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時の旋輪
作:宮城時雨


午前8時30分。
私は重い足取りで教室へ入る。
ーー大丈夫。私の思い過ごしかもしれないんだし…。

そう自分に言い聞かせた。

「お、おはよう…」

ふゆちゃんと、さおちゃんに声をかけた。

この二人は二年生になって初めて同じクラスになって、友達になった。

つい最近まで三人で仲良くしていたのに…。

「……」

…やっぱり無視された。

私、何かしたのかな…。

そう思って、前に二人に言った。
「私が何かしたのなら謝るから。話しをして」

と。でもやっぱり無視。

私は、ため息をついて自分の机へと足を向けた。

後の席の前田さんと目が合った。

「おはよう…!」

私は声をかけるけど。

ふい、と私から目をそらし、前田さんは参考書へと目を落とした。


また、無視されちゃった。


この一ヶ月、クラス中から無視されている。

本当に、本当に突然だった。

どうして…どうして

この言葉だけが私の頭の中をグルグル回り続けた。


やがて、チャイムが鳴り始めた

ガラっ


担任の中嶋先生が教壇の上へ立つ。

「起立!礼!着席」


委員長がいつもの掛け声をかけた。

いつものように時が過ぎる。

なんだか私だけ、違う世界の生き物みたい。

「おはよう。今日の予定は…っと。特にないな。出席をとる。大きい声で返事をするように」

……出席……

「青木」

「は〜い」

「井上」

「はいっ」

「大石」

「はい」


私の名前は次に呼ばれるはず…
私は身構えた。

先生は私の席をチラッと見て、重々しいため息をついた。

「鈴鹿」

「ういっす」

あ…。 またとばされちゃった。

先生までもが私の存在を認めてくれない。

どうして…?
私の問いには誰も答えてくれない。

一限目、古典だ。

机の中をまさぐって、教科書を取り出した。

今日は、源氏物語の若紫をやるんだ。ちょっと楽しみ。

パラパラとページをめくり、目的の箇所を開く。

「えっ…」

私は絶句した。 教科書がどす黒い何かで汚されていたから。

これは…何…?


「ねぇ!今日のお花の当番、誰だっけ?」

前田さんだ。

その声に反応し、ふゆちゃんが立ち上がった。


「私、私!…ちょっと待って。今、綺麗にいけてるの」

ふゆちゃんはせっせと花瓶に白い百合をいけている。

それをさおちゃんも手伝っている。

なんだろう、あのお花。

なんだか、胸がざわつく。

あのお話の意味。 わかるような、わからないような…。

「よし!」

ふゆちゃんは呟くと、さおちゃんと一緒に私の席へと向かってきた。

花瓶を手に…

ゴトッ

鈍い音を立てて、私の机におさまった花瓶。

私はそれをぼんやりながめた。

「もう、一ヶ月たつんだね…」
しんみりした口調で前田さんが口を開く。

「うん…」


「可哀想に…この子、将来は教師になるって頑張ってたのに」

私は、


「一緒に卒業したかった…」


涙ぐむさおちゃん。

私は…

そうだ…私は…登校途中に車にはねられて…


それでも、私はそれを認めたくなくて


私の時間をぐるぐる回り続けていたんだ…



体はなくなってしまったけど

それでも、



私はここにいたいから

せめて皆が卒業するまで

ここにいさせてね



「おはよう!」

私はふゆちゃんとさおちゃんに声をかけた。


返事はかえってこない。


それでいいんだ。


私は自分の席へ向かった。


「おはよう!」


次は前田さんに挨拶。


当然返事はない。


私は机の上の花瓶をみた。


今日も白い百合が朝日を浴びて輝いている。


私は微笑みながらそれを眺めた。




初の短編です! 少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。













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