸恵は驚愕に言葉を失った。
 母は慈愛に満ちた目で幸恵を見つめて言う。
「イザナミ流完部派の祖を継ぐからには、これぐらいで慌てふためいては駄目よ。呪詛の宗家を継ぐと言うのはこう言う事なのよ。
 私はそれを拒んだ。
 完部玄白の激怒は凄まじいものだったわ。でも私はお父さんと平和な家庭を望んだ。お父さんも事情を理解した上で、結婚してくれた。半ば駆け落ちだったのよ。その後、結婚を認めてくれたけどね……
 でも、その時、完部玄白は新たな呪詛を考えていたのよ。お父さんを殺したのは完部玄白よ。事故だとなっているけれど、私には分かる……」
 女は天井を見上げる。つと涙をこぼした。
「完部玄白は言葉巧みに貴女を騙すでしょう。でも、これだけは信じて。貴女は私とお父さんの子よ。お母さんは何があろうと貴女を愛しているからね」
 女は幸恵の頭を優しく抱きしめた。
「……お、お母さん?」
 幸恵は母の温かな胸の中で狼狽えた。母は幸恵を抱きしめるのを止めると、その顔をじっくりと見つめた。
 その時、TVから「死ぬな!」と言う大合唱が響いた。
『―――奇跡です! 一人の青年の叫びに自殺が止みました! 集まった人々も叫んでいます!』
 幸恵の母はそれに、うっすらと笑みを浮かべた。
「―――神崎先輩? なぜ? なぜ、叫びだけでお爺さまの術を破れるの?」
 幸恵は呆然と声を漏らす。
 その幸恵を母は又強く抱きしめた。
「真っ当な人には呪詛など通じないのよ。それじゃ―――行くわね」
 そう呟くと小泉幸恵の母は振り向きもせずに病室を出て行った。
 幸恵は取り残される気持ちで「……お母さん……」と呟いた。そして気付いた。今日、母はお爺さんを他人のように呼んでいた。常に怯えた小動物のようだった母。その母の気高さに幸恵は気付いた。不安に胸が苦しくなった。

 陽が落ちてから、小泉幸恵の母、小泉さくらは厳戒態勢の中、誰にも気付かれる事なく光栄マンションに忍び込んだ。さくらも物心ついた頃から、呪術の基本を叩き込まれていたから陰形程度は造作もない。さくらは屋上に上がり、街を観る。多くの光りが美しい。あの明かりの一つ一つに温かな家庭があるのかと思うと、涙が出そうになる。誰にも手が届く平凡な家庭を望んだのに、さくらはそれを手に入れる事が出来なかった。怯えたリスのような顔が般若に変わる。
「鬼道! 思い知れ!」
 さくらはそう叫ぶと屋上から闇へ飛び降りた。
 一連の自決事件の最後の被害者となったのだ。
   ◇

 走った。走った。こんな無茶は部活で自衛隊の体験入団した時以来だ。この疾走は。公園へ駆け込む。流石にもう追ってこない。
 その公園が僕の家の側の公園だと気付いて、僕は少なからず驚いた。いったい何十キロ走ったんだ?
 小脇に抱えた彩宮さんが曰う。「あのぉ~ 降ろして貰えると嬉しいんですけど……」
 その声で彼女を抱えたまま走ってきた事を思い出した。
 彩宮さんは冷たい視線で下から僕を見つめている。訂正、睨んでる。
 僕は慌てて彩宮さんを丁寧に降ろした。
「凄い脚力ね……剣道部より陸上部が似合っていたんじゃないの? あ、着崩れ直すからあっち向いてて―――」
 言われて僕は公園の森から抜け出し、園内のベンチに座る。
「カルピスソーダ飲む?」
 そう言われて僕は頷いた。ごくごくと飲み干して、今更ながらそれをくれた女性に驚愕した。
響子姉(きようこねえ)?!」
 何の違和感もなく、僕たちがここへ来る事を知っていたように響子姉(きようこねえ)は座っていたのだ。
「頑張ったね。TVで見てた。浩ちゃんと彩宮さん、アップで写されてたよ。奇跡の子だってさ」
 響子姉(きようこねえ)は「あはは」と笑う。目尻に涙がにじんでいた。
「浩ちゃん、なにかあって隠れるときは、必ずこの公園だったからね。ここに来ると思っていたわ」
 その勘、超能力者並だな。そう思う。
「―――良い雰囲気のところ悪いんですけど、私の神崎君の隣に座らないでください」
 森から出て来た彩宮さんは、機嫌の悪い子猫のような顔をしていた。そして僕と響子姉(きようこねえ)との間に無理矢理座る。響子姉(きようこねえ)は苦笑しながら席を譲った。
「はい」
 響子姉(きようこねえ)は水筒のカルピスソーダを彩宮さんに手渡す。
「……あ、ありがとうございます」
 彩宮さんは珍しくたじろいだ。この娘はこういう無償の好意に慣れていないのだ。
 二人して喉を潤すと、二人同時にお腹の虫が鳴いた。彩宮さんは顔を真っ赤にして俯いた。無理もない。もう四時になろうとしている。朝食べてから何も食べていないのだ。
 響子姉(きようこねえ)は必死でお腹を抱えて笑いを噛み殺している。
「あはは…、家で、な、なにか食べて行く? 私、料理には自信があるよ」
「――結構です!」
 キッパリと言い切ると彩宮さんはベンチから立ち上がり、響子姉(きようこねえ)を睨む。
「彩宮の系列の料亭がありますから、そこで頂きます。神崎君と二人で!」
「あらまぁ? 豪勢なデートね。私は除外?」
「当然です。お隣様だからって、お誘いする義理はありません!」
「―――だよね?」
 響子姉(きようこねえ)は笑いながら立ち上がり、彩宮さんと向き合った。
「私も少しは視えるのよ……」
 響子姉(きようこねえ)は恐い顔をしていた。
「三角マンション。あれは呪いのとぐろに巻かれていたわね? ねぇ、鈴ちゃん。浩ちゃんをそんな世界に巻き込むなら、私は認めない。浩ちゃんは私の大事な家族なんだから」
 彩宮さんは唾を飲み込み怯んだ。こんな彩宮さんは初めて見る。彩宮さんは口籠もって後ずさる。
 傍観している場合じゃない。僕は立ち上がり二人の間に割って入った。
「―――なに?」
 響子姉(きようこねえ)は僕を見据える。本気で怒っている目だ。恐い……。
「―――違うんだ。響子姉(きようこねえ)。僕が関わってしまったから、仕方なく彩宮さんが力を貸してくれてるんだ」
「なぜ、浩ちゃんが関わるの?」
響子姉(きようこねえ)も知ってるだろ? 伊達が呪詛を受けているんだ。それを助けようとしているんだよ!」
「伊達君を狙うなら、他に死人が出ることはないでしょう?」
「変な爺さんが絡んでいるんだよ。響子姉(きようこねえ)。イザナミ流とか言う呪詛を使うんだよ!」
 必死に言うと、響子姉(きようこねえ)は腕組みして瞑目した。
「―――浩ちゃんが言うのなら信じましょう。でも浩ちゃんが怪我でもしたら、私が浩ちゃんを取るからね。彩宮さん」
 珍しく怯んでいた彩宮さんはそれで背筋を伸ばした。
「私は私を盾として神崎君を守ります!」
 響子姉(きようこねえ)を見据えてきっぱりと答えた。
 それで響子姉(きようこねえ)はにぱっと笑っていつもの顔に戻った。
「じゃ、二人とも頑張ってね♪ 不純異性交遊は駄目だぞ~」
 などと曰いながら、フェイドアウトした。 

  ◇
(なぜ、こんなに孤独なの? なぜ、こんなに寂しいの?)
 病院の窓から夜景を眺めながら、小泉幸恵は思う。自分たちの住まいだった光栄マンションはライトに照らされ、異形な姿を見せている。
 ――人が死んだ――
 呆然とそう思う。なぜこうなったのか分からない。
 マンションで暮らしていた人々は結束が堅かった。都会のマンションにありがちな人付き合いの悪さはなかった。『あの日』に大切な何かをなくし、格安の家賃に逃げ込んだ人々だった。
 ――家族が死んだ――
 涙が出た。
「……せんぱい……」
 ぼそりと呟きが漏れる。伊達正彦の快活な笑顔が脳裏に浮かぶ。何が悪かったのか……。
 なぜ戦う羽目になったのか?
 神崎浩平の台詞を思い返した。
『僕は君を助けに来たんだ』
 どうやって助けると言うのだ? この絶対的な孤独はあの人には分からない。あの人は『絶対零度の魔女』と一緒にやって来た。この自分の前に二人仲良く現れるだけで、十分に罪だ。だから真っ先に殺してやろうと思った。お笑いじゃないか? 結果、私は家族を殺したようなものだ。
 あの呪法は玄白お爺ちゃんが行ったものだけど、私が呪法を望んだから起こったのだ。責任は私にある。
 私は悲しい。私は悲しい。私は悲しい。私は悲しい。私は悲しい。私は悲しい。私は悲しい。私は悲しい。私は悲しい。私は悲しい。私は悲しい。私は悲しい。私は悲しい。
 ……ああっ。救われるのなら、こんな汚れた私でも救われるなら、神崎先輩に縋りたい。あの日向の匂いがする涼やかな青年なら私を救ってくれるかもしれない。
 彩宮先輩が憎い。彩宮先輩さえいなければ、私は素直に神崎先輩に縋れたのに……
『あなたは男をステータスだと思っているの?』
 彩宮先輩の凜とした声が頭の中にこだまする。
『あなたは男をステータスだと思っているの?』
 五月蠅い! 私は両耳を押さえる。
 最初からお金持ちの家に生まれて、才色兼備、ずっと明るい陽が差している道を歩いて来た人には分からない。私は物心ついた時からお爺ちゃんに、ままごと代わりに呪詛を教え込まれた。子供心にそれは魔法のようで魅せられた。私を泣かした男の子は、翌日には骨を折ったりした。知らず、誰もが私の機嫌を伺うようになった。
 それがなに? この惨めさ!
『あなたは男をステータスだと思っているの?』
 ええ。そうよ。
 桜ヶ丘高校に入って思い知らされた。私は一番じゃなかった。
 皆、一芸に秀でた人たちだった。曲者もたくさんいた。自分よりも優れた人――例えば、彩宮先輩のような――そう言う人々に囲まれて、私は皆に嫌われる事を恐れた。
 だって、私にはなにもなかったから……。人を呪う女だなんて思われたら、たちまちに孤立してしまうから、ダメッ娘を演じた。
 そんな中で突き抜きんでいたのが伊達せんぱいだった。良くも悪くも凄く目立った。朝礼台に彼が登るのは叱られるか、褒め称えられるかの両極端だった。
 だから私は告白した。抱いて欲しいと言った。処女を捧げた。伊達せんぱいは友人達に「こいつ、俺の彼女なんだぜ!」と明るく紹介して回った。その時は私も幸せだった。
 本当に何時変わっただろう?
 先輩は肌を合わす度にだんだん笑わなくなっていた。多分、私の本質に気付いたのだろうと思う。そして私の代わりを見つけてから、振った。
 ほら、不幸。
 ――だから、私は呪いをかけた。
 でも、こんな人死にが出るような呪術を望んではいない!
 ……………
 違和感があった。私は何時から伊達せんぱいを憎んだのか?
 私は伊達せんぱいを憎んではいない。プライドを傷つけられただけだ。
 ――では、この憎悪と復讐の念はどこから来るのか?
 それに気付いて、愕然としたとき、ドアがノックされた。
「お母さん? こんな遅くまで何してたのよ!」
「いえ、警察のものです。お伝えする事がありますので、入らせて頂きます」
 ソプラノの若い声が答える。
 背筋を怯えが走った。呪法がばれたのかと思った。
 入って来たのは20代後半と見える背の高い清潔感のある婦人警官と、よれよれのスーツを着た冴えない中年のおじさんだった。
 婦警さんは丁寧にお辞儀して言った。
「N県警の鷲尾と申します。こちらは刑事の相良さんです」
「どうも。夜分に済まないですね。相良です」
 刑事は愛想笑いを浮かべて手を差し出した。私は握り返さずに、その無骨な手を眺めた。刑事は私が反応しないので、差し出したその手で頭をごしごしと掻いた。そして、婦警さんに目配せをする。
「小泉幸恵さん、ソファーに座って落ち着いて話をさせていただけませんか?」
 私は無言でソファーに座る。
 警察だと名乗る二人は私と向かい合わせにソファーに座る。
「煙草、宜しいかな?」
 相良刑事は煙草の箱を手に笑いかける。
「病院は敷地内禁煙です。それより何のご用でしょうか?」
 私の言葉に刑事さんは、又、頭を掻いた。そして煙草を胸ポケットに戻す。鷲尾婦警がその様子を見つめながら、小さく吐息を漏らす。
 そして、背筋を伸ばすと私の顔を真っ直ぐに見つめた。
「幸恵さん、どうか心を落ち着けて聞いてください。TVは観ましたか?」
「……はい」
 か細い声で私は答えた。刑事さんが鋭い目で私を観察しているのを意識しながら。
「先程、二十八人目の被害者が出ました。投身自殺です」
「――え?」
 私は間抜けな声を漏らした。あり得ない。お爺ちゃんの呪詛はもう効果はない。それにあのマンションに今、人がいるとは思えない。
 婦警さんは瞑目すると大きく息を吸い、あり得ない事を言った。
「投身自殺されたのは小泉さくらさん。――貴女のお母さんです」
 頭をガンと殴られた気がした。
 あり得ない。お母さんはさっきまで、私といっしょに――
 何? この時間? 夜の10時じゃない?
「嘘です。母は私といました。今、席を外していますが、まもなく戻るはずです」
 感情を押し殺して私は答えた。
 鷲尾婦警は瞑目すると「ご愁傷様です」と頭を下げる。相良刑事が言った。
「お嬢ちゃん。あり得ない事が起こったんだよ。現場は警察で厳戒態勢を引いていた。鑑識が何か手がかりがないかマンション中を捜査していた。小泉さくらさんは、そのただ中を誰にも見られず屋上まで登ったんだ。今、完部さんに検死に立ち会って頂いている。
 どんな些細な事でも良い。
 何故、集団自殺が起こったのか?
 何故、お母さんが死んだのか?
 心当たりを教えてもらえんかね?」
 このみすぼらしい刑事は何を言っているんだろう? 理解出来ない。頭が空っぽになり、同時に怒りがその隙間を埋めた。
「――嘘よ! お母さんが死ぬ理由がないもの!」
 そう言って立ち上がった私の両肩を鷲尾婦警が両手で押さえた。
「落ち着いて。幸恵さん」
 私はその両手を振り払った。
「嘘よ! 嘘よ! 嘘よ! 嘘よ! 嘘よ! 嘘よ! 嘘よ! 嘘よ! 嘘よ! 嘘よ!
 誰も死んでいない! 死ぬ理由がない! TVは嘘を流したのよ!」
 私は狂った。
 あらかじめ控えていたのだろう。医師と看護婦が飛び込んで来て私に鎮静剤を打った。私は狂いながら昏睡した。

 夜半。
 私は人の気配に目覚めた。完部のお爺ちゃんが私の胸をまさぐっていた。
「――お爺ちゃん? 止めて」
 かろうじて、そう言う事が出来た。でも意識がホワイトアウトしている。夢を見ているようだ。
 いや、悪夢だろう。現実ではないはずだ。黒い蛇が私の体中をまさぐっている。性感帯を刺激し続ける。
「……いや……せんぱい……」
 私の体をまさぐって良いのは伊達せんぱいしかいない。
「――くくく。それがお主の男だった者の名か? 喜べ。幸恵。うぬが呪詛は成就する」
 ねっとりとまとわりつく、その声に私は正気を取り戻した
 完部玄白と呼ばれるそれは全裸だった。老いた体に相応しくない男根が隆起している。
それは私が知る男根とは異なっていた。大きい。凶器に似た形をしている。どくんどくんと脈動し、赤黒いそれ自体が動いている。
 それは脈動する蛇そのものだった。
「幸恵、主は知るまい。お主はさくらと儂の間に出来た娘じゃ。あの男は儂が目の前でさくらをいたぶっても何も出来なかった。二度、儂の精を受けるお前は『凶つ蛇』そのものとなる。さくらは身をもって儂の呪詛を成就させた。
 愚鈍な娘じゃったが、最後には役に立ちおった」
「ひひひ」
 お爺ちゃんは不気味な笑いをこぼす。
「お主は呪詛を成就させ、儂は不死を得る。さくら同様儂の(にえ)となれ!」
 お爺ちゃんは私の股を大きく開かせた。
「喜悦を味わうが良い!」
 性器に走る異物の挿入感に私は叫んだ。
「やめてーー!!」
 それが人としての私が上げた悲鳴だった。私は正気を失った。

(四)
 公園の入り口で待つこと十数分。僕は目を疑った。黒塗りのリムジンがやって来たのだ。運転手は、車を降りて深々と礼をする。
「お待たせしました。お嬢様」
 執事のような格好をした運転手は、顔を上げ僕を見る。一瞬、驚愕の表情を見せたが、すぐその表情を消して僕にも礼をした。そして頭を下げたまま、後部座席のドアを開く。スライド式のドアだった。僕は呆然としてしまった。そんな僕に「早く、乗って」と彩宮さんが急かす。革張りのシートなんて初めてだった。中はひんやりとクーラーが効いていた。
「私は料亭・彩宮の狭間と申します。今日の送迎をさせていただきますので、宜しくお願いいたします」
 狭間さんは、そう行って運転席に座る。
「――神崎と言います。彩宮さんの同級生です」
「恋人でしょ?!」
 彩宮さんはそう言って、僕の頭を軽く殴った。狭間さんはくすりと笑った。
「良いお名前ですね。神崎様。やはりお嬢様とお付き合いする方は人間としての格が違いますね」
(――はい?)
 僕は訳が分からず鉄面皮になる。
「ニュースを拝見しておりました。『奇跡の少年』と報じている所もありました」
(――困ったな)
 僕は耳の後ろをかりかりと掻く。だが、今はそれより重要な事がある。
「それで何人亡くなったのです?」
 狭間さんはちょっと眉を曇らせた。
「二十七人亡くなられたと報道されていました……」
 僕は両手を握りしめて俯き、唇を噛んだ。
 目の前で死んで行くのに僕はむざむざ二十七人もの人を見殺しにしてしまった。そんな僕を横目に彩宮さんが訊ねる。
「何人、無事保護されたのかしら?」
「三十二名だそうですよ」
 狭間さんは深々と礼をしたまま答えた。彩宮さんは僕の背中を思いっきり叩いた。
「ほら、あなたは三十二名も救ったの! 誇りを持ちなさい。マイナス思考はダメよ!」
「本当に今時珍しい方ですね。ああ、お嬢様もばっちり写っていましたよ。神崎様に抱かれて。帰ったらお父様に何か言われますよ」
 狭間さんは唇の端をつり上げた。
「平気です!」
 彩宮さんはキッパリと言い切った。
 竹林の中の一本道をリムジンは走る。そのまま料亭の前で停まり、また深々と頭を下げた。入り口にはずらりと割烹着の女性と留め袖の妙齢の美女が出迎えに並んでいた。
 女将とおぼしき女性は彩宮さんにほんわかとした笑顔を向けた。
「お嬢様。TVを拝見いたしましたわ。本当に素敵な男性をみつけましたね」
 そして僕の手を取って、「お嬢様を宜しくお願いします」などと言う。
「――っ。なにも引け目はないわ! 麻上さん、離れは押さえてくれた? そう、それなら櫃まぶし、どんとお櫃ごと持ってきて! 鯛茶漬けも。お腹が膨れそうなの適当に一度に持って来て頂戴!」
「はいはい。お邪魔はしませんよ。どうぞ睦み合ってくださいな」
 やはりほんわかと答える女将に、彩宮さんは顔を朱に染めた。
「麻上さん、からかわないで! 行こ! 神崎君」
 彩宮さんは僕の手を取ってずんずんと廊下を闊歩した。

 ――食事は凄く旨かった――

 鰻のフルコースにシメの鯛茶漬け。初めて食べるものばかりだった。天ぷら盛り合わせはウチで作る物とは質が違った。彩宮さんは、あの小柄な体のどこに入るのかと思うほどに良く食べた。
「うーーー。もう食べられない。寝たい。神崎君、ここに泊まろうか?」
 横になって足をバタバタさせながら、とんでもない事を言う。まるで別人だ。
「いや、さすがにそれは不味いだろ? それに僕は行くところがあるから……」
「伊達君のところ?」
 畳に横になりながら、感情の分からない瞳で僕を見てそう言う。黙って頷くと軽く吐息を漏らす。腕時計を確認して、彩宮さんは立ち上がった。
「午後六時半か。ちょっと遅いけど行きましょう?」
「あの、良いの? あの映像流れているんならお父さん怒ってない?」
「ああ、父は私には何も言えないわ。彩宮の系列からは退いて貰ったから。今は私が当主見習いよ」
 何か凄まじく剣呑な気がしたので詳しく聞くのは止めた。彩宮さんも続きは話さない。
「じゃぁ、車を回しましょう」
 僕は苦笑した。このお嬢様は世間の事が分かっていない。
「あのさぁ、彩宮さん、伊達の家にリムジンで押しかける気?」
「――不味いの?」
 彩宮さんは不安そうな声で訊く。なんだかしおらしくて愛おしい。
「ご近所さんの話題を提供する事になる。駅まで送ってもらえば、充分だ。後は腹ごなしに歩こう」
「神崎君がそう言うんなら……」
 彩宮さんは少し寂しそうだった。

 夕日の中、真昼のけだるさが残った住宅街を歩く。流石に少し疲れた。明日は筋肉痛だなと思いながら、伊達の家のチャイムを鳴らす。
「は~い~」と明るい声で答えたのは三枝だった。
 新婚気分だな? 姉御?
「――変わりはない?」
 彩宮さんが絶対零度の魔女モードで尋ねる。
「それがさぁ~ 正彦が午後からおかしいの。妙に怯えて部屋から出たくないと言うし、この暑さの中、『寒い』と言って毛布にくるまっているのよ。側にいてくれと言われるし……」
(……ああ、昼間の呪詛の波に当てられたか……でも、嬉しそうだな。姉御)
 まぁ、小泉さんと深く繋がっていたんだ。影響が出ない方がおかしい。
「その様子じゃ、TVもラジオも聞いていないのね。昼間の騒ぎを知らないの?」
「ああ、なんか凄かったね。どっかで火事でもあったのかしら? 気になったけど正彦がおかしくなったのも、それ位だったからニュースも見れなかったのよ」
 三枝は肩を落としてため息をつく。
 僕と彩宮さんもため息をついた。
「小枝さんは?」
「サイパン」
「は?」
「一週間ほどサイパン行くから、正彦の面倒を見てくれって言われちゃった」
 三枝は頬をそめてキャと笑った。
 幸せモードをぷんぷんさせてる三枝には悪いが、現状を認識して貰う必要があった。
「居間にTVあったよな? 三枝と彩宮さんは居間に居てくれ、俺は伊達を連れてくる」
「御苦労様」
 そう言う彩宮さんの声は沈んでいた。

「――なんだよ? これ? 俺一人殺すのに二十七人も殺すのかよ?!」
 伊達は毛布にくるまったまま、当たり散らした。
 三枝は顔色を無くして彩宮さんに支えられていた。
「確かにな。正気を無くしているとしか思えない。完部玄白に操られているんだろうね。今の呪詛の相手は多分、僕だ。彼女自身がそう言った。今週の土曜日の夜が勝負となるだろう。
 伊達よ。
 小泉さんの恨みは深い。お前の身近な人間を全て殺して、最後にお前をなぶり殺す気だよ。だが、本当の敵は小泉さんじゃない。完部玄白そのものだ」
「分かんねー! 分かんねーよ! なんで俺がこんな目に会うんだよ!」
 僕は伊達の頬に平手打ちを加えた。伊達は呆然とした表情で僕を見る。
「三枝に申し訳ないと思わないのか?! 何の為に僕と彩宮さんが来てると思うんだ?」
 僕の言葉に「みんな、すまない」と伊達は土下座した。
 それを冷ややかな目で見ながら、彩宮さんは姉御に言った。
「明美。貴女ここに泊まり込んで、伊達君とSEXしまくる気はない?」
 剛速球の直球を投げる。三枝は一瞬、息を飲み、顔を真っ赤にした。
「――な、なにを言うのよ。鈴。そんなの出来るわけないじゃない?」
「私の家で勉強会をすると言えば良いわ。邪法には邪法ってね。実際、SEXって呪法なのよ。真言立川流とか知らない?」
「知らないわよ! この件が片付かないとそんな気になれないよ!」
「……俺は出来るけど……」
「五月蠅い! 馬鹿! 縁を切るわよ!」
 姉御はソファーのクッションで伊達をどつき回す。
「あのさ、彩宮さんが言いたいのは、伊達の体に小泉さんの体液がまだ染み込んでいると言うことなんだよ。それは呪詛の媒介となるんだ。だから……」
 僕は赤くなりながら説明した。
「ちょっと、待って!」
 彩宮さんの声に皆顔を上げる。
【緊急速報】のテロップがTVに流れていた。マンションをバックに若々しい男性アナウンサーが写った。
『現場の高坂です。たった今、三十分程前に二十八人目の飛び降り自殺があった事が警察から発表がありました。自殺者はこのマンションの所有者・完部玄白さんの娘で小泉さくらさん、四十二歳と見られています。厳戒態勢の中、再び惨事を許した警察の警備態勢が問われています。今回の集団自決について警察は九時からプレス発表を行うそうです』
 ――――――なっ?
 僕は驚きに息を飲んだ。それは皆も同じだった。伊達は涙をこぼしていた。
「幸恵のおばちゃんが死んだ? ありえねー。俺、幸恵の家まで謝りに行ったことがあるんだ。幸恵には会えなかったけど、おばさんは俺を許してくれた……」
 伊達は泣き続ける。
「だめ押しになったわね。これで小泉さんは居場所を無くした。完部玄白に良いように操られるわ……」
 沈黙が流れる。僕はその沈黙を破った。
「なぁ、みんな。いったん伊達の部屋に戻ろう」
「そうね。お茶でも煎れましょう。落ち着かないとね。明美お茶はどこにあるの?」
「私が煎れるよ。鈴」
「良いの。私が煎れる。貴女は伊達君の側にいなさい」
「ごめん。鈴。お茶は食器棚の下にあるわ」
「珈琲、紅茶、緑茶、どれが良い?」
「珈琲かな?」
「分かった。上がって」
「――鈴」
「なに?」
「ごめんね」
「――馬鹿。上がってなさい」
 明美が上がってから、私は吐息をついた。実際、こんな大事になるとは思わなかった。女子高生のたわいない遊びのような代物だと思っていた。どう手をつけて良いのか分からない。神崎君が張った結界も人が張れる結界ではないが、その強固な結界も通用するかどうか予想もつかない。
『鈴香よ』
 突然背後から声をかけられて、私は驚いた。そこには神崎君の後ろのお姉さんがいた。
『鈴香よ。私は呪詛の成就はあり得ぬと申したぞ。忘れたか?』
「すいません。失念していました。けれど、あれほどの呪詛は見たことがないもので……」
「しっかりしておくれ。あれを人の世に留めるのは、お主しかおらぬのだからな。後、迅鬼は借りたぞ。使い勝手が良いからな」
 そう言うと巫女姿のお姉さんは消えた。
 二階へ上がると、神崎君の結界が脈動していた。部屋に入ると神崎君が立ち上がって深呼吸をしていた。
「なにしてるの?」
 私の問いに、神崎君は笑顔で答えた。
「ここの結界、僕と連動してるみたいなんだ。これならいけるかもしれない」
「そりゃ、貴方が張った結界だもの。繋がって当然でしょう?」
 神崎君は耳の後ろを掻いた。
「こんな凄い結界。僕には張れない筈なんだけど……まぁ、手が増えたのは嬉しい」
「どういう作戦なの?」
 珈琲をブラックで飲みながら私は訊いた。
「凶つ蛇を入れさせない。結界を張り続ければ、あれは体当たりしか手がないからね。当然、傷つく。弱らせた上で小泉さんを蛇から切り離す」
 思わず珈琲カップを落としそうになる。まだ、そんな事を言っているのか? この人は?
 私は――私は剣が欲しい。お姉さんが渡してくれた剣。未だ私の元には現物が届いていない。あの剣なら凶つ蛇でも切れそうな気がしていた。
 鍛え抜かれた玉鋼。思わず魅入ってしまう妖しく燃え上がる波紋。私の体を微熱が覆うようになる。微睡むように瞼を閉じる。深淵の闇に浮かび上がる燃え上がる一筋の青みを帯びた銀色の輝き。妖を斬るために特化した美の結晶。その剣の姿がありありと脳裏に浮かぶ。その姿に私はしばし陶然とした。
「……すず…鈴」
 誰かが私を呼んでいる。この微睡みに浸りたいのに、誰かが私を呼んでいる。
「……ん、だれ?」
 私はそんな馬鹿げた台詞を言った。目覚めるように瞼を開けると、明美が私の顔を覗き込んでいた。明美は私の目の前で手をひらひらさせる。
「……大丈夫? 今日の事で疲れたんじゃない?」
「ん? 大丈夫。ちょっと考え事してただけ。で、なに?」
 明美は微かに吐息をついた。
「だから、神崎が夜は正彦の所で一週間泊まり込むと言う話よ。貴女は良いの?」
「神崎君がそういうなら異存はないわ」
 そんな私の様子を神崎君がじっと見つめている。目に感情がない。表情からは何も読み取れなかった。
「じゃぁ、話は決まりだな。僕は彩宮さんを送ってから、戻ってくる。三枝は遅くなっても大丈夫なのか?」
「まかせて!」
 神崎君の台詞に明美はどんと胸を叩いた。
「これでも両親からは信頼されているんだから、終電でも大丈夫だよ」
 明美は朗らかに笑って見せた。
「世話をかける」伊達君は仰々しく土下座した。

 神崎君と少しでも一緒に居たいので、私は車を呼ぶような野暮な真似はしなかった。神崎君が駅に向かうのに無言で付き従った。神崎君も無言だ。良く気の回る神崎君にしては珍しい。
「ねぇ、神崎君疲れてる?」
 そう尋ねると、神崎君は素直に頷いた。
「嵐のような一日だったからね。精神的に疲れた」
「車呼ぶ?」
「彩宮さんと居たいから、これで良い。彩宮さんは呼びたいの?」
 私は首を振った。
「私も神崎君と居れるほうが嬉しいよ」
 微笑みを浮かべてそう言うと、神崎君もようやく相好を崩した。
「彩宮さん、伊達の部屋で止観してただろ?」
「弛緩? 気を緩めたつもりはないけど……」
「違うよ。天台密教の止観。座禅は無になれと言うけど、密教は違うんだ。物をとことん思い描く。彩宮さんはとんでもない剣を観想していたね」
「――見えたの?」
「ああ。あれほどの妖物(ようぶつ)なら分かる。村正だね?」
「ええ……」
「あの剣は小泉さんには使わないで欲しい。使うなら完部玄白にして欲しいんだ」
「――――――!」
 罵倒も含めて色んな言葉が、瞬時に頭の中を駆けめぐった。でも、私はその言葉を飲み込んだ。確かに倒すべき相手は完部玄白だったからだ。伊達君を小泉さんの生き霊から救うなんてレベルを遙かに超えた事態になっている。
「分かったわ。でもあの剣はまだ私の手元にないの。天野さんが持っているのよ。前に言ったでしょ? 私が幼い頃、家に居た絵描きさんよ。ルーンの師匠でもあるわ」
「……今、手に入るみたいだよ……」
 神崎君が哲学者の表情でそう言った。私達はいつのまにか駅前まで来ていた。切符売り場の真ん前にライダースーツを着た美の結晶が私達を見つめて立っていた。

「――ひさしぶりだな。瀬尾」
「おひさしぶり。神崎君。いや、奇跡の御子か?」
 人間として美の極致を体現したようなその人は、鈴を転がす声音で答えた。怖気が立つほどに良い声をしている。ライダースーツを着ていなかったら性別すら分からなかっただろう。
「なんでインターハイを辞退した? お前なら楽々優勝しただろう? 伊達が悔しがっていた。瀬尾がいない大会で賞状貰っても意味がないってね」
「神崎君。僕も中々大変な事になっているんだよ。生き霊がらみでね。ニュースは見たよ。のっぴきならないことに踏み込んだね」
 神崎君の後ろに隠れて睨んでいた私に、瀬尾と言う人は穏やかな笑顔を浮かべると、頭を下げた。
「はじめまして。彩宮さん。瀬尾と言います。今夜は天野さんの名代で来ました。お家に伺ったら、まだお帰りではないと言うことでしたので、当たりをつけて、ここでお待ちしてました。神崎君とは剣友になります」
 私は視線を神崎君に向けた。
「その通りだよ。中学から全国大会を制覇し続けた男だ。おそらく日本で一番強い剣道家だよ」
「それはどうかな? 君の所の鳴神先生には勝てる気がしないし、今の君には勝てるか怪しいね。見違えたじゃないか? 神崎君? 彼女の影響なのかな?」
 瀬尾と言う少年は揶揄を含んだ声を神崎君に投げかけた。かちんと来て私は言った。
「瀬尾様と言いましたね。初めまして。彩宮鈴香です。天野さんの名代とのことですが、貴方とはどういうご関係ですか? お稚児さんでもあるまいでしょうに」
 瀬尾と言う少年は私の言葉に微笑を浮かべただけだった。応えていない。
「流石は、天野さんが見込んだ人ですね。どうかと思ったけど、確かにこれを渡すに相応しい」
 彼は足下に置いたリュックサックから、絹の白布に包まれた長い桐の箱を取り出した。封印を施してあるが、それでも妖気を孕んでいる。
「村正か……」
 苦々しげに神崎君が言う。
「分かるんだ……」
 瀬尾と言う麗人は、驚きを含んだ声で神崎君を見る。そして、私に一礼をしてうやうやしげに、その箱を手渡した。
「役目は果たした。それでは僕は奈良まで帰ります」
「もう遅いわ。私の家でお泊まりになって下さい。天野さんの名代ならおもてなしをしなければ」
「堅苦しいのは苦手です。馬に蹴られるのもイヤなので帰りますよ。ああ、忘れていた。天野さんからの伝言です。『通夜には行け。見定めろ』とのことです」
 そう言うと少年は駐めてあったスポーツバイクにまたがりエンジンをかける。
「わざわざ済まなかったな」
 神崎君のその言葉に少年は笑った。
「死んじゃ駄目だよ。片付いたら、一度剣を交えよう」
 私は胸に剣を抱えたまま呆然とその姿を見送った。

 ◇
 事件から翌々日の晩。小泉さくらさんのお通夜が執り行われることになった。司法解剖とかがあって、延びたのだ。僕と彩宮さんには学校の理事長から直々に桜ヶ丘高校の代表として葬儀に出て焼香して欲しいと依頼があったが、断った。そういう立ち位置に僕等はいない。
 通夜は完部玄白の私邸で執り行われた。贅を尽くしたこぢんまりとした純和風の家屋だった。彩宮さんの家には劣るが、これほど見事な庭を備えた家はそうはない。彩宮さんの喪服は黒の着物だった。紫水晶の数珠を持っている。僕は父親の物だった黒のスーツを借りて来た。伊達と姉御が是非とも行きたいと言ったが、無理矢理に止めさせた。敵陣視察に行くのに、狙われている伊達を連れて行く訳にもいかない。僕と彩宮さんが門に近づくとプレスのフラッシュが何度も輝いた。警戒に当たっていた警察官達が蹴散らしたが、死者への礼を弁えていない。
 完部玄白は参列者に丁寧にお辞儀を繰り返し、その度にハンカチで涙を拭っていた。演技とは思えない。心から娘の死を悲しんでいるように見えた。僕が榊を備えようとした時、一瞬、その目が赤く光った。
 僕は息を飲んだ。
 完部玄白の気など恐くもなかった。僕が息を飲んだのは小泉さんの変貌にだった。焦点の合わぬ目で天井をぼうと眺めている。何かうわごとを言っているが聞こえない。時折、笑みを漏らしていた。
 僕と彩宮さんが並んで榊を備える時、ゆっくりとした動作で小泉さんは視線を僕等に向けた。焦点の合わない虚ろな目で僕たちを見た。その目は地獄への穴のようだった。そして小泉さんは「にぃ~」と笑った。怖気が立った。人の漏らす笑みではなかった。
 彩宮さんが僕のスーツを掴む。顔面が蒼白だった。スーツを掴む手は小刻みに震えている。彩宮さんは声を殺して泣いていた。
 僕は彩宮さんを支えるようにその場を後にした。
 完部玄白の家を出ると、彩宮さんは道路にしゃがみ込み嘔吐した。僕はその背中をさする事ぐらいしか出来なかった。実を言うと少し驚いていた。彩宮さんなら何事にも動ぜず『絶対零度の魔女』を貫き通すと思っていたからだ。
 彩宮さんは嘔吐しながらも僕の手を強く握った。
「……あの()、狂ってしまってる」
 彩宮さんは泣いている。
「お母さんが亡くなったんだ。おかしくもなるよ」
 そう背中をさすりながら言うと、彩宮さんは僕の手をさらに強く握り、爪を立てた。
「そんなんじゃない……。あの娘、あの娘は完部玄白に犯されたのよ。何度も何度も! 私は見てしまった。こんな、こんな酷い事はないわ」
 彩宮さんは嗚咽を上げる。
 僕はその言葉に角材で頭を殴られたような衝撃を受けた。
 ◇

『見定めろ』
 その言葉が頭の中で響いていた。天野と言う人物がどういう人かは僕は知らない。けれど、この事態を推測していたとしか思えない。闇の中、寝付けぬままに僕は暗い天井を睨み続けていた。小泉さんの笑みが頭に何度も浮かぶ。すでに化生と化した者の笑みだった。正気を失い完部玄白の道具になってしまった小泉さん。それを僕は救えるのか?
 横臥したまま天井へ向かって手を伸ばす。
 差し出したこの手を掴むだけの理性が小泉さんにあるだろうか?
『否! 否!』と嗤う完部玄白の姿が目に浮かぶ。畜生と唇を噛む。
 僕は天井に伸ばした掌を拳に変える。今の小泉さんには縋る物がなにもない。ここで僕が見捨てたら、誰が小泉さんを救うんだ?! この身に代えても!
 そう思った時、瀬尾が言った言葉が蘇えった。
「死んじゃ駄目だよ」
 ああ、あれはこういう意味だったんだ。我が身を代えても人を救うと言うのは、あまりにも独りよがりなんだ。僕には家族がいる。彩宮さんがいる。剣を交えようと言う友人がいる。それらを切り捨ててはいけないんだ。だから僕はそれを小泉さんに知らしめれば良いだけなんだ。いや、苦難の道だけど出来ないはずはない。
 そう思ったら眠気に襲われ泥のような眠りに落ちた。

『見定めろ』
 天野さんの言葉が頭に響いていた。私は口をゆすいだだけで、喪服のまま道場で富田流八の奥義の形を村正で繰り返す。激しい足技の音と空を斬る村正の音が呼応する。富田流の最終奥義『縮地』を私は会得しようとしていた。
 師匠に言わすと奥義書に名前が記されているだけで、過去『縮地』を使えた者はいないと言う。私は違うと思う。名が残されているのなら、奥義は存在する筈だ。八の奥義その体術、歩法に最終奥義へ至る道が残されている筈なのだ。
 鴉が鳴き出す頃、流石に私は疲れて、どうと前倒しに横になる。稽古着は汗濡れ雑巾のようだ。道場の床も汗で濡れている。
『はっ! 小娘。それが主の限界か? 所詮、人であるお主に儂は倒せぬ』
 道場の中央に凶つ蛇を連れた完部玄白がいた。
 これまで感じたことが無いほどの怒りが脳天を貫き、私の意識はホワイトアウトした。気が付けば、完部玄白はいなかった。迅鬼が肩から血を流し、私に組み伏せられていた。
「……体得出来たみたいね」
『お姉さん』が淡い紫の振り袖を着て道場の入り口に背を預け、キセルを吹かしてた。
 気がつけば私は四メートル程の距離を瞬時に飛んだことになる。
「最終奥義って……空間移動?」
「そうね……」
 お姉さんは道場中央の私の元へ来ると、迅鬼の肩に手をかけた。迅鬼の姿は煙のように無くなる。
「超能力じゃないですか?」
 私は叫んだ。
「……そうでもない。ただ速度が弾丸のように速いだけの話よ。完部玄白。必ず討ち取りなさい」
「はい。必ず」と頭を下げた時には、お姉さんの姿は消えていた。

 一週間はあっと言う間に過ぎた。私は『縮地』を試したく、神崎君に昼は家の道場へ来て貰っていた。双方、木刀を使った。私は短剣。神崎君は柳生流の木刀だ。軽いが真剣に似た作りになっているので、人を斬る刃筋を学ぶにはもってこいの代物だ。
 驚くべきは神崎君だろう。
『縮地』を初めて見た時は、なすべくも無かったが、それでも心臓を狙った一撃を外して肩口で受けた。
 二回目は双方隙が見いだせず、睨み合うだけで終わった。
 三回目は神崎君は突きを放った。相打ち覚悟の技だが『縮地』が見えていないと出来ない技だ。感嘆した。

「初見では、まず破れない技だよ」
 家の応接間で神崎君はそう言った。玉露を飲みながら栗饅頭を頬張っている。
「でも、だからこその奥義なんだろうね。どんな凄い技でも見られたら、対策を講じられる。一撃必殺を狙うからこそ、同門でも気付いた者しか会得出来なかったんだろう」
 同じ流派を学んでいる者がいないので、彼の言葉は私には嬉しいものだった。
「彩宮さんは、村正で誰を狙うの?」
 神崎君は茶飲み話のように言う。まぁ、現実にお茶を飲んでるんだけど……
「――完部玄白。他に狙いはないわ」
「ここに来て意見が合ったね。完部玄白をしとめるタイミングは僕が作る。僕は小泉さんを救うよ」
 朗らかに微笑んで、この人は言う。
 救ってどうするのだ? ひと思いに、せめて人間としての記憶が無い内に断ってしまうのが人情ではないだろうか? 完部玄白が消えれば、小泉さんに身内はいない。一人で母の死と二十七人もの死を背負う事になる。そう問いつめると、神崎君は「そうだね」と微笑んだ。「それでも前へ進んで行かなきゃ人間じゃないんだよ」
 私は初めてこの人を恐いと思った。

 伊達君の家のチャイムを鳴らすと「はい。どちら様ですか?」と言う怯えた明美の声がした。「――わたしよ」そう応えると安堵の吐息がして玄関が開いた。神崎君がわしわしと明美の頭を撫でる。
「三枝よ。今から緊張してたら保たないよ」
「分かってるわよ! だから髪が乱れるから止めて!」
 なるほど手慣れたものだ。神崎君は明美から姉御の顔を引き出した。
「伊達君はどうかしら?」
「寒気とかは収まったようだけど、二十八人死んでるのがショックみたい。お通夜にも行けなかったしね……部屋でいじけてるわ」
「じゃぁ、お邪魔するわね」
 私は真っ直ぐ伊達君の部屋に上がった。
「伊達君、入って良い?」
「あ、鈴ちゃんか。どうぞどうぞ。神崎は?」
「直、来るわ」
 私は白に蝶をあつらった振り袖姿だ。懐には村正がある。
 伊達君にも村正の妖気が伝わるのか? 「鈴ちゃん、今日は凄え風格あるな」そう言った。「そう?」にべもなく、そう応えると私は正座して伊達君を霊視する。僅かだが黒い臍の緒のようなものが外に出ていた。
(小泉さんの体液は抜け切れていないのか……)
 まぁ、守りの障害となるものではない。
 そうこうする内に神崎君と明美が上がって来た。 
 神崎君は五鈷鈴と、使い込んだ密教系の念珠を手にしている。なにも言わずに座布団にあぐらをかいた。座る拍子に五鈷鈴がちりんと鳴ると、結界が構成を強くした。なるほど、そう言うものなのか。
「プチジュールのチーズケーキあるんだけど、みんな食べるかな? それとも精進潔斎しないといけないのかな?」
 おずおずと明美が訊ねる。私は笑って応えてあげた。
「精進潔斎? なにそれ? そんな必要はないわ。平常心でいなさい。夜は眠れないでしょうけどね」
 明美の顔が一瞬引きつった。

 夕ご飯が済んだ後、神崎君は伊達君の部屋で寝ころんでマンガを読み始めた。いつもは見せないだらけっぷりだが、私には愛おしく見えた。
「……ねぇ、鈴ちゃん」
 伊達君がへこへこしながら訊ねて来る。
「占いで今日どうなるか? 分からないのかな?」
「自分が関わる事でルーンを使うのは禁じられているのよ。それに私達が動じて見える?」
「……いや、あんまり普通なので気抜けしている」
 じゃ、言いましょうか?
「小便に行く準備はすませた。部屋の片隅で命乞いする準備はOK?」
 伊達君の顔が青ざめる。
「大丈夫。その台詞言った若造は死ぬから」
 なにも聞いていないのかと思ったら、神崎君はきっちり聞いていた。
「そろそろ開演だ。彩宮さん、準備をしよう」
 神崎君は立ち上がり、「結界の穴はあそこに空けるから」と窓側の壁を指さした。
 私はその反対側に岩塩を砕いた塩で私は魔法陣を描く。
「明美、伊達君。この魔法陣に入って。事が終わるまで絶対出ては駄目よ」
「……身固めも説明したほうが良いよ」
 神崎君がぼそりと言う。
「ああ、そうね。明美これから起こることは全て悪夢だと思いなさい。魔物は伊達君を奪おうとするでしょうけど、貴女が抱きしめて守って。骨が砕けるくらいに抱きしめて」
「それだけで良いの?」
「ええ、伊達君の方から抱きついてくるでしょうけどね」
 そう言って私は笑った。伊達君も明美も緊張した面持ちで、私を見つめている。冗談のつもりで言った台詞に反応がないのは悲しいなぁ~
 伊達君と明美を魔法陣に座らせ、その前に私と神崎君が座る。私は正座。神崎君は結跏趺坐(けっかふざ)、座禅の座り方である。
 午前0時になった所で、ごーん! ごーん! と部屋が鳴った。大地震並の衝撃に感じたが、テーブルの湯飲みの水は揺れていない。次はぎしぎしと強く部屋を締め上げる音がした。部屋が潰れるかと思う程の締め上げだが、神崎君の結界はびくりともしない。
 体当たりと締め上げは三度続いた。
 そしてピタリと音は止まった。
 次は何かと身構えていると、声がした。
「せんぱい。伊達せんぱい。私です。幸恵です。部屋を開けてくれませんか? 私、母を亡くして一人きりなんですよ。声くらい聞かせてくれても良いじゃないですか?」
 伊達君が立ち上がりかけた。
「身固め!」
 私が叫ぶと明美は足を絡めるようにして組み敷いた。
「――なんだよ? 幸恵は狂ってないじゃないか? あれなら謝れる」
「――伊達! 声を上げるな! あれは完部玄白が喋らせているんだ!」
 雨戸を閉めた所から忍び笑いが漏れる。
「酷いですね。神崎先輩。彩宮先輩。私を助けると言ったじゃないですか? 嘘だったんですね? 私が怪物になったから見放すんですね」
 あはははは。狂気を帯びた笑い声がした。
「ならば、神崎。お主が最初に死ぬが良い!」
 小泉さんの声で完部玄白が言った。なまじ可愛い声なのでぞわりとした。
 部屋の締め付けが厳しくなった。結界がぎりぎりまで締め付けられる。淡い鬼火が部屋の中に浮かぶようになった。
「神崎君! 結界は?」
「心配ない。破れはしない。今は少し緩めている。完部玄白が自らの力で結界を破らせたと思わせるのが先決だ」
 数十度に渡る体当たりに、結界の締め上げが一時間ほど続いた。
「彩宮さん、結界を僅かだが開く。構えに入ってくれ!」
 神崎君の言葉に私は短剣を握って身構える。抜き身の村正はこの結界の中にあって、自己を顕示するかのように青く鋭く輝いていた。
 窓の側に開けた、僅かな結界の隙間。並の術者なら気づきもしなかっただろう。だが、流石に完部玄白。
 凶つ蛇の頭を無理矢理にねじ込ませ、結界を砕きながら、ついに室内に侵入した。明美たちが悲鳴を上げる。
「蛇が血まみれだよ。それに随分小さくなった」
 神崎君はほくそ笑んで言う。
 確かに蛇は小さくなっていた。全長は五メートル程、所々から出血しているのが痛ましい位だ。だが瘴気は濃密なものに変化していた――つまり全長五メートルの生身の蛇と戦わねばならない訳だ。
「むしろ瘴気が強くなっておろうが? これが幸恵よ。生きながらにして我が身を式とする術式じゃ。イザナミ流でこれをなしえた者はおらん」
 その瞬間、神崎君の顔色が変わった。氷の彫像のようになった。凶つ蛇よりも完部玄白よりも、私は神崎君に恐怖を覚えた。
「かんべげんぱく。見事。その身、人の域を超えた」
「――お主、何者じゃ?」
 玄白が恐怖に怯む。
「生身でここまで来たのは見事だが、見当違いだったな? 完部玄白」
「――なんじゃと?!」
 その時には神崎君は元に戻っていた。
「結界は封じた。自力で破ったつもりだろうが、封印されたのだよ」
 完部玄白は目を見開いて周囲を見る。そして嗤った。
「これはお主の結界じゃ。お主を倒せば済む話じゃ! 行け! 幸恵! あれこそがお主の宿敵じゃ!」
 蛇が驚くべき速度で宙を飛んだ。私が動く気配を神崎君が制した。
 そして、あるべき事か?!
 神崎君は右腕で、その一噛みを利き腕で受け止めたのだ。
 鮮血が飛んだ。血の飛沫が私の頬を濡らした。大型犬の頭ほどの大きさがある蛇の頭は神崎君の腕に噛みつき、更に力を入れて体を激しく振っている。噛み千切ろうと言うのだ。
 蛇も神崎君も幻想ではない、実体としてそこに存在している。このままでは神崎君は剣を握れぬ体になる。今度こそ『村正』で蛇を殺さねばならない。構えに入った私を、ここに至って、神崎君は「まだだ!」と抑えた。
「よせ! 神崎! 剣が使えなくなる!」
 伊達君のその叫びに「人一人救えずして何が剣の道だ!」と神崎君は応える。
 神崎君は蛇の頭を引き離さず、抱え込んだ。
「小泉さん、僕だよ。神崎だ。約束通り救いに来たよ」
 なんて人! 凶つ蛇そのものになった小泉さんに説得など通用する筈がない。今こそ『村正』の使い時だと言うのに……
 案の定、蛇はさらに激しく体を揺すり、さらにさらにと食らいつく。
「オン アボキャ ベイロシャノウ マカドラマニ ハンドマ ジンバラ ハラタミヤマ ウン」
 神崎君は蛇の頭を抱きしめながら、絞り出すように真言を唱えた。
 完部玄白は哄笑した。
「光明真言? 光明真言じゃと? そんなお題目に効果があると思っているのか?!」
「――それはどうかな?」
 あり得ぬ筈のその声に神崎君を除く一同が、声の主を見た。
 後ろのお姉さん(・・・・・・・・・)だった、黒に牡丹の振り袖を胸が露わになるように着崩している。なんとも艶めかしい姿だった。
 お姉さんは壁に背中を預け、キセルを吹かしていた。
「その者は光明真言しか知らない。だが、『あの日』から休む事なく仏壇に向かい、一体一体丁寧に上げていたとしたらどうする? その真言、菩薩の位にある。それに、この私がむざむざ浩平を殺させると思うか?」
 お姉さんは見る者全てに背筋から凍り付かせる笑みを浮かべた。
 ここに来て完部玄白は狼狽えた。逃げ場を探している。
「逃れる隙はこの結界にはないぞ。それにお主の生涯をかけた術、ほころんで来ているではないか?」
 お姉さんは揶揄する笑みを浮かべた。
 神崎君の側に鬼火が上がっていた。霊視するとそれは中年の男性と老婆だった。
「もう良いんだ。幸恵ちゃん。後の責め苦はお父さんが背負ってあげる。だからもう止めなさい」
「幸恵。幸恵ちゃん。お婆ちゃんだよ。幸恵、お前の名は私がつけた。幸福にまみれた人生を送れるように。ああ、幸恵やめておくれ。あの男の甘言には一部の誠もない」
 小泉さんの上半身は蛇身から裸の少女のものに変わっていた。
 神崎君が私に目線を向ける。その時、残っていた蛇の体からコールタールに包まれたような女性が立ち上がり、完部玄白を羽交い締めにした。
「――おのれ! さくら! 手を引け!」
「いいえ。お父様。そうは行きません。小泉さくら一世一代の呪詛がこれなのですから。蛇は初めから成就しなかったのですよ」
「彩宮さん! 今だ!」
「お嬢さん! 今です!」
 神崎君と小泉さくらさんが叫ぶ。
 その声に私は弾丸となって飛翔した。
「覚悟!! 完部玄白!」
 私の魂魄の気合いと共に、村正の放つ青い妖気の輝きが一条の光の矢となって完部玄白の心臓を貫いた。完部玄白の体は淡いオレンジの光に包まれると霧散した。蛇は消え、全裸の小泉さんが倒れていた。だが、完部玄白の死体はない。
「――逃したか?」
 スピードを殺しながら着地した私は、口惜しさに叫ぶ。
「――なんの、鈴香よ。お主は完部玄白を滅したのだ。この現世から完部玄白をお主は滅したのだ」
 お姉さんが、煙を吐いてそう言った。
「伊達。毛布を……」
 弱々しい声で神崎君が言う。伊達君が毛布を投げてよこすと、神崎君は全裸で傷だらけの小泉さんに毛布をかけた。そして、そのまま力尽きるように倒れた。
「どれ……」
 お姉さんは気怠げに呟くと倒れている神崎君の右腕を持ち上げた。その手はまだ血しぶきを上げている。お姉さんは右の掌を神崎君の傷口にあてがった。淡い金色の光が輝く。神崎君の傷はみるみるうちに塞がっていった。
「骨の方はどうにもならぬ。医者を呼べ。それとその小娘、湯殿で穢れを落としてやれ」
 お姉さんは呆然としている小泉さんの両親とお婆さんに視線を流した。
「お主等は私と来い」
 そう言うとお姉さんの体が徐々に薄れ始めた。
 部屋には私と神崎君、明美と伊達君が呆然としたまま残された。

 ◇
 完部玄白は寒さに目を開けた。
 そこは何も無かった。見渡す限りの青い地平線。起伏のない氷に覆われた異世界だった。
「……ここはどこだ」
 そう呟くと「よくぞ参られた。完部玄白殿」そう声をかけられた。聞き覚えのある声だった。
 振り向くと古代ローマの宮殿に繋がるような白亜の門がそびえていた。その門の側に黒曜石で作られた石の椅子があった。玉座だ。黒の僧衣に身を纏った青年の姿は見間違う筈もなかった。
「――神崎浩平!」
 と、僧衣の青年は険しい顔になった。
「あれと我を一緒にするな。我が体現するに適したのがあの男の姿だっただけのこと。あれと我とは真逆の存在だ」
 青年の眼はこの凍原に相応しく冷たく鋭いものだった。
 その霊威に負けて完部玄白は土下座した。
「あなた様はどなたでしょうか?」
「名などない。完部玄白。そなたは人の枠を越えた。喜べ。そなたは輪廻転生の輪から抜けたのだ」
 青年の声はどこまでも冷たかったが、どこか喜色を含んでいた。
 輪廻転生の輪を越えたと言われて、完部玄白は喜びを覚えた。あの小娘や神崎浩平にはこの喜びは分かるまい。
 青年は中空に手をかざした。そこに蓮の花を模した巨大な鏡が現れた。
「――八咫の鏡!」
 完部玄白は驚きの声を上げる。
 青年は不快を現して言った。
「ただの鏡だ。さて、完部玄白。そなたはどの世界を選ぶ? 三千世界のいずこでも、六天のいずこでも、そなたは選べる。どの世において汝を置く? 天として君臨するか? 魔王となるか? ここにそなたの人生が映し出される。そなた自身で自らの世界を選ぶのだ。これが我の唯一の楽しみじゃ。受けて見せるか? 完部玄白!」
「――無論!」
 完部玄白は胸を張った。
 鏡から人が現れた。首があり得ぬ角度に曲がった女でワンピースは引き破れている。股から出血していた。
「――ほう。これがお主が最初に殺した女か? 戦後の飢餓の中、そなたが欲望のままに殺した女じゃな」
 完部玄白は声にならない悲鳴を上げた。
 ―――――――――
「……つまらぬ」
 僧衣の青年は黒曜石の椅子に座り、頬杖をついていた。門も鏡も消え失せている。
「灼熱地獄を選んだか……」
 僧衣の青年は瞑目する。
「人を殺すのも徳と言うものだと言うに、なぜにそれを罪とするのか? 次はいつかな? 神崎浩平。そなたが新たな客人を呼ぶ事を我は期待する」
 風が吹いたかと思うと、青年の姿は消えていた。彼は全てが滅したこの世界でただ待つばかりだったのだ。
 ◇

 むやみに長い夏休みの登校日。
 僕は高校へと続く緩やかな坂を鈴ちゃんと並んで登校していた。
「ギプス取れないね? 浩ちゃん」
「本当なら複雑骨折に静脈やられていたからね。お姉さんが僕に何かしてくれたのは初めてのような気がするよ。単純骨折で済んでいるのは幸いだ」
「ふふ……」
 彩宮さんは笑いを漏らすと僕の顔を見つめる。初々しい笑顔にどぎまぎした。
「なに?」
「一緒に登校するのって初めてだね」
 僕は赤面を隠すため、空を見上げた。まぁ、鈴ちゃんには僕の気持ちなどお見通しなんだろうけど……
「せんぱい~!」
 後ろからドタバタした走る音が聞こえて、僕と彩宮さんは振り返った。小泉さんだった。
 小泉さんは僕たちに近づくと肩で息をした。
「もう、ずっと、呼んで、いたのに気付いてくれないんだから……、あ、あれですか? 二人だけの世界に浸りきっていました?」
「――そうよ。何の用?」
 彩宮さんは表情を一変させると『絶対零度の魔女』の顔になる。
「もう、登校出来るようになったの?」
「はい! 本当にお世話になりました」
 小泉さんは子リスのような顔で微笑む。
「あ、あの、彩宮さんに見て貰いたい事があるんですけど……私、お爺ちゃんの遺産で普通に食べて行くのは大丈夫なんですけど、やっぱり、一人暮らしは不安で……、今も恐い夢見ますし……ぶしつけなんですけど私の未来占ってくれませんか? 彩宮先輩!」
 彩宮さんは無言で小泉さんを見つめていたが、ポケットからルーンの石の入った赤い袋を取り出した。
「一枚、引きなさい」
「え? 今、ここで占うんですか?」
「占いと言うのは、占って欲しいと思った時にするのが一番なのよ」
「う~ん、じゃあ、頑張って引きますね。エイ!」
 小泉さんは引いた石を差し出すように彩宮さんに渡した。
 彩宮さんは眉間に皺を寄せて、そのルーンを見つめていた。
 しばしの沈黙。
「貴女次第よ、小泉さん」
「えと、それってどういう意味ですか?」
「貴女が未来は明るいと信じて生きれば幸せになれる。妬みや不安を抱えて生きれば、どこまでも転がる。そう言う意味よ」
「う~。呪詛はこりごりですよ。じゃあ、彩宮先輩。私が神崎先輩と付き合いたいと思えば付き合えるって事ですか?」
「出来ると思っているなら、やりなさい」
 彩宮さんは微笑んで凄む。
「あ、嘘です。嘘。私、彩宮先輩尊敬していますから。部活に遅れてしまうんで、先に行きますね。彩宮先輩占ってくれてサンクスです!」
 小泉さんは嵐のように駆け抜けて行った。
 あの夜の悪夢が嘘のようだ。
「で、小泉さんは何を引いたの?」
「見たい?」
 僕は真面目な顔で頷いた。彩宮さんは小泉さんが引いたルーンを見せた。
 何も記されていない空白のルーン・ウイアド。
「本当にあの娘次第なのよ。強いわね。ハガルくらいは覚悟してたけど……」
 自分次第。それって全ての人に当てはまるんじゃないかと僕は思った。
 空を見上げる。抜けるように青い。
「――鈴ちゃん」
「なに?」
「来週の日曜花火大会があるんだ。一緒に行かない? たまには勉強を忘れて思い出を作ろうよ」
 彩宮さんは呆気に取られた顔をしていたが、真っ赤になって頷いた。

 (了)
 呪詛で人を自殺においやれるかと言うと、答えは可能です。
 完部玄白の様に呪詛を生業とする人は存在します。
 しかし、人を呪わば、穴二つと言う様に、呪詛をかけた報いを受ける日は必ず来ます。
 あなたは無意識に他人を憎んでいませんか? それは呪詛を発動させます。対価の支払いから逃れることは敵いません。

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  • 最終掲載日:2017/12/10 19:19
くま クマ 熊 ベアー

株で稼ぐユナは学校に行くこともなく、家に引きこもってVRMMOゲームをやる15歳の少女。 大型アップデートが行われ、キャンペーンで譲渡不可のクマさん装備一式を当//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全441部分)
  • 2 user
  • 最終掲載日:2017/12/11 00:07
異世界食堂

しばらく不定期連載にします。活動自体は続ける予定です。 洋食のねこや。 オフィス街に程近いちんけな商店街の一角にある、雑居ビルの地下1階。 午前11時から15//

  • ローファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全119部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/06/10 00:00
週末冒険者

 残業なし、休日出勤なしだけが売りの会社に就職した。  このままどんな人生を送るのか考えていると、ふと思い出す。  「俺、前世魔術師だった」  今でも使える//

  • ローファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全28部分)
  • 2 user
  • 最終掲載日:2017/09/14 00:00
二度目の人生を異世界で

唐突に現れた神様を名乗る幼女に告げられた一言。 「功刀 蓮弥さん、貴方はお亡くなりになりました!。」 これは、どうも前の人生はきっちり大往生したらしい主人公が、//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全384部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/12/06 12:00
詰みかけ転生領主の改革(旧:詰みかけ転生領主の奮闘記)

享年29歳の男――人生をドロップアウトするには早すぎる死だったが、気が付けば領地を持つ上級貴族の息子、ソラ・クラインセルトとして転生していた。 ――主人公の両親//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全243部分)
  • 2 user
  • 最終掲載日:2015/04/10 23:00
異世界はスマートフォンとともに。

 神様の手違いで死んでしまった主人公は、異世界で第二の人生をスタートさせる。彼にあるのは神様から底上げしてもらった身体と、異世界でも使用可能にしてもらったスマー//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全457部分)
  • 2 user
  • 最終掲載日:2017/12/06 07:38
盾の勇者の成り上がり

盾の勇者として異世界に召還された岩谷尚文。冒険三日目にして仲間に裏切られ、信頼と金銭を一度に失ってしまう。他者を信じられなくなった尚文が取った行動は……。サブタ//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全853部分)
  • 2 user
  • 最終掲載日:2017/12/05 10:00
食い詰め傭兵の幻想奇譚

世話になっていた傭兵団が壊滅し、生き残ったロレンは命からがら逃げ出した先で生計を立てるために冒険者になるという道を選択する。 だが知り合いもなく、懐具合も寂しい//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全343部分)
  • 2 user
  • 最終掲載日:2017/12/11 12:00
身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!

ふとした事がきっかけで三百年前と現代を自由に行き来できる能力を身につけた俺は、これを利用して金儲けを実践、そこそこ財産を蓄える事に成功した。ある日、過去の世界で//

  • 現実世界〔恋愛〕
  • 連載(全221部分)
  • 2 user
  • 最終掲載日:2017/11/23 23:14
デスマーチからはじまる異世界狂想曲

◆カドカワBOOKSより、書籍版11巻、コミカライズ版5巻発売中! アニメ放送は2018年1月予定です。 ※書籍版とWEB版は順番や内容が異なる箇所があります。//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全557部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/12/10 18:00
ありふれた職業で世界最強

クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えればた//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全292部分)
  • 2 user
  • 最終掲載日:2017/12/09 18:00
多神の加護

特に何かしろと指示されること無く異世界に召喚された、神野響。 彼は、召喚時に手に入れた『加護』で強化されたステータスによって異世界で冒険者という生活基盤を手にい//

  • ノンジャンル〔ノンジャンル〕
  • 連載(全181部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2016/03/23 07:28
とんでもスキルで異世界放浪メシ

※タイトルが変更になります。 「とんでもスキルが本当にとんでもない威力を発揮した件について」→「とんでもスキルで異世界放浪メシ」 異世界召喚に巻き込まれた俺、向//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全393部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/12/04 22:24
ステータスが見えるようになったらハーレムできた

遠藤 達也は普通の高校生。人と違うところといえば、クォーターという事くらい。 しかしある日、ステータスが見えるようになる。 そんな達也がクラスメイトの秘密を覗い//

  • ローファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全36部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/02/10 00:00
無職転生 - 異世界行ったら本気だす -

34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全286部分)
  • 2 user
  • 最終掲載日:2015/04/03 23:00
アズール図書館の司書

 魔法が存在する世界でシルドは、小さい頃から司書を夢見ていた。しかし、彼は貴族であり次期領主。所詮、夢は夢だった……。が、十五歳の誕生日を迎えた日、彼に前世の記//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全143部分)
  • 2 user
  • 最終掲載日:2017/01/15 22:07
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~

※作者多忙につき、当面は三週ごとの更新とさせていただきます。 ※2016年2月27日、本編完結しました。  ゲームをしていたヘタレ男と美少女は、悪質なバグに引//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全225部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/11/25 07:00
八男って、それはないでしょう! 

平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全205部分)
  • 4 user
  • 最終掲載日:2017/03/25 10:00
骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中

 オンラインゲームのプレイ中に寝落ちした主人公。  しかし、気付いた時には見知らぬ異世界にゲームキャラの恰好で放り出されていた。装備していた最強クラスの武器防具//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全173部分)
  • 2 user
  • 最終掲載日:2017/08/25 23:00
オランダ坂の洋館カフェ

オランダ坂の小道を入り込んだ先にある洋館の喫茶店、cafe「小夜時雨」。雨の降る夜、偶然迷い込んだ女子大生は、変わり者の店主と出会う。 不思議なこだわりのある//

  • 現実世界〔恋愛〕
  • 完結済(全33部分)
  • 2 user
  • 最終掲載日:2017/04/05 17:00
平手久秀の戦国日記

※ホビージャパン様より書籍化させていただいてます。 2巻の発売日は2017年6月25日となっております。 今回も信長の野望201X様とコラボが決定いたしました。//

  • 歴史〔文芸〕
  • 連載(全69部分)
  • 2 user
  • 最終掲載日:2017/06/26 03:07
異世界転生に感謝を

 今から数十年後の未来。 VR(仮想現実)ゲームはついに実現した。  VRゲームを待ち続けた老人は、念願のVRゲームを嬉々として始める。  楽しいチュートリアル//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全170部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/11/29 22:51
賢者の孫

 あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。  世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全125部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/11/28 11:51
そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中

中年冒険者ユーヤは努力家だが才能がなく、報われない日々を送っていた。 ある日、彼は社畜だった前世の記憶を取り戻し、かつてやり込んだゲーム世界に転生したと気付く。//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全54部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/12/10 18:11
異世界居酒屋「のぶ」

古都の路地裏に一風変わった店がある。 居酒屋「のぶ」 これは、一軒の居酒屋を巡る、小さな物語である。

  • ローファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全157部分)
  • 4 user
  • 最終掲載日:2017/12/10 19:52
サトコのパン屋、異世界へ行く

【書籍化】3巻11/17発売。完結巻です!(プライムノベルス/主婦の友社) 「サトコ、落ち着いてよく聞きな。私たちはね……異世界にトリップしたんだよ」  閉//

  • 異世界〔恋愛〕
  • 完結済(全126部分)
  • 2 user
  • 最終掲載日:2017/11/22 20:28
剣姫

神崎浩平は剣道部顧問・鳴神あさぎから呼び出しを受ける。その内容は真剣による立ち会いだった。

  • アクション〔文芸〕
  • 短編
  • 2 user
  • 最終掲載日:2015/06/13 09:39
モンスターのご主人様

書籍化しました! 書籍1~10巻、以下続刊(2017/8/30 10巻発売)、コミカライズ10月下旬より連載開始。 ある日、とある高校にいた学生が全員まとめて//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全214部分)
  • 2 user
  • 最終掲載日:2017/12/04 08:00
そして少女は悪女の体を手に入れる

生まれつき体が弱かった私。17歳の人生が幕を閉じようとした時、笑顔がとっても可愛い天使さんが現れて、私に別の人の体をくれた。 どうやらその人は、自分で自分の人生//

  • 現実世界〔恋愛〕
  • 連載(全77部分)
  • 3 user
  • 最終掲載日:2017/11/29 07:00
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