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袁紹的悪夢行  作者: 青蓮
第2章~袁譚顕思について
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袁譚~霧の中にて(4)

 袁紹と袁譚には、幼い頃の状況に大きな差があります。袁紹が妾の子として疎まれていたのに対し、袁譚は初めから名門の嫡子であり長男だった訳です。二人の育つ環境には、当然のように差が出てきます。


 だから袁譚は袁紹の辛さを理解することができません。それが、ここからの惨劇につながっていきます。

 どれくらい時間が経っただろう。

 袁譚は同じ廃屋の中で、目を覚ました。

 さっきの子供が、心配そうにのぞきこんでいる。


「お兄ちゃん、寝ちゃったの……?」


 さっきの会話が嘘のように、あどけない表情だ。


「ん、ん……?」


 袁譚は、起き上がって子供の顔を見つめた。

 さっきあんなに泣き喚いていたはずなのに、子供の顔にそんな気配はない。


(夢……だったのか?)


 どうも頭がぼんやりしている。

 子供は、そんな袁譚を気遣うように告げた。


「あのね、お兄ちゃんが寝てる間にね、霧がちょっとましになったの。

 でも、まだ変なのが時々いるから、僕一人じゃ怖くて……」


 その言葉につられて、袁譚は窓から外をのぞいた。

 確かに、霧は薄くなっている。

 白いカーテンの向こうに、別の建物の影が見えた。


  しかし、その霧はさっきより、ずっと冷たく感じられた。

  霧がほおを撫でたとたん、袁譚はひどい悪寒を覚えてぶるぶると震えた。


(出ていきたくないなあ……)


 袁譚は本能的にそう思った。

 しかし、ずっとこんな所にいてもらちが明かないことは分かっている。

 霧がましになったなら、とりあえず外の様子だけでも見に行くべきだろう。


「しょうがないなあ、あんまり足手まといになるんじゃないぞ」


 着物のすそをぎゅっと握っている子供に、袁譚は語りかけた。

 平民の子でも一応兄弟なんだから、さすがに放り出す訳にはいかない。


  扉を開けたとたん、霧が流れて袁譚の体を撫でる。

  視界は多少きくようになったが、まだどこからか不気味な声が響いている。


 小さな弟を後ろにくっつけたまま、袁譚は白い世界に踏み出した。


 廃屋を出ると、そこは建物に囲まれた道の入り口であることが分かった。

 袁譚自身、どこをどう走ってきたのか分からないが、とにかくここは市街地のようだった。


「離れるなよ、見失ったらもう面倒見きれないぞ」


 部下に命令でもするように言って、袁譚はすたすたと歩き出した。

 子供は袁譚の速さに、小走りでついて来た。

 それでも、袁譚が歩く速さを変えることはなかった。


  だって、なんで名族の自分が平民の子に気を遣わなきゃいけないんだ。

  面倒見てやるだけで、十分慈悲深い兄じゃないか。


 しばらく行って、袁譚はあることに気づいた。

 これだけ歩いているのに、誰一人すれちがう人間がいない。

 街は、まさにゴーストタウンといえるほど静かだった。


(家の中にいるのか……?

 でも、大声で呼んだらあの変な犬が集まってくるかも)


 しーんとした空気の中、袁譚の足音と子供の荒い息遣いだけが響く。

 子供はちょっと前から疲れてはあはあ言っているが、袁譚にはどうでも良かった。


 突然、子供の足音が止んだ。


「ん?」


 ふしぎに思った袁譚が振り向くと、子供は青ざめた顔で立ち止まっていた。

 袁譚は少しいらついて、子供を急かした。


 しかし、子供は立ち止まったまま袁譚のななめ前を指差した。

 子供の足は、がくがくと震えている。


「お、お兄ちゃん……それ……」


 袁譚が気付いて振り返ると、視界の隅に着物のすそが映った。


(なんだ、人がいたのか)


 袁譚は単純にそう思って、声をかけようと向き直った。

 しかし、事はそう単純ではなかった。

 霧の中から現れたのは、人間のようで人間ではなかった。


  顔に、無数の釘で板が打ち付けられている。

  明らかに釘が頭から突き出しているのに、それでも息遣いが聞こえてくる。

  それにこの召使のような上品な着衣…袁譚には見覚えがあった。


(馬鹿な、有り得ない……どうして化け物がこの服を着てるんだよ!?)


 袁譚の脳裏に、汝南の実家での記憶が蘇る。


  名門袁家に仕える、誇り高き召使たち。

  ちょうどこんな服を身にまとって、家のために献身的に働いていた。

  そして、さすが名門のお坊ちゃまですと袁譚に頭を下げて……。


  その感触すら覚えているのに!


 袁譚の背中を、嫌な汗が流れ落ちた。

 さっきの犬の方がまだましだった。

 訳の分からない怪物の中に見知った部分を見つけるのがこんなに怖いことだったなんて、袁譚は初めて気付いた。


 怪物は足を引きずりながら、近付いてきた。

 手には、血のしたたる包丁を持っている。


(こ、殺される前に殺してやる!)


 袁譚は素早く剣を抜き放ち、怪物に斬りかかった。

 迷うことなく走りこんで胸に突きたて、そのまま横に振りぬく。


 どす黒い返り血が、袁譚のほおにかかる。

 きれいな刺繍のスカートをひらつかせて、怪物が倒れた。


(ふん、化け物の分際で!)


 袁譚の心に、罪悪感など生まれようはずがない。


  だってこいつらは、尊いこのおれの体に傷をつけようとしたんだぞ。

  その罪は、当然のごとく死刑に値する。

  それにもし人間だったとしても、こんな下賤な奴らの命など塵みたいなもんだ。

 招かれた人物が違っても、出現するクリーチャーは基本的に変化しません。招かれた場所によって出現するものはありますが、誰がそこに行っても同じ怪物が出現します。


 ただし、その怪物をどのように解釈するかは招かれた人物によって異なりますが。

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