Side:サクラ-4-
「あ~っ!!やっと書き上がったわ~!!」
あたしは、ドラマの放映が第三回目を迎えた頃、ようやく「嵐の中で抱きしめて」の最終回を書き上げていた。
あたしの脳裏に、クマちゃんがホテルのスイートで大きく手を広げ、にこやかにバンビを迎えてくれる光景が浮かぶ……ああ、そういえば何日か前に寝たあと、国内のホテルじゃなくて、どこか海外に小旅行へ行かないかと誘われていたんだっけ。
どこの国で式を挙げたいかとも聞かれたけど、果たしてどうしたものやらとあたしは思う。
実をいうとクマちゃんは、すでに三回の離婚暦がある――つまり、初婚のわたしとは違って、彼はこれが四度目の結婚ということだ。
だから、式のほうはお金はいくらでも出すし、バンビの好きなようにしたらいいとも言われている。
「でも、好きなようにって言われてもね~……」
そう言われたら言われたで困っちゃうな、などと、贅沢この上ないことで悩みつつ、あたしは最上級に幸せな溜息を着いた。
「そういえば、レンはどうして結婚式って挙げなかったのかしらね?まあ、あいつらしいっちゃあいつらしいけど……もしあたしが奥さんの立場なら、周囲に借金してでも結婚式は挙げちゃうな。あいつがどんなに渋ろうと関係なく、出来るだけ盛大な式にするわよ」
もちろん、レンの奴が結婚したのはもう二年も昔の話になる。あいつは今、画廊のガロとかいうふざけた名前の画廊で働いていて――自分の絵を二階のギャラリーで売って生計を立てているらしい。
この間会ったのは、春に桜の木公園で元ベルビュー荘の住人たちと花見をした時だっただろうか。
ミドリさんと久臣さん、ミズキくんやほたる、それにアメリカから小山内氏が帰ってきたということもあって――花見の席はなかなか賑やかなものになった。
というより、わたしは小山内氏が帰ってくるとミドリさんから聞いた時には、必ず足繁くベルビュー荘を訪れることにしている。何もこれは、わたしが小山内氏のことを面白い人物として慕っているからというわけではまったくない。目的はレンに会うためだ。
ベルビュー荘に小山内氏が帰ってくると、レンの奴は必ずベルビュー荘へ顔を見せるので、わたしは彼らの中に混じって過ごせる時間が本当に大好きだった。
もちろんわたしにとって何より大切なこの場所へ、レンが奥さんのことを同伴してきたとしたら、わたしも行ったかどうかはわからない。でも毎年恒例の花見であるとか、そうしたベルビュー荘に関する行事にレンは一度もミチルさんを連れてきたことがない……あたしはそのことが嬉しかった。
そういう時、まるで時間の螺子を遡らせたみたいに、あたしはレンと昔の古き良き関係性みたいなものを甦らせて、親密になることが出来る。
そういったような理由から、あたしはベルビュー荘へクマちゃんを連れていく気はなかった。
といっても、結婚式にはみんなに来てほしいので、一度顔を合わせてしまったらそのあとどうなるかはわからない。
なんにしてもこの時、あたしはテレビ局へドラマ最終回の脚本を手渡しにいって、打ち合わせを済ませたその足で――レンのいる<画廊・ガロ>へ行くことにした。
目的は、クマちゃんとの結婚を報告するためと、クマ自慢……じゃなくて、彼自慢をするためだったといっていい。
何故といって、レンは奴が結婚する時、あれほどのダメージをあたしに対して負わせた奴なのだ。
だから、逆の立場になっている今、今度はその報復をしてやろうと、あたしはそう思っていたのである。