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袁紹的悪夢行  作者: 青蓮
第4章~孫策伯符について
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袁紹~金網の部屋にて(2)

 孫策の入れ知恵で、袁紹は小鬼の本当の目的を探ろうとします。

 金網の部屋で待っている小鬼に、裏の袁紹が迫ります。

 小鬼は、相変わらず地獄の風が吹く金網の部屋にいた。

 こんな外見でも非常に長く生きているので、退屈には慣れている。

 いや、むしろ地獄での単調な仕事から離れてつかの間の休暇を楽しんでいた。


(けど、それももうすぐ終わりなんかなあ)


 そう思うと、この何もしなくていい時間が愛しくも感じられた。


(あーあ、いっそこの件が済んだら、ずっと現世の担当にしてくれへんやろか?

 この乱世やし、旦那さんみたいな人材はゴロゴロおると思うんやけどな)


 小鬼は別に休暇を与えられてここにいる訳ではない。

 こうして袁紹に力を貸して監視するのも、地獄から与えられた仕事の一環なのだ。

 ただこの仕事は、地獄での仕事よりだいぶ楽で変化が楽しめるので、小鬼は気に入っていた。


「何を考えておるのだ?」


 小鬼の静かな時間は、仕事の相手によって遮られた。

 慌てて顔を上げると、裏の袁紹が目の前に立っていた。


「あ、ああ、裏の旦那さんか……!

 弟さんは、捕まえたんか?」


 小鬼が尋ねると、裏の袁紹は暗い表情で下を向いた。


「え、まさか……駄目やったん?」

「そんな訳があるか!!

 これからだ!!」


 思ったことを口にしたとたん、小鬼は袁紹の怒鳴り声に首をすくめた。

 裏の袁紹は感情の起伏が激しく読みづらいので、小鬼も対応するときはびくびくしている。

 もっとも、地獄での仕事にはこれくらいの方が向いているのかもしれないが。


「まだだ、これから、表と二人であやつを捕らえに行く。

 だが、その前に一つ聞きたいことがあってな」


「何でしょ、ボクに答えられることなら、答えまっせ?」


 内心、何だろうと思いながら、小鬼は袁紹の問いに聞き耳を立てた。

 この前の劉備の一件で、この世界のシステム面に疑問が生じたのだろうか。


 小鬼の予想をよそに、袁紹は憎しみに焦がれた顔をしてこう言った。


「袁術を捕らえて地獄に落とす、ここまではよい。

 問題はそれからだ。

 袁術は地獄の底で、わしではない誰かに罰を受けることになるのだろう?」


「ん、まあ、そうやけど……」


 その答えに、袁紹は悔しそうに首を振った。


「そこが納得いかぬ!!

 そもそも罪人によって辛い思いをしたのは被害者なのだから、罰するのは被害者であるべきなのだ。

 袁術が地獄に落ちた後、わしが地獄までついて行って奴を罰することはできるのか?」


 それを聞いたとたん、小鬼は小躍りするほど喜んだ。

 相手がその気になるまでにはまだまだ時間がかかるだろうと思っていたが、予想よりはるかに早く仕事が終わりそうだ。


  まさか、自分から地獄行きを希望してくれるとは。

  願ったり叶ったりだ。


「旦那さん、本当に、それでええのん?

 一旦地獄に行ったら、もう救ってはもらえへんねんで」


「構わぬ、息子にも仁君と名高い劉備にも拒絶された今、もはや救いは望めぬ。

 それに時間が経てば経つほど、わしを知っていて救える者は少なくなる。

 このうえは、せめてわしをこのようにした袁術に何倍、いや何百倍の苦痛を返してくれる!!」


 袁紹の表情は、黒い激情に染まっていた。


 小鬼は少し胸が痛んだが、仕事が終わる安堵の方が大きかった。

 まだ少し早いかなとは思ったが、物事にはタイミングがあると思い直した。

 怒りに息を荒らげている袁紹に、胸を張って説明する。


「分かりました、旦那さんが地獄に来たら、弟さんのところで働けるようとりなしましょ。

 せっかく来てくれるんですもん、そのくらいの世話はしますわ!」


 嬉しそうにはしゃぐ小鬼に、袁紹は少し目を細めた。


「奴を苦しめる道具は、支給してもらえるのだろうな?」


「あ、それは今の悪夢と同じやから心配しなさんな。

 旦那さんが思えば、どんな残酷な責め苦も思いのままですわ。

 地獄に行けば、旦那さんが生み出したものは全部旦那さんの好きに動かせますよってに、心配無用ですわ」


「ほう、ではこの悪夢はそれの練習のようなものか?」


「まあ、そういうことでんな。

 大丈夫やて、旦那さんはもう十分使いこなせてるやん。

 旦那さんなら、きっと皆の期待に応えるええ獄卒になれますわ~!」


 そのとたん、袁紹の剣を握る手に力が入った。



 びちっと、足元で何かが跳ねる音がする。

 気がついたら、小鬼の足は粘着する血のような汚れにからまれていた。


「え?」


 小鬼が事態を把握する前に、その細い首に剣がつきつけられていた。

 逃れようとしてみたが、足だけでなく頭もしっかりと掴まれて動けなかった。

 目の前に、怒りを浮かべた裏の袁紹の顔がある。


「な、何するん……?」


「ふざけるな、やはり私を騙していたのだな!!」


 その一言で、小鬼は自分の失敗を悟った。

 袁紹は、疑いをもって自分を試していたのだ。


  うかれて聞かれたこと以上にしゃべってしまったのは、うかつだったとしか言えない。


 裏の袁紹は、小鬼の首に白銀の刃を押し当てて言った。


「逃げようと思うなよ?

 おまえには聞きたいことが山ほどある。

 もうすぐ表がここに来るから、大人しく質問に答えよ」


 小鬼は、動けなかった。


  小鬼は地獄の住人であるからして、普通の人間の武器では傷をつけられない。

  しかし、地獄の力を貸している今の袁紹なら話は別だ。


 しかも、小鬼自身の権限で力を貸している訳ではないため、即座に取り上げることもできない。

 小鬼だって、もっと大きな意志の下っ端に過ぎないのだ。


(あ、あかん……こんなの、想定してへん!

 あの意志の薄い旦那さんが、何でこんな……!?)


 しかし後悔してももう遅い。

 小鬼は裏の袁紹に捕まったまま、表の袁紹を待つことしかできなかった。

 小鬼は間違いなく、袁紹を地獄に連れていくことを望んでいました。

 孫策の作戦とは、袁紹自身からその話を切り出すことだったのです。

 袁紹は何も考えていないものとたかをくくっていた小鬼は、見事にはまって本当の目的をしゃべってしまいました。


 次回、孫策が小鬼と向き合い、孫策の事情が明かされます。

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