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袁紹的悪夢行  作者: 青蓮
第4章~孫策伯符について
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孫策~裏廃村にて(2)

 袁紹は孫策に、自らの身の上を語ります。

 袁術の敵だという孫策を、一応味方と認識したのです。


 今回の孫策の話は、人間関係というよりは袁紹が手にした力についての謎に迫ることになります。

 そういった意味で、これまでの話とは違った展開が期待できるでしょう。

「ふぅーむ……」


 話を聞き終わると、孫策は興味深そうにため息をついた。


 袁紹の話には、弟袁術への恨み言が満ちていた。

 曰く、袁術とその母が名家の威光をもって自分を追い詰めたため、魂が割れてしまい冥界に行けなくなったという。


  孫策が覚えている限りでも、袁術の袁紹に対する侮辱は尋常ではなかった。

  そこから考えると、これはまず真実とみて間違いないだろう。


 問題は、そこから先だ。


 袁紹は地獄の死者と名乗る小鬼に地獄の力を与えられ、現世に干渉できるようになったという。

 その目的は、現世の人間や他の霊に魂を直す手伝いを求めるものだ。

 しかし、袁紹はその力を使って、憎い者の魂を地獄に落とすことができたという。


  もし本当に救われるための力なら、そんな事ができていいのか?


 孫策は、そこに違和感を覚えた。

 与えられた力の性質と目的が、どう見てもくい違っている。


(自分の気持ちを伝えるために悪夢を顕在化する……そこまでは分かる。

 しかし、それで自動的に相手を攻撃する仕様では、救いを得るには不便すぎないか?)


 それに、小鬼の行動も不可解だ。


 袁紹が救われるのが目的ならば、巻き込んだ者を地獄に落とすのは不都合なはずだ。

 それを止めようともしないのは明らかにおかしい。

 それに、もっと根本的な問題がある。


  そもそも、地獄の住人が浮遊霊を救うためだけにわざわざ出向いて来るのか?


 その小鬼には、どうも別の目的があるような気がしてならなかった。


「そうか、だいたい話は分かった。

 袁紹殿のお気持ちは、痛いほど伝わりました」


 孫策はとりあえず、袁紹の告白を受け入れる返事をした。

 気持ちが分かる、とは言わなかった。


  正直、袁紹がそこまで袁術を憎む気持ちは孫策には理解できなかった。

  孫策自身がそこまでの虐待を受けたことがないので、当然だ。

  孫策にとって、兄弟や一族とは常に仲良く協力して暮らす存在だった。


 だが、仮に自分がそうだったとしたら弟を殺したくなるだろうなとは思った。

 その気持ちを、何か良からぬものに利用されることもあるだろう。


  今の袁紹のように。


 そう考えるとこのまま放ってはおけなかった。

 このまま袁術相手に復讐を成し遂げても、袁紹が欲している救いは得られない……そんな気がしてならなかった。


 ここでこうして出会ったのも何かの縁だ。

 ならば、自分の退屈にしかならない時間をこの男のために使ってやろうじゃないか。

 孫策はそう思い、袁紹に尋ねた。


「ところで袁紹殿、あなたが地獄に落とした魂はどうなったのかな?」


 それを聞くと、袁紹はふしぎそうな顔をした。


「どうなった……と言われても……。

 地獄の底で、責め苦を受けているのではないか?」


 やはり、ありきたりな答えが返ってきた。

 案の定、袁紹はそのことについて深く考えていないらしい。


「では質問を変えようか、貴方が人を地獄に落とすことで、誰が得をするのかな?」


「む……」


 孫策がもう一歩踏み込んで聞くと、袁紹は黙ってしまった。

 救いを求めるはずの力で、できることの不条理に気付いたのだろうか。


「袁紹殿自身が得をしないことは、まず間違いないだろう。

 復讐心は満たせても、貴方の魂は確実に罪に染まっていく。

 それも、本来人間が犯すことができないような罪に」


 袁紹の表情が、苦々しく変わった。

 そこまでは分かっていたのかもしれないが……あくまで自分の責任だと思っているのか。


「果たして、袁紹殿にそのようなことをさせたのは誰か?

 その人外の力は、本来袁紹殿の責任で使えるものではない。

 それに……地獄に落ちる者が増えて喜ぶのは、地獄の住人くらいなものだろう?」


 そこまではっきりと言ってやると、袁紹はぎゅっと目をつぶって首を振った。


「やめよ!あの小鬼を悪く言うな!!

 あの小鬼は、何もできぬわしに、唯一救いの道を示してくれたのだ!!」


「貴方が何もできなかったから、だろう?」


 認めたくないと駄々をこねる袁紹に、孫策はさらに詰め寄る。


 ここまで話して分かった。

 袁紹は確実に、その小鬼に騙されている。

 救われぬ身の弱みにつけこまれて、地獄落としの道具にされている。


  袁紹が他人を地獄に落として得をするのは、間違いなくその小鬼だ。


(哀れな……肉親どうしで争って、ここまでなるものなのか)


 話を聞けば聞くほど、孫策は袁紹がかわいそうになった。

 生前は弟に傷つけられて魂までぼろぼろになり、死後にまでそれを利用されてしまうとは。


 それに、ここで袁紹に恩を売っておけば、自分の目的にも協力してくれるかもしれない。

 袁紹のことは抜きにしても、その小鬼には会ってみたかった。

 地獄の住人であれば、自分のこの状況についても何か状況がつかめるはずだ。


  これは逃すことのできないチャンスだ。


 孫策は、意を決して話を続けた。

 孫策はとことん現実的で、物事を客観的に見つめることができます。

 彼は袁紹自身が気づかなかった、力の不条理に鋭くメスを入れていきます。

 もっとも、そのデジタル過ぎる思考がもとで彼は今のような身の上になってしまったのですが、それはもうすぐ語られます。

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