ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
008   共に歩まぬもの、独り待つ身
 慣れていた屋敷の部屋と違って、倍以上は広かったから、侍女を呼ぶにも一苦労だった。
「今日は髪を結い上げて欲しいのよ」
「ただいま用意をしてございます。黄金の瞳(ヒブラ)さま」
「ええ、大公がお待ちなの。早くしてね」
 衣擦れの音が暫く室内を騒がせた。
黄金の瞳(ヒブラ)』――
 そう呼ばれるのにも抵抗は無くなった。
 けして好むものではないが、ユーデリウスが「ルイーザ」と口にするよりは良いのだと思おうとしていた。
「昨夜はようお休みになれたのでございますね」
 ルイーザの長い髪を梳きながら、中年の召使がにこやかに言う。
「やっと慣れてきたの。だって分かるでしょう……?」
 そうでございますとも、と召使は同情的にうなずいた。
 宇宙に覇権をうならせるユーデリウスの居住区に、単身少女が入居したのだ。それも大公の片腕グランス将軍の元から上げられたというから、周囲はついに大公が立后するのだとか、将軍が将来自分の細君にと、育てられていた娘に横恋慕したのだとか、スキャンダラスな噂で持ちきりだったらしい。
 彼らのごく身近な人々は、俗世的な理由でルイーザが大公の傍に召抱えられたとは思っていなかったが。
「昨夜、わたくし観たの」
「まあ、何をでございますか」
「そうね……大公殿下にしか言えないのだけれど…」
「さようでございましたわね…黄金の瞳(ヒブラ)様の言葉はユーデリウス様の意思でございますもの」
 
 

 “わが魂は汝の上に降り注ぎ、
 わが言葉は汝の唇より漏れ出で、
 汝の最後(いやはて)を駆くる時を示したり。
 最後(いやはて)の後に鋼鎖(かなぐさり)は解かれん。
 
 おお、
 知り足るものよ、
 視えたるものよ、
 我は汝を斯く定めたり――”
 
 
(私は…共には歩まぬ者……独り待たねばならぬ身……)
 
 ふと、風がそよぐ中ルイーザは、刻の狭間に、己が囁く言葉を聞いた。


◆主要キャラ

◆小説チャート

◆本館Site

◆イラスト館Blog

・当作品より1千年後 →  Galactic ILLUSION
・当作品より2千年後(推定) →  異伝 『千年の夢幻』
・シリーズ完全独立物語:地球篇 → ダブル・イノセンス