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袁紹的悪夢行  作者: 青蓮
第2章~袁譚顕思について
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袁紹~追憶の実家にて(2)

 袁紹の記憶はまだ続きます。今回のキーパーソンとなっている袁紹の三人目のお母さん、彼女もまた心に悪夢を抱えた人間でした。

 今でも結婚して子供ができないと両家の親から重圧がかかるというのに、子供を残すことが最高の孝行とされる儒教の国で、しかも名門の血統を託されて結婚した彼女が、子がいないことでどれだけ精神的に追い詰められていたかは想像に難くありません。

 そんな彼女の妄執が袁紹を追い詰め、悪夢は連鎖していったのです。

「お静かになさい!!」


 気がついたら、彼女は目の前の子供に手を挙げていた。

 ほぼ無意識にその手は振り下ろされ、ぱーんと乾いた音が響く。


「いやああぁ!!」


 袁紹はじんじん痛むほおをかばうように、体を丸めた。

 そこで初めて、彼女は自分が子供を殴ったことを認識できた。


(あ、あら……?)


 彼女は一瞬、自分が何をしたか理解できなかった。

 自分は子供を殴った、袁紹はそれを怖がって泣いている。

 これでは、まるで……。


  あのいやらしい袁術の母と同じじゃないか。


(ち、違う、これは違うのよ……!

 私は、あんなひどい事をしないわ!)


 彼女は、自分を説得するように言い放った。


「そう、これは躾なのよ!

 あなたが将来袁家の当主になって、輝かしい人生を送るための!」


 彼女はそう言いながらも、袁紹に手を挙げては振り下ろしていた。


  だって、妾の子として蔑まれて一生を送るよりは、袁家の当主として生きたほうが幸せでしょう?

  あなたのために言っているのよ。

  これはあなたを幸せにするための、愛の鞭なのよ。


 そう自分に言い聞かせながら、彼女は袁紹に暴力を振るった。

 しかし、袁紹にとってその行為は袁術の母と同じだということに変わりはない。

 養子に出しても一向に良くならない袁紹の様子から、袁逢はついにそれを察知するに至る。


  そこで彼女が袁逢に出した弁明の手紙が、先程袁譚が読んだものだ。


<私もできることなら、あの子を傷つけたくはありません。

 でも、あの子はあの娼婦を思って泣き叫ぶ限り、袁家の当主にはなりえませんわ。

 私はあの子のために、心を鬼にしているのです>


 変化は、袁紹の方にもあった。

 疲れ果てた袁紹に、彼女はこう言ったのだ。


「私を母だと思いなさい。そうしたら、私はもう殴らないから。

 1日耐えれば次の1日、3日耐えれば次の3日は優しいお母さんでいてあげるから。

 あなただって、毎日痛いのは嫌でしょう?」


 始めは袁紹も、信じていなかった。

 しかしある日、もうどうでもいいと思って彼女をお母さんと呼んだら、本当に殴られずに撫でてもらえた。


(ああ、こうすれば痛い目に遭わずに済むんだ!)


 それに気づいた袁紹の行動が変わるのは早かった。

 袁紹はそれから毎日のように彼女を母上と慕い、孝行するようになった。


  しかし、本当の母のことを忘れることはできなかった。

  袁紹は毎日のように、夜になると本当のお母さんに会いたいとこっそり涙を流した。


 それが彼女に見つかるのに、それほど時間はかからなかった。


 ある夜、袁紹がまた実の母を思って泣いていると、側に彼女が来て言った。


「あのねえ、お母さんはここにいるんだから、もう泣くのはおやめなさい。

 あなたを産んだのは誰でもない、私になったの。

 あなたの母はただ一人、私なのよ!」


 袁紹は泣き止んで顔を上げたが、彼女に向けられた視線は明らかに不信感をにじませていた。

 それがまた、彼女のプライドを傷つける。


  この子だけは誰にも渡さない。

  この子は私以外の誰の子でもない……。


 それに、嫉妬もあった。

 袁逢に気に入られた娼婦はこうして袁紹を産んだのに、どうして袁家当主の妻である自分は子供に恵まれなかったのか。

 そんなどろどろとした感情が、彼女に残酷な言葉を吐かせた。


「あなた……もしかして、またあの地獄の日々に戻りたいの?

 私だけをお母さんとして、ちゃんと袁家の嫡子として務めてくれれば、あなたはもう地獄に落ちなくてすむのに……」


  彼女は袁紹に、実母を捨てればあなたは救われると説いたのだ。


 これまで散々地獄を味わってきた袁紹に、選択の余地はなかった。

 だが、それは同時に袁紹自身の心をも裏切る行為だった。


 実の母を忘れるなんてそんな事はできない。

 しかし、このままでは自分が生きていけそうにない。

 迷った末、袁紹は実の母を慕う心を悪夢とともに切り離した。


  そうして、袁紹の魂は表と裏の二つに分かれた。

  現世で生きるために、冥府への道を閉ざすことになった。


 袁譚は、息も絶え絶えでその苦痛を味わっていた。

 知らなかった、父がこんな体験をしていたなんて。

 袁紹の気持ちは袁譚には理解できないが、無理矢理体に押し込まれる苦痛だけは十二分に理解できた。


 袁紹の悪夢の追体験は、ひとまずここで終わりです。

 次はいよいよ袁譚のボス戦ですが…招かれた場所が前章と異なっているため、ボス敵も同じではありません。


 しかし、勘の良い読者の皆様の中には、すでにボス敵が誰なのか分かっている方もいるかもしれません。

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