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袁紹的悪夢行  作者: 青蓮
第5章~劉琦について
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劉琦~裏荊州城にて

 劉琦は、蔡氏のせいであまり人を信じられない状態になっています。

 そのせいで、武人が味方かもしれないと思っても恐怖が優先して逃げてしまいます。


 しかし、裏世界に変貌した荊州城から逃げることはできません。

 そんな劉琦に、血塗られた武人が追いすがります。

 城内も、さっきとは様変わりしていた。

 石の床は血と膿にまみれ、金属の装飾はことごとく赤錆に覆われていた。

 空気のざらつきもさっきよりはましになったが、それでも走ろうとするとすぐ息が切れる。


 城内でも、怪物たちはあちこちで争い続けていた。

 その奇声がかなり遠くまで聞こえるせいで、劉琦は容易に怪物を避けて通ることができた。


(早く、ここから出ないと……!)


 今は蔡氏の化け物と武人の怨念が争っているが、いつまでもそれが続く訳ではない。

 いつか勝負がつけば、残った片方は再び劉琦を襲ってくるだろう。

 その勝負がつく時は一秒後かもしれないし、もうついているかもしれないのだ。


(嫌だ、死にたくない!

 父上に会いたいよ!!)


 劉琦は必死の思いで城の出口へと向かった。

 そして、さっきは開いていた外につながる扉が閉じていることに気づいた。


「ま、まさか……」


 悪い予感はよく当たるものだ。

 赤錆に覆われた扉は、押せども引けども全く動かなかった。


  力が足りないとかいう問題ではなく。

  動く気配さえみせてくれない。


 劉琦は青くなった。

 大慌てで他の出口にも行ってみたが、そこも結果は同じだった。


  劉琦は、この異常な城に閉じ込められたのだ。


(ど、どうしよう!!)


 うろたえているうちに、またどこかから重たい羽音が響く。

 ほどなくして、赤く濁った闇を切り裂いて空を舞う怪物が現れた。


「う、うわ……!」


 劉琦の叫び声は、ひゅっと息を飲む音に変わった。

 空を舞う怪物は、目の前で角から飛び出してきた何かに当たって止まったのだ。


  それは、上品な召使いのような姿をしていた。

  劉琦は一瞬、自分が人を殺してしまったような罪悪感に襲われた。


 しかし、それは必要ないものだったようだ。

 その召使いが倒れてのけぞり、顔が見えた瞬間、劉琦は震えあがった。


  後ろから見るとよく分からなかったが……召使いの顔には、板が打ち付けられている。

  それも、頭を貫通するほどの長く太い釘で。

  これは間違いなく人間じゃない。


 さっきの顔中の穴から汚い液を流す怪物とは、少し違っている。

 が、これも怪物には変わりない。

 空飛ぶ怪物の刃を胸と腹に受けて、もう劉琦を襲う力は残っていなさそうだが。


 劉琦があっけにとられて見ていると、空飛ぶ怪物はしばらく召使いの体に刺さった刃が抜けずにまごついていた。

 しかしどうにかして四本のうち一本を引き抜き、おもむろに劉琦の方に顔を向けた。


(やばい!!)


 このままここにいたら殺されると、劉琦はようやく我に返った。

 劉琦は急いでその場を去ろうとしたが、いかんせん体が重くて早く走れない。

 そうしている間にも、後ろからは怪物が引き抜いた刃を打ち合わせる音が聞こえてくる。


  その音が、突然とぎれた。


「せいっ!!」


 威勢のよいかけ声とともに、ざばっと何かを切り裂く音。

 その声が誰か分かったとたん、劉琦は戦慄した。


(あの武人だ!!)


 間違いない、今の声はさっきの血塗られた武人だ。

 振り向きたくないのに見ずにはいられなくて、結局振り向くと、そこには鬼のような顔で怪物を切り刻む武人の姿があった。


  かちかちと刃を鳴らしてもがく怪物を、武人はひたすら斬りつける。

  己の怒りと憎しみを込めて、無慈悲に剣を振り下ろす。


 劉琦はもう、見ていることもできなかった。

 悲鳴を上げないように必死で口を押えて、重たい足を夢中で動かす。


  どこに逃げればいいのかなんて、分からない。

  ただ、ここから離れたい一心だ。


 しかし、劉琦の後ろからは例の武人の声が追いかけてくる。


よ、なぜ逃げる!?

 そんなに私が嫌いなのか!

 見て見ぬふりをした私が、そんなに憎らしいのか!!」


 激情の中にも、切ない愛情のこもった声……しかし、振り向く気にはなれなかった。


 多分この人は、自分が知っている人ではない。

 キと自分の名前を呼んでくれているようだが、どうも発音がおかしい気がする。


  この人は、自分と似た誰かを探しているのだろうか?


 だとしても、それに付き合う勇気はなかった。

 劉琦はその声の主から逃げ続け、自分の一番安心できる場所に足を向けていた。



 どのくらい速足を続けただろうか。

 劉琦は荊州城の奥にある、自室の近くに来ていた。


  あの武人をまけたかどうか、今回は自信がない。


 どこかに隠れなくちゃと思っているうちに、また後ろから鎧が触れ合う金属音を帯びた足音が聞こえてきた。

 あの武人が、今度は執念深くつけてきているようだ。


(そうだ、父上の部屋に!)


 一瞬の判断で、劉琦は父劉表の部屋に逃げ込んだ。


  自分の部屋は、狭くてあまり隠れる場所がない。

  それに、あの武人が自分の部屋を探しているうちに何かいい手が浮かぶかもしれない。

  何より……現実ではもう決して入れない父の部屋に、入れる機会があるのだ。


 劉琦は音をたてないように慎重に扉を開け、狭い隙間にするりと滑り込んだ。

 そして中を見た途端、目を丸くした。


「ええっ何これ!?」


 そこには、劉琦が幼い頃のままの部屋があった。


  父劉表と、実の母が仲睦まじく暮らしていたあの時のまま……。


(嘘だ、そんなはずがない!)


 劉琦は、どうしようもない違和感に苛まれた。

 蔡氏が、実の母の思い出が色濃く残るこの部屋を、このままにするはずがない。


  だとしたら、ここは、何?


 あり得ない光景に、劉琦はしばし呆然として思考を忘れた。

 劉琦は、武人が自分の知り合いではなさそうだと気づき始めました。

 しかし、彼が誰で、誰の代わりに自分を追ってくるのかは謎のままです。


 武人から逃れるために逃げ込んだ劉表の部屋は、劉琦が幼い頃のままでした。

 サイレントヒルでもよくあるように、裏世界では過去の光景がよく出現します。

 この安らかだったころの部屋で、劉琦は何を見るのでしょうか?

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