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袁紹的悪夢行  作者: 青蓮
第2章~袁譚顕思について
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袁紹~霧の中にて

 袁譚編は、袁紹と家族のことについて語ることが多いため、前章より一話が長くなることが多いと予想されます。また、袁譚以外にも袁紹の一族でキーワードとなる人物が多いため、そのつど紹介を置いていきます。


 全体的にも、公孫瓚編よりかなり長くなると思います。

「旦那さん、辛かったんやろなあ。

 でも、このままやとほんまにずっとさまよう事になりまっせ~。

 そうならんためには、魂を直さんとあきまへん」


「直せるのか!?」


 二人の袁紹の声が重なった。

 偽りに逃げていようと、悪夢に埋もれていようと、今の袁紹が願うのはただ一つ。

 冥界に行って安らぎを得ることだった。


「どうすればよい!?」


 二人の袁紹が、小鬼に詰め寄る。

 子鬼は二人を見比べて、ちょっとひるんだような声で漏らした。


「ああ……こうして見るとやっぱ一人の人間や。

 でもなあ、この魂を一つにするには、誰か他の人の力が要るんですわ。

 誰かが旦那さんの全てを認めて、許して、生きてていいよって言ってくれたらええねん」


「ほ、他の人だと……!」


 主人格の方の、表の袁紹は肩を落とした。

 姿も見えず声も届かない誰かが、自分を助けられる訳がない。


「何か、手があるのか?」


 血塗られた、裏の袁紹はいぶかしげに目を細めた。


「ま、心配しなさんな!

 そないな人には、地獄の力を貸しますわ。

 そしたら、現世の妖怪と似た感じで他の人に見えるようになりますよってに」


 小鬼は楽しそうにそう言った。


  そう、地獄の力を借りて……。


 かくして袁紹はその力で己の悪夢を顕在化させ、他人を引き込む力を得た。



「さて、どうしてやろうか……」


 裏の袁紹は境目の向こう側から、霧に囚われた哀れな息子を見つめていた。

 体中にまとわりついている血が、うずくように微動した。


「やめろ、本初!

 今回は私が行く!」


 後ろから声をかけてきたのは、表の袁紹だ。


 表の袁紹は裏の袁紹を、字で本初と呼んでいた。

 裏の袁紹もそれは承諾している。

 裏の袁紹が心の深淵に閉じ込められたのは、まだ多くの人が袁紹を字で呼んでいたような年だった。


  袁譚が生まれたのは、それからずっと後のこと。

  だから袁譚は、表の袁紹がずっと相手をしてきた。


「あの子に寄りそうなら、おまえではなく私だ!

 最後に親として、もう一度あやつの真意を問うてみたい!」


 その言葉を聞くと、本初は憎らしげに笑った。


「ふん、あのような男に情けをかける気か?

 それとも、まさかあやつが私を救えるなどという希望を持っているのではあるまいな?」


「うっ……」


 図星を突かれて、袁紹は黙ってしまった。

 目の前にいるのは自分なのだと、改めて思い知らされた。


 本初は戸惑う袁紹を横目に、うんざりしたようにぼやいた。


「つくづく甘い男だな、貴様は。

 あやつの本心がどのようなものかは、あの夜しかと聞いただろう?

 ……ああ、分かった、もう勝手にすれば良い!」


 袁紹の表情が沈むにつれ、本初も眉間にしわを寄せて頭を抱えた。

 やはり袁紹の味わう辛さも、本初にはもろに伝わってしまうらしい。


「ならば行くぞ。

 どちらにせよ、あやつはここに連れてくるつもりだ」


 本初の許しを得て、袁紹はすぐさま剣を置いて立ち上がった。


  久方ぶりに、あの子に会える。

  生前ですら、遠ざけてろくに会わなかったあの子に。


 袁紹は一瞬、親としての愛情に顔をほころばせた。


 袁紹は生前、長男の袁譚を中央から遠ざけていたため、死後内紛の原因を作ってしまいました。その理由は三男の袁尚を溺愛したためと三国志演義には記されていますが、この章ではその辺りの原因を妄想して補完してみました。


 なぜ袁紹が袁譚ではなく袁尚を選んだのか、その理由を悪夢の一つとして描いていきたいと思います。

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