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袁紹的悪夢行  作者: 青蓮
第3章~劉備玄徳について
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劉備~深淵の地下牢にて(4)

 袁紹はようやく劉備を袁術のもとに連れ込み、救われるシナリオを完結させようとします。

 劉備が自分と袁術を比べることで自分を救うべきであると判断し、袁術を地獄落としにしたうえで劉備に救われる…これが袁紹の描いた筋書です。

 果たして、劉備は袁紹を受け入れてくれるのでしょうか。

 石牢の部屋では、裏の袁紹がにやにや笑いながら袁術を見下ろしている。

 さっきまで振り下ろされていた鞭は止まっていたが、袁術の顔は色を失っていた。


「さあ、もうすぐ劉備が来るぞ」


 そう言ってやると、袁術は面白いように恐怖に顔を歪める。


「おまえは、生前の行いの報いを受けて地獄に落ちるのだ。

 そして、おまえの犠牲と引き換えにわしは救われる!!」


 改めてそう口に出すと、胸がすく思いだった。


  幼少期はずっと、袁術とその母親にひどい目に遭わされた。

  成人してからも、袁術には迷惑をかけられっ放しだった。

  そして死後でさえ、それらが原因で悪夢とともに彷徨うはめになった。


 ようやく、それから解放される日が来るのだ。


 表の袁紹が近づいてくるのは、気配で分かっていた。

 そして彼が、己の心に無理をかけてまでしっかり劉備を連れてくるのも。


 すでに、小さな戸口の向こうから、足音が聞こえ始めている。

 何よりも待ち望んだ、解放の足音が。


「さて……」


 裏の袁紹は、一度大きく息を吸った。

 胸のつかえを吐き出すようにゆっくりと息を吐き、珍しく悪意のない凛とした表情になる。


  ここが正念場だ。


 裏の袁紹は部屋の入り口の前にたち、祈るように目を閉じた。



 暗い道の先に、扉が見え始めた。

 赤く錆びた、無機質な鉄の扉だ。


「ここに片割れと弟がいる。

 玄徳よ、よくここまで耐えてくれた。礼を言うぞ」


 表の袁紹はできるだけ優しい口調で、後ろにいる劉備に感謝を述べた。

 あくまで前を向いたまま、目を合わせずにだが。


  袁紹の眉間にはしわが寄り、顔はひきつっているのを悟られないために。

  耐えているのは、こちらだ。

  よくここまで頑張ったと、本当に自分をほめてやりたいと思う。


 今、劉備たちは事態を理解しかねているだろう。

 この場であまり不自然な表情を見せるべきではない。


 大丈夫だ、後は裏の自分に任せてうまく事を運んでもらうだけだ。

 袁紹は胸に広がる安堵を感じながら、扉に手をかけた。



 ぎぃっと重い音がして、錆びついた扉が開く。

 その先には、確かに袁紹にそっくりなものが佇んでいた。


  全身が血に塗れた姿の、もう一人の袁紹だ。


 裏の袁紹は、劉備たちが部屋に入ると礼儀正しく頭を下げた。


「このような所まで、よく参られた。

 おぬしの慈悲に、心から感謝する」


 そうやってあいさつしてやると、身をこばわらせていた劉備たちの表情が和らいだ。

 しかし、劉備の表情はすぐに厳しいものに変わった。


「袁術……!」


 劉備の目は、早くも拘束されている袁術を捉えた。


「あっあの野郎!!」


 関羽と張飛も、怒りを露わにする。

 当然だ、劉備たちは民の味方として、暴虐の偽帝であった袁術を討伐したのだから。


  袁術がどんな悪政をしてきたかは、むしろ劉備たちの方がよく知っている。


 袁術に歩み寄る劉備に、裏の袁紹は静かに告げた。


「おぬしの助けを求めるなら、わしも何か民のためになることをせねばと思ってな。

 といっても、わしはもう死んでおるから……せめてこの世に残っている暴君の魂を始末しようと思い立った」


 袁術の無残な姿を、憂いをこめた目で見ながら、裏の袁紹は続ける。


「そして彷徨っているこやつを見つけ、ここに捕らえておいた。

 我が弟ゆえ心苦しいが……こやつをこの世に放置してはならぬと思った。

 劉備よ、どうか今一度、こやつに引導を渡してやってほしい」


 それを聞くと、劉備はごくりと唾を飲んだ。

 そして、怒りを抑えるように一度深呼吸し、裏の袁紹の顔をしかと見据えた。


「袁紹殿のお気持ちは、よく分かりました。

 しかし、引導を渡す前に、確かめることがあります」


 裏の袁紹にも、それが何であるかはすぐに分かった。


  袁紹の幼少時の真実を、確かめようというのだろう。


 そうでなくてはと、裏の袁紹は心の中でほくそ笑んだ。

 そうでなくては、表の袁紹がこんなにひどく消耗してまでここに連れてきた意味がない。


 劉備の顔が、袁術の顔に近づく。


 袁術の目が、これ以上ないほど恐怖に見開かれた。


「な、何だよ……てめえも結局、兄貴の味方なのかよ!?

 お、おれは……皇帝なんだぞ!!」


 震える声で、もはや意味をなさない言葉を絞り出す。


「ちくしょう、どいつもこいつも……おれは袁家の嫡子なんだぞ……。

 兄貴や曹操より、ずっと偉いんだぞ!?

 なのに、何で……何でみんなして、娼婦の子や宦官の孫を盛り立てるんだよ!!」


「……その娼婦の子というのは、袁紹殿のことですね?」


 都合よく袁術が発した言葉を、確認するように劉備が問う。

 すると、袁術はニヤリと笑って劉備に言った。


「ああ、そうだ。あいつは売ってる女の腹から生まれたんだ。

 ちゃんと夫に仕える堅気の女から生まれたおれやおまえとは違うんだよ!

 分かるよな、母親思いのおまえなら?」


「それは私を惑わすための嘘ではないのですか?

 おまえは……簡単に嘘をつく人間だから」


 劉備が懐疑の眼差しとともにそう言ってやると、袁術は大慌てで首を振った。


「う、嘘じゃねえ!

 こいつは本当に娼婦の子なんだ、名家の当主になんかなれる奴じゃないんだ!!

 嘘だと思うなら、袁家に昔から出入りしてる人間に聞いてみろ!?」


 そこまで言われても、劉備は事の真偽を図りかねていた。


 袁術は偽りの多い人間だ。

 それに……袁紹も今は素直なふりをしているが、生前はそれなりに汚い手も使っていた。

 他人に聞けと言われても、今この世界にいない人間には聞きようがないではないか。


 判断できずに戸惑った末、劉備は関羽と張飛に声をかけた。


「おまえたちはどう思う?」

 袁術の反応は袁紹の思ったとおりで、袁紹の幼少時の真実をきちんと劉備に伝えてくれました。


 しかし、劉備はまだ迷っています。

 義兄弟たちの意見、そして袁紹の反応如何によっては…この章も終わりに近づいてきましたが、まだまだ先は分かりません。

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