願いはひとつ
最近、1年というものがとてつもなく早く過ぎ去っていくような気がしてならない。
それだけ確実に年を取っている、ということだろうか。
冬休み――正月くらい家で過ごせばいいと思うのだが、
蘭は、朝から工藤家にやって来ていた。
別に、ずっとダラダラと過ごしているのではなく、
家事を手伝ってくれているので、文句はないのだが。
今日は、新年が明けたということで、ふたりで初詣に行くことになった。
さすがに、初日の出を見に行くような時間には起きられなかったが、
午前中に行く予定にしてあった。
寒い中をふたりでゆっくりと歩いていた。
途中、博士の家や毛利探偵事務所に寄って、
新年の挨拶を交わしながらだったので、神社に着くまでかなりの時間がかかってしまった。
ようやく着いた頃は、もう12時を過ぎていて、何だか空腹感を感じていた。
しかし、昼時だというのに、たくさんの人がいるのを見て、入るのが躊躇われるほどだった。
「どうしたの?行かないの?」
蘭は、振り返って言う。
早く早く、と言うように手招きをしている。
「それにしても、凄い人だなあ…」
周りを見渡しながら新一は言う。人は、増える一方だ。
そんな人ごみの中を掻き分けるようにして、やっとのことで拝殿の手前まで辿り着いた。
人がたくさんいるので、一息吐く暇もなく、
財布の中から適当な小銭を出して、賽銭箱目がけて投げた。
そっと瞳をとじて、何かを願うふたり――
ふたりが何を願っているのかは分からないが、真剣な表情をしている。
昨年のうちに無事に大学を合格したとは言え、この春から新たな生活が始まろうとしている。
全く不安がない、と言えば嘘になる。
その時、新一はそっと片目だけ開けた。
隣で両手を合わせている蘭を横目でちらりと見る。まだ何かを真剣に願っている。
何だか、自分だけ真剣に祈るようなことがないような気がして、
もう少しだけ瞳をとじておこうかと思ったが、そのまま瞳を開けていた。
後ろでたくさんの人たちが待っているので、急いだほうがいいとは思うのだが。
やっと、瞳を開けた蘭の表情が少しだけ明るく見えた。
キラキラしているようにも見えた。
さすがに、今日は疲れた。
昼食をどこかで食べようかと考えていたが、それよりも早く家に帰りたかった。
空腹感が我慢できないほどだっだが、それ以上に疲れのほうが限界に近かった。
昼食は当然の如く、おせち料理だ。
蘭が腕を振るって作って持ってきたものだが、
今は「作りすぎちゃったね」と苦笑いの状態だ。
味は美味いので文句はないのだが、
このままでは晩ご飯までこれが続くかもしれない、と頭の隅で思っていた。
「何か…眠くなってきちゃった…」
あくびを手で押さえながら、蘭は言った。
昨夜は、慣れないおせち料理を作り、新年のカウントダウンをするために遅くまで起きていて、
今朝はせっかく作った料理を食べるために早く起きて、それを新一にも持ってきたのだ。
さすがに疲れているだろう。
蘭がうとうとしかけているのを見て、新一も眠くなってきた。
どれくらい、眠っていたのだろうか―――
瞳を開けると、もう外は暗くなっていた。
時計を見ると、5時を過ぎている。
だが、まだ眠りについている蘭を起こそうとはせず、
床の上に寝転んだまま体の向きを変えた。
その瞬間、びっくりして思わず「うわっ」と声を上げそうになった。
隣のソファの上で幼なじみがこちらを向いてすやすやと寝息をたてている。
見慣れているいつもの顔なのに、寝ているからだろうか。
「見慣れているいつもの顔」に思えない。
よく見ると、布団をかぶっていなかった。
ちょっと昼寝、のつもりだったから仕方ないことかもしれないが、
この時期、それでは風邪をひいてしまう。
いくら暖房があるとは言え、それでもこの家の広さでは寒いくらいだった。
自分は床の上に寝ていたので、肌寒さを感じていた。
これでは本当に風邪をひいてしまう、と思ったが何故だか体が動かない。
じっと幼なじみの寝顔を見つめた。
あまりドキドキしなかった。
以前はこんなに顔が近づくと、じっと見つめることなんてできなかった。
今はどうだろう。
どうしてなのか、今は平気。
その時、ふと思った。
蘭は、何をあんなに真剣に願っていたのだろうか――
毎年のようにふたりで初詣に行っているが、あんなに真剣に、
そしてあんなに長く手を合わせている蘭を見たことがない。
申し訳ない、という気持ちで胸が締め付けられた。
今は元の姿に戻って、こうして蘭と一緒に過ごしているが、
いつかまた、自分の目の前から消えてしまうことがあるのではないか、と
不安になることもあるだろう。
蘭を本当に安心させてやりたい、と思った。
新一は、ゆっくりと体を起こすと別の部屋から温かい毛布を取ってきた。
そしてそれをまだ眠っている蘭を起こさぬようにそっと体にかけた。
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