チョコのお返し
あれから1ヶ月――
1ヶ月前に辛い思いをしたので、
それを教訓にどのような時間を過ごしてきたか、と思ったが。
――相変わらずらしい。
誰のことを言っているか、と言うと
勿論、大阪の高校生――と言ってももう10日以上も前に高校を卒業したが。
お互いに「あの日」のことを悔やんでいた。
「何でバレンタインより、お返しに金かけなアカンのやろか?
女はお返し目当てにチョコ作るんか?」
全ては、この一言から始まった。
少しだけ怒りが込められた電話を受け取った時に、気付くべきだった。
その時は、その質問に対してただ、純粋に何でだろうか、としか考えていなかった。
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「ホワイトデー」――何故だか知らないが、バレンタインに費やした費用よりも
何倍ものお返しを求められる日だとか。
いや、費用だけでなく、時間もたっぷりと費やしてお返しをする日なのか。
そんなことはどうだっていいのだが、取りあえず、
バレンタインにチョコをもらったからには、お返しするのは当然だと思っている。
だから学校で同級生や後輩にチョコをもらうと、
少しでもいいから何か返さなければ、と思ってしまう。
だが、結局チョコをくれなかったあの女はどうするべきか――
ひとりで考えていても埒が明かないので、いつものように新一に電話した。
曖昧な話を続けると、本題に入れない気がしたので、
さっそく「ホワイトデー」について尋ねてみた。
「オレは、蘭とどっかに行く約束したけど…」
「それがバレンタインのチョコのお返しなんか?」
工藤のほうはうまいこといっとるみたいやなあ、と憎まれ口をたたく。
別にそんなんじゃねーよ、と慌てて言い返すのを聞いて、
どうして自分たちはいつもこうなってしまうのか、と悩まずにはいられなかった。
「お前…バレンタインのお返しにこだわらないで、素直になったらどうだ?
バレンタインにチョコもらってなくてもいつも世話になってるし、
どっか連れていってやるとかさあ…」
新一の言葉に腹が立ったわけではないが、
同級生から「恋のアドバイス」をされてしまうと、気分は良くない。
ましてその相手が「工藤新一」だと思うと、更に気分は悪くなる。
自分から電話しておいてこんなこと思うのもいけないとは思うが。
――バレンタインのお返し……
その時、ふと、いい計画を思いついた。
いつも何かと世話になっている女だし、バレンタインのお返しやったら……
それからあっという間にホワイトデー――3月14日はやって来た。
もう卒業して学校に行く必要もないので、朝の10時に和葉の家に行った。
――勿論、和葉には内緒にしてある。
「和葉ァ!起きとるかあ?入んで!」
和葉は、何もすることがないのか、暇そうにテレビを見ていた。
見ていた、というよりはテレビをつけていた、といったほうが正しいのだろうか。
他にすることないんかい…と突っ込みそうになったが、
それは自分にも言えることなので、何も言わなかった。
「どしたん、平次…珍しいやん。アンタがアタシの家に来るなんて」
起きたばかりではなさそうだが、何となく機嫌が悪いように見えた。
そんなことはどうだっていい。
きっと、自分の誠心誠意を込めたプレゼントなら機嫌も戻るやろな、と心の中で笑った。
「なあ、和葉。今日は何の日か知っとるか?」
ニヤニヤしながら尋ねる。
和葉は嫌そうに知らん、と言った。
こちらを振り返ろうともせず、ずっと背を向けている。
「何や、和葉。そんなんも知らんのか…
今日は待ちに待ったホワイトデーやないか?」
『ホワイトデー』という単語を聞いた瞬間、和葉の体はピクッと反応していた。
やっと振り向いたが、かなり迷惑そうな表情をしている。
「どないしたんや、和葉。元気ないなあ…まあ、ええわ。
そんなことよりなあ、オレが和葉のために『プレゼント』を用意したんや。
もろてくれるやろ?」
「え?」
今まで顔だけこちらを向けていた和葉は、その言葉を聞いて、体ごとこちらに向けてきた。
その表情はさっきまでとは違う、どこか戸惑っている、というか
嬉しそう、というものなのか――
「どや?嬉しいやろ?」
「そっ…そんなわけないやん!
アンタに…プレゼントもろたぐらいで…嬉しいわけないやん……」
最初は大きな声で否定していたのに、
だんだん小声になって、最後は聞き取れないほどだった。
和葉の顔が真っ赤になっている。
「もっと素直に喜んだらええやないか。
これ、和葉にやるわ!」
そう言って和葉に差し出した。
和葉はそれを両手で受け取った。
女のように可愛らしいラッピングは無理だったが、
少し大きめの箱を買ってきて適当に家にあった包装紙とリボンで
和葉の好みに合わせて選んで包んでみた。
今は和葉の両手に乗せられている箱を見つめながら
ホンマに自分は頑張ったなあ…としみじみ思った。
「平次、開けてもええ?」
自分が予想した以上に和葉はそれを気にいったらしい。
普通だったら、オレがこんなもん用意したと言うと不審そうな顔するくせに。
だが、和葉はそれを開けた瞬間、一瞬凍りついたように固まっていた。
「何これ…アンタ今日は『ホワイトデー』やって自分で言うたよなあ…?」
「ん?それがどないしたんや?美味そうやろ」
「アホ!!何で『ホワイトデー』に『たこ焼き』なんかもらわなアカンの!
ここまで可愛く包んで期待させといてたこ焼きて…」
和葉は怒っていたが、だんだん呆れているようだった。
そんな様子の和葉を宥めることなく、
「まあ、文句は食べてみてから言え」と言って、それを食べさせた。
「せっかくもろたことやし…食べようか…」
そう言うと、和葉は立ち上がって食器棚から箸を取り出して来て、
それをつまんだかと思うと、一気に一口で口に入れた。
しかしその瞬間、和葉は箱を開けた時以上に凍りついて固まっていた。
冷たい空気が部屋中に流れ込んだ気がした。
和葉は固まったままだ。
「アンタ…これ、何?」
「何て…たこ焼きやんけえ!」
ニコニコしながら言葉を返す平次に対して、和葉はまだ固まっている。
本当に凍り付いているようにも見えるくらいだった。
そのニコニコしている平次を見て、和葉はついに我慢できなくなったようだ。
「これのどこが『たこ焼き』やねん!!
ただの『シュークリーム』やないの!こんなん『たこ焼き』ちゃうやん!!!」
実は平次は、『たこ焼き』と偽って
そこら辺の店で買ってきた『プチシュークリーム』を
たこ焼きに見えるように小細工して、それを和葉に渡したのだ。
和葉が怒るのも無理はない。
改まったように『プレゼント』と言われ、
平次には珍しいくらいの可愛らしいラッピングがされてある箱を渡され、
「今日はホワイトデーだから」と言われたら、
期待はどんどん膨らんでしまうだろう。
和葉は一口だけ食べた後、コップ1杯のお茶を飲んでから
何も言わず、平次を睨みつけるだけして、その場から去って行った。
ひとり残された平次と、偽たこ焼きの入った箱――
平次はそれを一口食べたが、美味い、と思うばかりだ。
何もそんなに怒らんでも…とボソッと呟いた。
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そしてその日の夜――
「なあ工藤…聞いてくれへんか?実は今日、和葉のヤツになあ…」
また始まった…と思いながら、少し怒り気味の平次の話しに耳を傾ける。
結局ダメだったか、と言おうとしたが、やめておくことにした。
それよりも自分は今、蘭と一緒に食事をしているので、
平次には悪いが、その話は後にしてほしいくらいだった。
しかし、すぐには終わりそうにない。
「何がアカンのや…せっかく作ってやったのに」
いや、それは怒るだろう、と突っ込みそうになるのを必死に抑えた。
ホワイトデーということで、甘いものをもらえることを期待していただろうし、
それ以前に『たこ焼き』だと思って食べたものが『シュークリーム』だったなんて、
いくらシュークリームが好きでも怒るだろう。
そりゃショックも受けるよな、と新一は、和葉に少し同情していた。
それにしてもこの男ときたら……
「今回は可愛くラッピングっちゅうもんもしてやったのに……」
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