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メイド編
メイド編:第十一話:いつもと同じ(2)
 佐倉家冥土隊の面々は幸太の屋敷から離れた場所にある街に来ていた。
 入り口に大きく掲げられたアーチには【聖楼商店街】と書かれていて、人が溢れて賑わっているのが一目でわかり、皆遠巻きに冥土達を見ている。写真を撮っている者もいるほど……黒で統一された冥土服を着ている集団が、突如現れたのだから仕方ないのかもしれない。
「騒がしいですわ。少し黙らせましょうか?」
 ロールを巻いた横髪をいじり、不機嫌を露わにした顔で辺りを見回しているのは、アリス・へディナ・ヘリオス。
 気品と優雅さを兼ね備えた佐倉家冥土隊【獅子の女王】にして、幸太親衛隊【零番】である。
 物騒な言葉を聞いて後ろに控えるように立っていた円城寺明日が慌てて口を開いた。
「別に害があるわけではありませんが?」
 この場所で騒ぎを起こすのは得策ではなかった、ここは佐倉家の力が及ばない場所。
 それでもアリスの機嫌が治るはずもなく、更に苛立ったのか腰に差した黒刀を抜こうとする。
「この土地を治めるのが御堂家という事はわかっていますわ。だからと言って、わたくし達が下手にでる必要もありませんの」
 御堂家――遙か昔からこの土地を治める一族であり、佐倉家が何度も開発の手をこの地に伸ばそうとしたが、ことある毎に邪魔をしてくるのでアリスは気にくわなかった。
「インチキ霊能力者の集団など恐れる必要などありませんわ」
「しかし……旦那様がそれをお許しになるはずもありませんし、幸太様はお怒りになると思いますが」
「し、仕方ありませんわね……幸太様を怒らせるのは良くありませんわ」
 と、言ってアリスは大きく深呼吸して心を落ち着かせようとするも、急に目の前にできていた人垣が波が引くようにいなくなってしまった。
 隣に立っていた明日香も怪訝な表情を浮かべるばかりで、何が起きたのかわかっていないようで、アリスと明日香は呆けた顔で現れた人物に視線を向けていた。
「何かのイベントかと思ったけど……こんな所にメイドさんがいるなんてね」
「すごいわね……いっぱいいるわよ。でも、メイドにしてはちょっと服装変じゃない? すごい真っ黒じゃないの……」
「蓮さん、違うよ。これが都会では流行ってるんだよ」
「へ〜そうなんだ。私そっちには興味なかったから全然わからなかったわ。それにしても……こんな所で集団で立たれたら邪魔で仕方ないわね」
 と、好き放題に言う少女二人に呆気にとられたアリス達は立ち尽くしていたが、明日香が何かを思いだしたように表情を一変させてアリスの耳元で囁いた。
「スーツを着ているのは不堂家のご令嬢のようですな」
「なるほど御堂家の者達ですか……」
 二人の少女に視線を移したアリスは見入る、一人はセミロングのスーツを着た少女でどこか中性的な雰囲気を放っていて、隣に立っているのは後ろを高く結い上げてポニーテールの髪型をした勝ち気そうな少女。
 どちらも胸がない事を確認してからアリスは勝ち誇るような笑みを浮かべた。
「御堂家の方々のようですわね?」
 アリスの言葉に最初に反応したのはセミロングの少女だ。
「合ってるようで間違ってますね。ボクは確かに将来は御堂家の姓をもらいますけど、今は直系分家、不堂家の娘です」
「愛、なにを自然に言ってんのよ。そんなのナシに決まってんでしょ。メイドさん私も今は直系分家の林堂家だから御堂家じゃないわよ」
「どちらでもいいですわ。この土地の人間は礼儀がなっていませんの。少しお話をさせて頂こうかと思いますの」
「すいません。今日はちょっと大事な用事があるので、商店街でメイド喫茶がやりたいなら御堂本家を訪ねたらいいですよ。御館様なら一言でオッケーって言うと思うので、場所ならすぐそこなので近いですよ」
 と、セミロングの少女は冥土達の後方に見える大きな山を指差した。つられて冥土達は後ろを振り向く。
「あ……」
 と、間抜けな声をだしたのはアリス、慌てて少女達がいた場所に視線を戻すが、既にそこには誰もいなく恥ずかしくなってきたアリスは俯いて肩を震わせる。
「なるほど……存外ただの少女ではないようですね。我等のような鍛えられた冥土を相手にあんな古典的な方法を使うものはいません。一杯食わされましたな」
 顎に手をあてて感心するように何度も大きく頷く明日香を尻目に、アリスは引き攣った笑みを浮かべていた。
「ふっ……ふふふふ。ここまでバカにされたのは初めてですわ。次に会ったら斬ってさしあげますの」
「ですから、ここで問題を起こされるともみ消せないので、遠慮していただきたいのですが……」
「お黙りなさい。少し疲れました……近くに喫茶店がないか探してみましょう」
 少し肩を落として深いため息をついたアリスを見て、胸を撫で下ろした明日香は言葉を選び間違えた。
「メイド喫茶でも行きますか?」
「死にたいのですか?」

    ○

 聖楼商店街に明日香の絶叫が響き渡っている頃、佐倉幸太は昼寝から目が覚めていた。
 時計を見るも一時間ほどしか寝てないのを見て「もっと寝てたかと思ったんだがな」などと熟睡したような感じに違和感を覚えつつ立ち上がる。
「さて、なにをしよう」
 首を傾げながら何をしようか考えるも、なにもでてこないので「とりあえず、部屋からでるか」と言って、部屋からでていこうとする。
 扉を開けたらそこには赤絨毯が敷かれた廊下で壁には絵画などが掛けられ、見慣れた風景ではあったがちっとも興味がないので視線は常に前を向いて歩き続ける。
 角を曲がった時、一人のメイドとすれ違う、しかしメイドの足が真横で止まって幸太に視線を向けてきた。
『あっ、ご主人様。メイド長がどこに行ったか知りませんか?』
「すみれなら冥土隊の明日香の部屋にいると思うぞ」
『ありがとうございます。行ってみますね』
 頭を下げてメイドはぱたぱた走り出したが、埃が不思議と舞い上がらず幸太は「さすがだ」と感心しつつ再び歩き始めた。
 目的もなく歩くのも悪くないな、と思いながら幸太は屋敷の玄関に辿り着く、重厚な門とさえ言える巨大な観音扉を押し開けて、外にでた幸太を迎えてくれたのは甘い香り漂う庭園だ。
 様々な花が咲き誇りよく手入れされている、そんな花に囲まれたメイドが一人。
 幸太は声をかける。
「来夏は本当に花が好きだな」
「はわっ!?」
 唐突に声をかけられたメイドは手に持っていた如雨露を手からこぼれ落とし、慌てて拾い上げようとするも蹴り飛ばして更に距離があいて、慌ててその後を追いかけ始めるが石につまづいて地面に向けて倒れて顔面を強打した。
「はうぅ〜強烈な痛みですよ」
 鼻面を押さえながら唸り始めたのは、佐倉家メイド隊に入ってまだ日が浅い、見習いの高月こうづき来夏らいか
 髪を横で結んでツインテールにしているが、それよりも目立つアホ毛を風になびかせている、大きくクリクリとした瞳は小動物を思わせて、痛みをこらえて震える姿はチワワの如くか弱い印象を与えるメイド、勿論見習いであるからして服装は、白で統一されたメイド服を提供されている。
 そんなチワワのように震えるツインテール娘に幸太は如雨露を代わりに拾って近づく。
「大丈夫か? 急に声かけて悪かったな」
 と、気遣うように如雨露を差し出した。
「はぅ〜強烈な痛みどころか幻聴まで聞こえてきたですよ。幽霊さんは少し苦手ですよ〜」
 耳を押さえて更に身体を震わせ始めた、まるで極寒の地にいるかのような震え。
 幸太は慌て始めるが、いいことを思いついた、といった表情を浮かべて、
「幽霊じゃないぞ、ちゃんとした人間だ。足もちゃんとあるし腕もあるし、なんと頭まであるんだから人間に決まってるだろ」
 少し言葉が変になっている幸太だったが、気にした様子もなく腕を広げて足をその場で動かして奇妙な動きをして人間をアピールする。
「はわわっ!? ぴ、ピエロが来夏を誘拐しにきたですよ! ごめんなさいです。もうメイド長のプリンを食べたりしないですから、許してくださいです〜」
 不意に立ち上がった来夏は、頭を何度も下げながら幸太の顔を見ようともせず、そのままどこかへと猛烈な勢いで走り去っていた。
「いや、ピエロでもない……けど……・な」
 余りにも突然の出来事に幸太は引き止めることもできず如雨露を片手に呆然とする。
 引き止めようと伸ばした右腕を降ろして空を仰いだ。
「部屋に戻るか……」
 来夏の驚きっぷりに軽いショックを受けた幸太は、哀愁漂う背中を庭園に向けながら屋敷の中に消えていった。


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