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袁紹的悪夢行  作者: 青蓮
第3章~劉備玄徳について
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劉備~愛惜の館にて(3)

 劉備が早くも袁紹と対面です。

 今回は袁紹の方が早く救われたいと焦っているため、劉備たちはそれほど危機に陥ることなくここまで来ることができました。袁紹も、劉備たちに悪夢を掘り返されたりして傷つくことはありませんでした。


 スラスラと進んで終わりも近いように思えますが、こんな時ほど落とし穴があるものです。

 ようやくたどり着いたのは、楼閣の最上階にある一番広い部屋だった。

 しかし、楼閣の持ち主の部屋、という訳ではないようだ。

 そこも他の部屋と同様、女が男をもてなすための部屋だ。


「ここで、行き止まりか……」


 張飛が息をのんでつぶやく。

 おそらくこの部屋に、怪異の元凶であろう魔物がいる。


「いくぞ、二人とも。

 ぬかるなよ!」


 劉備はじわりと汗のにじむ手を、扉の取っ手にかけた。


 ばん、と勢いよく部屋の扉を開け放つ。

 すぐさま関羽と張飛が前進して、部屋の中を見回す。


「おまえは……!」


 その広い部屋の窓際に置かれた、豪華なベッドの前に彼はいた。


  間違いない、劉備をこの恐ろしい場所に誘い込んだ、あの忌まわしい少年だ。


 劉備は今一度、その子の顔をじっと眺めた。


  育ちの良さを感じさせる整った面立ち。

  気品さえ感じられる洗練されたしぐさ。

  しかしその表情は、どこか意識が遠くにあるようにうつろだ。


 確かに、この表情は記憶の中のあの人にそっくりだった。

 数年前にあの人と話した時、実際にこの身で感じた、まさにその印象そのものだった。


 少年は恐れる様子もなく、微笑みすら浮かべてそこに座っていた。

 そして劉備たちの姿を見ると、唐突に立ち上がった。


「すまぬ、このような場所に引き込んだこと、まずは詫びよう」


 身構える劉備たちに向かって、少年は意外にも頭を下げた。

 彼の声は幼いままだが、口調は明らかに大人のものに変わっている。


「事情あって、誰かの助けが必要なのだ。

 それゆえ、危険を承知で呼び込んだ。

 何も知らせずに恐ろしい目に遭わせたのは、悪かったと思っている」


 少年は確かに、すまなさそうな顔をしている。

 それでも警戒は解かないまま、劉備は少年に話しかけた。


「あなたは、私を知っているようですが……?」


「うむ、わしは生前、そなたに会っておる。

 その縁をもって、今少し力を貸してはもらえぬだろうか?」


 少年はすがるように言った。

 だが、劉備はこれが真実なのか罠なのか決めかねていた。

 それを代弁するように、張飛が少年をしかりつける。


「やいやい、人様に何か頼むときはまず自分から名乗りやがれ!

 正体を見せねえ野郎をホイホイ手伝う馬鹿がいるか。

 手伝ってほしいなら、てめえの本当の姿を見せてみろってんだ!」


 それを言われたとたん、少年の顔が引きつった。

 その反応に、関羽が少年に青龍刀を向ける。


「正体を見せられぬようでは、妖怪と思われても文句は言えぬぞ?」


 少年は観念したように肩を落とした。

 そして、不安を露わにした目で劉備たちを見上げて告げた。


「分かった、ならば本当の姿を見せよう。

 ただ、そのためにはまた少々気分の悪いものを見せねばならぬぞ。

 ……あのようなもの、そなたには見せたくなかったが……」


 少年は大きく息を吸い、ため息をつくようにゆっくりと吐き出した。

 そのとたん、劉備の周りの景色がぐにゃりと歪む。


「何だ!?」


 戸惑う劉備たちの前で、ぼやけて見える少年の姿が成長していく。

 背はすらりと高く、シルエットは品のある立ち姿で、この異変にも全く動じる気配はない。

 やはりこの怪異は、この男が起こしているとみて間違いないだろう。


  部屋の床板の表面が劣化してはがれ、血のような汚れが広がる。

  ベッドの飾りやカーテンは歪み、破れ、まがまがしい形に変わる。

  辺りが急に暗くなり、赤みがかった闇が周囲を覆っていく。


 再び視界がはっきりした時、世界はこれまでよりずっと深い悪夢に変じていた。

 館が裏世界に変貌しましたが、今回はこれまでと違って袁紹に相手を怖がらせるつもりがありません。劉備たちも、それなりに冷静に事態を受け止めています。


 今回は間違いなく、これまでとは異なるシナリオになるでしょう。

 それが良いか悪いかは、別として。

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