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袁紹的悪夢行  作者: 青蓮
第3章~劉備玄徳について
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劉備~愛惜の館にて(1)

 新たなフィールドで、新たなクリーチャーが出現します。

 遊郭を思わせる館に出現するそのクリーチャーを見て、劉備たちは何を思うのでしょうか。そしてそれは、袁紹のどのような悪夢を象徴しているのでしょうか。

 楼閣の中は、相変わらず静かだった。

 怪物はいるが、外よりは少ない。

 部屋にはきれいな調度品が並べられ、そこにいたであろう遊女の生活感すら感じられた。


  美しく整え、活けられた花。

  一般の娼婦とは一線を画する、上品な品の数々。


 ただ、それは全くといっていいほど人間のもので、劉備たちが想像した妖怪じみたものではなかった。

 女さえいればいつでも客を迎えられる優美な雰囲気が、そこにはあった。


「母上ーっ!」


 突如として、さっきの少年の声が廊下に響いた。

 驚いた劉備たちが部屋から出ると、少年が廊下の角を曲がっていくのが見えた。


「どうする、兄者?」

「追うぞ、手がかりはあれしかない!」


 張飛の問に短く答えて、劉備は少年を追って走った。

 そして角を曲がったとたん、今度は急に止まるはめになった。


 そこにいたのは少年ではなかった。

 人間でもなかった。

 外にはいなかった、新種の怪物だ。


  柔らかそうな肌に包まれた歪な肉塊。

  そこから、4本の手と4本の足が突き出している。

  よく目をこらして見れば、二人の人間がからみあっているかのような……。


 それを目にしたとたん、劉備は吐き気を覚えて口を押さえた。


 だが、その反射は正しかった。

 怪物はこちらに気付くや否や、体の前面にある口からべたべたの粘液を吐き出してきた。


「ぶぇっ何だこれ!?」


 その攻撃は意外に遠くまで届き、関羽と張飛も顔面にそれを食らってしまう。

 特に毒はないようだが、気持ち悪いことこの上ない。

 威力はなくとも、こんなものを食らってひるまない者は滅多にいないだろう。


「大丈夫か、二人とも。

 次が来る前に仕留めるぞ!」


 劉備は怪物に向かって走りこみながら、すらりと右手で剣を抜いた。

 同時に、左手を鎧の中に突っ込み、もう一本の短剣を抜き放つ。

 雌雄一対の剣による二刀流、これが劉備の戦い方だ。


「どけっ!!」


 動きののろい怪物の、まずは足を薙ぐ。

 重そうな体から足を2本切り落とすだけで、怪物の動きは格段に悪くなる。

 それを補うかのように、突き出した手の一部が床についた。


  それでもまだ、怪物には三本の手がある。

  二本を二刀でしのいでも、その間をぬって一本の手が劉備をつかむ。


「くっ!?」


 たった一本なのに信じられない力の強さだ。

 決して放さぬとでもいうように、劉備を無理矢理に抱き寄せる。

 歪な胴体の肌に、突如として鋭い歯の生えた口が現れた。


「あっ!!」


 劉備は大きく目を見開いたが、もう自力で反撃できる体勢ではなかった。

 思わず顔を歪めた劉備の耳元で、風が唸った。


  ざばっと肉が裂け、血潮が飛び散る。


 劉備がほおに風を感じた時には、怪物はきれいに二つの肉塊になっていた。


「兄者、ご無理はおやめください」

「ああ、すまぬ関羽……」


 心配そうに顔をしかめる関羽の前で、劉備は心底すまなさそうな顔をした。

 また、情に流されて罠にはまり、助けられてしまった。

 自分は一体何度これを繰り返すのだろうと、劉備は自嘲した。


「で、どうするんだ、兄者?」


 二人に水を差すように、張飛が口を挟んだ。

 張飛の視線の先には、廊下に点々と続く足跡がある。


「これを辿っていきゃ、あのガキんとこに行けるかもしれないぜ?」


 劉備は着物の汚れを払うと、気を取り直して前を向いた。


「行こう、我々には民を守る義務がある。

 たとえ罠であろうと、この先に潜む魔物は倒さねばならぬ」


 劉備は、足跡を辿って歩いた。

 怪物は意外なほど少なく、遠くに見つけたものは襲ってこないこともあった。

 それが逆に、不気味に思えてくる。


「くっ……うくっえうっ……」


 突然、誰もいない廊下に子供の泣き声が響いた。

 声は、さっきの少年にそっくりだ。


「会わせて……母上に会わせて……」


 劉備たちが黙って聞いていると、声は劉備たちの側から少しずつ遠ざかっていく。

 それに呼応するように、かすれていた足跡が急に鮮明に浮かび上がる。


  きれいに磨かれた床に、濡れたような足跡がぽつぽつと続いていく。

  足跡の周りには、まるで姿の見えない少年が泣いた跡のように小さな飛沫が散りばめられていた。


 罠かもしれないと思っても、劉備の心はちくちくと痛んだ。

 この怪異は魔物のものでも、この痛みは人間のものであるように感じられた。

 だとしたら、少年はただ、無念を利用されているだけかもしれない。


(どちらにしろ、まずは正体を見極めねば)


 劉備は姿なき声について、楼閣の階段を登っていった。


 裏の袁紹が心を落ち着けているため、今回は怪物たちがあまり積極的に襲ってきません。袁紹自身が、劉備を受け入れようと努力しているからです。


 しかし、逆に劉備はその意図を計りかね、これまでの「自分に悪意がなくても害された」経験からいつもより疑い深くなってしまっています。

 果たして、袁紹は劉備に事情を聞いてもらえるのでしょうか。

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