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魔王様にくびったけ
作:zens


―我等は、ここに人間を抹殺することを宣言しよう。わらわの名は、ラティシア・アルト・レニウム。特別にラティと呼ぶことを許そう―

―魔王様、それでは威厳が・・・―

―うるさいっ、黙れ。・・・こほん。では、人間どもよ。せいぜい残り少ない余生を楽しむことだな―


この日、世界は突如として現れた魔王により混乱に陥った。
各国はこぞって勇者を求め、数多くの勇者が旅立ち、そして帰ってこなかったという。


その日から1年後。辺境のとある村の酒場で1組の男女が会話をしていた。

「なあ、この魔王・・・可愛いなあ」
「いや、あんた、ちょっと待ちなさいよ。よーく見なさい、聞きなさい」
「だから聞いているじゃないか」

不毛な会話を繰り広げる男女に辺りの視線は非常に優しいものだった。
魔王が現れてから数日。ずっと、この調子の男を、女は苦々しげに見つめていた。
彼女は、彼のことが好きなのだが、この村には年頃の男は彼しかおらず黙っていても結婚できるだろうと高を括っていたのだ。

だが、魔王が現れてからその優位は一気に崩れることになる。
何と彼はよりにもよって魔王に恋してしまったのだ。
恋は盲目というが、まさに彼は周りが見えなくなっていたのだ。

「魔王なんて危ないのよ。そ、それに魔王なんかとあんたが釣り合う訳ないでしょ。あんたには、こうもっと・・・田舎の地味な子が合うと思うのよ」
「何言ってるんだ、メルたん。俺だからこそ大丈夫なんだ。ああいう高嶺の花というのは、逆に相手されないことも多いんだ。俺にだってチャンスはある」

彼女は手を変え品を変え彼を説得しようと試みていた。
しかし、何を言っても彼は話を聞くどころか妄想ばかり口にする。
しかも最近は直接会いに行くなどと言う様になり、彼女は頭痛の種は尽きない。

「メルたん言うなっ。第一どうやって魔王に会いに行くのよ」
「全くこれだからメルティーは面白みがないんだ。きっとラティなら俺の冗談も受け止めてくれるはずなんだ」
「うわっ・・・妄想も大概にしておきなさいよ」

本気で引き気味ではあるが、好きになったのだから仕方がないと彼女は諦めている。
プライドの高い彼女は諦めることが大嫌いなのだ。
しかし、彼女もまた恋に盲目であり、彼以外が見えていないのだ。
この村には、実際、数人の独身の若者がいることにはいるのだから。

「メルたん。・・・実は大切な話があるんだ。俺とラティが結婚したら結婚式で仲人をしてほしい」
「死んでしまえっ」

一瞬でも期待した私がバカだったと彼女は泣きながら酒場を出て行った。
後に残された男、カイトはというと・・・彼女に殴られて気絶していた。

このことが原因で、彼は旅立ちが2日遅れてしまった。
その旅立ちの日。彼女はとうとう見送りに来なかったという。


「ということで、やって来ました魔王城」

しかし、誰も返事をしない・・・。それもそのはず。彼1人なのだから。

彼は、近郊の大都市アゼルで地図を買ってここまでやって来ていた。
仲間も道具すら持たない彼がどうして生き延びたのかというと、それは一言で言うなれば運である。
そもそも魔王城までの地図が売っていること自体がおかしいのだが、彼は浮かれていてそんなことに気付く様子もない。

「ところで、玄関はどこだ?あっ、おーいそこの門番。入り口はどこだ・・・って門番がいるんだからあそこが入り口じゃないか」

結局、彼がしたことは自分の存在を気付かせるだけだった。
ちなみに彼は剣も魔法も使えない所謂村人Cといった役割になってしまう。町や村にいて同じセリフしか喋らない上に、冒険に必要なことさえも言わないような存在である。
だが、彼は何を思ったのか、向かってくる敵へと突っ込んでいった。

「・・・おいっ、何か気持ち悪いオーラに包まれた奴がこっちに突っ込んでくるぞ」
「おかしい。魔法が当たらない。いや・・・あいつ避けているのか?」

門番たちは、魔法が彼に当たらないことに驚きを隠せない。
しかし、門番たちは徹夜のマージャン明けのために今日は寝ておらず、また1年前に魔王が宣戦布告してからは、やって来る勇者の相手を連日しており疲労が抜けない。
昨日はたまたま勇者が来なかったのでマージャンをしていたのだ。体調が悪いのは、仕方がない。

どうでもいいことだが門番は2人だけである。
もちろん給料は高いが、命の危険も高い。
だが、経費削減のために2人だという事実は、門番たちは知らない。

「なあ、ここにラティがいるって聞いてきたんだけど、今いるか?」
「ちょっと待て。ラティって・・・あんた何しに来たんだ?」
「待て待て、馴れ馴れしいにもほどがあるぞ、お前。・・・で、何しに来たんだ?」

徹夜な上に2日酔いの門番たちは、正直戦いたくはないと思っている。
こちらは、追い返す程度にしか戦っていないのに、人間は本気で挑んでくるからだ。
できれば話し合いで解決したいと2人は望んでいる。

「もちろん結婚を申し込みに来たんだ?」
「「は?」」

予想の斜め45度上を行く答えに門番たちは一瞬動きが止まってしまった。
しかし、誰にだろうと本気で考えてしまう辺り、門番たちは頭が弱いらしい。
加えて2人は、真顔で何やらひそひそと話をし始めた。当然、カイトもその後ろでそっと耳を澄ませて聞いている。

「ラティ様は聞き間違いだよな。ラン様か?いや、フライヤ様・・・か?」
「違う違う。エミ様かアルベラ様とかじゃないか?お前、女を見る目がないな」
「話を聞けよ、お前ら。ラティだ、魔王ラティシアだ。って、よく見たらお前。1年前に殴られてた魔物じゃないか?」

名前を挙げられてもカイトにはよく分からないが、きっと魔物にも好みがあるのだろうと勝手に結論付けた。

「まあ、そうだ。しかし、ラティ様に告白しに来たんだって?悪いことは言わない、やめておけ。あのお方の相手を務めるのは大変だぞ」
「でも、それ言ったら親衛隊も同じ様なものだな。あの方たちは見た目だけはいいから・・・」
「そうだよな。人間たちの諺でどんぐりの背比べってのあるらしい。それを聞いたときに思ったんだ。大してみんな変わらないって事に」
「言えてる言えてる。性格は破綻してるよな。もう見た目だけ。だから遠目に見てる分にはいいんだよな」

カイトは門番たちが身内ネタで盛り上がって、自分1人が置いていかれていることに気がついた。
それならばメルティーの話でも出せば気が合いそうだ。
そう思って口を開きかけた時だった。門番たちは背を向けているので分かっていないが、カイトははっきりと見た。
4人の魔族の女性がこちらに真っ直ぐ歩いてくることに。

「えーと、右からロリ、ボイン、お嬢様、・・・男?」
「ん?何を指差して・・・」
「・・・」

振り向いたまま黙ってしまった門番たちにカイトは首を傾げる。
その間にも、美人の女性がこちらにどんどんと近づいてくる。1人は無表情、1人は笑顔、1人は怒り心頭のご様子。
もう1人は顔が見えない。

ただ、非常にまずい雰囲気だということだけはカイトにも察することは出来た。
門番たちはすっかり萎縮しきっており、涙目になっている。

「おい、そこのてめえ。俺は男じゃねえ、女だ。覚えておけ。で、お前らは言いたい放題言ってくれちゃってる訳だ」
「あらあら人間さん、ごきげんよう。こんな所にいると食べられてしまいますよ。ところで、あなたがたはどのようなお話をされていたのか、わたくし非常に興味がありますの」
「ふーん、あんたたち。何私たちの話で盛り上がってるのわけ?」
「・・・性格が破綻?面白いこと言いますねえ」

門番たちは完全に彼女たちに取り囲まれており、逃げることさえ出来ない。
人間のことは2人ほど気には留めていたが、彼女たちは上位魔族であるがために人間など歯牙にもかけない。
むしろ、自分のことをぼろぼろに言った2人の門番の方が気になるのだ。

「い、いえ・・・そう人間に吹き込まれたんですってば」
「だから僕らがそんなこと思っているわけないじゃないですか」
「逮捕、有罪、死刑。ま、じわじわといたぶってあげるから覚悟してねえ」

ロリが楽しげに口を歪ませると、門番たちは震え上がった。
逃げたいのは、山々なのだろうが
2人は、軽々とロリに持ち上げられるとどこかへ連れて行かれてしまった。


一方のカイトは言うと・・・。

「・・・何かうまく侵入できてしまった」

騒ぎに乗じてちゃっかりと城への侵入に成功してしまっていた。
しかし、彼は時折下の方から聞こえてくる悲鳴が気になっていた。
魔王に恋してしまい、魔王城にまで乗り込んできて彼といえども、もし人がいるなら助けるべきだろうかと考えてしまうのだ。

「・・・でもなあ・・・俺まで捕まったら意味ないし・・・すまん・・・」




「とは言っても見捨てられないよな・・・」

結局、彼は聞こえてくる悲鳴を頼りに城の地下までやって来ていた。
堂々と廊下を歩いているにも関わらず、誰1人として会わなかったのは奇跡か、はたまた驕りなのか。
どちらにせよ見つかれば命はないだろう。

城の地下の、その奥に近づくにつれてその悲鳴が大きくなり彼もまた緊張した面持ちへと変わっていった。
そして、暗い廊下の突き当たりから明かりが漏れているのを彼は見つけた。
どうやら悲鳴もここから聞こえてくるようだ。
彼は、途中で拾った鉄の棒を握り締めると、そっと中の様子を伺った。

「・・・とりあえず食べて」
「絶対嫌だっ。お願いします、勘弁してください」
「・・・」

そこにいたのは、先程の門番とロリの女性だった。
しかし、1人は何も言葉を発することなく虚ろな目をして天井を見上げていた。
どうやら、料理を食べさせられているらしい。

「・・・おかしくないか、あの料理の色。何で紫なんだ?魔物はああいうものを食べるのか・・・。俺、魔物に生まれなくてよかった。とりあえず・・・人間じゃないみたいだし・・・関わらないほうが無難だよな」

彼は密かに合掌するとそっと後ろへ下がった。

正確には下がったつもりだった。だが、いつの間にか背後に壁があったようで後ろに下がることができなかった。
その上、妙にその壁は柔らかく、こう女性の胸が当たっているような感触だった。
そう、メルティーと大して大きさは変わらない・・・と彼は考えた所で硬直した。

「あらあら人間さん、ごきげんよう。まだ、いらっしゃったのですね。そうだ、わたくしがおもてなしをして差し上げますわ。あなたのお名前は?わたくし、フランシア・アルト・レニウム。お姉さまは魔王ラティシアですの。皆様はわたくしをランと呼びます」
「っ!?」
「あら?そんなに怯えなくても大丈夫ですわ。わたくしは取って食べたりなんてしませんから」

わたくし「は」という所に彼は敏感に反応する。
つまり、彼女以外の魔族では人間を食べるものがいるという事だ。だが、それ以前に命が危ない。
侵入者の人間を見つけた以上、この城にいる魔族が放置しておくとは彼には到底考えられなかった。
数日前まで住んでいた村では、泥棒は捕まるとすぐに処罰されていたのだから。

「と、とりあえず見逃しては・・・」
「わたくしは別に構いませんよ。ですが、後ろの方がどうおっしゃるか・・・」

まだ誰かいたかなと彼が振り向くと、先程まで部屋にいたはずのロリが後ろに立っていた。
そのロリは彼を見るといい実験台になりそうなどと物騒なことを呟いた。
当然、彼は逃げ出した。

「・・・ダメ」

しかし、いつの間にか、彼はがっしりと首根っこを掴まれており体が宙に浮いていた。

「俺、この戦いが終わったら告白するんだ・・・」
「頑張ってくださいね。お姉様にはわたくしから話を通しておきますから・・・生きていたら会いに行ってください」

死亡フラグ確定だろうと突っ込みたかったが、既に当の本人は階段を上ってしまっていた。
言いたいことも言えずにカイトはズルズルとロリに引きずられ部屋へと放り込まれた。
転がっている門番たちを見て、彼はこうなる運命なのだと悟った。



「・・・食べて」

しかし、カイトは首を横に振って抵抗する。
女性が自分のために料理を作って、しかも食べさせてくれるというシチュエーションにも関わらずだ。
その理由は、先程門番たちが気絶してしまった料理とは違うものだが、それと同系列の今までに見たことのない料理が原因だった。
ちらりとカイトが彼女が料理を作っていた鍋を見ると、緑色の汁が吹き零れ、火もついていないはずなのに鍋が時折動いている。

「・・・食べてくれないと社会的に抹殺しないといけませんねえ」
「その前に物理的に死にそうなんですが・・・」
「うるさい、さっさと食べて」

彼女はそう言うが同時にカイトの口の中にゲテモノを無理矢理詰め込むと、これまた強引に飲み込ませた。
彼女が恐れられている理由は、こうして無理矢理ゲテモノを食べさせることにある。しかも、本人も自覚済みのため、時折お仕置きに使われることがあるのだ。料理好きな彼女にとっては、自慢?の料理を振舞う絶好の機会であるが、食べる側にとっては不幸でしかない。

「・・・どう?」
「・・・うげっ!?・・・いや、うまい。見た目は最悪だけど味は最高だっ。ごちそうさま、あんた、いい嫁になるよ」

実は、彼は数日ろくな物を食べておらず、加えてもともと味など気にしてもいない。
とりあえずそう言っておけと父親から教わっているのだ。また、カイトたちの村では料理のできる女性は最高の嫁なのである。
ちなみに彼等の村で最低な人間は、働かない男と料理の出来ない女だと言われている。

「・・・あの方が運命の人・・・」
「ちょっと、もしかして人間が運命の相手とでも言ってるの?アルベラ、あんた頭に悪い虫でも湧いた?・・・もしかして、おいしくなったのか?」

男のような女性は、ふとこのゲテモノに興味を持つと、カイトが残した僅かな残りをつまんで口の中に放り込んだ。

「げっ!?」

しかし、彼女はすぐに食べたものを吐き出すと、いつもの強気な彼女はそこになく目に涙を浮かべてアルベラを睨みつけた。

「てっめえ・・・全然向上しねえな・・・。よくも俺にこんなもの食わせやがって」
「・・・別に食べてくれなんて言ってないしねえ?」

アルベラの態度に男のような女性、フライヤは1発ぶん殴ってやろうかと思ったが寸での所で思いとどまった。
彼女は、以前も同じ様なことをやらかしてラティシアからトイレ掃除を命じられていたのだ。
もちろん、原因はアルベラの料理だった。

「・・・もうトイレ掃除なんてやってられねえし。アルベラ?あんた、そんなにめかし込んでどこ行くのさ?」
「・・・ラティシアに会いに。・・・いい人見つけた」
「ええっ?・・・あいつの料理、一生食わされるなんて不幸以外の何物でもないな」



古代文明には、エスカレーターという人を運んでくれる箱があったという。

カイトは、昔父親から聞いた話を思い出していた。
もし、その箱があればこんなに上らなくてもいいのについ愚痴が出てしまう。
やはり、魔王がいるのは最上階に決まっている。どこでそんな話を聞いたのか、彼は一心不乱に最上階を目指して階段を駆け上がっていた。
そして、ようやく上への階段がなくなった。

「あらあら?」
「・・・どこにお姉さんはいるんだ?」
「ここは、わたくしの部屋ですの。お姉さまは、1つ下の階にいますわ。くすくすっ、おかしい方ね」
「そっか、ありがとう。じゃあ」

と、部屋を間違えるハプニングもあったが、カイトはようやく魔王のいる部屋までたどりついていた。

『ラティの部屋』

堂々と、こう書いてあるのだから間違いないはずである。
しかし、部屋の扉は質素で木で出来ている。彼は、迷った。ここが本当に魔王の部屋なのかと。
それに、ここに来て怖くなったことも事実だった。
もし、断られたらどうしようと。

彼はここまでそんなことを考えることなくやって来た。
扉を開けば憧れの人がいる。

「・・・ここは男らしく、びしっと決めないと・・・死んだ親父に申し訳ない」

彼は勝手に死んだことになった親父に謝ると、ドアを押そうとした。
しかし、彼がドアノブを掴もうとした時、急に扉が彼に向かって開いた。そう、この扉は引くのであって押すものではなかったのだ。

「ぶっ」
「何だ、人間か?・・・何故、ここで倒れておるのだ?まあ、よい。中に入れ」

運がいいのか悪いのか。
カイトは、憧れの魔王の部屋に入ることが出来た。その代償は大きかったわけだが・・・。




「あらあら、どうしちゃったのかしら?ねえ、ラティ。もうしちゃった?」
「単に気絶しているだけでしょ、すぐにエロいことに持っていかないで。それに、母上。部下から聞いたが、わらわの妹と名乗っているそうではないか。恥ずかしくて歩けないではないか。いい年して、再婚も出来ない年増がわらわの母では・・・」
「まあ、ランちゃんって呼んでくれないと困るわ。それに、勝手に元夫は死んでしまったのよ。もう400年も昔の話じゃない」

彼が気絶している横でラティシアとフランシアは、まるで姉妹のように会話をしていた。
しかし、ランは、魔王の妹ではなく母親。そのため、一応魔王の部屋よりも高い場所に部屋を構えていた。
見た目だけなら、大差ないように見えるが2人の年齢差は倍以上ある。
ただ、年齢のことはタブーとされているこの城では、誰もが姉妹として扱っている。理由は想像通りのよくあることだということだけは記しておきたい。

しばらくすると、気絶していたカイトが意識を取り戻して、急に起き上がった。

「・・・ふわあ〜」

彼女たちは、目覚めたカイトを覗き込んだ。
ランは人間に会うのは元夫が死んだ時以来久しぶりで、その娘のラティは実は会った事すらないのだ。
互いに興味がないわけではない。

しかし、カイトは、憧れの魔王が覗き込んでいるにも関わらず目がとろんとしており、反応しない。
ぼんやりと、母娘を交互に見ていたが何を思ったのか急にラティに抱きついた。
突然のことにラティは反応できずそのまま押し倒されてしまった。

そして、運の悪いことに口と口が重なり合ってしまった。

「・・・」
「・・・・・」
「あらあら、目覚めてすぐなんてお盛んですわね。・・・お邪魔だったかしら?」

いつもなら顔を真っ赤にしてラティは、ランに食って掛かっただろう。しかし、今日は同じ様に顔は真っ赤になっているが、怒りというよりも羞恥の感情の方が強いようだった。
ランは、さらに追い討ちをかけるようにからかうがことごとく無視されてしまっていた。

しかし、ランもいつまでも2人がキスを続けている光景を見せ付けられていると、段々と心の中がもやもやとするのを感じた。
彼女は、ここ数100年キスなどした覚えもないのだ。まだまだ、彼女は自分は魅力的であると思っているのだが、周りからすれば元魔王の未亡人ともなればなかなか手を出しにくいのである。

彼女が悶々としていると、ようやく見せ付けるようなキスが終わった。
だが、まだ寝ぼけていたカイトはとんでもない事を口にした。

「・・・ラティ・・・結婚・・・してくれ」
「っ!?」

ラティは、耳まで真っ赤にすると・・・。

「は、恥ずかしいではないか!」
「・・・いたっ」

カイトをベッドから放り投げた。
その衝撃で目覚めたカイトだったが、何故魔王が顔を真っ赤にしているのか分からず、目覚めたばかりの頭で必死に考えていた。

だが、床特有の冷たさを感じないことを彼は不思議に思っていた。
何と言うのか、こう硬いのではなく柔らかく温かいのだ。
ふと、上を見上げると先程料理をご馳走してくれたアルベラがとても温和な笑みを浮かべて自分の顔を見ているではないか。
その笑顔に思わずカイトは顔が赤くなってしまった。ただ悲しいかな、胸はない。

「・・・ラティ。この人は私の運命の人。もらっていくね」
「待て、アルベラ。そやつはわらわの・・・はじめてを奪ったのだぞ?当然、責任を取ってもらわなくてはならん。はじめてを不可抗力とはいえ奪ったのだ、当然わらわの婿となるべきであろう」

ベッドの上から、何を言っているんだとアルベラは思った。魔界にそんな純潔を奪った者と結婚しなくてはならない義務などない。要するに、ラティシアの貞操観念ということになる。
さっさとこの人を連れて帰ろう、彼女はそう思って彼を所謂お姫様抱っこをして身を翻した。


しかし、次の瞬間ふとこの場に違和感を感じてもう1度振り返った。
その弾みでカイトは、思い切り柱に顔をぶつけてしまい、悶絶していた。

「・・・ベッドに着崩れた寝巻き姿。それに2人の男女。・・・もしかして、もう、した?」
「してないっ!どうしてこの城には・・・卑猥な者しかおらんのだっ」

ぎゃあぎゃあと騒ぐラティシアではあったが、その答えは嘘ではないのだろうとアルベラは確信していた。
ラティは、真っ直ぐな性格であることは長い付き合いで知っているし、何より彼女は嘘をつくことが嫌いだ。

「・・・じゃあ安心してもらっていくねえ」

普段は表情に喜怒哀楽を出すことなど滅多にないアルベラが、笑顔を浮かべている。
ラティはよく分からないが、何だか焦りを感じて彼女を呼び止めた。

「ま、待ちなさい。そ、その男を置いていきなさい」
「・・・嫌だと言ったら?」
「力づくで奪うまでのこと」

お互いに笑顔を浮かべているもののその間にははっきりと火花が散っているのが見える。

「あの・・・フランシアさん?一体、何が起きているんだ?」
「あらあら、知らないっていうのも罪ね」

フランシアは笑うばかりで何も教えてはくれなかった。
カイトは仕方がないのでとりあえず成り行きを見守ることにした。告白をしに来たはずが、何故か魔族同士が仲違いをしており一触即発の状態なのだ。下手に止めに入れば自分が殺されかねない。
ここに来て、彼はようやく気がついた。

告白するタイミングがないということに。


だが、彼女たちが動き出そうとしたちょうどその時だった。
急に爆発音がして城が揺れたかと思うと、壁に大きな横穴が開いた。
もうもうと土煙が部屋中を包み込み、その部屋にいた皆が咳き込んだ。

「げほっげほっ・・・誰よ、人の城に勝手に穴を開けたのは・・・」
「私よ。何か文句ある?」

カイトは煙の中から現れた人物に驚きを隠せなかった。
それもそのはず、つい数日前に別れたはずのメルティーだったからだ。
少なくとも彼の知るメルティーは多少気の強い所はあったにせよ、こんな風に城の壁を壊していきなり本丸に突撃するようなことはしないはず・・・であった。

「カイト、生きていたんだね。私が来たからにはもう大丈夫。さっさとこんな魔王倒して一緒に故郷に帰ろ。・・・それでね・・・結婚・・・しよう」
「え・・・あ・・・」
「・・・突然のことだし・・・それに場所が場所だもんね」

人の城をぶち壊しておいてさらに文句を言うのかという外野の声が聞こえてくるがメルティーは完全にそれを無視するとカイトに話しかける。

「ずっと・・・好きだった。一緒に村に戻って暮らそうよ」

そう言ってメルティーはカイトに手を伸ばした。
だが、その手はあっさりと叩き落とされた。

「ちょっと!?いきなり乱入してきて、私のはじめてを奪った人を掻っ攫うつもり?それは、おかしくない?」
「・・・あなたに用なんてないのー。おうちに帰れえ」

ぶちっ。そう、何か切れる音がしたのはきっと気のせいではないはずだ。
その証拠に、メルティーは煌々と輝く剣を鞘から抜き放っていた。
だが、向ける方向が違った。

「カーイートー?えーと、誰かな〜?このロリと売春婦みたいのと・・・あんたはいいか」

メルティーは1人1人を指差す代わりに剣を向けて、威嚇するように睨みつける。
しかし、相手は魔王とその母親と幹部。そのような威嚇など気にも留めない。
威嚇は気にも留めなかったが・・・。

「だ、誰が売春婦だ!?わらわは魔王ラティシア。この世界をいずれ支配する者ぞ」
「待って、せめて存在は認めてくれない?」
「ロリではない。これでも立派な大人の魔族だ」

メルティーの言葉はしっかり気にしていた。
この時点では、メルティーがすっかり優位に立っていた。
が、魔王の一言でその優位は脆くも崩れ去ってしまう。

「わらわは結婚をカイトから申し込まれたのだ。そうであろう、カイト」

その衝撃的な言葉にメルティーもアルベラも開いた口が塞がらなかった。
何とカイトの方から魔王に既に告白していたというのだ。これでは、勝ち目はない。
彼女たちが諦めかけた時だった。きょとんとした顔をしていたカイトは、場の空気を読んだのか読まないのか、思ったことをそのまま口にしたようだった。

「・・・?確かにそれが目的でここまで来たけど・・・いつ告った?さっきまで寝ていたからよく覚えていないんだ」
「「っ!?」」

彼にとって、それは嘘偽りのない言葉だった。
だが、彼はこの場の状況を思ったほど理解していなかった。今の彼の一言は場を一変させることになるという影響力を持つことに。
ラティシアは再び不利な立場に立たされた。

「しかしだ・・・わらわ達は既にこういうことをする仲なのだ」

突然の魔王の行動にその場の全員が呆然とした。
彼女は、カイトを抱き寄せると再び全員の前で見せ付けるようにキスをして見せたのだ。

「あ・・・ああ・・・」
「・・・運命の人が・・・。この泥棒猫っ」

悔しそうにするメルティーとアルベラ。
しかし、簡単に諦めることなどできるわけもない。無理矢理、カイトに話題を振ってみた。

「カイト。カイトは誰がす、好きなの?この場ではっきりしなさいよ」
「・・・私を選んでほしいなあ」
「もちろん、わらわであろう。わらわが目的でやって来たのだから聞くまでもなかろう」
「あらあら、誰でもなかったらわたくしでもいいですわ」

だが、それだけはないと3人に切られ、フランシアはよよよと泣いたフリをしながら崩れ落ちる。
もちろん誰も気に留めない。
彼女達の注目はカイトの返答ただ1つ。
3人に威圧的に詰め寄られたカイトは回答に窮していた。そこで、彼はまずは本来の目的を実行してみることにした。

「ラティ、好きだ。結婚してほしい」
「いや、無理だ。わらわよりも弱い男などと結婚できるかっ!」

カイトは、あっさり振られてしまった。
ラティが振ったのは単に恥ずかしいという理由だけで、もう1度告白されたらOKを出そうと考えていた。アプローチも直接かけているのだから大丈夫だろうという計算もあった。
そして、仮にも自分は魔王でありあっさりと了承するのはプライドが許さなかった。

「その女は、身の丈を知らないのよ。こんな所にいないでさっさと帰りましょ」
「・・・意地張ってると、損するよ」
「何か目的を達成したらすっきりした。俺、キスとかされて勘違いしていたんだな。そうだ、2人ともこれから観光でもしていかないか?ちょっと考える時間もほしいし」

だが、ラティの策略は失敗に終わった。
ここまでやって来たのだから、もっとしつこいと思っていたのに意外とカイトは淡白だったからだ。

しかも、振られた途端に他の女をナンパしていることが、ラティには許せなかった。
もっとも、カイトにはそんな意思は全くないのだが、この辺りには景色のよい場所や温泉がある。
それにどこからどう見てもナンパにしか見えないのもまた事実だった。
加えて、誘われたほうも満更でもない様子がラティの心を揺さぶる。

「そうね、ここまで来て手ぶらで帰るのも村の人に悪いし」
「・・・一生ついていきます」
「って、あんたは黙ってなさいよ。それに何で魔族がついて来るのよ!」
「・・・別にいいじゃん。これだから人間の女はぎゃあぎゃあやかましい」

ラティは、声をかけたいという気持ちをぐっと堪える。
これでも一応魔王なのだ。自分を倒しに来たはずのメルティーに無視されても、告白しに来たというアホな男が振られた途端に自分に見向きもしないことなど気にも留めないのだ。

「ところで、この月の丘ってどこにあるんだ。ガイドマップによると、月見饅頭とかいうものが食べれるらしい」
「ちょっと!?これ、これ相当遠いじゃない。だったら落陽の海なんてどう?ここからなら結構近いよ」
「・・・私のお勧めは、コルラタウンだねえ。あそこの酒は最高だよ」
「あたしたち、未成年だって!それにあんたも未成年でしょうがっ」
「・・・私これでも、187歳なのよねえ」

しかし、わいわいと盛り上がって、段々と離れていく3人を見ていると彼女は寂しさを覚えた。
それに、カイトのことも嫌いではない。
自分だけ勝手にのけ者にされるのは、納得が出来なかった。

「やっぱり、わらわもついて行くぞ」
「あんた、カイトに用がないなら来なくていいわよ。邪魔なだけだし」
「・・・邪魔だから帰れ」
「うわーん、カイト。わらわも好きじゃ、愛しておる。だから、連れて行ってほしいのじゃ」

半ばやけくそ気味にラティは告白するが、それに対する周囲の反応は冷たい。

「ちょっと今更告白なんて卑怯よ」
「・・・卑怯だねえ。あなたなんて空気になっているか、唇が青くなればいい」

だが、彼らは気がついていない。
本当に空気になってしまっている人が1人いることに。

「あらあら・・・わたくしだけ置いていかれてしまいましたわ・・・」


こうして、世界には平和が訪れた。

「ねえ、聞いた?魔王をはべらせてる男がいるんだって」
「うそー、きもーい。でもさ、私が聞いた噂だとその男って色んな女をナンパして歩き回ってるんだって」

代わりに、カイトのあることないことの噂が広まることになっていくとは、当の本人は全く考えもしていなかった。


思いついたままに書いたらまたぐだぐだになりました。

短編は、巫女さん鬼ごっこを書く予定でしたが、いつの間にかこっちが出来上がっていました。

この世界の半分はご都合主義とバカでできています。
寛大な御心で読むことを強くお勧めします。(後書きに書くことでないですけどね)













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