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仲人猫の奮闘

仲人猫の奮闘

作者: 花ゆき

 私は前世、人間だった頃の記憶があります。今は猫として生きています。体色がグレーで、トラのような模様があります。幼い頃は猫であることが受け止めきれず、常に泣いていました。ずいぶん母と彰くんを悩ませた覚えがあります。ですから、彰くんが私をミィと名付けるのも仕方ありません。今ではこの名前、お気に入りなんですよ。


 猫に生まれた今、私の寿命はそう長くないでしょう。いつも無表情なことが多いけれど人一倍優しい彰くんは、私が先にいった時どうなるのでしょうか。きっと、たくさん悲しんでくれるでしょう。ですから、彰くんのそばにいてくれる優しいお嬢さんを見つけるのが、私の使命だと思うのです。可愛がって育ててくれた恩返しです。


 そんな決意をしたせいでしょうか? 不思議なものが見えるようになりました。彰くんから赤い糸がのびています。こんなものがあるのに、彰くんは平然としていますね。きっと、見えていないに違いありません。この赤い糸はどこに続いているんでしょうか。気になって、彰くんに散歩をせがんでみました。



 外を歩いてみると、他にも赤い糸が見えることに気づきました。赤い糸で結ばれた二人は夫婦だったり、恋人だったりと、みな素敵な笑顔をしています。ですから私も彰くんのため、立派な娘さんとの出会いを成功させてみるのです!



 彰くんの糸は公園にのびていました。赤い糸の先に、ベンチに座っている可愛らしい娘さんを発見しました。きっと彼女はクラスのマドンナ的存在でしょう。ですが、彼女にのびている赤い糸は一つだけではなかったのです。六本もマドンナに赤い糸がのびていました。けれど、このお嬢さんなら彰くんを任せられると、直感で感じました。私はそれを信じて行動します。運命の赤い糸、必ずやこのお嬢さんと成立させてみますとも!



 私はタッとかけだして、お嬢さんの膝の上に丸くなって座りました。座り心地は抜群です。


「この猫人懐っこいのね。可愛い」


 見て感じたとおり、優しいお嬢さんのようです。急に私が飛びのっても、嫌がらず撫でてくれます。その手が気持ちよくて、うっとりします。あっ、そこです! もっと撫でてください。思わず喉がごろごろと鳴ってしまいました。気持ちよくて体から力が抜けていきます。


「あれ、ミィがすごく懐いてる。めずらしい」

「あなたの猫? この子すごく可愛いね」

「だろ!? 俺の妹みたいなものなんだ」


 彰くんは親バカですねぇ。嬉しいですけど。普段無表情な彰くんの笑顔が、マドンナに炸裂しました。彼女も頬が赤くなってます。ですが彰くんはそんなことにも気がつかず、私の愛らしさを語っています。彰くん、気持ちはうれしいですが、マドンナとも仲を深めてください。


 話を遮るように、マドンナの膝の上からだらりと体をのばして、彰くんの膝に頭をのせます。のろけが止まりました。成功です。ですが、静まり返ってしまいましたよ? 彰くんの顔を見上げると、顔を手で隠して身悶えしていました。彰くん、落ち着いて! 私よりもマドンナですよ! そしてマドンナと言えば……、マドンナも私を見て身悶えしていました。嬉しいですけども、二人の仲を深めてもらいたいなって思うんですが。


「あっ、もう帰る時間だ。またよかったらミィちゃんに触らせてもらっていい?」

「もちろんだよ。この時間はミィも自由にしてるから」

「ミィちゃんだけじゃなくて、あなたともお話してみたいと思ってるんだけど、どうかな?」


 マドンナ、ナイスです! さぁさぁ彰くん、がんばって!


「俺も、そう思う」

「嬉しい。名前はなんて言うの?」

「御堂 彰」

「彰くんね。よろしく。私は七瀬 まり」


 会話がうまくいきました! 私、飼い猫の鑑じゃないですかね!? すいません、調子に乗りました。でも、その出会いから彰くんは上の空なことが増えましたよ。ホの字というやつですね。もう仕方ないですね。ここは私がにゃん肌脱ぐしかありません!




 彰くんと一緒に、再び公園に来ました。まりちゃん発見です。そして、まりちゃんからのびる別の赤い糸の主も発見しました。ぱっと見、不良男ですね。ですが、彰くんのため戦いますよ! 不良男の足元に身体をなすりつけて、足元をうろつく作戦実行です。


「なんて可愛い猫だ……! これって運命?」


 いやいや、そんな簡単に運命転がってませんから。彼が私を抱き上げた時、まりちゃんに伸びていた赤い糸が私に絡みつきました。な、な、なんですって!?



 予想しないことが起こりましたが、気のせいです。彰くんとまりちゃんはうまくやってますかね。あれ、ベンチが静かです。会話が弾んでいないようですね。ここは私の出番ですよ。二人の間に丸まって座り込みました。動物セラピー効果期待です。会話よ、弾んで下さい。


「ミィちゃん、触っていい?」


 ええ、もちろんですよ。まりちゃんは撫でるのが上手で、ついうとうとしてしまいますね。


「ミィ! ここ撫でられるの好きだよな!」

「ミィちゃんをうとうとさせたのは私なんだから!」


 彰くん、何対抗してるんですか。まりちゃんも張り合わないで下さい。あぁ……何だか、眠くなってきました。



 あたりが薄暗くなってきたころに私は起こされました。何だか、寝る前より彰くんとまりちゃんの距離が近くなったような気がします。よかったです。





 昨日は変なことがありましたが、気分転換に散歩しましょう。また、散歩中にまりちゃんにのびている赤い糸を発見しました。彼女は公園のベンチで、彰くんと楽しく話しています。邪魔はさせません! 赤い糸の先をたどってみたところ、なんだかチャラい男を見つけました。髪は金髪、彰くんと同じ学校の制服をだらしなく着崩しています。耳のピアスは何個しているんですかね。彼は私を撫でたそうにチラチラ見ていますが、私の体は安くないのですよ。彰くんが私をシャンプーしてくれた上に、いつも丁寧にブラッシングしてくれているのです。私も毛繕いはかかしていません。ですので、この毛並みは彰くんと私の手入れのたまものなのです!


 チャラ男は臆することなく、じわじわと私に近づいてきます。うっ、香水臭いです。思わず遠ざかりました。


「えっ、すごい嫌そうな顔されたんだけど」


 あたりです。くさいです。出直してきてください。思わずツーンと顔をそむけると、チャラ男は途方にくれた顔をしました。



 数日後、またチャラ男と会いました。別の香水をつけてるようですが、まだ匂いがきついです。私は一定以上近寄らせませんでした。


 そんなことを繰り返しているうちに、チャラ男がすっかり更正していました。あれ? そんなつもりはなかったんですけどね。仕方ありません。もう臭くはありませんから、触らせてあげますか。


「にゃんごろうは可愛いな~」


 なんか勝手に名前付けられてますが、私には彰くんに名付けられたミィという素敵な名前がありますから! そもそも雌ですし! 気安く触らないでください。頭をなでる手をかわすと、そのそっけなさもいいと悶えられました。想定外です。赤い糸が私にのびているのが見えましたが、幻でしょう。私は見てません。




 新たに、まりちゃんから赤い糸がのびている色っぽい男を見つけました。この色男も彰くんと同じ学校の制服ですね。ネクタイの色が緑ですから、彰くん、チャラ男より先輩のようです。今、彰くんとまりちゃんは仲良く話しています。ですから、私が気をひかないと。そう思って色男の前に出たのですが、この男できる。なぜか、初見でそんな予感がしました。彼もそう思ったらしく、数分間にらみ合い――ゴホン、見つめあいました。そしてその攻防は崩れるのです。そう、私の悲しき猫の本能によって!


 色男が取り出した、ねこじゃらしという最強兵器に私は負けました。つい猫じゃらしを追ってしまいます。あぁ、待って! 今度はこっち! 楽しい!


 この男、ねこじゃらしの使い方が巧みです。悔しいですが、もてあそばれてしまいました。彼とその後も会ったのですが、全敗です。いつもねこじゃらしで遊ばれました。というか、どうしてねこじゃらし持ってるんです?



 そうそう、彰くんとまりちゃんの様子なんですが、デートすることになったそうですよ! 彰くんよかったですね! 心配になった私は、こっそり後をつけることにしました。尾行していると、彰くんと同じ学校の体操服を着たスポーツ少年と会います。ぱっと見、中学生かと思いましたが童顔のようですね。この少年も、まりちゃんと赤い糸でつながっていました。どうやら、この日曜日にも部活らしいです。励むことはいいことですよ。がんばりたまえ。そう思って頭を彼の足になすりつけました。彼はありがとな、と頭を撫でて帰っていきました。さすがスポーツ少年、爽やかです。


 って、あぁ!? 彰くんとまりちゃんを見失いましたよ。残念です。ですが、デート帰りの二人が手をつないでいたから、よしとしましょう。


 それからたまにスポーツ少年と会うのですが、おやつをくれるようになりました。おいしいものをくれる人はいい人です!





「やっ、やめろ……! やめろって!」


 しょっぱなから何だと思われるかもしれませんが、私にいたずらしてくるスーツの男に反撃中です。ふっふっふっ、スーツを毛まみれにしてやりました。ざまぁみろです!


「悪かったって、お前にあげるふりして食べちゃって」


 分かってるならしないでくださいよ。もう。ですがこのスーツ男、いいバリトンボイスですね。しかたありません、その声に免じて許します。撫でてもいいのよというように転がって、お腹を見せました。


「おっ、許してくれるのか。いいやつだな~。うりうり、気持ちいいか?」


 そこ気持ちいいです。あまりの気持ちよさに、だらんと体から力が抜けました。このスーツ男と出会ったのも、まりちゃんと糸がつながっているのを見つけたのがきっかけでした。


 そのときの彰くんとまりちゃんですが、うとうとしているまりちゃんを彰くんが膝にのせてあげていました。こんないい雰囲気、邪魔させるはずがありませんよ! スーツ男の足元に毛をいっぱいつけてやりました。そう言えば、彰くんがスーツ男を先生と呼んでました。教師なんでしょうね。私にとってはライバルですが。




 私は、まりちゃんに赤い糸がのびている主に全員会ったようです。妨害するために行動したのですが、何故ですかねぇ。どれも自分に赤い糸が絡みついてしまうんです。よく分かっていませんが、赤い糸は運命の恋的なものじゃなくて、運命的な縁という意味での赤い糸じゃないかと思いました。そうでなきゃ、私にまで糸がのびているのはおかしいです。


 それから……、愛猫の会という訳の分からない会合が出来てしまいました。会長は誰だと思います? まさかの彰くんでした。彰くん、私がこれだけ身体はってるのに、何してるんですか。というか、どうしてまりちゃんまで会に入ってるんですか。他の赤い糸の主の興味をまりちゃんからそらしたのに、意味がないじゃないですか。会のメンバーは、彰くん、まりちゃん、元赤い糸メンバーです。落ち着きません。ですが、彰くんとまりちゃんは前より親密ですし、他のメンバーも私を可愛がってくれているから、いいのかもしれません。以前より太くなった彰くんとまりちゃんの赤い糸を見て、私は目を細めてナーンと鳴きました。

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