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メイド編
メイド編:第三十九話:冤罪、事実と救いの手。
 研究所から離れた場所でメイド候補生達と幼い顔立ちのメイド、獅子童すみれが草根に隠れて様子を窺っていた。
「ようやく追いついたの……」
 どこか疲れた様子のすみれは、辺りの気配を探りながらポツリと呟いた。
『あの~……手伝わなくてもいいんですか?』
 近くにいたメイド候補生が、すみれに声をかけてくる。
「かまわないの。あの連中はあれが仕事なの。すみれ達の仕事は幸太様の奪還なの」
『でも、すごい押されてるっていうか、ピンチっぽい気がするんですが……』
「死んだらちゃんと供養するから安心するの」
『そ、そうですか……』
 開けた場所を心配そうに見ているメイド候補生の言葉は、すみれに一蹴された。

「くっ!? すみれさん達はなにをしていますの!?」
 アリスは相手の攻撃を避けて背後にいる部下に向かって叫んだ。
「知るわけがないでしょう!? 我がここに来たら襲撃を受けただけであって、すみれ達は見ておりません!」
 相手の銃口から吐き出される弾を刀の刃で受け流し、ポニーテールなキリリとしたクールな剣士、円城寺明日香も負けじと叫んだ。
「す、すみれさん、謀りましたわね……。てっきり後ろについてきていると思ったのに」
「どうしてこんな状況に! 我はただ幸太様のピンチを聞きつけただけなのにっ!」
「仕方ありませんわ。明日香さん、今すぐ冥土隊を招集するのです!」
「むぅ、それが……緊急幸太君笛は部屋に忘れてきてしまったのです……」
 緊急幸太君笛はピンチの時に使われる笛の事である。これは佐倉家冥土隊のみが聞き取れる特殊な笛で、冥土一名には必ず配給されているのである。
 ちなみに、この笛の使う状況と言えば主人である幸太の身に危険が迫った時のみなので、招集率は実に九十九%という驚きの数値をたたき出している。
「明日香さん! あなたは何のためにここに来たのですかっ!?」
「それを言うなら隊長殿だって、なぜ持ってきておらぬのですか!」
「くっ、それは……」
『ば、ばけものかこいつら!』
『あっちは刀だぞ! なぜ弾が当たらないのだ!』
『砲弾を撃ち込め! こうなったら、我々ごと木っ端微塵に吹き飛ばすのだ!』
 不毛な言い争いをしながらも、周りを囲む青のメイド隊の集中砲火を避け続けているのだから、相手にしたら恐ろしいものであった。

「よしよしなの。今のうちにあのヘンテコな建物に侵入するの」
 アリスと明日香が善戦してくれているのを見て、すみれはニタリと笑むとコソコソと身を屈めながら建物の入り口へと近づいて行く。
 その後ろには百名以上のメイド候補生がアリの大群の如くついてきている。
 これがバレないのだから、青のメイド隊がいかにアリスと明日香に気をとられているかがわかる。
 しかし、悪く言えば無能とも言えるのかもしれない。
「突入次第、片っ端から殴り倒せなの。刃向かう者には容赦なく、降伏する者にも容赦なく、メイドを見たらタコ殴りなの!」
 既に破壊された扉をくぐり、すみれを先頭にメイド候補生の各々は頷くと、道端に落ちていた木の棒などを持って突入していく。

    ○

 すみれ達が無事潜入できた頃、佐倉幸太は妙に柔らかい枕の上で目を覚ました。
 身動ぎするとそこは薄暗く、どこだか把握できそうにもない。しかし、なにやら騒がしい。
「ここは……?」
 柔らかい枕だなー……と思いながらぽにょんぽにょん感触を楽しみつつ、幸太は辺りを見回す。
 ようやくぼやけていた視界も、だんだんと鮮明になってくる。
「目を覚まされましたか?」
 どこからか声が聞こえてくる。しかし、周りには慌ただしく動きまわる白衣を羽織ったメイドだけ。
 自分に話しかけている者などいなかった。
「だれ……だ?」
 相変わらず枕に頭を埋めたまま辺りを見回す、なぜか妙に落ち着くのだ。
 離れたくないと思わせる弾力と柔らかさ。これは、ぜひとも後で購入先を聞かねばなるまい。
「アウラでございます」
「アウラか……って、どこにいるんだ?」
「ここにおります」
「え……どこだ?」
「ここです」
「なっ!?」
 突如頭を手に挟まれて、宙に浮くと身体が半回転した。
 ぼふん――と柔らかいベッド――アウラの上に着地する。
「おはようございます」
 慈母のような優しい目をしたアウラ。なんてことはない、ベッドだと思っていたのはアウラの身体で、柔らかい枕の正体は胸だったってことだ。
 そう、なんてことはない。なんてことはないんだ。
 心の中で何度も呟き、顔を真っ赤にしながら幸太は、アウラの身体から離れて立ち上がった。
「もう良いのですか? 気持ち良さそうにしておられたのに……」
 身体を起こしたアウラはきょとんとした顔で首を傾げた。
「た、確かに気持ちよかっ――じゃない! なんで、アウラがそこにいるんだ!」
「……えーと?」
 言葉の意味が通じなかったのか、また首を傾げるアウラ。
「いや、だから……なんでアウラの上で俺は寝てたのかなって……」
 顔を真っ赤に染めた幸太の説明を受けて、アウラは納得したように――ぽんっと手を叩いた。
「昔からマスターはアウラのおっぱいが大好きで、いつもぽよんぽよんして寝ていましたから」
 眩しい……とても眩しい笑顔で言われてしまった。
 これには幸太も言葉に詰まる。否定したかったが、まるで真実だと言わんばかりの笑顔に気圧される。
「それにですね。添い寝をしているときも、ぷにぷに触っておりました」
「オーケーだ。そこまででいい! それ以上は言っちゃいけない」
 これ以上、追い詰められたら生きていけなくなる。
 それに、足を止めてこちらを見る白衣のメイド達の視線が痛い。
「だけど、これだけは言っておく。俺は触ってないはずだ」
 その言葉に、アウラの表情がくしゃっと歪む。ビクッと後退る幸太。
「ひどいです。あれだけアウラのおっぱいを弄んでおきながら……」
「いや……だって、記憶にない……んだ」
 触ってないはずなのに、自分の記憶が正しいはずなのに……間違っているかもと思えてきた。
「それに、先程も楽しそうにアウラのおっぱいを……」
「うぐっ……」
 確かに枕と思ってぽにょんぽにょんしたのは事実。追い詰められた幸太は、半ば諦めようとした。
 だが、その時――――救いの手が差し伸べられる。
「副所長、主人が起きたら知らせるように言っておいたはずなんだけどな」
 少しお怒りモードの所長が仁王立ちでアウラを睨んでいた。
「すみません。あまりにもアウラのおっぱいが魅力的だったようで――むぐっ」
「わかった。わかったから、それ以上は俺の名誉の為にも言わないでくれ!」
 アウラの口を手で塞いで阻止する涙目の幸太。必死の懇願である。
「??? よくわからないけど、準備ができたんだよ。ささっ、主人もついてくるんだよ」
「おぅっ!?」
 幸太の手をとって、そのまま引っ張り歩き始めるヒメ。
「残念です。マスターの温かい手が連れ去られました」
 大袈裟に肩を落とすアウラも、その後に続く。
「なあ、ヒメどこに連れていくつもりなんだ?」
「いいところかな。そう……自由への一歩って感じなんだよ」
「うーん? 自由への一歩?」
「そう! 楽園だよ。酒池肉林のような、獣のように楽しめるところかな」
「酒池肉林?」
 怪訝な顔をする幸太に、後ろを歩くアウラが、
「素晴らしい所です。マスターにも気に入って頂ける自信があります」
「そうなのか?」
 どこか含みをもった二人の物言いに首を傾げるも、
「楽しいとこだといいな……」
 振り回されるのを慣れている幸太は、できる限り気を失わない方向へと持っていきたいので無駄な抵抗を諦めるのだった。


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