袁譚~悔恨の館にて(2)
ようやく袁紹と袁譚が対面を果たします。
しかし、ここまで読み進めた方は知ってのとおり、袁紹は表と裏の二人に分かれてしまっています。ここで袁譚の前に現れた袁紹は、果たしてどちらなのでしょうか?ストーリーの流れと会話から推理してみてください。
わき目もふらずに走っていると、たいていろくな事にならない。
袁譚はいくつ目かの角を曲がったとたん、何かに足をとられて派手に転んだ。
「いった……ていうか、臭い!!」
袁譚の足にからまっていたのは、人の足ほどに太いミミズのような怪物だった。
そしてそれは、鼻が曲がるほど臭かった。
まるで、その場所一帯が厠になったような臭いだ。
怪物は頭をもたげて、口から糞尿の臭いがする液体をばらまいた。
「うぶっ!?」
思わず口を押さえた袁譚の周りに、ぼたぼたと赤黒い液体が降り注ぐ。
あまりの悪臭と屈辱に、袁譚は世界が歪むような眩暈を覚えた。
何で、自分がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。
おれは、何も悪いことした覚えなんてないのに。
袁譚はもう、逃げるしかなかった。
普通に攻撃してくるならともかく、これはすさまじく陰湿だ。
相手の体を傷つけるのではなく、
相手の心をすり減らして折るためだけの攻撃。
生まれながらに名門の長男であった袁譚には、今まで全く縁のないものだった。
いや、少なくとも自分がされたのは初めてだった。
袁譚は息がきれるまで走って、ほうほうの体で開いていた部屋に逃げ込んだ。
「ちくしょう、何だよあいつは……!
このおれに、あんな屈辱を味わわせやがって。
おれは別に悪いことなんてしてないんだよ!」
それに応えるように、部屋の奥から幼い声が響いた。
「悪いことしなくても、やられることはあるよ。
だってぼくは、実際にああいう目に遭ったんだから」
声のした方に目をやって、袁譚は愕然とした。
「お、おまえ……どうしてここに!?」
そこにいたのは、ついさっき袁譚が見捨ててきた子供だった。
確か、怪物に囲まれたまま放り出して、断末魔を聞いたような覚えがあるが……。
あの状況から、どうやって逃げ出してここまで来たというのか。
それも無傷で。
だが、袁譚にそこまでのことを考える頭脳はなかった。
袁譚の心にわき上がったのは、いらぬ心配をさせられたという理不尽な怒りだった。
袁譚はにわかに憎たらしい顔をして、子供をののしり始めた。
「おい、てめえ逃げ道を知ってやがったな!?
だったら、なんでおまえより尊いこの兄を連れて行かなかったんだよ!
兄弟の命を何だと思ってやがる!!」
自分が兄弟と思しきこの子を捨てて逃げたことなどすっかり忘れて、袁譚は子供を責めた。
しかし、子供はさっきのような弱気ではなかった。
「ええー、だって、先に逃げたのはお兄ちゃんじゃん?」
まるで袁譚をからかうように、意地悪く言い返してくる。
袁譚のことなどまるで敬っていないような、人を小ばかにした表情。
袁譚は、自業自得にも関わらず一瞬で堪忍袋の緒が切れてしまった。
「てんめええ!!!」
袁譚は大人気ないほど激昂して、子供につかみかかった。
しかし、袁譚の手が子供に届くことはなかった。
さっき街中の廃屋で経験したあの感覚……世界が歪むような感覚が袁譚を襲い、阻んだ。
周りの景色がぐにゃりと歪む。
袁譚はひどいめまいを覚えて、立ってもいられず床に這いつくばった。
そんな袁譚の目の前で、子供は平然として口を開いた。
「あーあ、やっぱり徹底的にだめだなあこいつは。
こんなのを後継者にと一瞬でも思った自分に反吐が出そうだ」
「な、何、言って……?」
袁譚には、子供の言っている意味が分からなかった。
だってこの子は自分の兄弟で、後継者争いとかそういうのには加わる資格もないはず……。
その間にも、部屋の異変は進行していく。
きれいだった壁や床が腐ったようにぼろぼろになり、血のような汚れがはびこっていく。
子供の足元を中心に、穢れた血が意思あるように流れ出す。
「おまえの頭の悪さは分かってるつもりだったけどね。
いくつヒントを出しても、結局ぼくが誰なのかは分からずじまいでさ!」
その言葉に、袁譚ははっとして子供を見上げた。
子供の体が歪み、だんだん大きくなっていく。
それと同時に、声も徐々に低く、大人びていく。
「私は確かに妾の子、だけどおまえの兄弟などではないよ。
おまえの体には、直接私の血が流れているんだから。
だって私は、おまえの……」
お 父 さ ん な ん だ か ら
さあ、館が裏世界に変貌しました。
サイレントヒルでも、表世界より裏世界の方が危険度は増しますが、その分悪夢の主の心を強く感じ取ることができます。この血塗られた世界で袁譚は何を感じ取り、どのような真実に直面するのか……恐怖もシナリオも加速して、そろそろ中間地点です。