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袁紹的悪夢行  作者: 青蓮
第4章~孫策伯符について
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孫策~回想の揚州にて(2)

 孫策は目に見えない、自分に感じられないものを否定するあまり、仙人の于吉を殺してしまいました。


 この話では、孫策が死んでからどうなったかが語られます。

 生前ずっと理論主義、唯物論で生きてきた孫策は自らの死をどのように受け止めるのでしょうか。

 孫策は、しばらく自分がどうなったのか分からなかった。

 分かろうとして、自分の遺体に再び入ろうとしたり、周りで泣いている家族や家臣たちに声をかけてみたりした。


  しかし、冷たくなった体はすでに魂を受け入れなかった。

  生きている人間たちは、誰も孫策の声に答えてくれなかった。

  触ろうとしたら、空気のようにすり抜けてしまった。


 ここで孫策はようやく、自分が死んだことを理解した。

 そして、この世には目に見えない存在があることを理解した。

 自分がその目に見えない存在になってしまっては、認めざるを得なかった。


(ああ、俺は誤った……。

 神秘の力や死後の世界は、本当に存在したのだ)


 孫策は己の過ちを認めたが、それほど悲嘆はしなかった。

 自分が間違っていたなら、これからはそれを認めて進めばいい。

 人は間違いを犯すものだし、それで全てが台無しになることはない。


  生きている間は、ずっとそうやって過ごしてきた。


 しかし、孫策は分かっていなかった。

 目に見えない力を否定するあまり、自分がどのような大罪を犯したのか……自分がどんな尊いものに手をかけたのかを。

 その時はまだ、孫策は人の及ばぬ尊い存在を認めていなかったのである。



 死んでからしばらくは、袁紹と同じような感じだった。


  何をすればいいのか、どこに行けばいのかも分からない。

  周りの死者は何かに導かれているのに、自分には全くお呼びがかからない。


 しかし、孫策は袁紹のように絶望して泣いていた訳ではなかった。

 そんな訳の分からない状況でも、自分で道を探ろうとしていたのである。


(聞いたことがある。

 死者の霊は、土地神の導きに従って冥界への道を歩むと)


 生前の記憶に従い、孫策は近くにあった土地神の廟を訪れた。


「おい、土地神よ!

 死者を導くのがおまえの仕事であろうに、この俺に道を示さぬとは何事だ!!」


 孫策はそう言って廟の扉を叩いた。


 その瞬間、孫策の腕を灼熱の炎が襲った。


「ぐあぁっ!?」


 思わず悲鳴を上げた孫策の前で、廟の扉が開く。

 中には、怒りに顔を歪めた土地神の姿があった。


「ふざけるな、仙人殺しめ!

 天に逆らって于吉仙人を手にかけたくせに、何が道を示せだ!?」


 それを聞いたとたん、孫策はしまったと思った。

 于吉は本当に仙人だったのだ。

 自分の独断で恐れ多いことをしてしまったと、ようやく罪をわびる気になった。


 そう、孫策はまだ、罪を認めて謝れば何とかなると思っていた。

 土地神の前にひれ伏して頭を地面につけ、孫策は己の罪を釈明しようとした。


「仙人を手にかけたことは、誠に申し訳なく思っております。

 しかし、私は今までそのようなものがこの世に存在すると知らなかったのです。

 ただ国を守るため正しいと思う行動をしたのであって、悪気があってではないのです!」


 それを聞くと、土地神は底冷えのするような目で孫策を見つめ、ふんと鼻を鳴らした。


「そうやって、また我々を出し抜こうとしているのか?

 天につながる我々を、二度も手にかけられると思うなよ!」


 土地神は、完全に聞く耳を持たなかった。


「いいか、おまえが本当に何も聞いていなかったなら私も容赦はしよう。

 しかしおまえは、于吉が何者であるか信者たちから散々聞かされたはずだ。それを信じなかったのは、まぎれもないおまえ自身ではないか!」


 土地神は、孫策の言葉を頭ごなしに否定した。


「そのおまえが、悪気はなかっただと?笑わせる!

 おまえは今もどうせ、天を侮って今度は神をも害そうと考えているのだ。

 そのおまえをわざわざ冥界に連れて行くほど、私は愚かでも不用心でもない!」


 土地神は、孫策の言うことを全く信じようとしなかった。

 孫策の存在自体を忌み嫌い、受け入れまいと身を固くしていた。


  まるで、孫策が于吉の力を全く信じなかった時のように。


 そして最後に、土地神は孫策を見えない力で弾き飛ばして廟の戸を閉めた。


  まるで、孫策が有無を言わさず于吉の首をはねた時のように。


 あっけにとられている孫策に、土地神は吐き捨てるように告げた。


「もはや、おまえが冥界に入ることは許されん!

 その腕に刻んだのは、天に逆らう大罪の証よ。

 おまえはそれを背負ったまま、魂がすり減って消えてしまうまで地上を彷徨い続けるがいい!!」


 見れば、炎に包まれた孫策の腕には、黒い刺青のような印が刻まれていた。

 水で洗っても砂でこすっても、それは消えなかった。

 いっそのこと剣で皮膚をはぎとっても、再生した皮膚にはしっかりと印がついていた。


  孫策が死者は体を再生できると知ったのは、この時である。


 体が何度でも蘇ると知って、孫策は一旦安心した。

 しかし、それはすぐに恐怖に変わった。


  体が再生するということは、もう死ぬことができない。

  つまり、本当に魂がすり減って消滅するまで、この怠惰な苦痛は終わらないのだ。

  自分で終わらせることができないのだ。


 そうして、孫策は天に拒絶され、冥界に行けなくなってしまった。


 それでも、孫策はあきらめなかった。

 持前の気の強さで、まだ道はあると信じて探し続けた。

 そうやって彷徨っているところで袁術と再会し、袁紹と出会った。


  これが、孫策の抱える事情だった。

 孫策は自分に非常に自信を持っています。

 常に自信に満ち溢れ、己の信念に一点の曇りもない勝気な性格です。

 しかし、あまりに自信を持って突っ走りすぎると、己の理解できないものを認められなくなることがあります。


 今回もまた、劉備編と同じように孫策ファンの方には不快な内容になっているかもしれません。しかし人はみな長所と短所を併せ持つもの、劉備でも孫策でもそれは同じなのです。

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