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お嬢様編
お嬢様編:第四話:桜は散れども新入生(4)
 昼休憩――教師も生徒もホッと一息つく時間である。
 校舎内は授業中よりも賑やかで、一種の祭りのように騒がしくなる。
 そんな中、一人の少年――佐倉幸太は困惑していた。
「飯を食べる時間らしいが……どこで食べればいいんだろうな」
 幸太は机の上に乗せた重箱を持て余していた。
 とてもじゃないが一人で食べきれる量ではないし、一人分の机では広さも足りない。
 初めての学校ということで、他の生徒になめられないように、派手なものを用意してくれたみたいだがいい迷惑である。
「おや……幸太様。これはまた、すごいものを持ってきましたね」
 サプリメントを片手に北野晴季が驚いた顔をする。
 自分の席からイスを移動させると幸太の目の前に座った。
「これだけの量を食べきれるのですか? とても幸太様が大食とは思えないのですが……」
「俺も食べきれるとは思えないけど」
 だからと言って残すのも悪い。
 メイド料理長が幸太の身体のことを想って作ってくれたのだ。
「晴季も一緒にどうだ? 味は保証するし、サプリメントじゃ足りないだろ?」
「私は……幸太様の頼みとあらば断れませんな。ですが、ここで食べるのは難しいかと」
 言われて辺りを見回すと注目を浴びていた。確かに重箱なんて持ってきてる生徒なんて一人もいない。
「この学園は昼になると屋上を開放しているそうです。そこなら食べられるのではないでしょうか」
「じゃあ、早速行くか」
「わかりました」
「楽しみですね」
 二人が立ち上がると、横から割って入る銀髪少女。
「……ええと、シルバーだっけ?」
「はい」
「弁当持ってきてないの?」
「ちゃんと持ってきてますよ」
 と、言って可愛らしいナフキンに包まれた弁当箱を見せてくれる。
「でも、不思議なことに中身がないのです」
「盗まれたのか?」
「いえ、一限目が終わったときに私が食べました」
 淡々と早弁したことを告げるシルバー。
 これで一六神女なんて呼ばれる学園のアイドルなのだから不思議なものである。
「まだ食べるのか?」
「ええ、二人でも食べきれない量でしょう?」
「そりゃまあ、量だけはあるけど、体重とか気にしないのか?」
「気にしたら負けです。女の子はムッチリしたほうがいいと教えられました」
「はあ、それはまた誰に?」
「私の姉に教えて頂きました。とても頭が良くて綺麗な人でした」
「そうか……お姉さんが好きなんだな」
「はい。自慢の姉でしたが結婚しました。逐一なにをしたかメールが来るのでウザイです」
「そ、そうか……だからってなんで俺を睨むんだ」
「その相手が便所コオロギにとても似た人だからです」
「それで俺にキツくあたるのか?」
「かもしれませんね」
 さらっと澄ました顔で言いやがりました。
 その便所コオロギに似た男のせいで、俺はキツイことばかり言われているのか。
 いつかどこかで会うことがあれば、一発ぶん殴ってやる。
「幸太様。昼休憩は長いようで短いのです。屋上に行きましょう」
 と、晴季が重箱を片手に言うので、思考は中断された。
 三人は揃って屋上に向かう。

    ○

 北野晴季に連れられてやって来た屋上は、とても広く見晴らしが良かった。
 空を見上げれば雲が気持ちよさそうに泳いでいて、太陽の日差しが暖かく頬を撫でる風は心地よい。
 視線を下ろせば、また別の景色が目に飛び込んでくる。
 どれだけ金が余ってる学校なのか、屋上の中央には噴水があり、周りにベンチが用意されていて、やはり人気なのだろう、他の生徒でいっぱいだった。
 そこから少し離れた場所に人工芝で作られた小さな丘の上には大樹があり、その丘も生徒で溢れていて、とてもじゃないが座れるスペースはない。
「奥のほうなら空いてるかもしれませんね」
 晴季について奥に進んでいくと、生徒が徐々にまばらになっていく。
「ここらへんは人気ないのかな?」
「ここは防風の壁がないので女子に不人気なんですよ。スカートがめくれてしまいますから」
 シルバーが教えてくれる。スカートを片手で押さえて歩いているが、女子のこういうところって器用だよな。と、幸太は思うのだった。
「ここなら大丈夫でしょう」
 晴季がいつ用意したのか、レジャーシートをその場で広げた。
「柵が低いな……」
 幸太は落下防止の柵を見て呟く。腰辺りまでしかない柵は、簡単に乗り越えられる。
「昼休憩のときだけしか開放していませんし、誰かが落ちたら学園がもみ消すでしょう。それぐらいの力はあるそうですよ。それにほら、あれを見て下さい」
 シルバーが指さした先には『ここから先は自己責任』と書かれた看板があった。
「……嫌なものを見た」
「そんなことよりも昼食です」
 勝手に包みをあけて重箱を並べ始めるシルバー。
 これが学園のアイドルの一人なのだから本当に疑問に思う。
「今日は風が弱くて心地よいものです。毎日これぐらいだといいのですが」
「景色もいいな。明日からここで食べるか」
「いいですね」
 晴季と談笑していると、隣では早速重箱をつついてるシルバーがいた。
 いや、ホントこれが一六神女か……。遠慮とか知らない女子を選出するとかじゃないよな。
「美味しいです。特にこのだし巻き卵は懐かしい味がします」
 だし巻き卵を一人で抱え込むシルバーの表情がとても幸せそうだ。
「いや、それ俺の弁当だからね。なんで一人で食べるんだよ」
「ある人に教えてもらいました。飯時は喰うか喰われるかだと」
「いちおう聞くけど誰に?」
「姉です。とても優しくうざい人でした」
「なんか評価落ちてるよね」
「気のせいでは?」
「そういうことにするよ」
 言い争っても仕方がないので、幸太も弁当に舌鼓を打つことにした。
「ふむ。幸太様のメイドは優秀ですね。これほどの料理を作れるとは」
「ああ、自慢の料理長だ。たまに変な薬とか作らなかったらだけどな」
「メイド? 便所コオロギさんにはメイドがいるんですか?」
 と、シルバーが首を傾げて聞いてくる。
 そういえば内緒にしていたのを忘れていた。
「あっ、いや……えーと」
 幸太が言葉に詰まっていると、
「私が幸太様専属のメイドだ」
 晴季が胸を張って声高々に宣言した。
 助け船をだしてくれてとてもありがたいが、喜べないのはどうしてなんだろう。
 シルバーも気味悪そうに晴季を見ている。
「まあ、うまいだろ?」
「え、ええ。とても美味しいと思いますよ」
 二人は晴季を無視することにした。話が逸れてある意味ナイスだったかもしれない。
 そのまま昼食は問題なく進んでいった。
 ほとんどシルバーに平らげられたが、コイツの胃袋は二つあるのだろうか。
「本当によく食べるのな……」
「美味しいものは、ずっと食べていられます」
「太るぞ?」
「女はぽっちゃりしたほうが興奮するって教えられました」
「ハードル下がったな」
「誰に? って聞いて下さい」
「……あー誰に教えられたの?」
 棒読みで尋ねる。
「自己流です」
「そっすか……」
「でも、私は太らない体質なんですよ。ほら、スタイルいいでしょう?」
「……今の発言で世界中の女性を敵に回したな」
「私を太らせるために、高級牛肉が毎日届くテロが起きるかもしれませんね。おいし――恐ろしいですね」
「そんなテロねえよ!」
「明日のお弁当が楽しみです。私はステーキを所望します」
「明日も人の弁当食べる気か! 牛肉食べたいだけだろ!」
「さてと、そろそろ、失礼させて頂きます。大変美味しかったです」
「言いたいことだけ言って、食べるだけ食べて……って、行っちゃったよ!? 人の話は聞かないし、幸せな性格してやがる」
 去っていくシルバーの背中を眺めながら幸太は呟く。
「ですが、さすが幸太様ですね。ばっちりと一六神女の心を掴んでおります」
 それまで二人を黙って眺めていた晴季が口を開いた。
「全然掴んでる気がしないんだけど」
「いえいえ、あの眼を見ればわかります。すごく幸太様を嫌っておられますね」
「ああ、そっちの掴んでるね!?」
 嫌われるために学校に来てるんじゃないのに、屋敷にいるメイドと違う反応に戸惑う幸太だった。


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