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受験生の方、必見です!(笑)
いつも笑顔で
作:美月



勉強嫌いの名探偵


 
 その日は、とても暑い1日だった。
蝉の鳴き声がとても耳障りで、汗がどんどん流れてくる。
体中の水分が涸れてしまうのではないか、と思うほどだった。
部屋のクーラーが思うように働いてくれない。
こういう時に、広い家を恨みたくなる。

 今はもう夏真っ盛りだ。
夏休みなんていつもだったら部活で潰れてしまうが、今年は違う。
ようやく、ゆっくり過ごせる夏休みがやって来た。


 ――そのはずだったのに。


 「平次ィー!」

 ああ、またか…
 ここの所、毎日というように、甲高い声が静かな家の中に響き渡っている。

 その主は、勿論、和葉だ。

 「平次!居るんやろ?隠れてもあかんで!
あんた、早よ進路決めなあかんのに何してんの?開けるで!」

 そう言ってノックもせずに、ドアを開けて、
まるで、自分の部屋のように入ってきた。

 「うるさい奴やなあ。
ここはオレん家やぞ?もうちょっと遠慮せえや…」

 呆れたように言った。
 毎日毎日、こうやって服部家に上がり込むのが、
この女の中では日課になっているのかもしれない、と思った。
住処を荒らされる動物の気持ちが分かるような気がしてきた。
 そして、毎日毎日、同じことを言い続けて飽きないものか、とも思った。
聞いてるこっちからしてみれば、まさに、「耳にタコができる」というやつだろう。
もしかしたら、本当に自分の耳の中に「タコ」ができているのではないか、と心配になるくらいだった。

 「だって…あんたが早よ、進路決めんのが悪いんやろ!
せっかく、心配してあげとるのに…
もうちょっと本気で進路決めよう、っていう気になれへんの?」

 「……そんなん言われてもなあ…」

 平次は、和葉の言葉に対して、特に興味も示さず、
自分の愛用している帽子を手にとって、ただ眺めている。

 「だって、もう夏休み終わるんやで?
部活もええ成績残して終われたのに『剣道』で推薦してもろたらええやん!
勿体無いとか思わへんの?」

 「…別に」

 和葉が熱く語るのとは対照的に、平次は冷めきっている。
外が暑いので、自分で自分を熱くするなんて、無駄な行為としか思えなかった。

 「もう…あんたと話してるとイライラしてくるわ。
そや!蘭ちゃんに電話しよう!
ええなあ…きっと工藤君やったら、ちゃんと自分で進路決めて頑張っとるんやろなあ…」

 今まで何とも思わなかったのに、「工藤」という単語を聞くと、体がピクッと反応してしまう。
平次は、和葉を睨みつけた。
 しかし、当の彼女は、既に携帯電話を握っていて、
東京にいる同じ高校3年生である蘭に救いを求めようとしていた。

 自分も工藤に電話しようか、と思ったが、
たまには、女の会話を聞いてみようという好奇心が湧いてきたので、そこにいることにした。

 ――と言っても、ここは自分の部屋なので、出て行くのは和葉のはずなのだが。

 「あ、蘭ちゃん?久しぶりやなあ…元気しとった?」

 和葉の声が部屋中に響いた。
そんなに大声出さんでも聞こえるやろ、と突っ込みそうになったが、
機嫌よく電話しているので、何も言わないことにした。

 「ちょっと、蘭ちゃん、聞いてくれへん?
平次のヤツがなあ…全然、進路のこと決めんのやって。
でも、工藤君は頭ええし、ちゃんと決めとるやろ、と思って電話したんや…」

 和葉は、蘭に話す隙を与えない、というように話し続けた。
その様子を横から見ていた平次は、蘭に感心していた。
どうすれば、黙って聞き続けることができるのか、教えてほしいくらいだった。

 「和葉ちゃん…新一のこと、褒めすぎだよ。服部君だって頭いいじゃない。
そんなことより、新一だってねえ…」

 蘭の声が少しだけ低くなったように感じた。
直接、受話器を耳に当てていない平次にも、蘭の声が聞こえてきた。
蘭は、何か、怒っているのだろうか。
あの姉ちゃんに限ってそれはないだろう、と思ったが、理由が気になって仕方なかった。
もしかしたら、工藤と何かあったのかもしれない。
平次は、他人事だと思って、ニヤニヤしていた。

 「服部君と一緒よ。
新一も…進路が決まらないのよ。
私ばかりが必死になって、本人は全然焦ってないから、イライラしちゃって。
今も新一の家に来て、怒ってたところよ」

 それを聞いた平次と和葉は、口をポカン、と開けたままの状態で固まってしまった。
まさに、「開いた口が塞がらない」とはこのことを言うのだろう。

 きちんと進路のことが決まっていない高校3年生なんて、
この時期あまりいないだろう、と思っていたが、意外と身近にいたようだ。
 それもふたりとも「東の名探偵」と「西の名探偵」と呼ばれるような人間なのに――

 当然の如く、その後の女の会話は、愚痴の嵐だった。
一方が、男の愚痴を言い、もう一方はそれを聞き、
そして話し役と聞き役が変わってまた愚痴の嵐――

 さすがの平次も、もうこの場所にはいられない。
自分の部屋だが、何を言っても出て行きそうにないので、
何も言わずに携帯電話だけ持って、部屋を出た。
 ついに、住処を追い出されてしまった。
自然の中で棲んでいる動物が本当に凄いと思った。
自分は何も言えずに部屋を出たというのに――


 まだまだ止まらなさそうな女の愚痴が聞こえない所まで行ってから、新一に電話をかけた。
新一は、疲れきっているような声で「もしもし?」と言った。

 「何や、お前…エライお疲れ気味やないか?」

 「当たり前だろ…毎日のように蘭が来て、進路進路ってうるさいんだから」

 「…でも、ホンマは嬉しいんやろ?」

 平次は、少し冗談を言ってみた。
図星だろう、とも思ったが、なかなか返事を返してこなかった。

 「バーロ…んな訳あるか」

 やはり、冗談は通じないようだが、どこか元気がない。
しかし、それは自分にも言えることだ。
こんな冗談を言いながら、どこか元気がない。
 ――その理由は、ふたりとも同じなのだが。

 「お前…大学決まってないのか?」

 先に、新一が口を開いた。

 「そんなんお前もやろ?」

 さっきの女の電話から聞こえてしまったので、
今のふたりの状況は言わなくても分かっている。

 だが、よく考えてみると、このふたりは優秀な人間だ。
「探偵」としては勿論だが、頭だけではなく、スポーツ面でも優れている。
大学受験には、「推薦入試」があり、それにはいくつかの推薦方法がある。
ふたりが通う高校だって、このふたりを有名な大学に推薦させよう、と思わなかったのだろうか。
それが気になって気になって仕方なかった。

 「お前…何で、推薦してもらえなかったんだ?」

 ふたりは、同時に同じ質問をした。
考えていることまで、同じなのか…と思ってしまった。
 先に、平次が口を開いた。

 「オレはな…この夏、剣道でええ成績残したんや。
それで、オレの顧問と剣道の強い大学の先生が仲良うてなあ。
うちの部からも1人か2人推薦するか、っていう話になっとったんや」

 ここまでは、スポーツ界ではよくありそうなことだが、
そこまで言って、平次の口が止まった。

 「どうしたんだ?何の問題もねえじゃねえか…」

 新一は不思議そうに尋ねた。
平次は、それがなあ…と言って、重い口を開けた。

 「前に、工藤らを呼んだ試合あったやろ?どっかの大学生が殺された事件があった時や。
あん時にその大学の先生来とってなあ…オレらの試合を見よったんやと。
でもなあ…1番お目当てにしとったオレがなかなか出て来んかってどないしたんやろ、と思ったんやて」

 「試合サボって事件を解決してたことがバレたのか…」

 新一は、話を聞いていくうちに、何となく先が見えてきて、思わず口に出してしまった。
それを平次は気に入らなかったらしい。

 「お前…オイシイ所持って行くなよ。
そうや。オレがその大学に推薦してもらえん理由は、それや。
何ぼ優秀でも、試合サボって事件解決するようなヤツはいらん、やて」

 それを聞いて、思わず新一は、笑ってしまった。
そんなことがあるのかと、更に聞きたいくらいだった。
 だが、電話の向こうの平次にとっては、笑い事ではない。
笑い続けている新一の様子が気に入らなかったのか、
平次は怒ったように「お前はどうなんや?」と尋ねてきた。

 「オレは…もうサッカーやめちまったから、その推薦はできないけど、頭で推薦できると思ったんだよ。
それで、担任に言いに行ったら、『工藤君は無理』って即答されてさ…」

 「何でや?お前はオレみたいなアホなことしとらんやろ…」

 この時、既に平次は、自分が過去にしてしまったことが
「アホなこと」だったということを認めてしまっていた。
 それも辛いことかもしれない、と思ったが、口には出さず、自分の話を続けることにした。

 「オレはなあ…昨年、ずっと休学してただろ?
だから、出席日数が足りないって言われて…
入院とかきちんとした理由があるならまだ分かってもらえるらしいけど、
オレは理由言えねえだろ?何て言ってたらいいんだよ?」

 「そんなん正直に、『体が縮んでました』って言えばええやんか」

 平次は、凄いことをさらり、と言ってしまった。
電話の向こうで今度は新一が慌てた。

 「バ、バーロ!!お前、そんなことどうやって説明するんだよ?
無理に決まってるだろ!」


 「探偵」とは、時に嫌な職業になってしまうものなのか――
それは、どの職に就いても言えることだろうが、
こんなにも自分が探偵であることを後悔したことはない。

 男ふたりが同時にため息を吐いていると、
人の家に上がり込んで、人の愚痴を言い続けていた女が目の前にやって来た。
 もう愚痴は言い尽くしたのか、と聞きたくなったが、
彼女たちの表情を見ると、何も言えなくなってしまった。

 「もう、こんなんしてる場合とちゃうやろ!」

 「ちゃんと大学のこと決めないと!」

 その声は、同時に電話から聞こえてきた。
もううんざりしていたが、彼らは何も言えなかった。
 それもそのはず――彼女たちは、彼らより先に志望校が決定していて、
あとは、受験日を待つだけなのだ。
 蘭は空手で、和葉は合気道で、それぞれが試合で素晴らしい成績を収めた。
そして当然の如く、それらの強い大学が彼女たち目当てに集まってくる。
勉強もできる、と聞いたら放って置くはずがなかった。
 
 そんな彼女たちを横目で見ながら、自分たちは仕方ないことなのか、とも思い直していた。
空手、合気道、といった武術をこなす彼女たちには、
もう男たちが守らなくても大丈夫なのでは、と思うほどであった。

 そんなことを考えていると、またため息を吐いてしまった。
その様子を彼女たちは見逃さなかった。

 「ちょっと、平次?電話なんかしとる場合とちゃうで!大学のことはどうする気なん?」

 「新一も!もっと真剣に考えなさいよ!自分のことでしょ?」

 「………」


 もうこれ以上、何も言えなかった。
そして、男たちは、黙って女たちに従うことにした。





 それから1ヶ月後には、蘭と和葉は早々と大学を合格していた。
そして、新一と平次も、無事に志望校が決まったようだ。
何とか、推薦で行けることになったらしい。


 しかし、推薦してもらえるようになるまでどんな苦労があったのかは、この4人しか知らない。




忙しさからやっと開放された美月です。
今回の連載は、私が高校生活で起こった日常の話をネタにしているものもあります…まず、今回の話がそうです(笑)
あらすじにも書きましたが、気軽に読んでいただけたら嬉しいです。











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