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いつも笑顔で
作:美月



聖なる夜に


 今日は、12月24日――クリスマスイブだ。
街は、クリスマスムードに溢れていて、
たくさんの店がクリスマスグッズを店頭に並べ、客を集めるために競い合っている。

 今年は、さすがに毎年恒例の園子の家で皆とパーティをするわけにはいかなかった。
一応、自分たちは受験生だ。
皆より早く大学が決まったからと言って、浮かれてばかりではいられない。
園子も、蘭より2ヶ月近く遅れたが、無事に大学を合格していたので、
「今年は、ふたりでパーティしようか」と話していた。
24日は、お互いの大切な人と過ごすことにして、
25日はふたりでどこかに行こうか、と計画を立てていた。

 そんなことを園子と考えていて、後はクリスマスを待つだけだった。




 事の発端は、昨日新一の家に行った時の電話から始まった。

 「おう、工藤!元気にしとったか?」

 新一は、億劫そうに電話に出た。
平次の明るい声が新一の携帯電話から聞こえてくる。
彼には、「元気か?」なんて聞かなくてもその声を聞いただけで、分かるような気がした。

 「どうしたんだよ…何か企んでるのか?」

 平次の様子が何だかおかしい。
顔を見ていないのに、彼がニヤニヤしているように思えた。
何か企んでいる。絶対に何か企んでいる。

 「何でそんなこと思うんや?別に何も企んでへんて。
そんなことよりなあ…明日、オレと和葉、そっちに行くことにしたんや。
高校最後のクリスマスやないか。ふたりより、大勢のほうが楽しいやろ」

 「………」

 新一と蘭は、明日、一緒に夕食を食べる約束をしていた。
その場所は、前にも行ったことのある「米花センタービル展望レストラン」だ。
蘭は、またそこに行くのか、とも思ったが、
新一は、そこを気に入っているのか、結局、そこに行くことになった。
蘭としては、嫌な想い出が詰まっている場所なので、できれば行きたくなかった。
そこに行けば、また新一がどこか遠くに行ってしまうのではないか、と不安になってしまう。
「もうどこにも行かないから大丈夫」と新一は言っていたが、何故だか、それを信用できない自分がいた。

 「お前なあ…オレにもオレの予定があるんだよ。
いきなりそんなこと言われても無理だって…」

 新一は、蘭の考えを他所に呆れたように言った。

 「いやあ…前にお前の体がまだ小さかった頃に
アポなしで行って、『色黒男』って呼ばれてしもたん思い出してなあ…
せやから、明日行くって事前に言うとったらええかなあと思て」

 新一はそれを聞いて、頭がクラッとしたのを感じた。全身に疲れがドッと襲ってきた。
以前あったことを覚えていて気を遣ってくれたようだが、
それにしてもお前の「事前」というのは、「直前」なのか?と尋ねたくなった。
そして、それを「企んでいる」と言わないで何と言うのか、と突っ込みたくもなった。

 何も言えずにいた新一に対して、平次はそれを「了承した」と解釈したのか、
「よっしゃ、決まりやな。実はもう飛行機のチケット買うてあるんや」と元気に言った。
それを先に言え、と言いたくなった。
 それにしても、また飛行機で来るのか…
服部家には、どれだけの金が眠っているのかが知りたくなった。

 「分かったよ…明日の何時に来るんだよ?」

 仕方ない、というように新一は尋ねた。
その隣で、蘭は、「えっ?」というような表情を浮かべた。
 平次と和葉は、明日の朝9時過ぎにはこちらに来るらしい。
そんなに慌てて朝早くに来る必要もないのに、と思った。

 平次との電話を終えた後、新一は完全に疲れきっている、といった様子だった。
蘭の頭には、平次や和葉に会える、という楽しみよりも
明日の新一との約束はどうなるのか、という疑問が浮かんでいた。
 しかし、新一は頭を抱えてソファに座り込んでいる。
今は、聞かないほうがよさそうだな、と思ってそっとしておくことにした。





 「あ!蘭ちゃん、久しぶりやなあ!」

 和葉の元気な声が工藤家に響いた。
その隣にいる平次は、相変わらず煩わしそうに、「うるさい奴やなあ」と小言を呟いている。
今日はクリスマスイブだというのに、聖なる夜だというのに、
こんなに口喧嘩ばかりしている男女はいないだろう。

 そんなふたりの間に新一が突然、割ってはいった。
そして、平次の腕を掴んで、彼女たちには聞こえない所まで引っ張った。

 「何やねん、工藤?」

 「何やねん、じゃねーよ。こっちにだっていろいろと都合があるんだよ。
今日は何しに来たんだよ?」

 無意識のうちに、ふたりは小声で話していた。
「相変わらず、つれない奴やなあ」と平次はぶつぶつと言った。
しかし、新一から「早く言え」と言わんばかりの鋭い視線を感じたので、
何をそんなに怒っているのか、と思いながら平次は口を開いた。

 「お前、今日、愛しの蘭ちゃんとどっか行くんやろ?」

 突然、そんなことを言われ、この男は、一体何が言いたいのかが分からなかった。
新一は、嘘を吐いても仕方ないので、本当のことを言った。
すると、平次は、ニヤリと笑って新一のほうを見た。

 「それを…応援しに来たんや」

 新一は、ハア?と言いたくなるのを抑えようとしたが、無理だった。
この男は、本当に何を言っているのか…
さらに、疲れが圧し掛かってきたような気がした。
 その時、蘭と和葉がふたりを探しにやって来た。

 「ちょっと、ふたりとも…こんな所に隠れて何やってんのよ」

 蘭は、何も知らないので冷静に言う。
しかし、その横にいる和葉は物珍しそうに家中を眺めている。

 「へえ…工藤君てこんな凄い家に住んでるんやなあ。
こんな広い家に1人暮らしなんて勿体無いなあ…蘭ちゃんも一緒に暮らせばええのに」

 突然、和葉がそんなことを言ったので、蘭は慌てていた。
それを聞いて、新一は、和葉も平次のグルなのかもしれない、と悟った。




 結局、新一と蘭が夕食に出かける頃は、関西の邪魔者2人組も付いて来た。
結局、と言うよりやっぱり、と言ったほうが正しいだろうが。
 ふたりは、外観を見て、高校生がこんなええ所でディナーなんてリッチやなあ、と冷やかしてくる。
しかし、店の雰囲気からして合っていない。
ここまで来て帰るわけにはいかないが、このふたりを店に入れるのも何だか間違えているような気がしてならない。

 悩んだ末に、もう少し楽に入れる安い店に行くことにした。
もう少し楽に入れる、と言うよりも、この関西人たちを連れていても入れる店、という意味なのだが。

 「新一…また来ようよ。私、いつでもいいから」

 蘭は、新一の気持ちを察したかのように微笑を浮かべながら言った。
その表情を見たら、別に今日にこだわらなくてもいいか、と思えてきた。
 だが、うるさいのはやはりこの邪魔者たちだ。
せっかく来たのに帰るん?と人の気も知らないで言ってくる。
周りにいるこの店に入ろうとしている客たちの視線を感じた。
当然だろうな、と思う自分が寂しくも思えた。


 その時、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
当然の如く、新一と平次は、どこかで事件があったのか、と
パトカーが向かう方向が気になって仕方ない様子だった。
 それを見ながら蘭と和葉は、うんざりしていた。
どうしてこのふたりが揃うと事件が起きてしまうのか、と聞きたくなった。
しかし、それを誰に聞いていいか分からない。
この幼なじみと出かける度に疑問に思っていたことだが、
答えは一生かかっても出て来ないだろう。
 それよりも、今日はクリスマスだと言うのに殺人事件なんて起こるのか…とも思った。

 彼らの様子を見ながら考え込んでいた蘭と和葉は、
自分たちのほうにパトカーが近づいているなんて思いもしなかった。
どんどん近づいてくる。
それは、4人のいる場所に来て止まった。

 「工藤君と、服部君じゃないか!」

 パトカーから降りて来た顔なじみの警部は、こちらを見て驚いたように言った。
その後ろからぞろぞろと出て来る仲間たちも
「どうしてこんな所に?」と言うような表情でこちらを見ている。
そう思うのも無理はないだろう。
ここは、高校生が来るような場所ではない。
前に目暮警部と高木刑事には、ここで会って同じような顔をされたが、今日は、平次と和葉も一緒なのだ。
 
 ただ、佐藤刑事だけはそれほど不思議そうな顔はしていなかった。
それを見て、高木は、「僕たちふたりもこんな所で食事してみたい…」と
一瞬だけ思ってしまったが、今はそれどころではない。
クリスマスとは言え、事件を解決しに来たのだ。
こんな恋人たちの素晴らしい時間を引き裂いた悪魔は誰なんだ…と恨む気持ちを抑えた。
きっと、目の前に居る高校生探偵2人組もそう思っているに違いない、と思った。
しかし、彼らの顔は、キラキラしていた。
「恋人」より、「事件」が大事、というような――
実際、本当にこの高校生たちが恋人同士なのかは、分からないのだが。


 新一と平次は、意気込んで警部たちと建物に入っていった。
蘭と和葉には何も言わずに、まるで自分たちも警察関係者、というように建物の中に吸い込まれていった。

 「何やねん…平次の奴…」

 「誘ったのは、どっちよ…」

 取り残された彼女たちからは、近づけないオーラが渦巻いていた。
空気が一瞬にして、凍ってしまうような。
容易に触れてはいけない、関わってはいけない――そう物語っているようだった。



 案外、事件はあっさり解決してしまったようだ。
新一と平次のふたりが揃うと、確実に凶悪な、しかも連続殺人事件が発生する。
今日は、本当にあっさりだった。
事件に重いも軽いもないのだが、拍子抜けしてしまうほどだった。
新一と平次は、「帰るか」と言って、連れてきた彼女たちの名前を同時に呼んだ。
しかし、彼女たちからの返事は聞こえてこない―――

 「おい!オレらもしかして和葉たち置き去りにして来たんとちゃうか…?」

 「本当だ!絶対蘭たち怒ってるぞ!」

 新一と平次は、警部たちに軽く挨拶だけして、その場を走り去った。
慌ててエレベータで降りたのだが、彼女たちの姿はない。
何かあったのか、と心配していると、ふたりの携帯電話が同時に鳴った。

 「新一…?」

 「平次…?」

 彼女たちからは、もう何を言っても通じない空気が流れている。
何を言っていいか、上手い言い訳も思いつかない。
 いくら、新一と平次が「事件」と聞くと周りが見えなくなってしまう、と言っても
今日は、クリスマスイブだ。
今日だけは、事件が起こっても、一緒に過ごしてほしかったのだろう。

 彼女たちは、まだ何も言ってこない。
だが、言いたいことは鈍感な彼らでも分かったような気がした。

 
 何秒か沈黙になった後、彼女たちは、携帯電話をブチッと切った。


 「平次の奴…クリスマスに東京に行こう、って言い出したんはアンタやんか…」

 「私はここは嫌だって言ったのに、新一がどうしても、って言うから行ったのに…」



 クリスマスは大切な人と過ごしたい、と考えていた新一と蘭。
 それを影から見守ってやろう、と企んでいた平次。
 そして、ただ平次と一緒に居たかっただけの和葉。

 何だかんだ言いながら彼女たちは、大切な幼なじみと一緒に大切な時間を過ごしたかったはずだ。




 果たして、今日の本当の被害者は誰だろうか―――




 翌日、珍しく和葉はひとりで大阪に帰った。
和葉もまた、蘭のように友達と約束があるらしい。
 蘭は、和葉を見送った後、すぐに支度をして、園子の家に向かった。


 取り残された新一と平次。
男ふたりで何をしろと言うのか。
今日は、12月25日――クリスマス本番だ。















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