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人間と悪魔を繋ぐ者
作:-空色-


 満月のきれいな夜。ある小さな街の暗がりに、二人の人間が立っている。
「この辺りですか?」
「えぇ、それと周りの被害はまだ無いみたいですよ」
「そうですか。手早く済ませたいですね。あいつをこのまま野放しにしておくと、いづれはこの世界が闇に包まれた、影だけの世界になってしまいますから」
「それに、嫌な風が吹きはじめてます」
「被害が出る前に終わらせましょう」



 満月が落ちて、太陽が真上を通り過ぎたころ、とある少年は中学校にいた。
「はい、ではこの文章の感想を聞かせてください。ではまずは……レイ君」
 女教師はレイという少年を指した。少年は嫌々立ち上がった。
「はい、あ、えっと……あの、その」
 レイは立ったままモジモジとしている。クラスの半分以上が薄笑いしている始末だ。そうこうしている内に、学校のチャイムがなってしまった。
「仕方ありませんね。残りのものは宿題とします」
 クラス内で大ブーイングが起こる。レイは小さく縮こまった。
「またレイのせいで宿題増えちゃったよ」
「こんな事誰にでもできるだろうに」
「本当役立たずだよな」
 そんな声がクラス中に広がっている。
 今のが最後の授業だったので、レイは逃げるように学校の外に出た。

「あんな事、気にしない気にしない」
 レイは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
 彼の名前はレイ。勉強運動共に中の下、性格はきわめて引っ込み思案。そのせいか、クラスでは軽く馬鹿にされている。
 レイはため息を漏らしながら下校をする。
「あぁ、僕にも何か取り柄ないのかな」
 いつものごとく一言目の弱音を吐いた時だった。



「痛、何だ?」
 足の先に何かが刺さったような痛みが走った。レイは足を上げて、靴の裏を見た。
「釘?」
 小さな釘が靴に刺さっていた。レイは無理やり引っこ抜いた。
「道に落ちてたのを踏んじゃったかな」
 そしてレイは歩き出した。
「痛!」
 また足に痛みが走る。レイはまた足を上げた。
「釘が……」
 次は大きめの釘が三本も刺さっていた。足自体に刺さったのは先端だけだったが、妙だ。
「な、なんでこんなに釘が」
 そうレイが思ったときだった。

   チャリン、チャリン、チャリン

 後ろから、小さな金属部品が地面の上に落ちたような音がした。レイは少しづつ後ろを振り返る。
 しかし、そこには見慣れた自分の影しかなかった。持っていた釘を捨てて、レイは再び歩き始める。

   チャリン、チャリン、チャリン

 今度は音と共に寒気が走った。しかしレイは歩き続けた。怖くて後ろを振り向けないのだ。その時だった。
「うわっ!」
 レイは何も無いところで、派手に転んだ。しかし、何かに躓いたような感触がした。
 そして、レイが打ち付けた手をなでながら、立ち上がろうとした時、気がついた。自分の影に足を捕まれている。
「何なんだ!?」
 レイの影は、レイが激しく動いているのに大して、ただ立ち尽くしたまま、足を掴んでいるだけだった。
「うわぁぁ、放せ!」
 レイが叫び始めた。その時だった。影は地面から離れ、実体化した。しかし、レイなど比べ物にならないほど大きく、電話ボックスほどの大きさだった。そしてそのまま、レイの足を掴んでいとも容易く、持ち上げてしまった。さらにもう片方の手には……
「ご、五寸釘、やめろ!」
 巨大な影に抵抗するレイ。しかし影はまったく動かずに、釘をレイの心臓に突き刺そうとしている。
「うわぁぁぁぁぁ!」
 レイが思い切り叫んだ。その時だった。
「痛い」
 レイは頭から地面に落下した。巨大な影の手を見てみると、赤い十字架が手に刺さっている。そして、影とは反対の方向を見ると、一人の男が立っていた。



「離れててください」
 男がレイに言った。レイは一目散に男の後ろに回りこんだ。
「あらら、救影会め、随分嫌な奴を残していきましたね」
 男はそう言うと、レイの影に手をかざした。
「赤十字」
 男の手から、果物ナイフほどの大きさの、赤い十字架が影に向かって飛んでいった。すると影は、寸での所でかわし、逃亡していった。

「黒式、奴を追ってくれ」
 男がそう呟くと、男の影が実体化した。さらに驚いたことに、大きな猫の様な形になった。すでに黒雹そのものだ。そしてその影は、レイの影の逃亡した方向に、驚くべき速度で追いかける。
「君、大丈夫ですか?」
 男はレイに声をかけた。その言葉で、レイは我に返った。
「あの、あれ、あれはなんだったんですか?」
「話せば長くなりますが、あれは君の影ですよ」
「そんなことじゃありません!何で実体化したり、巨大化したり、襲ってきたりしたんですか!」
「わかりました。一つづつ話していきましょう」
 男はそう言って、語り始めた。



「まず、自己紹介しましょう。私は影契師のウォド・アッシュです」
「ぁ、レイ……です」
「ではレイ君、解説しましょう。まず第一に影とは何か!実は影も人間と一緒で生きているんですよ」
 レイはあまりに急なことで信じがたかったが、体験してしまったせいで、信じるしかなかった。
「そしてこの影っていうのは、人間が言う悪魔みたいな者ですかね」
「あ、悪魔?」
「あぁ、誤解しないでくださいよ。悪魔だからといって、悪事ばかりしているわけではありません。どちらかというと今は、寄生虫と言っても過言ではありませんが」
「はぁ、そうなんですか」
「実はこの世の中には、もう一つの世界というのがありましてね。魔界と呼ばれています」
「魔界って事はもしかして……」
「無論、悪魔たちの世界です。そしてその魔界は、神様のイタズラなのか、この世界の光と影で構成されている、二次元の世界なんです」
「つまりは光でできる建物の影などで構成されてるわけですか」
「おぉ、飲み込みが早いですね。なんで悪魔が人間と動きを合わせるかはさておき、さっきの悪魔が寄生虫のようなもの、というのをご説明しましょう」

「現在は、悪魔は、この世界で言う天使に狙われているんです。悪い奴らじゃないんですけどね」
「じゃあ、なんで狙われているんですか?」
「それについては、また今度ということで。話を戻しますが、人間はなんというか、悪霊ですかね。悪魔がいないと、悪霊に狙われてしまうんですよ」
「あ、悪霊ですか」
「正式名称は違うんですけどね。そして人間と悪魔は、お互いに助け合うことにしたのです」
「つまりは、人間が天使を、悪魔が悪霊を追い払うわけですか?」
「そういうわけです。天使は生き物を殺すことができず、悪霊は悪魔を恐れていますから」
 だんだんと話がかみ合ってきたと、レイは少しワクワクしていた。
「そして、ここからが一番の本題です」
 辺りの空気が重くなるのを、レイは感じた。



「近日、悪魔たちの反逆が起きたのです。普通に考えるとありえない事なんですがね」
「もしや、僕の影が暴れだしたのも……」
「無論そのせいです。悪魔はプライドが高く、人と共に生き、人と共に滅びる生き物なはずなんですよ。人を裏切るなんて、到底考えられません」
「では、一帯何が?」
「……救影会、何を考えているかわからない集団です。今回の事件も奴らが関与していると睨んでいます。そして……」
 アッシュは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「レイ君、君は自分の影と戦い、契約を結びなおさねばなりません」
「た、戦う!?」
 レイの声が裏返った。しかしアッシュは話を続ける。
「悪魔はプライドの高い奴なんで、自分より弱い人間には取り付きません。なので力を証明したあとに、この書類にサインをさせてください」
 アッシュはそう言うと、首にかけたかばんから、ある書類を取り出した。
「人影保護承諾書?」
「えぇ、つまりは自分の影に戻らせるための書類です。悪魔はケジメが大好きで、書類を書かせないと戻ってこないんですよね。あとはこれをどうぞ」
 アッシュは次は、薄いパンフレットのような本を取り出した。
「ん〜、懐かしいですねぇ〜」
「え?」
「あ、いや何でもありません」
「あの、それよりも書いてある意味がよくわからないんですが」
「悪魔の囁き……通称魔術ですね」
「と、言いますと?」
「はい、魔術を駆使して、自分の影に力をみしてやってください」
「む、無理ですよ!運動だって勉強だって苦手な僕なんか……」
 レイは首をぶんぶんと横に振った。そんなレイの肩に、アッシュが手を置いた。
「レイ君、戦いに行きたくない理由は多々あるでしょう。別に頼んでいるわけではありませんよ」
 怖がるレイに、アッシュは優しく、そして厳しく言った。
「頼んでいるのではなく、強制です」
「嫌ぁぁぁぁぁ!」



 人気のない夜道、レイは一人歩いていた。
「うぅ、怖いよぉ」
 結局レイは、自分の影に契約をさせるために、影を探し始める。
「でも戦わなきゃ死んじゃうよぉ」
 あのあと、アッシュの話を聞いていると、影はプライドが高く、主が一人で勝たねば、契約を破棄するらしい。そして、今日の十二時までに契約ができなければ、レイは悪霊に呪い殺されてしまうのだ。
「戦う手段って言ってもこれだけだし……」
 レイはそう呟くと、手に持った本を見た。
 結局本に書かれていた悪魔の囁きという魔術は、4つだけだった。
 数秒間、指定した空間を密閉状態にする『エアキューブ』自分はすり抜けられるらしい。
 そして二つ目は、指定した場所に、空気中の酸素と水素で水を生成する『アクアボール』
 三つ目は、家庭用電源の半分も電圧のない雷を、手から連続で放出する『ラインボルト』距離はレイの場合、十メートルが限度らしい。
 そして極めつけ、百円ライターくらいの火力しかない『ドットフレイム』なぜこんな魔術を作ったのだろうか。
 悪魔の囁きを使いすぎると、精神的に疲れてくるらしいので、乱発は控えろと釘をさされた。
「これを乱発しないで、どう倒せと?」
 運動や勉強でもお手上げなレイ、すでにこの戦いさえ戦う前からお手上げだった。そんなレイの周りに異変が起きた。

 チャリン、チャリン、チャリン

 レイは息を飲んだ。そして、手に持ったノコギリを構えた。そして暗がりから、奴が出てきた。しかし、昼に見たときとはまったく違っていた。まるで、赤鎧を着た般若と言った所か。アッシュいわく、昼は天使にできるだけ見つからぬように、黒く染まっているらしい。昼は天使、夜は悪魔の世界のようだ。
「ご機嫌麗しゅう、元主人よ」
「やっとでてきてくれたか」
 すでに時刻は一二時まで三十分前、つまりレイは三十分以内に契約を成立させなければならないのだ。
「さぁ、来い」
「子供相手にいたぶる趣味はないんだが、行かせてもらおう」



 その頃アッシュは、別の場所の見回りをしていた。
「ご主人、レイは大丈夫なんでしょうか?」
 アッシュの影、黒式が問いかける。
「ん?ん〜、正直やばいかもしれませんね」
「随分正直に言いますね。でもそうでしょう。一目でわかりました」
「えぇ、あの影の大きさ、雰囲気、あれは……」

   『魔王』



 悪魔の囁きを使いながら、必死に逃げまどうレイ、それを物ともしない、そしてレイをなぎ払うように腕を振り回す魔王。すでに時間も残っていない。
「元主人よ、逃げてばかりでは命を粗末にするだけではないか?」
「へへ、気にしない気にしない」
「……元主人よ、貴方はいつもそうだった。目の前のものから逃げ出し、悔しがりもせず、ただ苦笑いを浮かべるのみ。貴様にプライドはないのか!」
 魔王は叫びながら、レイに急接近した。そして魔王の拳が、レイの腹辺りに当たった。レイは数メートル吹っ飛び、腹を押さえてかがみ込んでしまった。
「私はそれでも貴方に仕えてきた。しかし、もう限界を感じた時だ。救影会が現れ、私に自由を約束した。そう、貴方の命と引き換えに」
 しかし、その時レイは、体の異変を感じた。

「殴られたせいじゃなくて、息が、苦しい」
 レイはふと思い、時計を見た。針は一二時三分を示していた。
「元主人よ、逃げ続けていたつきが回ってきたようだな」
「逃げて、なんかないさ、期を待って、たんだ」
 息を荒くしながら、レイが言った。そして、何か呟き始めた。それを見た魔王が
「貴方のいい訳には毎度毎度がっかりさせられる。まさか死ぬときまでもそのような事を」
「エアキューブ!」
 透明の四角形は、魔王を囲んだ。しかし魔王はただにやけているだけ。
「何をするかと思えばこんなもの――」
「アクアボール!」
 エアキューブの中に水がたまっていく。
「ほう、我慢比べでもする気か。どちらが先に窒息するか、結果が目に見えているなぁ」
「ラインボルト!」
 レイは水のたまったエアキューブに向かって、ラインボルトを連続で撃ち込んだ。
「うぐぁぁぁ!」
 魔王もさすがに絶えられないようだ。しかし、水が化学変化を起こし、無くなっていく。そして、半分ほどになった所で、レイはラインボルトを止めた。しかし、魔王は余裕で立っている。
「最後の悪あがきか、なんと醜い」
「いや、計算、通り、だ」
「この期に及んでまだそんな事を……」
「ドット、フレイム!」
 レイはエアキューブに向かって、火の粉を飛ばした。
「何だその炎は、元主人よ、つくづくかわいそうな人だ」
 火の粉が魔王に迫っていく。
「これで、終わり、だ」
 火の粉はなんと、エアキューブに燃え移り、巨大な爆発を起こした。
 水が状態変化し、酸素と水素に分かれたのだ。そして、酸素は引火性、水素は有爆性が高いのだ。
「ぐおぁぁぁぁぁぁ!」
 悪魔の叫びが、辺りにこだまする。

 爆発が収まり、レイは最後の力を振り絞り、倒れている魔王の首にノコギリを突きつけた。魔王はそんなレイをジッと見ている。するとレイはポケットから書類を出した。
「契約、を、してく、れ」
 そういい終えると、レイは倒れこんでしまった。紫色の気体が、レイの口に流れ込もうとした時だ。
 その気体は、魔王の手によって引き裂かれた。
「契約成立だ、我が主人よ」





 ――数年後
「うわぁぁぁ!」
 少年の叫び声がする。
「また奴らか?」
「そのようだ、我が主よ」
 男は叫び声のした方向へ走り出す。
「ラインボルト!」
 男は少年を襲う悪魔に閃光をあびせた。すると影は金切り声を出しながら逃げ出した。
「追え、魔王、見失わない程度にな」
「承知」
「君、大丈夫か?」
 男の声で、少年は我に帰った。
「あの、あれ、あれはなんだったんですか?」
「話せば長くなるが、あれは君の影だ」
「そんなことじゃありません!何で実体化したり、巨大化したり、襲ってきたりしたんですか!」
 男は何か、懐かしい気持ちを抱きながら語り始めた。

「嫌ぁぁぁぁぁ!」

       −Endless−


 最後まで読んでいただいて、ありがとうございます!(・ω・`;)よくわからない面も多々あるかと思います。
 今回の作品は、あえてたくさんの謎を残しました(ヤメロ
 謎の多い作品って、書く側としては、種を明かす時がすごい快感なんですが、あえて溜め込みました;;

 なんかこのままシリーズ物にできそうかなぁ、とか書いてる途中思っちゃったり;;まずは†ドラッグアームズ†(連載中小説)が三章ぐらいまで終わってからですね。

 とりあえず、ネタ明かしはする予定です(・ω・`)いい感じの評価もらえたら明かさずにシリーズ化しちゃったり(ナイダロ

 それはおいといて、本当にお読みいただき、ありがとうございました!













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