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6章 坂手

 そこは広い空間であった。


 壁という壁には優美な装飾がなされ、天井は高く、またそれを支える幾本もの柱も豪著にて雄大。

 十を超えるシャンデリアが垂れ下がり、顔を映すほどに磨かれている床には、一本の赤い絨毯が敷かれていた。


 ――玉座の間。


 赤い道の先にあるのは、教皇ランディエゴ。

 そしてこれよりは、赤い道をより赤く染め上げようと、二人の戦士が対峙していた。


「その剣の持ち主はどうなった」


 それを発したのはタケオの目の前に構える男――坂手。

 操られているはずのその男は、私的ともいえる言葉を話したのである。


 その事実に、タケオは目を見開いた。

 坂手の首には、奴隷の首輪が確かにあるのだから。


「……それを答える前に、一つ聞きたい。お前は操られているんじゃないのか」


 松村を殺したタケオである。

 そのことを話せば、問答無用で戦闘になりかねない。


「俺はこの世界の言葉に慣れてなくてね。確かに操られてはいるが、命令に逆らわないことならば、ある程度のことはできるんだ」


 そういうことか、とタケオは思った。

 たとえばタケオの場合、異世界の言語を頭の中で日本語に変換することなく、自分のものとして使えている。

 だが、ここに来たばかりの者はどうか。

 言わずもがなであろう。そして、頭に届いた命令、それを日本語に変換する際になんらかのブレーキがかかるのではないだろうか。


「この剣の持ち主もか?」


 タケオが思い出す松村の言葉は、明らかに未熟であった。


「ああ。

 彼については、俺以上に不慣れだったから、操られることはなかったんだ」


 だから首輪がなかったのか、とタケオは納得した。

 首輪に操る効果がなければ、あとは締め付けるくらいしかできない。

 しかし、松村の力なら首輪なぞ自ら壊せるだろう。


「もういいだろう。その剣の持ち主は――」


「僕が殺した」


 これでいい、とタケオは思った。

 言い訳をするつもりはなく、事実タケオが殺したのだ。

 さらに教皇は、これでタケオが異世界人の仲間だとは絶対に思わないはずだ。

 万が一にも、高魔力、黒髪黒目という特徴から同郷の者と判断されることがあってはならないのだから。


「そうか……」


 坂手は、松村の死を悼むように僅かに沈黙し、そして――


「仇は必ずとる」


 ――その瞳には、操られながらもなお確かな意思を秘めた、復讐の炎が宿っていた。


◇◆


 日本中を探しても、坂手ほど学校が好きな者はいないだろう。


 はじめは優越感であった。

 坂手は自分よりも劣る生徒達を前に、自分が特別な存在であると認識した。

 坂手の両親が私学に入れなかったのもこれが理由である。

 まず飴を。

 両親は坂手に厳しい教育を施し、その成果をみせてやりたかったのだ。


 努力が己を特別な存在にする。

 一度その甘美に酔いしれれば、今後いかなる時いかなる場所にあっても、それを怠ることはしないであろうからして。

 だが坂手は、両親の思惑とは別の道へと進むことになる。


「家に帰りたくないな……」


 ある時から坂手に心の変化が起こった。


 時間管理された厳しい生活。

 常に結果が求められる厳しい習い事。

 それが当然だとして育てられてきた。

 だが、そんな生活に亀裂が生じ始めたのである


 厳しさばかりで優しさを与えなかった両親。

 厳しくすることが親の愛だといってしまえばそれまでだが、ものには限度がある。


 学校では皆が誉めてくれる、皆が自分を頼ってくれる。

 坂手は学校を、クラスを、己の居場所と認識した。

 そして、坂手の本当の家はただ寝食をするための場所となっていったのだ。


 やがて坂手への愛は、坂手からの愛へと変わっていく。

 己の居場所――学校を守る。

 クラスの者は家族であり、学校の生徒はよき隣人。

 坂手は誰よりも心優しく、誰よりも誠実で、誰よりも強くあり続けた。


 不良であった松村を真人間に変えたのも坂手である

 坂手は松村に、不良のままでいることの不幸な未来をコンコンと説いた。

 家族であるのだから。

 そんな一心で決して諦めず、わかってくれるまで話を続けた。


 そこには互いに殴りあうという、よろしくない経過もあった。

 しかし、幾度もの話し合いの末に、松村はサボりがちだった授業に出て、自主的に勉強をするようになったのである。

 もっとも、見た目こそ不良のままであったが。


 松村がそれなりに真面目になったのは、彼いわく――


「馬鹿らしくなった」


 ――だそうだ。


 それを聞いた坂手が笑い、松村は舌打ちをしながらもどこか嬉しそうであった。


 坂手にとって教室は家であり、クラスメイトは家族。


 そして今、その家族であるクラスメイトが危機に陥った。

 ならば坂手は、己を身を賭しても助けねばならない。


 ――なぜならそれが家族なのだから。



◆◇


 剣を構えてジリジリとにじり寄る坂手。

 早く攻撃を仕掛けてこい、といわんばかりである。


 実力はタケオが遥かに上。

 それゆえに坂手は、肉を切らせて骨を断つという、己の回復能力を活かした戦法をとったのだ。


(困ったな……)


 タケオは坂手の処遇に頭を悩ませていた。

 いうなれば、坂手の強さは微妙なのだ。


 確かにそこらの者よりも坂手ははるかに強い。

 しかしタケオにとっては脅威ではなく、それは殺すことに躊躇が生まれるのと同義である。

 じゃあ、殺さないのかといえば、残しておくには厄介な存在――それが坂手であった。


 首輪を剣にて断つことも、普通の奴隷ならば首を傷つけて殺してしまうところであるが、瞬時回復をもつ坂手ならば可能である。

 多少、首に傷が入ったところで、死ぬ前に治るのだから。

 しかし問題なのは、坂手が首輪を外したところで味方になるわけではないということだ。


 坂手には人質がいる。おまけにタケオは仲間の仇である。


(この目の前の男を無視してランディエゴを殺れるか?)


 そう考えて、いや、とタケオは心中でそれを否定する。

 やはりあの騎士達の力が気になったのだ。


(それに、ランディエゴ自身が剣を傍らに置いているのも気になる)


 ランディエゴは戦える存在。だとすれば、その実力はいかほどか。

 すると、その時のこと。


「サカテ」


 ランディエゴがその名を呼んだ。

 初めて聞いたサカテという男の名。


(サカテ……逆手……坂手か)


 この大陸では聞いたことのない響きであり、タケオはやはり日本人かと得心した。


 ランディエゴは坂手の前にナイフを投げて寄越した。

 床にカランカランと音を立てて転がるそれ。


 タケオは剣を構えながらも、なんだ? と眉をひそめる。


 なにか特殊な武器かと思い、蹴飛ばしてやりたい衝動に駆られた、その位置がよくない。

 騎士達と坂手の交差点に入るのは、避けねばならないことだ。

 そしてランディエゴが口を開く。


「なんたる無能、自刃せよ」


「――は?」


 タケオは耳を疑った。

 そしてタケオの前には、剣を捨ててナイフを手に取る坂手の姿。

 坂手は自身の鎧を無理矢理に剥ぎ取って、その腹にナイフを突き立てたのである。


(……馬鹿な)


 タケオには意味がわからなかった。

 まず最初に考えたのが、坂手を自殺させる理由である。

 しかし、すぐにそれは何故腹にナイフを突き立てたのかという疑問に変わった。

 なぜなら坂手には、瞬時回復という魔力変換能力があるのだ。

 腹の一つや二つ傷つけられたところで、一秒も経たぬうちにその傷は塞がるのだから、全く無意味な行為といってよかった。


 だが、違う。


「グ……ッ、ギ……ガアアアアァァァァァァァァッッ!!」


 驚くべきことに、坂手はうずくまり、苦しみ出したのである。


(――毒か)


 そうまでして、殺したかったのか。

 知らぬ地に拐われ、奴隷にされ、そして用済みと判断され捨てられる。

 タケオは坂手を思い、哀憐の情を抱いた。


 と同時に、ランディエゴへの憎しみや怒りといった念が身体中に渦巻いていく。

 タケオは身体がどうしようもなく熱くなるのを感じながら、剣をランディエゴへと向けた。


「ところで、人はどのように生まれたか知っているか?」


「なに?」


 しかしランディエゴは、剣先が向けられていることを気にした風もない。

 それどころか、まるで部下に話かけるように気安くタケオへ語りかけた。


「なに簡単だ。神が人を作ったのかどうかという話だ」


「……それが今なんの関係がある」


 タケオは殺気を込めてランディエゴを睨み付ける。


「ふん。ちょっとした余興だ。

 たとえば獣人達。奴等はその名のとおり元は獣だ。

 たとえばエルフ達。こいつらはもっと酷い、元は遺跡に住む醜い魔物だ」


「……」


 タケオはランディエゴが何を言いたいのか、その真意がわからず黙然とした。


「では人間はどうなのか。

 ふふ、人間の元は猿だ。人間も獣人と変わらぬ獣よ」


 この大陸において、その獣とそう変わらない姿から、獣人は獣が成長した姿だと思われていた。

 エルフは森を愛する民であるから、森から生まれ出た種族とされていた。


 ――そして人間。

 その姿は体毛も薄く、とても獣のようには見えないし、また何かを特別愛するものでもない。

 よって人間は、自分達を神より生み出されたものだと自称していたのである。


「では、なぜ人や亜人達が今のような二足歩行になり、道具を使い、よく考える姿になったのか」


 そんなことはタケオにもよくわかっている。

 それは、日本では常識的な話であったからだ。


 そして、何故こんなくだらない話を、とタケオは思い――。


「――ッ!?」


 タケオの口から出た声ならぬ声。

 視界の端で、坂手の首が突如盛り上がったのだ。

 それだけではない。

 くすんだ銀色、その首は色が明らかにおかしかったのである。


 タケオは飛び出した。

 逡巡や躊躇いといった感情はそこにはない。

 剣をただ、坂手の頭へと横凪ぎに振るった。

 しかしタケオの剣は、皮膚の下より現れた銀色の――まるで束ねたワイヤーのようなものに阻まれる。

 そして、ランディエゴは言った。


「――進化だ!

 我々は進化したのだ! 神が人を生んだなどまやかしよ!

 どの種も、己が生を掴むために、必死に自らを高めていった末に、今の姿があるのだ!」


 ランディエゴの天に向かって愉快そうに叫ぶ声は、とてつもなく耳障りであった。


「まずはドワーフ。それは最も小さな猿から始まった。

 奴等は武器を作り始め、獣を狩った。するとその脅威に対抗するように、生存本能というべきか、他の種も変貌し始めたのだ」


 ランディエゴが一人話を続ける中、タケオが坂手の全身に隈なく剣を叩きつける。

 だが、肉は通れども中身には通らない。

 それは、坂手の中身が既に変身を終えていることを意味していた。

 それがタケオの剣が通らぬ理由であったのだ。


「我々は何か脅威が現れた際。

 そう、生存本能を強く刺激された際に、それに対抗するため変化してきたのだ。

 無論、その過程には数多くの死と何代もの世代交代が必要になるがな。

 ――しかし、もし一代で進化を可能にする者がいたら果たしてどんな存在か」


 坂手の中身が肉を弾き飛ばして姿を表す。

 するとランディエゴは、またも声を高らかにした。


「肉を動かすのは魔力、魔力の根源は魂!

 先程のナイフにはこの世のあらゆる毒が塗られていた。当然、魂を脅かすような毒もな。

 いわば生命の根底たる魂を侵されてなお、抵抗できる存在!

 それこそが、一代にて進化を果たす生物の答えだ!」


 全てを話し終えると、ランディエゴは大声で笑った。


 タケオが後ろに跳び距離をとると、坂手がゆっくりと立ち上がる。


 そこにいたのは、もはや人間ではなかった。


 背丈は三メートルを超えるほどに高く、その胴は巨牛のように太い。

 丸太ん棒のような腕に、その何倍も大きい太股。


 そして何よりも目を引くのが、全身を一本一本金属のような線が、まるで束ねたワイヤーのようになって、筋肉を形作っていることである。

 それは顔や四肢、指にまで及び、奴隷の首輪はその金属線の中に埋もれていた。


(こんなことが……)


 そのあまりにも異形な姿に、タケオは血も凍るような不気味さを感じた。


 魂を侵すほどの毒で進化のきっかけを作り、タケオという脅威が進化の方向性を決め、瞬間回復能力がこの僅かな間での進化を成功させたのである。


「やれ」


 瞬間。

 とてつもない速度でタケオへと走る。

 松村か、それ以上か。


 だがタケオはそれを迎え撃った。

 狙うのは、坂手が先程までずっと手で覆い隠していた眼球、そしてその奥にある脳。

 タケオは跳躍し、渾身の突きを坂手の顔面へと放った。

 結果、相手の勢いも加わり、タケオの剣は容易に坂手の目へと突き刺さる。


 ――だが。


「なにっ!」


 目を剣に貫かれたまま、坂手は駆け抜けた。


「うおおおおおおおっっ!!」


 タケオの絶叫が響く。

 何枚も城の壁を突き抜け、そのまま坂手と共に外に吹き飛ばされるタケオ。


 外は三階に位置する上空。

 その中空で坂手がタケオに拳を振るおうとするが、それよりも先にタケオは坂手の巨大な身体を足場として、大地に向かって跳んだ。


 タケオは坂手よりも何倍も早く大地にたどり着くと、受け身をとって立ち上がり、その場から距離をとる。


 僅かの後に、坂手がドスンという人の質量ではあり得ないような音を立てて、大地に降り立った。

 坂手がズルリと剣を引き抜くと、先程貫いた目は一瞬にして回復する。

 カランと剣を投げ捨てると同時に、坂手は走った。

 それは、とてつもない速さであった。


『ごめんな』


 タケオが謝ったその言葉。

 それは日本語である。

 坂手は驚きつつも、振るう拳にその感情が反映されることはない。


『松村から、君を救ってやってくれと最後に言われたんだ』


 タケオは、坂手が放つ攻撃の全てを容易く避けた。


『だがそれはできそうにない』


 坂手は確かに速い。

 だがそれは巨大さによる速さであり、タケオや松村のような速さと比べるとあまりにも緩慢過ぎたのだ。


『他の生徒達は必ず助けてみせる』


 タケオはそう坂手に告げた。

 すると坂手は、拳を振るいながら言う。


 ――殺してくれ、と。


 涙を流しながら口にしたその言葉は、やはり日本語であった。


『ああ、わかった』


 坂手の背後をとり、坂手が振り向く僅かの時間に後方に跳んで距離を稼ぐ。

 しかし、タケオは腰の剣すら抜こうとしなかった。

 そんなタケオに向けて、坂手が猛然と駆ける。

 だがタケオは、なおも動かない。

 まるで、坂手の突進をその身に受けようとしているかのごとく。


 ――そして、タケオの前には黒い水溜まりが広がった。


 それは点より始まり、点に終わるワープゲート。

 その黒い水溜まりは坂手の頭を飲み込むと、また点へと戻り跡形もなく消えた。

 坂手の首はもう存在しないのだ。


 時空を繋ぐ境界線。

 それは、質量をもつ存在では決して耐えられない刃であった。


(……やったか)


 タケオは、大地に倒れる首のない坂手を見つめる。

 動く気配はない。

 タケオは勝利したことに、そしてまた一人同郷の者を殺めたことに、小さく息を吐いた。


(これで同郷の者を手にかけたのは二人目……)


 そう思うと、タケオの心には鬱屈としたものがのし掛かった。

 いや、それだけではない。

 操られているだけの無実の者達を、今日だけで何百人と殺戮せしめたのだ。

 それは苦しみや悲しみ、罪悪感や後悔となって、タケオを押し潰そうとする。


(だが、それでもやらねばならない……)


 タケオは、教皇がいる方を睨み付けた。


 全ての元凶である教皇ランディエゴ。

 かの者に思うのは、これほど誰かを憎んだことなどあっただろうかというほどの、憎悪。


 そしてタケオは空を飛ぶ。

 深い憎悪の念をもって、ランディエゴの下に向かうのだ。



◆◇



 ――ここは?


 朧気な意識の中、坂手が見たものは、どこか見たことがあるような景色であった。


 ――ブランコ、滑り台。


 ――公園……ああ、懐かしい……。


 坂手は、それが懐古の念の見せる幻だと思った。


 ――俺はもう死ぬのだろう。


 身体が無いことはすぐにわかった。


 どのような方法かはわからなかったが、タケオに首を断たれたことだけは理解できたのである。


 ――すまなかった千鶴さん、守ってやれなくて。


 ――すまなかった松村、全てを背負わせてしまって。


 坂手の心には、何もできなかったことへの苦しみが、悲しみが、罪悪感が、後悔があった。

 それらは涙となって、坂手の異形の瞳を濡らす。


 ――結局、俺は何も守れなかったよ。


 先に逝った仲間を思いながら、坂手はまぶたを閉じようとした。

 死を受け入れるために。


 だが、その時だった。


『坂手くん』


 ――え?


 それは聞き覚えのある、懐かしい声であった。


『クラスのみんなのためにありがとうね』


 ――千鶴……さん……?


 坂手の霞む目に映ったものは千鶴。

 そして、それだけではなかった。


『ちっ、別にいいじゃねえか、てめえはよくやったよ』


 ――ま、松村……?


 松村もそこにいたのである。


 ――何で……。


『迎えに来たんだよ、馬鹿野郎。てめえは仲良しこよしが大好きだったからな』


『そんなこと言って、ほんとは松村が寂しがってたくせに〜』


『うるせえバカ!』


 ――ゆ、ゆめ……?


 こんなことあるわけがない。これは夢だろうと坂手は思った。

 ……だが、それでもいいと感じていた。


『ほら、行こうぜ?』


『ほら、行こうよ?』


 坂手は二人に手を引かれる。

 そう、手を引かれたのだ。

 坂手には、手があり、足があり、身体があったのである。


 ――元の俺の姿だ……それに……。


 坂手の手には確かに感触があった。二人の暖かい手の温もりが。


 ――夢じゃない……奇跡……。


 ポタポタと坂手の頬を伝って落ちる涙が、大地にシミを作る。


 ――ああ……、ああ……っ、最後の最後で、こんな奇跡が……っ!


 坂手の涙は止まらない。奇跡なんて、神様なんていないと思ってたから。


 ――でも……っ!


『ちょっ、なに泣いてるのよ』


『泣く奴があるかよ、バカ』


 ――ああ、そうだな……っ!


 三人は並んで歩いた。


 その先には光がある。


 それはとても暖かい光であった。


 坂手はふと立ち止まり、振り返った。


 そこにあるのは夜の薄暗い公園。


 しかし、坂手の目には遥か彼方の世界が映っていた。


 ――みんな、いままでありがとう。


 ――俺は行くよ。


 ――そして、同郷の者よ。


 ――みんなを頼んだぞ。きっと助けてやってくれ。


『おい、早くしろよ!』


 松村が焦れたように坂手を呼んだ。


 ――ああ、今行く、今行くさ。


 三人は光の中へと消えていった。

 公園には、微笑みを浮かべた異形の頭が転がるばかりである。



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