ちっこいメイドと腹黒メイドは歩いていた。
目的は食堂、距離はほんの十メートル先、豪奢な扉も見えている。
ちっこいメイドは肩を落として呟いた。
「何も成果がないのは予想外だったの」
「部屋が壊れちゃいましたからね~。仕方ないですよ~」
隣を歩く腹黒メイドがフォローする。
それでもちっこいメイドは首を振る。
「仕方ないじゃ……佐倉家メイド隊のメイド長は務まらないの」
「そういうものですか~」
「そういうもなの」
部屋を壊してしまった事を――幸太の写真を見つけられなかった事を反省しながら、二人は扉を押し開ける。
皆が集まる場所。癒しの場所。そして……争いが絶えることのない場所。
「今日も人が沢山倒れているの」
「本当ですね~。いつもより少し多い気がします。すれ違うメイドが少ない気がしたんですよ~」
「……佐倉家冥土隊には困ったものなの。立場の違いってものを教える必要があるの」
佐倉家メイド隊の面々が倒れている中、一つのテーブルを囲んで熱気を放つ佐倉家冥土隊。
ちっこいメイド――メイド長の獅子童すみれは、アイドルのコンサートに来ているような冥土隊を睨みつける。
腹黒メイドさんこと、草むしり担当の木浦香月は、相変わらずのほほーんとした顔で、
「そうですね~。時代遅れのなんちゃって侍ですからね~。ござるござる~」
腰を屈めると、しゅばしゅば効果音を発しながら侍の真似を始めた。
それを横目に一瞥して、すみれは呆れるようなため息をつく。
「遊んでいる場合じゃないの。仲間がやられたなら、仇をとってやらないとダメなの」
「でも、こっち二人しかいないですよ~? ぺちゃぱいのちびちびメイド長が豊満な胸を持ったむちむちした人達に勝てる訳ないじゃないですか~」
すみれをチラっと見ただけで、なははは、と突然腹を抱えて香月は笑い出す。
まるでチンパンジーがゴリラに喧嘩を売るようなもの。と言いたげだ。
「まずお前から始末してやるの」
素早くエプロンのポケットからボルグルを取り出して跳躍する。
「はぎゅっ!?」
振り下ろされたボルグルは香月の脳天を直撃して、激痛に頭を押さえた香月はその場で座り込み。
「痛いですよ~。ひどいじゃないですか……本当の事言っただけなのに」
口を尖らせて不満そうに言う。
「うるさいの。それより、さっきより冥土隊が盛り上がっているの」
すみれは怪訝そうに「ヒャハー」と叫び始めた冥土隊を見ていた。
香月は不思議そうな顔をして、立ち上がると同じ方向を向いた。
そして――見てしまった。
『これはいいですね。ぜひともコピーしたいです』
『うきょおおおお!? うしゃしゃしゃしゃ』
『大丈夫か? 病院行くか? おっ、おいッ!?』
『……これ返さないといけないんですよね』
『佐倉家冥土隊が所有すべきかもしれません』
ぽーと頬を染めている者もいれば、発狂して食堂を駆け出した者もいて、それを止めようと追いかける者、刀の柄に手をかけてカタカタと何かを我慢している者など様々な感情が入り乱れていた。
そんな集団に近づいた香月とすみれの二人は顔を見合わせてお互い頷き、とりあえず目の前にいる邪魔な冥土を一人づつ始末していく。
香月が相手の口を塞いで、すみれがボルグルを振り下ろす。
気づいた者がいれば、そちらを……有無を言わせず確実に気を失わせていき。
「あら……すみれさんに香月さんではありませんか」
冥土隊の中心にいた人物、アリスまで辿り着いた。
「なにをしているの?」
「……これを見てくださいな」
手に持っていたパンフレットを隠そうとしたのか一度は閉じたが、諦めるように肩をすくめると差し出してきた。
すみれは疑わしい眼でアリスを見ていたが、差し出されたモノ――表紙に幼き頃の幸太が写ったパンフレット――が目に入って硬直した。
「ふふん、ふふーん」
香月は突如鼻歌を歌い始めて、エプロンのポケットからわさびを取り出し。
「寄越せ!」
と、叫んだ。
思わずアリスは言ってしまう。
「……バカですの?」
「…………」
少し冷静になれたのか、いそいそとわさびを仕舞う。
そして、何もなかったかのように、
「あら~、幸太様の写真集かなにかですか~?」
いつもの感じを装った。
「……まあ、いいですわ。色々と言いたいこともありますが、今日はやめておきますの」
「それが賢明ですよ~。それで、それどうしたんですか~?」
「これは……そういえば、静香さんはどこに行ったのです?」
辺りに視線を巡らせるアリス、目的の人物が見つからないのでイスから立ち上がって、視界を見やすくして……机にへばりついて「幸太様~うへへへへ」と寝言を言ってる見習いメイドを見つけて、ようやく気づいた。
「や……やられましたわ」
急に悔しげに顔を伏せたアリスに香月は疑問符を浮かべつつ。
「お腹でも痛いのですか~? 薬あげましょうか~?」
アリスの背中をさすりながら表情を覗き見ようとした香月だったが「はぎゅう」不意にがばっと顔をあげたアリスの頭に顎をぶつけた。
「幸太様……アリス・ヘディナ・ヘリオスが今行きますわ!」
鞘から刀を抜き放ち鬼の形相で食堂をでていったアリス。その部下である冥土達も状況を把握したのか、
『幸太様の貞操が!』
『うしゃ――しゃ!? そ、そんな、私が襲うつもりだったのに』
『いや、それはダメだろ。たぶん次の日には海の底だぞ。そんなことより病院に行こう』
『アリス隊長に続け!』
冥土隊の面々も言葉はあれだが、アリスの後を猛スピードで追いかけていった。
「いたた、なんなんでしょう……」
顎をさすりながら香月は食堂から飛び出していく冥土隊の背を見つめていたが、
「しかし、幸太様の貞操が気になりますね~。また、どこぞのおバカさんが幸太様を狙ってるんでしょうか~?」
腕を組んで首を傾げた、その時――。
「それは聞き捨てならないの。すみれ達も行くの」
いつの間にか正気に戻っていたすみれが、ボルグルを手の平に叩きつけながら憤怒の表情を浮かべた。
香月もすばやく手をあげて、ぴょんぴょん跳ねる。
「はいはーい、お供しちゃいますよ~」
と、楽しげに言ってから、すみれと香月は食堂から出て行った。
こうして食堂には気を失ったメイド達と、
「んー……孤独ってやつですよ」
ようやく目覚めた来夏がいた。
○
「とりあえず、こんなもんでいいだろう」
両手の平を叩いて埃を落としながら、華堂夜菜はロープで拘束した円城寺明日香を見下ろす。
気を失っていたお陰で、拘束するのに手間はかからななかった。
その近くで服についた汚れを落として身なりを整えた北野雨季が口を開く。
「なぜ、私達はここにいたのでしょうか?」
「オレ達の存在が邪魔だったとすれば?」
「……ここまでしますか?」
「もし邪魔な奴が消えたら……オレだったら幸様のベッドに侵入するか、幸様に抱きついてるぐらいだ」
「なるほど、私も同じですね」
夜菜に同意するように雨季は深く頷く。
「だとすればだ、こいつら冥土隊は……幸様のトイレを覗いてるかもしれない」
軽蔑するような眼で明日香を見て、穢らわしいとでも言いたげに一歩後ろに下がる。
全くの言いがかりだというのに、まるで目撃したかのような態度の夜菜に。
「はあ……やりそうですけど、違うでしょう」
「何言ってやがる。昨日も技術隊のメイド三人捕まえたぞ。風呂を覗くのはオレの特権だから誰にも見せたことはないがな」
「羨まし――……あなた護衛の仕事してるのですか?」
「当たり前の事を言うな。幸様がトイレに入る前は、隠しカメラが仕掛けられてないか確認する」
「なにか違う気がしますが――隠しカメラって……犯罪ですよ?」
「技術隊の連中なら、それぐらいする。あいつら変態だ。一度問い詰めに行こうと思ったが入り口にいるお掃除ロボット「コウタくん」が強すぎてだな……」
「そういえば私も前に、背後から襲撃されましたね『お掃除♪ お掃除♪』とか言われながら……」
「技術隊はどうでもいい、あんな連中は放っておいて――」
『殺ッ―――っ……――』
夜菜が全て言い終える前にどこからか怒声が響いてきた。
「幸様! あなたの愛しメイド夜菜が今行きます!」
夜菜は全速力で廃墟からでていった。
「……写真――くっ、幸様の御身が大事です!」
写真を探すのを諦めて雨季も夜菜に遅れて一秒、明日香を蹴飛ばして幸太がいるであろう場所に向かった。
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