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ショート・ショート・ショットストーリーズ【  話  】
作:水瀬愁


「例えば、なんだけどさ」
 そう切り出した彼女に、僕は顔をあげた。
 冬のくせに強い日差しの象徴が、窓というレンズによってくっきりとした十字に伸ばされている。白いテーブルに両肘をつき、僕の表情を仰ぎ見るようにしている彼女は、体制を元に戻した言葉を繋げる。
「例えば……っていうか、知り合いの女の子から聞いた体験談なんだけど」
「そこはバラしていいんだね」
「変に突っ込まないでよ。話がすぐ脱線しちゃうんだから」
 ジト目を送る彼女に、僕はやれやれと思って口を閉ざし切ることを誓った。
 ええと、ええと、としきりに唸った彼女は、すぐに落ち着きを取り戻して、再び話し始めた。
「例えばさ……付き合ってもいつか別れることが分かりきってるのに相手が好きで好きで仕方がなかったら、どうする?」
「分かりきってるのか?」
 「例え話の他人は自分」という言葉があるようなないような。別れる理由は間男がいることなのかなんなのか。
 はてさて、どう答えるのがいいんだろうね?
「そうだな……僕なら告白するね」
「どうして?」
「好きで好きで仕方ないんだろ? なら、例え玉砕するのがわかっていても、僕なら告白する。
付き合ってもいつか別れるって前提からして、告白が成功してもいつか必ず後悔するのだろうけど、告白せずにする後悔よりかはずっと軽いだろうから。
たとえそうじゃなくても、僕は必ず告白するだろうね」
 相手が自分のことを好きかどうかはわからない。だけど、わからないからこそ自分の気持ちを伝える「告白」って行為があるんだろうし――相手も自分のことを好きなんだ、なんてことを思う妄想家は例え話どおり別れることになっても文句はいえないだろう――告白した場合の後悔は、きっとただのどんより雲で、いつかは晴れにかわる空のようなものだろうし。告白しなかった場合の後悔はいつまでも背負う重荷みたいなもので、下ろそうとしない限り絶対になくならないものなのだろう。それならば、告白してさっぱりするほうがマシに違いない。
「というか、いつか別れるっていうことの理由が気になる。
一体何なんだよ?」
「ん、んん〜……知りたい?」
 頷くと、彼女はさらに少しだけ唸ってはにかんだ。
「遠距離恋愛なんだってさ。毎日電話で話してたらしいけど、実はとっくの昔に両方とも他の男女つくってたんだって」
「……悲惨だな」
「そうでもないんだよねぇ……幸せそうだったの、あの
遠距離してたときは、どこかつらそうだったんだけど」
 近くにいるから、安心できて、より幸せなのだろう。
 確かに、遠距離に飛び込むのはつらいだろうな。
 自分もだけど、それに付き添う彼女もまた、つらいだろう。
「それでも……僕は告白することを、選ぶだろうな」
「どうして?」
 目を閉じる。
 どうしてだろう、俺が出したいと思う答えはすぐに浮かんできて、そしてそれはひとつだった。
「僕なら、離れることを選ばない。好きで好きで仕方がないのなら、離れることを選ぶのは間違いでしかないだろうから」
 言い終え、目を開くと、キョトンと目を瞬かせる彼女と視線が合った。
「……なんだよ?」
「そんなに真剣に答えてもらえると思わなかったから……」
 ……殴りたい。殴ってやりたい。
「でも、君ならそう答えるって……ちょっとは予想してたよ」
 けらけらと笑ってそういう彼女は、僕が口を開くより早く合掌した。
 そして、満面の笑みをかしげる。
「ほら、無駄話はやめてそろそろ勉強しようよ。今年受験なんだよ? あと一ヶ月もないんだよ?」
「あ〜……はいはい。わかりましたよ」
 僕はしぶしぶ引き下がり、手元のノートへ目を落とした。
 ……例え話のようにならないために、がんばるとしますか。
 せめて、彼女の受ける高校のレベル一個下のコースくらいには引っかかれますように。















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