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いつも笑顔で
作:美月



女の法則


 以前から思っていたことではあったのだが、
「女」というのは、どうしてこんなにも電話と買い物が長いのだろうか――

 そして、最近思うようになったことは、
どうして他人のことに対して、横からごちゃごちゃと口うるさく突っ込んでくるのか、ということだ。

 思い当たることは、いくつもあった。

 例えば、学校で、テストの前になると「昨日、全然勉強してない!」と叫び、慌てふためく女。
そんなこと、どうせ勉強していても、
それがお決まりの言葉であるかの如く、慌てているに違いない。
 それなのに、その女の周りに集る女たちもまた、揃って「どうしよう」と連呼するのだ。
その上、勉強していない仲間がいることを知れば、「仲間が居てよかった」と言い合うのだ。
中には、本当に勉強をしていない奴もいるかもしれない、と思うと
その女が気の毒に思えてくる。

 もう1つある。
 
 毎回毎回、オレが出かける度にオレの後ろにくっついて来て、
事件に巻き込まれたことに対して、文句を言う女。
 コレは、もうどうしようもないことなのだろう。
付いて来るな、と言っても付いて来る。
オレと一緒に居ると、大抵事件に巻き込まれると分かっていても、
その女は付いて来る。

 女というものは、言ってることとやってることが矛盾している。
本当は、勉強しているのに、
付いて来るな、と言っても付いて来るくせに、
口を開けば、大嘘と文句ばかりだ。
それしか言うことがないのだろうか。


 そんなことをテストが始まる直前の10分の休み時間に1人で考えていた。
これから、日本史のテストが始まると言うのに。
覚えなければいけないことが多いので、こんなことをしている場合ではない。
 それなのに、女たちが「ヤバイ、ヤバイ」と言い続けているのを聞くと、
意識がそちらにいってしまって、どうしても集中できなかった。

 「どしたん?平次…ボーっとして」

 突然、和葉の顔が視界に入ってきた。
生きとるかー?と言いながら、平次の顔の前で手を振ってくる。

 「何や、自分…相変わらず、うるさい奴やなあ…
オレは、もう何もかも覚えて完璧なんや。せやから、あとはテスト受けるんを待つだけなんや。
今、精神を集中させよるんや…話しかけんといてくれへんか?」

 平次は、大嘘を吐いた。
口から出て来る言葉のほとんどが嘘で、自分でも驚くくらいだった。
何もかも覚えてない。寧ろ、この時間に覚えるつもりだったのに。
 精神集中?笑わせんな。
お前らの声がうるさくてそんなもんできるわけないやろ。

 危うくそう言いかけたが、心の中に留めておいた。
言ったら、またこの女はうるさくなる、と分かっているからだ。


 その後の日本史のテストは、言うまでもなく、悲惨な結果に終わった。
徳川家康が何をした人間なのか、参勤交代は何年から行われていたのか――
こんな初歩的な問題ですら、頭を抱えてしまうほどなので、
最悪な点数が返ってくるだろう。
 もうテストを返す必要なんてないので、
そのままシュレッダーにかけてほしい、と思うくらいだった。



 それから、何日か経った後で、そのテストが返ってきた。
結果は――やはり、悲惨なものだった。
予想していたことなので、それほどショックを受けなかったが、
それよりも、テスト前に「勉強してない」、「ヤバイ」と言っていた女たちが
自分を上回る点数が付けられた答案用紙を持っていることに
ショックを受けたかもしれない。
ショック、というよりは、怒りだろうか。
静かな怒り。
誰にもぶつけることができないような怒りだ。

 だが、1人だけこの気持ちを分かってくれそうな人間がいることに気付いた。
自分が「親友」と呼び、慕っている男だ。

 今日、帰ったらアイツに電話しよう、と考えていたら、
テスト前と同じように、和葉が平次の答案用紙を覗き込んできた。

 「うわ…平次にしては珍しいやん。
あんたもこんな点数取るんやなあ」

 「余計なお世話や」と反撃しようとしたが、
和葉のテストを見て、何も言えなくなった。
 周りで、「ヤバイ」を連呼していた女たちとは違う、更に上を行く点数だった。

 「お前…そんなに日本史得意やったか?」

 気になったので、聞いてみると
和葉は得意気に平次の前で、答案用紙をチラつかせながら言った。

 「あんたと一緒にせんとってよ。
アタシはもともと『デキる女』なんやで?
平次やって…もっと真面目にちゃんと勉強しとったらよかったのになあ……」

 ああ…始まった。
和葉は、しつこく言い続けていた。
顔だけ和葉のほうに向けて、意識は他のほうに移していた。

 「ちょっと…平次?アタシの話、聞いてへんやろ?」

 和葉は、平次を睨みつけた。
もの凄い剣幕だ。
何をそんなにムキになっているのか、と思ったが
「ちゃんと聞いとる」とだけ返事をした。

 この女は、他に話題がないのだろうか。
ずっと同じ話をし続けて、飽きないのだろうか。
 しかし、それは決して口には出さず、
その後は黙って和葉の話を聞いていた。
 ――どうせ、家帰ったら、アイツに電話するし、今は大人しく聞いといてやろう……




 家に帰ってから、予定通り電話をかけた。
相手は、勿論、東京にいる同じ高校生探偵である工藤新一だ。

 「…もしもし?」

 新一は、うんざりしたように電話に出た。
まるで、数時間前までの自分のようだった。

 「何やねん?元気ないなあ…」

 「何の用だよ?」

 新一は、早く用件を言ってほしかったようだ。
この状態では、自分の話をまともに聞いてくれないかもしれない、と思った。
 しかし、平次は言いたくて仕方なかったので、唐突に言った。

 「なあ、工藤…『女』って何なんやろなあ……」

 電話の向こうで、新一は「ハア?」と呆れたような声を出した。
突然、こんなことを言われたので当たり前だろう。

 「お前…何があったんだ?」

 探偵をしているだけあって、新一は鋭い。
平次がいつもは言わないことを尋ねてきたことに、すぐに疑問を抱いたのだろう。

 それから平次は、最近あったことを全て新一に言った。
最初は、新一は呆れながら聞いていたが、
聞いていくうちに納得していったようだ。

 「そう言えば、蘭もそうだなあ…」

 新一は、平次がひと通り言い終えたのを待ってから、ボソッと呟いた。

 「何がや?」

 「いや…蘭の奴も、言ってることと、やってることが矛盾してるな、と思って」

 新一の話によると、以前、まだ「小学1年生」として毛利家に居候していた頃のことだ。
APTX4869の解毒剤ができ、無事に元の姿に戻った時の蘭は、何だか素っ気なかった。
涙を見せず、かと言って、笑顔も見せなかった。
せっかく、苦労して戻って来たというのに、あまりにもあっさりしていた
蘭の反応に対して、拍子抜けした記憶が蘇った。
 だが、いつまでも心配ばかりかけていられないと思い、電話をすると、
「いつになったら帰って来るの?」
怒りながら、この一言しか言わない。
そして時には、泣きながら「いつになったら帰って来るの?」と尋ねてくる。
 
 その度に思うのは、「オレは一体、どうすればいいのか」ということだ。
逢えないと、強がってみたり、泣いてみたりするくせに
実際、逢ってみたら、意外と何も言わない。

 「ホンマに女ってのは、分からんなあ…」

 「そうだよなあ…」

 互いの言いたいことは、言い尽くしたのだが、
何を言っても、一向に答えが見えてこなかった。
 どうしてそんなことをするのかは、今のこの2人には分からないことなのだろう。




 男たちが、そんな取るに足らない会話をしている頃、
彼らの話題になっていた女たちも電話をしていた。

 勿論、彼らの話なのだが――

 「ホンマに、平次はいつもアタシのことうるさい奴、としか言わんけん腹立つわあ。
男って何であんななんやろ?」

 和葉が呆れたように蘭に尋ねた。
蘭も和葉の話に同意していて、「そうだよねえ」と相槌を打っている。

 「服部君って…鈍感だよね?
和葉ちゃんの気持ち分かってるのかなあ…」

 「そんなん、工藤君もそうやんか…
蘭ちゃんの気持ち分かっとらんやん…」

 彼女たちの会話には、答えが見えようとしていた。
しかし、彼らが自分たちのことをどのように思っているのか、という疑問にぶつかってしまったので、
答えが出て来るのは、すぐではない。

 「絶対、気付いてないよ」

 「うん。アタシもそうやと思う」

 小さな頃からずっと一緒にいるというのに、
男たちは本当に鈍感だと思った。
「幼なじみ」の男女とは、いいものかもしれないが、
一方が恋心を抱いても、なかなか発展しない、という嬉しくないオマケが付いてくる。

 「男って、女の気持ち何も分かってくれへんのかなあ…」

 和葉がボソッと呟いた。
静かな沈黙が訪れた。

 「全ての男の人がそうじゃないと思うけど…
私たちの周りにいる男たちは、そうかもしれないね」

 蘭は、寂しそうに言った。
そう言った後、部屋の外を1羽のカラスが「カア」と一声だけ鳴いて、遠くへ飛んでいった。

 「マヌケな声…誰かとそっくり」

 そのカラスの鳴き声は、電話の向こうの和葉にも聞こえていたようで、
ホンマやなあ…と呟いていた。
そう呟いた後で、和葉が口を開いた。

 「アタシはさあ…ただ、平次が心配なだけなんや。
いつでも平次のことが気になって気になって、仕方ないから
話しかけとるだけやのに…」

 「好きになると、そうなるものよね。私もそうだし」

 何だか、恋の悩みを姉に相談している妹のようだ。
妹が和葉で、姉が蘭だ。
蘭は、自分のことですらうまくいっていないのに
何でも知っている、というように和葉に話しかけていた。


 「恋をすると、女の子は変わっていくからね」


 蘭は、その場の雰囲気には合わない明るい声を作って言った。
和葉ちゃんだって、外見も中身も変えていこうって思ったでしょ?と更に言う。

 和葉は、その言葉に感心していた。
同じ高校3年生ではないようだ。
蘭のほうが、大人のように思えた。

 「そうやなあ…言われてみたらそうかもしれん」

 「でしょ?」

 蘭と和葉は、男たちとは違い、早くも答えを見つけることができたようだ。
その後の会話は、いつのように賑やかで、楽しい内容のものだった。




 いつか、鈍感な男たちにも気付く時が来るだろう。

 
 いつも自分の傍にいる女が、突然綺麗になったということに―――





何だか、平次と和葉が純粋な関西人とは思えない言葉になってきてます。どうしても自分の方言と混ざってしまって…本当に申し訳ないですm(_ _)m
取りあえず、原作を片手に頑張っています。











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