「むぅ〜、ないですね〜。あの侍女はどこに隠したのでしょうか〜」
と、タンスの引き出しという引き出しを開けて、拗ねた感じで口を尖らせるのは木浦香月。
「早く探すの。あれはクズな侍には勿体ないの」
愛用のボルグルで周りにあった置物という置物を打ち砕きながら、涼しげな顔で返事を返すメイド長、獅子童すみれ。
二人は現在ある一人のメイドの部屋を訪れていた。そのメイドとは佐倉家冥土隊『漆黒の騎士』円城寺明日香の私室である。
何を探しているのかといえば、北野雨季から没収した幸太の写真である。
最初は一人で訪れようとした香月だったが、体力には余り自信がないので万が一、明日香が戻ってきた時に必要になるであろう盾。そのために渋々メイド長を誘った。案外簡単だった、プリンと幸太が大好きな彼女が断るはずもない。
そして今に至る訳だが、うまく隠しているのか目的の物はまだ見つかっていなかった。
「あの脳筋でも、これほど巧みに隠せるものなんですね〜。驚いちゃいましたよ〜」
「野生の本能というやつなの」
「あ〜、なるほど〜。それは厄介なものですね〜」
納得したようにポンと手の平に手を当てて、何度も頷く。
「でもでも〜、どうしましょう〜? そろそろ戻ってくる時間だと思うのですよ〜」
すみれに顔を向けて手をパタパタと横に振っているが、おっとりした顔が焦っている感じには見えない。
「仕方ないの……こうなったら、あれを使うしかないの」
明日香のベッドを粉砕して満足そうなすみれは、香月にニタリと悪い笑みを向けた。
少し怖くなって二歩ほど後ろに下がった香月だったが、気を取り直して元の位置に戻ると、首を傾げて問うた。
「あれですか〜?」
「そう、あれなの」
「なるほど、あれですね〜」
「そうなの、あれなの」
「ふんふん、あれはあれですね〜」
「…………」
沈黙するすみれ。しかし、気にした様子もない香月はのほほーんとした顔。「あれ……」まだ何かを言おうとした香月だったが、すみれの目が険しくなるのを見て、ちょっとばかり冷や汗を浮かべながら。
「あ……あれれ〜、ド忘れしちゃいました〜。あれってなんですか〜?」
「知らないなら、さっさと言えなの」
ボルグルを香月の脳天に振り下ろす。「ぷぎゃ」とカエルが潰れたような悲鳴をあげた香月。
頭を涙目で撫で始めた香月を横目に、すみれは近くにあった三脚イスに腰を下ろした。元々そのイスは四脚だったのだが、すみれが一本へし折っていた。
「クズ。すみれの話をよく聞けなの」
「…………」
ムッと頬を膨らませた香月はすみれを睨みつける。元々おっとりした顔だからか、怒っている風には見えず、どこか拗ねているような感じである。
それもすみれには通用しないのは当たり前のことなので、すみれは三脚イスが倒れないようにバランスよく座りながら言った。
「今からボルゲノを呼ぶの。すると、あら不思議……部屋が跡形もなく吹き飛んでるの」
「……あのあの〜、メイド長〜。それはさすがにやりすぎだと思うのですが〜」
「佐倉家メイド隊に『やりすぎ』なんて言葉は必要ないの。ご主人様の前に立ちふさがる壁は全て打ち砕くのがメイド隊の仕事なの」
などともっともらしい事をすみれは言ったが、対する香月は「ご主人様は関係ないと思うのですが〜……それよりもクズってなんですか、いつか背中から刺してやるです〜」
と、ブツブツと呪詛を吐く。勿論すみれに聞こえないように。
「もう時間がないの。こうなったら部屋を粉砕して見つけ出すしかないの」
すみれは自信満々に言って、エプロンのポケットから黒い通信機を取り出した。
「こちらすみれなの。ボルゲノを出撃させろなの」
言ってから数秒――部屋は爆発した。
そう――すみれと香月、二人のメイドを巻き込んで部屋は見事に爆砕した。
○
部屋の惨状はヒドイとしか言いようがなかった。
着替えなど入っていたタンス等も見事破壊されて、その中に入っていた下着や冥土服なども乱雑に散らばり二度と着ることは不可能な状態になっていた。
瓦礫の山の一つから小柄な女性が飛び出してくる。
すみれである。
その近くの瓦礫の山からは「げほっ、げほっ、ひどい目にあいました〜」と埃を払いながら香月がでてきた。
「…………」
すみれは部屋であった場所の中央に堂々と突き刺さったボルゲノに手を置いた。
「技術隊の連中いい度胸なの……」
ボルゲノをひっこ抜き助走をつけて空高く放り投げた。
邪悪な笑み、魔王も逃げ出すほど禍々しいオーラを発しながら、
「潰れるがいいの」
と、呟く。
ほぼ同時に何処からか爆発音が風に乗って運ばれてきた。すみれは部屋を見回して近くに転がっていた通信機を拾い上げる。
「次は殺すの」
――バギャ。
小柄な彼女のどこにそんな力があるのか、通信機はバラバラと砕けて部品が地面を転がっていく。
そんな彼女に背中越しに声をかけてくる者がいた。
「メイド長〜。そもそも部屋がこんなになっちゃったら、写真なんて探せませんよ〜」
香月である。言葉に反応してすみれは深呼吸を何度か繰り返してから、後ろを振り向いた。
「仕方ないの。今度、技術隊に幸太様を盗撮(犯罪)でもさせるの」
「それはいい案ですね〜」
名案だと言いたげに胸の前で手を組んで鼻歌を唄い始めた香月は、その場で今にも躍りそうなほど。
満更でもないような顔で微笑むすみれ。
「もっと早く気づくべきだったの、あの変態な技術隊なら既に盗撮しているのかもしれないの」
盗撮が犯罪だということを二人は気づかない。
「じゃあ、ここは壊され損(器物破損)ってことですね〜」
「ふふ、そうなの。普通は気にしないの。でも、さすがに良心が痛むの」
「さすがに、ここまでしちゃいますとね〜。誰でも良心が痛んじゃうと思いますよ〜。傷まないなんて、そんなの悪魔じゃないですか〜」
二人(犯罪者)は照れたように微笑み合う。悪魔を通り過ぎて魔王に近い存在だという事を二人は気づかない。
「だから、ここは犯人を置いていくべきだと思うの」
「犯人ですか〜?」
「さっき丁度、犯人らしき者を捕まえたの」
クイクイッとすみれは扉があった場所を指差す。そこには、縄でぐるぐる巻きにされて気を失っている雨季と夜菜がいた。
「なるほど〜、悪い人達ですね〜」
スキップしながら雨季と夜菜に近づいた香月は、軽々と二人を部屋だった場所に放り投げる。
「縄を解くの」
「そしたら逃げられるんじゃないですか〜」
縄を解き始めたすみれを見て、香月は疑問符を浮かべる。黙々と縄を解いたすみれは、ボルグルを掲げて――振り下ろした。
「がッぐぅ!?」
「ぎゃう!?」
素早く尚かつ確実に。雨季と夜菜は一瞬身体が跳ねて、生死にかかわりそうな声をあげたが、すみれは額に浮かんだ汗を爽やかに拭き取った。
「これでいいの」
「これなら大丈夫ですね〜」
スタスタと何もなかったかのように部屋だった場所を退出するすみれの背中と、きっと悲惨なことになるだろう気絶した二人を交互に見て、とりあえず合掌。
「恨まないでくださいね〜」
一言残して、すみれの後を追いかけていった。
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