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メイド編
メイド編:第九話:終戦
「これはまた……すごいことに、なっていますの……」
「なんで、こんなことになってるんだ」

 幸太は目の前の状況が信じられないのか、何度も瞬きしながら呆然としている。
 その後ろ……幸太の背中に張り付いてるのはアリスである。
 豊満な胸に幸太の頭を挟み込んでいる姿だ。
 なにもイチャついてる訳ではない、幸太が吹き飛ばされないように支えているだけだ。 二人の視線の先では、メイド隊と冥土隊が乱闘の如く、否、戦争を始めていた。
 テーブルはハチの巣のように、銃弾に撃ち抜かれ乱雑に小さな穴が空いていたり、半分ほど吹き飛ばされていたりして原形がなくなっているのもある。
 綺麗に磨かれていた床には人工的に作られたクレーターが、無造作にそこかしこにできていた。
 その周りでは数名のメイドが倒れていたり、相打ちでもしたのかメイドと冥土が重ね合うように倒れている。
 その時――1発の銃弾が天井に吊されたシャンデリアを打ち抜き床に落ちていった。
 ガシャンッ――。
 思わず耳を塞ぎたくなるほどの耳障りな音と共に、破片が辺りに飛び散るがメイド達は気にする様子もなく怒声をあげて戦い続けている。
 幸太は見ていることしかできない。銃弾が飛び交う戦場に足を踏みいれる度胸などない。
 入り口から離れた場所にいるというのに、狙っているかのように幸太とアリスの元に銃弾が飛んでくる。
 アリスが涼しげな顔をして黒刀の鞘で銃弾をはじき返してはいるが、それでも怖いものは怖い。

「アリス……どうやったら止まると思う?」
「……こうすれば、いいだけのことですの」

 アリスは幸太の前に一歩踏み出し、くるっと振り返ると正面から抱き締めた。
 幸太は圧迫してくる胸から顔を脱出させると、アリスを上目遣いで見つめた。
 
「なあ……相変わらず、すごい音してるんだけど?」

 それどころか先程よりも争いが激化している。
 幸太は疑問符を頭に浮かべながら口を開く。

「本当に効き目あるのか?」
「わたくしにはバッチリですわ……」
「なるほど、アリス限定か。はっははは――はぁ……」

 渇いた笑いしかでてこない。
 こんなことをしている間にも、食堂と呼ばれた大事な場所が破壊されていく。

「アリス、みんなを止めてくれないか?」
「ふふっ、かまいませんわよ? その代わり条件がありますの」

 幸太の頬をすすっと優しくも艶めかしく撫でる。
 そして、口許を幸太の耳元に近づけてきて言った。

「アリス大好きって、言ってほしいですの」
「はっ?」

 幸太はキョトンとした表情を浮かべながら、少し距離をとったアリスを見た。
 アリスは微笑するだけで、なにかを待つように姿勢を正した。

「あのさ、意味がわからないんだけど……」
「ちょっとした儀式ですの。気にせず言ってくださいな」
「でもさ……それってなんかあれじゃないか?」
「ふふっ、どうするのです? 幸太様が渋っている間にも食堂では被害者が増え続けていますわ」
「でもっ――」

 幸太が何かを叫ぼうとしたとき、食堂の天井を突き抜け何かが床に突き刺さった。
 土埃が辺りに立ち込めていく中、聞き覚えの声が浸透するかのように食堂内、そして廊下に響き渡る。

『これよりメイド隊を侮辱した罰で、クズな奴等に鉄槌をくれてやるの』

 すみれの冷ややかな声だった。それはボルゲノが出撃した証であり、全てを無に帰す破壊兵器である。
 すみれの声を聴いたアリスは更に笑みを深める。
 早く言うのだと、まるで誘惑するかのように艶美な雰囲気を醸し出す。

「どうしますの?」
「くっ……」

 このままでは死者がでると思った幸太は恥ずかしかったが、言い直しを要求されても困るのでアリスを見据えながら言った。

「ありすだ――っ」
『きゃああああああ』

 ボルゲノの餌食になった冥土の悲鳴が食堂内に響き渡り、それは廊下まで響く金切り声で幸太の言葉を掻き消した。
 だが、それでも、アリスは聞こえていたのか嬉しそうに、それは恍惚とした笑みを浮かべた。

「それでは、行ってまいりますの。幸太様はごゆるりと……」

 身を翻した時、背に刻まれた黄金の【幸】の一文字が晒される。
 ゆっくりとした軽い足取りで砂埃が充満する食堂内へと入っていった。
 その時――食堂内に充満していた砂埃が真っ二つに切れた。否――空間が斬られた。それは瞬く間もなく一瞬にして霧散する。
 突如晴れた食堂に誰もが動きを止めて、怪訝な表情を浮かべ始める。
 食堂の中央に立つのは悠然としたアリス……すみれのボルゲノを片手で受け止め、更に明日香の刀身を指二本で挟んで止めていた。
 横目で明日香を睨みつけるとアリスは言った

「明日香さん、誰がメイド隊と戦闘しろなどと言いましたの?」

 射貫くような視線に明日香は狼狽を露わにすると、すぐさま刀を鞘に収めて、頭を下げた。

「申し訳ございません!」

 明日香が頭を下げたのを見て、他の冥土達も続々と鞘に刀を収めて頭を下げ始める。
 それに満足そうに頷くと、すみれを見下ろした。
 見下ろしたくてやっているわけではない、身長が低すぎる為こうならざる得ない。

「すみれさんも無茶しすぎです。ボルゲノなんて出されますと、明日香さんが消し飛びますの。直情な姿は美しいのですけれど……少し感情的すぎますわ」
「相変わらず小姑みたいな奴なの……」

 小さく呟いたすみれは、ボルゲノを宙に放り投げた。
 軽く空に向けて投げただけで、ボルゲノは加速して雲を突き抜け消えていった。
 それを見たメイド達はそれぞれ、手に持っていた武器を下ろし始めた。
 メイド達の影に隠れていた夜菜は、生き埋めにしようとした冥土を解放した。

『ちっ、せっかくいいところだったのによ……』

 雨季もまた、壁にめりこませようとした冥土を解放した。

『まったくですね。これから楽しくなるはずだったんですけど……』

 のほほんとした表情の香月は、食堂内に入ってきた幸太に駆け寄る。

『あらあら〜、幸太様危ないですよ〜』
『うぶっ』

 天災を装って抱きついてきた香月の胸に顔が埋もれてしまう。
 苦しそうにもがく幸太を抱き締める香月を見て、

『調子に乗ったらダメなの』
『ふぎゃ――ぶぎゃ』

 すみれがボルグルで、香月の頭を何度も叩き始めた。

『ほら、そいつの足を持ちなさい。たくっ、手間をとらせないでよ』
『姉さん、これちょっとひどいんじゃないかな? そっちの人なんて、痙攣起こしてるよ……』
『大丈夫よ。たぶん死にはしないから、それよりも、次こいつよ』
『はいはい……』

 食堂の隅のほうでは数人拉致した富美と清音が、毒料理を冥土の口をこじ開けて押し込んでいた。

「それで争いの原因はなんですの?」
「それは……」

 顔を俯けた明日香を見て、アリスは怪訝な顔をするも、ポケットが異様に膨らんでいるのが目に止まり口を開いた。

「中の物をだしなさい」

 それは命令だった。隊長の命令は絶対である、だが、しかし、どうしても聞けない命令もあった。
 明日香は小さく首を振ることで拒否を表現する。

「だしなさい……」

 今にも斬りかかってきそうな程、不機嫌に声を荒げて言うアリスに、明日香はとうとう観念したのか渋々と言った表情でポケットを探りだす。
 戦闘中に紛れて奪うことに成功した変態の姿が映し出された写真。それが、でてこないようにと祈りながら……探り続ける。

「どうぞ……」

 雨季から没収した写真の内三十枚だけ差し出した。
 なんとも抜け目のない明日香である。
 その後ろのほうでは、取り返そうと暴れる雨季を羽交い締めにする夜菜がいる。

『返しなさい! それは私のですよ! お願いだから返して下さい!』
『いいじゃねえか、隠し撮りしたお前が悪いんだからさ……』

 視界の隅にそれを捉えたが、アリスは気にせず差し出された写真を手にとった。

「こ……これは……」

 あどけない幸太の寝顔が映し出された写真に、アリスは軽い目眩を起こす。
 それはメガネを取った寝顔だった。
 ――なんと……なんと愛らしい顔なのか……。アリスは、ばたんと倒れた。
 明日香は呆気にとられたのか目を見開いたまま、倒れたアリスに視線を落とした。
 なんとも幸せそうに気を失う【獅子の女王】を見て、誰かがポツリと呟いた。

『エロの純王』

 幸太を艶めかしく誘惑しているくせに、いざとなったら照れる所か気を失ってしまうアリスは、いつしか、そう呼ばれるようになっていた。
 そして……気まずくなったメイドと冥土達は、食堂の後片付けを始める。
 幸太親衛隊【ゼロ】佐倉家冥土隊【獅子の女王】アリス・へディナ・ヘリオス。
 必ずご主人様の命を遂行する冥土である。 


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