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「アトモスフィア」 佐藤健志 短編集 作者:佐藤 健志
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36 たゆたう記憶の中で、いつか。

ずーっとずーっと、眠っていたような気がする。たった今目覚めた気分。
青い海の底、花の色をした髪を揺らしながら、ずっとずっと。カンブリアの昔から、カタチを変えながらもゆるやかに眠っていたような。

彼女はそう感じた。

意識は時々表層に浮かぶけれど、平安を感じ、また沈んでいたのね。
爽やかに伸びをするけれど、同時に咳き込んだ。
ああ、ここは海の底なんだわ。でも雰囲気がいつもと少し違う様子。少し上へのぼってみることにしましょう。目のないサカナたちが、揺れる髪に寄ってくる。揺れるたびに光るからでしょう、わたしの髪は彼らの楽しみでもありましょう。

太陽の光が届くあたりまでのぼり、自分の体を眺める。
これが今、地球の上で一番勢力をもっているモノの姿というわけね。
スラリとのびたこれは四肢。頭と繋がってるこれは胴体。大きな膨らみが二つ。
目を閉じて地球の記憶をなぞる。

眠っている間になにがあったか、その全てを。
あらゆる動植物の喜び、悲しみの声。悲鳴。叫び。
種が終焉を迎える最後のため息。

地球の表面で起こったいろいろな出来事をわたしは全てうけとめる。
まだまだこの惑星は生きているから。
生きている限り、わたしは姿を変えて存在する。

今、地上を闊歩している人類にとって、わたし存在はどう表現されるのかしね。
地球の代弁者? うふふ、そんな軽い言葉でわたしを呼べるものかしら?
海の底から表面までゆっくりのぼってゆく。途中、凶暴とされるお腹をすかせたサメが甘えて擦り寄ってきたりしたけれど、わたしはそっとその体を撫でて明るい前途を祈る。
彼はくるくると周回して名残惜しそうに去っていく。
わたしと出会える生命体はとても少ないから。

会えると皆、嬉しそうに寄ってくるの。何時の時代でもそうだった。

海面に頭を出す。なんだか海も空気も濁っているわね。
人類ってこんな状態で平気なのかしら。

今一度目を閉じて、海上をただよいつつ記憶のページをめくっていく。

うーんと、どうしようかしら。
いつだったかのように大洪水を起こしてほとんど真っ白に地上を染め上げてるのもいいかしら。

いくつか火山を連弾のように爆発させてもいいわね。

ちょっとばかり人類はやりすぎてしまってるみたいな気がしたから。


私自身にはなんの影響もないもの、放っておいてもいいかもしれないわね。
ささいなことに関わってもしかたないもの。
地表を削り、マントルを通り越し、さらにわたし自身の奥まで入ってくるようなら容赦はしないけれど。
そうなる前に、おそらく地表を司っている彼らが始末をつけてくれるでしょう。
あるいはこのソーラーシステムを司るさらに上の方々がまた隕石を落としてくださるかもしれない。
行き過ぎた進化や、私自身に影響を及ぼす何かが起こるなら。システムの管理者がお怒りになったなら。
それはアタリマエのこと。ごくごく当然のこと。

わたしは静かに自転し、公転し、ソルの周りを旅しながら生きているだけだもの。

惑星としての死を迎えるその時まで。



そうしてまたわたしは静かに静かに海の底へ沈んでゆく。

今度目覚めたときはどんな姿になっているかしら。


少なくとも今と同じカタチはしていないでしょう。
楽しみね。


目を閉じてまた長い眠りにつく。

たゆたう時間の流れとともに。



ではまた、いつか。
よろしければご感想等お寄せ下さい。明日もお楽しみに。
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