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「アトモスフィア」 佐藤健志 短編集 作者:佐藤 健志
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19 光り降る、ある時代に

アーカイブをひっくり返していると、遠い昔の歌が出てきた。

「物語のハジマ リニは、」
翻訳を続ける。
「丁度いい季節にナタだろう」

こんな歌詞ではじまる、ほんのすこし気怠く、
優しく
緑の風が吹き

青年の日常と、未来へのちょっとした希望と

一部が破損し、詳細のわかりかねる部分もあるが、概ねそういった情景の詰まった音楽。


作曲者も、歌唱担当者の記録もないが、僕はぼんやりとなんども繰り返し聞いていた。

君は雑音まじりの音楽のどこがいいのやら、って顔をして、僕の横顔をながめてる。


昔も今も、人って変わらないんだなあ。
多分これ、地球時代のものだと思うんだよね。
言葉も僕らが使用している言語形態と全く違うし。

たくさんの人がいて、いろんな事象があって、
出会いや別れがあってさ。憧れちゃうね。
青春! 人生! って感じがさ。いいよね。
翻訳が間違っていなけりゃあね。


98アーカイブから黄色いものをレプリケートする。
これは果物の一種でレモンっていうんだぜ。
クエン酸がいっぱいで酸っぱい。酸っぱいってわかるかな、ガリリとかじると顔がふぎゃーってなる味。
刺激的。実に。実に。
君もひとつどうだい?



刺激って大切だよ。どんな形でもね。
新しい自分を目覚めさせるにも必須だ。
恋だってさぁ……コイ。違う違う、転送機の上にくっついてる装置のことじゃない。これも知らないかな。

異性間……同性でも異種間にもある感情だけれど、こう胸がきゅーんってするやつ。
胸っていうのは、僕で言うココね。

相手のことを思うときゅーんって。変? 変ってそんなものなんだよ。
博士だから知ってるとか、理解しているとかじゃなくって、細胞に刻み込まれた記憶として、、きっと君にも存在してるモノだ。
レモンをかじったときみたいな、そんなぎゅーんとしたものがここらに広がるんだ。

その刺激で人類はいろんな事件を起こしてきたんだよ?
まあ挙句にあんなことになって、僕らはこんなになってしまってるけど。



ああ、君はまだアーカイブしてなかったよね。
これからたくさん知識を得ていくとはずだよ。
そしたらきゅーんって意味もわかってくると思う。


「明日」ってことも「未来」ってことも。それらが何か理解していける。
今は難しいかもしれないけどさ。


そうして君は人になっていくんだ。


僕らの出身はなんといっても地球だからね。当時の性質は持っていてもいいと思うんだ。
懐古主義だって言われてもかまわないよ。
だって大事なことだからね。

地球時代を経て、次元をわたって、姿形はすっかり変わってしまったけれど
先人がデータを必死で守り続けたのは自我を失わないためなんだ。


僕らの多くが、世界と次元に溶けてしまったけれど
アーカイブして自我を保ち続けた者だけは個体であることができたんだ。
文明を継続していくことができたんだ。


それでもいつか消えてしまうかもしれないけどね。


永遠に銀河の周囲を周り続ける僕らにとっては、溶けてしまうほうが楽かもしれない。

でもさぁ、
感情とか
文化とか
文明とか

すごい楽しいことだと思うんだよ。


人が人であり続けるのは、苦楽を愛しているからなんだよ。

おや、随分不思議そうな顔をするね。

うん、これも少しずつ学んでいけばいいよ。


生まれたばかりの君にこんなことをいうのもなんだけどね。
君はきっと僕の恋の相手になると思うんだ。
すごい素敵な恋ができるはずなんだ。


そしたら世界を旅しよう。

世の中にはたくさんの生命体がいる。
僕らと全然違う文化圏でたくましく生きているよ。

多くのスフィアを旅しよう。
きっとあちこちで神様扱いされて(「神様」っていうのはね、……ああこれはまたにしよう)参っちゃうこともあるだろうけれど、
新しい出会いが僕らを育てるよ。

それらすべてをアーカイブしよう。

僕らのスフィアは彼らにとって秘密の場所。他の誰もたどり着けないだろうね。、多分。
地球時代から今までの破天荒な人の生き方も、
今の存在体系も
彼らには想像もつかないだろうけれど

本質的には全然変わらないんだ。
地球時代の人も、僕らも、彼らも。






さあ、物語をつづろうか。

はじめるには丁度いい季節だから。



僕と君の、物語を。

明日も更新するよ! よろしくね!
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