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6章 行方 3

『ふむ、一人殺せば押し黙るものと思っていたが、恐怖を煽るだけであったか』


 石壁の薄暗い大部屋で、そう発したのは銀色の髪をした男。

 しかし、その声に反応する者はいない。

 騎士達は粛として佇んでいるだけであり、また生徒達は混乱にあえいでいるだけである。


『まあ、恐怖を植え付けたことは、よしとしておくか。

 さて、奴等の奇行をいつまでも眺め続けるわけにもいかん』


 銀髪の男は続けて、『おい』と命令する。

 すると騎士達は一斉に足を振り上げた。

 それは、意思が通じているかのような一糸乱れぬ動作。


 そして――


『静まれ!』『静まれ!』『静まれ!』


 ――ガンガンと床を踏み鳴らしながら、騎士達が一斉に静まれと唱和した。


 この突如鳴り響く轟音に、生徒達は大いに狼狽した。

 言葉が通じなくても、いや言葉が通じないからこそ、余計に恐ろしい。

 絶え間ない霹靂の声に怯え、また振り返った生徒はその異様な光景にやはり怯えた。

 恐怖と共に、よりいっそうこの場からの離脱を掻き立てられたのだ。


「早く門を開けて!」

「殺されちまうぞ!」

「お願いだ! 開けてくれ!」


 生徒達はもはや混乱の極みにあった。

 ある者は扉にすがりつき、ある者は扉を叩き、ある者は人が及びもしない存在に祈った。

 扉を開けるために頭を使うことをやめて、ただ扉が開くことを懇願したのである。


 だがその時、「待て!」と生徒達の中から声があがった。

 それは生徒達に向けられたもので、なおかつこの状況下においても理知を感じさせる声色であった。


「騒ぐのをやめるんだ!」


 再び声が上がると、生徒達はやっと静まり、その声の発生源に注目した。

 そこにいたのは坂手である。


 委員長で頭もいい坂手は、クラスの中で最も頼りになる存在といっていいだろう。

 そして未だ理性を保つ坂手の様子は、生徒達を暗雲立ち込める空に一条の光が射したかのような心地にさせた。


 何かにすがりたい、この状況から脱したい、死にたくない。

 期待の眼差しが坂手へと突き刺さる。


 しかし、坂手は怯まない。この時にあって、この胆力。

 伊達に小学生の頃から委員長を勤めてきたわけではない。

 さらに学業の成績は常に首席、生徒会長にも選ばれ、部活動でも活躍している。

 まさに絵に描いたような、誰もが羨む人生。


 それを維持し続けるには並大抵の努力では不可能であろう。

 だが、彼はプレッシャーにも負けず打ち勝ってきた。

 そこで培われた胆力こそが、彼の本当の武器であり才能であった。


「静かに聞いてくれ」


 もう一度、今度は語りかけるように坂手は言った。


 すると、シンと辺りが静まり返る。

 騎士達の叫び声も止んだのだ。


「やはりか……」


 一人納得したように呟く坂手。

 そしてこの結果に生徒達は色めき立った。

 坂手の指示に従ったら、なんと騎士達の恐ろしいかけ声が止んだのだから、それも当然であろう。


「なにが――」


「静かに」


 叫ぼうとした松村を、坂手は有無も言わさず黙らせる。

 声の大小こそ特別なものではなかったが、その質、そして坂手の顔には威圧がこもっていた。

 その剣幕に、松村はもちろん他の生徒も黙らざるを得ない。


「いいか、騒がずに落ち着いて聞いてくれ。

 まず第一に俺達が絶対にしてはならないこと、それは騒ぐこと。

 奴等は、俺達を黙らすために千鶴さんを殺したんだ」


「そんなことのために――」


 今度は『そんなことのために、なんで千鶴がっ!』と叫ぼうとした良美を、坂手は視線だけで黙らせる。


 すると、手を挙げる男子生徒が一人。

 坂手はそちらを向き頷いた。


「だ、だったら今、騒ぎに騒ぎまくってた俺達を、な、なんで殺さないんだ」


 怯えた声で坂手に尋ねる男子生徒。

 騒ぎ立てる声ではなかったので、坂手はそれを咎めることはせずに答えを返す。


「当てが外れたのさ。

 殺せば黙ると思っていたが、黙らない。じゃあまた殺す?

 それでも黙らなかったら、さらにまた殺すのか?

 それこそ馬鹿げてる。

 つまり、一度殺して、殺すことに意味がないことを悟ったんだ。

 だが、勘違いしないでほしい。殺さないことと危害を加えないことは、決してイコールじゃないってことを」


 騒げば、どんな目に遭うか。

 なにせ、躊躇いもなく人を殺せる相手だ。

 生徒達は皆それぞれが、思いつく限りの拷問を頭に浮かべ、身震いした。


「そんな……たったそれだけのために千鶴が……」


 皆が、恐怖に怯える中、由利子の目からはポロポロと涙がこぼれた。

 坂手は言った。

 自分達を黙らせるために千鶴が殺されたと。


 千鶴はそんなことのために殺されたのか。

 それなら千鶴の命はなんだったのか。

 由利子の中で、これまで我慢していたものがとうとう決壊したのであった。


(あんなに優しかった千鶴は、誰よりも生きる価値があったはずなのに。

 私達を守ろうとして、千鶴は死んだんだ)


 声を圧し殺して、由利子は静かに泣いた。


「いいか、これは突拍子もない話になる。

 俺達は教室からこの場所にワープした。これは夢でもなんでもない現実だ。

 そしてあの床にある光る紋様。

 蛍光塗料という可能性もあるが、あの時代遅れの騎士達、そして俺達に対する容赦のなさ。

 おそらく俺達は過去、もしくは全く別の世界に連れてこられたんじゃないか?

 たとえば魔法のような未知の技術によって」


「が、外国……ヨーロッパとかじゃないのかよ」


 また一人、別の生徒が坂手に言う。


「少なくとも現代のヨーロッパじゃないな。

 あの鎧が儀式的なものだとしても、現代なら他国の者と話す場合、まず英語を使うだろう」


「ふざけんなよ! そんな話が信じられるか!」


 松村が大声を張り上げる。

 坂手の話は突拍子もなさすぎて、理解できる範囲を遂に越えてしまっていた。

 たとえ危険であったとしても、松村は何かにこの気持ちをぶつけなければ堪らなかったのだ。


 そんな松村を坂手は見やると、「まあ、見ていろ」と自信ありげな顔を浮かべた。

 さらに、あろうことか坂手は、身を翻して騎士達の方へ歩いていく。


 松村は……生徒達は、唖然とした。

 躊躇のまるでない坂手の歩み。

 その行動に、生徒達は誰も理解が及ばなかったのだ。


 そして生徒達の心配や困惑を余所に、坂手は騎士達の前に辿り着くと、膝をついて頭を垂れた。


『ふっ、泥団子ばかりかと思っていたが、少しは知恵の働く奴もいたか』


 銀髪の男が見下すように言う。


『面を上げよ』


 無論、その言葉は通じない。

 だが、騎士が坂手に近寄ってその顎に触れると、坂手はその意を汲むように顔を上げた。


『なかなかいい面構えをしているな』


 坂手は見た、眼前のその男を。

 輝くような銀色の髪、透き通るような白い肌、睫毛は長く鼻筋は通り、それはまるで物語の世界から出てきたような美しい容貌であった。

 しかし唯一、その黒い瞳だけは不釣り合いなように見える。

 坂手には、それがなんの感情も存在しない虫の目のように思えた。


『よし、こいつでいいだろう。連れていくぞ』


 銀髪の男がそう言うと、騎士達が周りを囲うようにして一同が動き出す。

 坂手も一人の騎士によって連行されていく。

 その行き先は外、つまり生徒達の集まる扉だ。


「ヤバイこっち来るぞ!」

「逃げろ!」


 一連の様子を見ていた生徒達は、騎士達がこちらにやって来るのがわかると、素早い動きで左右の壁に張り付いた。


「坂手くん!」


 つい、その名を呼んでしまったのは良美だ。

 生徒達は、顔を恐怖の色に染めた。

 しかし、幸いなことに騎士達の反応はない。

 すると、坂手だけが良美の方にいつもの穏やかな笑顔を向けて言った。


「心配しないで、必ず助けに戻ってくるから。……千鶴さんを頼むよ」


 そして、何をやっても開かなかった扉があっさりと開き、坂手は騎士共々、外の世界へと消えていった。




 ズシン、と鈍い音がして再び扉が閉まる。

 坂手が行動を起こしてから、あっという間の出来事。

 誰が何かをいうでもなく、壁際に退避していた生徒達は皆、扉の前に集まってくる。


 皆が扉を見つめて呆然としていると、誰かが糸が切れたようにその場にへたりこんだ。

 するとそれを契機に、皆の力が抜ける。

 自分達を害する者達がいなくなり、生徒達はここに来て初めて息をついたのだ。


「千鶴っ!」


 そんな中、良美が生徒の群れから飛び出していく。

 その後を追うように、由利子も駆け出した。

 二人が一歩、また一歩と踏み出す度に血の臭いが強くなる。


「ああ、千鶴っ! 千鶴っっ!!」


 良美が今までの鬱憤を張らすかのように叫んだ。

 そこにあったのは物言わぬ親友の亡骸である。

 良美はボロボロと涙を流しながら千鶴に近づき、その頭を抱き上げた。


 由利子も泣いて泣いて泣きじゃくった。

 この時、他の生徒達が近寄れなかったのは、三人が親友だと知っていたからだ。


 やがて、松村が近寄った。

 その腕には何人かの学ランを持っている。


「おい、水島を端に運ぶぞ」


 水島とは千鶴の名字である。


「やだ! ずっと一緒にいる!」


 松村の提案を、千鶴の頭を抱き締めたまま一瞥もせずに良美は断った。

 由利子に至っては真っ赤な目で松村を睨み付けている。


「いつまでここに閉じ込められるかわかんねえだろうが。

 それに俺達がいた場所よりも暖かい。

 ソイツを放置していたらどうなるか、わかんだろ」


 人が死ねば、わずか数十分で死斑が現れ、生者とは隔とした姿を為す。

 日が経てば、遺体は腐る。

 ここは日本にいた時よりも暖かく、腐敗の速度も早くなるであろう。


 そう、松村の発言は確かに道理であった。

 しかし、良美は今にも食って掛からんといわんばかりに松村を睨む。

 千鶴がモノ扱いされているような気がして、それが良美にとっては許せることではなかったのだ。


「水島のことも考えてやれよ。

 こいつが、そんな姿を晒したいと思うか? 他の奴等から疎まれたいと思うか?」


 遺体が腐れば、見た目はより凄惨で醜悪なものとなり、虫が湧き、悪臭を放つ。

 親友である二人は耐えられるかもしれないが、他の者もそうとは限らない。

 となれば、千鶴が嫌悪の対象になるのだ。

 そんなことは千鶴自身がのぞまないであろう――そう言っているのだ、松村は。


「……わかった」


 少し考えた後、良美は頷いた。

 そして、良美と由利子の二人で千鶴を部屋の隅に運ぶ。

 開いていた目蓋を閉じさせて、良美と由利子は千鶴へお礼を言い、その冥福を祈った。

 その後、千鶴の体が外の空気に触れないよう、何枚も学ランを被せる。


「ありがと松村。千鶴のこと思ってくれて」


 良美が礼を言うと、松村は不良らしく「ちっ」と舌打ちをして去っていった。


「良美……」


 由利子が良美に声をかける。


「もう少し千鶴の側にいるよ。こんな場所で一人きりじゃ、千鶴が寝られないかもしれないから」


 良美はその場に座り、学ランに覆われた千鶴の方をぼんやりと眺めながら言った。

 すると由利子の目からは、松村への見当違いの怒りで止まっていた涙がまた溢れてくる。


「……そうだね、私も一緒にいるよ」


 由利子も良美の隣に座って、姿の見えない千鶴を見つめる。


「三人一緒だもんね」


 泣きながら由利子は呟いた。


 ――二人並んで座りながら、お互いに手を握って


 ――空いたもう一つの手は誰と繋がってるのかな


 その日、由利子と良美は大切なものを一つ失った。



◇◆


 鮫島の運転する車に乗って、妹である由利子が行方不明になった学校へと向かうタケオ。

 学校を視界に捉えると、その校門前は夜だというのに報道関係者で溢れかえっているのがよくわかった。

 

 鮫島が人を轢かないよう、車をゆっくりと進める。

 蟻が餌に集るように、車に殺到する報道記者達。

 カメラのフラッシュが焚かれ、彼等は事件についての説明を求める。

 しかし、その一切を無視して車は校門を潜った。


 ちなみにタケオは、ニット帽にマスク、サングラスといういかにも怪しげな格好だ。

 それらは事前に鮫島から渡されたものである。


「まあ、前代未聞の行方不明事件だからな。なにせ人数が人数だ。

 マスコミも騒ぐだろうさ」


 鮫島が助手席のタケオに話しかける。

 タケオが被害者の人数を聞くと、三十二人という答えが返ってきた。


 それから校舎の入口前に車は停まり、タケオと鮫島は校舎の中へと入る。

 この時、八年ぶりの中学校であったが、タケオが感慨にふけることはなかった。


「学校は当分臨時休校にするそうだ。

 現在、被害者の家族のために何部屋か開放されているが、これは件の教室がある今いるA棟ではなくB棟に用意されている。

 事件のあったA棟に関しては関係者以外立ち入り禁止にしてあるから、君が被害者家族と会うことはないだろう」


 鮫島の話を聞きながらタケオは、下駄箱が並ぶ昇降口で、用意されていたスリッパを履き奥へと進んだ。

 校舎内は、全階の明かりが点けられていて、ちらほらと警察官らの姿が見える。

 そして到着したのは三階にある三年C組の教室。


 入口には立入禁止と書かれた黄色のテープが張られており、見張りのために二人の警察官が立っていた。

 警察官は鮫島に敬礼し、鮫島も答礼を返す。


「すまないが、ちょっと離れててくれないか」


「しかし……」


 鮫島の発言に、二人の警察官がタケオをちらりと見る。


「心配ない、中には入らん。

 それに別にこの場からいなくなってくれという訳じゃない。声の聞こえない範囲……そうだな、教室一つ分ほど離れて監視してくれればいい」


 警察官らは、「それならば」と言ってその場を離れた。


「というわけだ、中に入るのはやめてくれ。現場保存というやつで、色々うるさいんだ」


 そんなことをしても無駄だと思うがね、と鮫島がタケオに苦笑しながら言う。

 それに対しタケオは、特に何の返事もせずに、教室の中を覗いた。


「……机は?」


 タケオの口から出た疑問。

 教室には机も椅子も何もなかった。


「机も椅子も最初からなかったよ。

 武雄君の時は、どちらもあったはずなのにな。

 今回は教室内の人も物も、まるでそこになかったかのように忽然と消えてしまったんだ」


 かつてタケオの身に起こったものとは明らかに異なる事象である。


「高崎さんの時はどうだったんですか」


「直接は知らんが、高崎紗香の時も対象は人だけだったはずだ」


 それを聞き、タケオは心中で唸った。

 もしかしたら今回の件、その成り立ちから違うのではないか?

 そんな不安がタケオの胸に渦巻いていく。


(もし僕や高崎紗香のものとまるで違う転移だとしたら、いなくなった者はどこに?

 地球内、異世界……いや、僕の知らない世界ということも……!)


 タケオはゾッとした。一瞬にして身の毛がよだち、血の気が引いていく。

 しかし、すぐに考えを改めた。


(まて、結論の飛躍だ。

 そもそも転移が起きた場所は全く同じなんだ、全く別の世界への転移だとしたら、こんな偶然があるものか。

 あちらの世界に転移したと考えるのが常識的な判断だ)


 タケオは奥歯を強く噛みしめて、無理矢理に最悪の予想を否定した。


「どうだい、なにかないか」


「……床にあるものは全部調べたんですよね」


「ああ、鑑識が目を皿にして探していったが、特になにもなかったな」


「本当に?」


「おいおい疑っているのか? 心外だな」


「……これは僕や高崎さんとは違う転移の仕方であると、僕は思います。

 ――交換。

 人を対象にしたものではなく、空間と空間の交換による転移。

 そうだとするならば、あちらの世界に本来あったもの……石や草、いやもっと小さな虫、微生物などがいてもおかしくはないんじゃないでしょうか」


 空間と空間の入れ替え。

 繋いだ世界はタケオや高崎紗香と同じだが、転移の仕方が違うのだとタケオは考えた。


「なるほど……微生物か。

 そこまでは考えもしなかったな、すぐに鑑識に連絡しよう」


 石や虫、そんなものがあったとして、それらが特殊な分布なものであったなら、ある程度の場所が特定できる。

 そう思ってのタケオの発言だったが、鮫島との会話の内容から推測するに見込みは薄い。


 微生物などは流石に手がかりにはならないだろう。

 あちらの世界では微生物を確認する手段が確立していないのだから、その生存圏の分布がわかるはずもない。

 精々、こちらで不明の微生物が見つかって、異世界にいったという確証が得られるだけだ。


「鑑識は準備でき次第、ここに来るそうだ。それで、他にはなにかないか?」


 教室を眺めていたタケオに、電話を終えた再び尋ねる。


「高崎紗香さんの行方不明になった学校はどうなっているんですか?」


「連絡はしたが、特に変わった様子はないそうだ。

 高崎紗香が行方不明になった教室も、学校側がずっと前から立ち入りを禁止していたらしい」


 懸命な判断だとタケオは思った。


(一度起こったことが二度起こらないとは限らない。

 もし、この中学校も件の教室を立入禁止にでもしていたら……)


 今さらのことではあるが、タケオはやり場のない怒りを覚えて拳を強く握った。


「僕から言えることはもうないですね」


「そうか……それで彼らが異世界に連れていかれたんだとして、帰ってこれると思うかい?」


「……わかりませんよ、そんなの」


「そうだな。まあ今は、おとなしく捜索隊の報告を待つとするか」


 捜索隊、その言葉がまるでタケオに向けられているような気がした。


「ああ、それとご両親には会っていくのか? 会うのならこちらの棟に呼ぶよう手配するが。

 あちらには他の被害者家族がいるからな」


「……いえ、いつでも電話で話せますので」


 もうこの場に用はなかった。

 鮫島が「じゃあ、帰るか」と見張りの警察官に一声かけ、タケオと鮫島の二人はその場を後にする。

 車に乗り校門を出ると、来た時の焼き増しのように報道記者達が群がり、それを抜けて車はマンションへと向かう。


 タケオが部屋に戻ると、隣の部屋からは物音一つしなかった。

 高崎紗香は既に出ていったのだ。

 行動が早いな、と思いながらタケオはベッドに倒れ込む。

 制服姿であり皺がつくとも思ったが、今さらそんな小事にこだわるのも馬鹿らしいと考えて、そのまま目を閉じた。


 翌日以降、タケオは異世界で精力的に行方不明者の捜索活動を行う。

 そのため学校をずっと休むことになり、日本に帰るのはもっぱら品物の仕入れや、電話の確認のみ。

 間違いなく留年になるであろうが、タケオにとって、そんなことはもはやどうでもよかった。


 ――それから三ヶ月、いなくなった生徒達の情報はいまだ見つかっていない。


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