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袁紹的悪夢行  作者: 青蓮
第4章~孫策伯符について
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孫策~裏廃村にて(3)

 孫策は袁紹が小鬼を疑い、ひいては死後のシステムの解明に迫るよう画策します。

 孫策は袁紹と直接関わってはいませんが、父孫堅が何度か袁紹の猜疑心の被害に遭っています。孫策はその猜疑心を逆に利用しようとするのです。

 停滞し、澱んだ悪夢に孫策の知略が冴えわたります。

「まあ、まだ騙されていると決まった訳ではない。

 ならば、騙されていないと確証が欲しくはないか?」


 孫策はいたずらっぽく、袁紹にささやく。


 とたんに、袁紹の顔にみじめなほど不安が広がった。

 己の中で暴れまわる猜疑心を、制御できなくなっているのだろう。


  袁紹は外見は寛容なふりをして、本心は小心者で疑い深い。

  孫策が父孫堅から聞いた言葉だ。


 かつて董卓討伐の戦で孫堅が先陣を務めた時、袁紹は孫堅が天下を狙っていると疑って食料を送らなかった。

 最初はなにも考えていなくても、一旦疑いを持つと止められなくなるようだ。

 今こうして実物を目にすると、非常によく分かる。


  袁紹の猜疑心の深さを知らされたことは、それだけではない。


 さらに、袁紹は孫堅が朝廷の玉璽を手に入れたと聞くや、すさまじい勢いでそれを問い詰めてきた。

 他の太守たちの前で一方的に追求し、孫堅が持っていないと言ってもなお証拠を出せとまくしたてた。

 そのうえ、孫堅が引き上げようとすると、独断で追撃して多くの将兵の命を奪った。


  もっともその件については、袁紹だけを責めることはできない。

  孫堅は実際に玉璽を持っていたし、孫策もそれを隠していたのだから。


 今大事な事は、袁紹がその小鬼を疑うように仕向けることだ。

 そうして小鬼を追い詰めれば、自分にも新たな道が開けるだろう。


「そうだ、袁紹。

 我が父がそうであったように、直接聞いても本当の答えは帰ってこない。

 だから、袁術のことにかこつけて小鬼にこう聞くのだ……」


 孫策は震えている袁紹の耳元で、ひそひそと何かをささやいた。



 裏の袁紹は、歯がゆさを噛みしめながら館の前に立っていた。

 目の前にあるのは、袁術の実家だ。

 かつて、袁紹が叔父袁成の養子となる前は、袁紹の実家でもあった。


「おのれ、術め……!」


 裏の袁紹の体には、いくつも細かい傷がついていた。


  かつての恐怖と劣等感の影響で、怪物の一部が制御から外れているのだ。


 袁術は愚かで、自分には敵わないと思う。

 しかしそれは今の話で、かつての記憶は未だに袁術に逆らったら殺されると頭のどこかで叫んでいる。

 袁術と彼に味方する者を恐れ、逃げ出そうとする。


 そのせいで怪物の一部……というか大半が袁紹に襲い掛かる存在に変わってしまった。

 怪物の大半が、袁術とその母への恐怖を体現しているせいで。


  そもそも、悪夢を完全に制御できる訳がない。

  悪夢は見たくて見るものではないし、恐怖や葛藤も欲して得るものではない。

  不本意な感情が暴走した結果、自分を害することもあるのだ。


「術め、よりによってここに逃げ込むとは……!」


 裏の袁紹は、忌まわしい館を前に立ち尽くすしかなかった。


 袁術とその母への恐怖が詰まったこの館は、今や裏の袁紹にとってすら危険地帯なのだ。

 劉備との戦いで大幅に希望をすり減らされ、消耗しているのも一因だろう。

 今、制御から外れた怪物蠢くこの館に入ったら、袁紹自身でも二度と帰れない可能性が高い。


  そこから逃げられないまま何度も気絶しては再生し、ゆっくりと正気を失うのだ。


 このままでは、裏の袁紹一人で袁術を捕らえるのは不可能だ。

 そうして攻めあぐねる裏の袁紹に、表の袁紹から思念が届いた。

 悪夢の怪物は袁紹の感情から生まれますが、袁紹自身が己の感情を制御しきれていないことは明らかです。

 今回、袁術に対する感情の揺れが激しすぎたせいで、怪物の一部が袁紹の制御から外れてしまいました。


 こうして進めなくなった裏の袁紹も、孫策の提案に従うことになるのでした。

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