猫との生活
これは5分企画参加作品です。
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カーテンの透き間から太陽の日差しが差し込んでいる。ベッドの中には大学二年の佐々木健太が静かな寝息を立てながら眠っている。そこに音もなく、白い毛並みの良い猫がやってきた。
猫はベッドの上に飛び乗り、佐々木の顔に向かう。体の上を通って。
佐々木は薄く目を開けた。佐々木の目に飛び込んできたのは、猫がじっと佐々木を見ている姿だった。
佐々木は猫と分かると、再び目を閉じて眠る事にした。だがすぐに、佐々木の右頬に痛みが走った。猫に爪を立てられたのだ。
「痛っ!」
佐々木は頬を抑えながら叫んだ。猫は何事もなかったかのように尻尾を左右に動かしながら、ベッドから下りていった。佐々木も頬に四本の線を付けながらベッドから抜け出した。
カーテンを開けて眩しい日差しに佐々木は目を細め、「今日も暑くなりそうだ」と思った。そんな事を思いながら、顔を洗いに洗面所に向かった。蛇口を捻って水を出す。それを顔にかけて、目を覚ました。
タオルで顔を拭いながら、キッチンに向かって行く。そこに佐々木の足元に猫がやってくる。
「お前も腹が減ったのか?」
佐々木がそう言うと、猫は返事をするかの様に鳴く。佐々木は猫の頭を愛撫すると、猫は目を閉じて気持ち良さそうに顔をした。佐々木はこの顔を見るのが好きで、一日に最低五回はやるのだ。
キッチンでキャットフードを小皿にあけて、猫の前に出す。猫はそれをゆっくりと食べ始めた。佐々木はそれを見ながら、コンビニで買ったご飯をレンジに入れて温める。温まるまでに冷蔵庫から卵とベーコンを出し、フライパンで炒めた。
炒めたベーコンと卵を皿に移すと、ご飯も温まった。皿とご飯を持って小さなテーブルに移動。そこで胡座をかいて座り、箸たてから一つしかない箸を出して食べ始める。本当は味噌汁があると良いのだが、と思いながらご飯を口の中に掻き込む。
あっという間に食べ終え、箸と皿をシンクに入れて空になったご飯のケースはゴミ箱に入れた。佐々木は床に置いた小皿もシンクに入れた。
小皿に盛られていたキャットフードは奇麗に平らげた猫は欠伸をしてからベッドの上に飛び乗った。猫は布団の上で丸くなり、どうやら寝る様だ。
佐々木は箸と皿を軽く洗い、部屋着のジャージを脱いだ。下は紺色のジーンズ、上にチェックのシャツを着た。次に洗面台で歯を磨いて、軽く髪型を整えてから再びリビングに戻った。
ベッドの上では猫が小さく丸まり、眠っている。佐々木はその脇に置かれた鞄を取り、肩にかけた。
「行ってくるからな」
佐々木は猫を起こさない様に注意しながら背中を撫でてから家を出る事にした。
佐々木は自分の家――マンション――から出て、駐輪場にある自転車に乗って走り出す。生温い風を切りながら、あの猫との出会いを思い出す。
実はあの猫、野良なのだ。
ある日、家でのんびりしていると猫が鳴いていたので、覗いてみるとふらふらと覚束ない足取りをした白い子猫がいたのだ。どうやら親猫と離れてしまったらしい。
佐々木は心配になると同時に近所の心配をした。このマンションではペットは禁止となっている為、見つかると面倒な事に成り兼ねない。だけどほっとく訳にもいかない。
「ほら、おいで」
佐々木は右手を伸ばし、猫を招こうとしたが。猫は威嚇し、声を上げた。
「怖がるなよ」
さらに伸ばすと、猫に引っ掻かれた。あまり痛くはなかったが。佐々木はそれでも手を出し、猫と無言の会話をした。だけど猫は警戒を解いてくれなかった。それが普通なのだが。
仕方なく、無理矢理猫を抱き抱える事にした。当然猫が暴れ出したが、次第に収まりだしてきたので頭を撫でてやる。まだ若干抵抗があるが、徐々に力を抜くのが分かる。
その後、猫用のミルクとキャットフードを買って食べさせた。一日を猫の介護で過ごしたが、次の日の朝には消えていた。佐々木は少し寂しさを感じながら大学に行った。だが、その日の大学が終わり家に帰ってくると、あの猫がベッドで眠っていたのだ。床に雀二羽を置いて。
その日から佐々木は猫と一緒に生活していった。壁などを使って爪を研いだ時にはさすがに焦ったが。今もその跡は残ってる。それでも佐々木は楽しい時間を過ごし、ずっと続く事を願った。
○
自転車を駐輪場に置いて、かごからスーパーで買った品物を入れた袋を出してエントランスを潜った。ドアの鍵を開けて、暗い部屋に入った。スイッチを押して部屋を明るくすると、猫が鳴いて佐々木を迎えた。
「ただいま」
佐々木は猫の頭を撫でると、喉を鳴らした。それを聞いた佐々木は思わず笑顔になる。スーパーの袋をテーブルに置いて、ジーンズとシャツを脱いでジャージに着替える。
キッチンに移動し、ヤカンに水を入れて火をかける。それが終わるとキャットフードを朝洗った小皿に盛り、猫の前に置く。それからご飯をレンジで温めながら、テレビを見る事にした。
テレビの中では今売れてる女性タレントが映っていた。どうやらドラマの様だ。「チン」という音で視線をレンジに戻す。中からご飯を出し、テーブルに置く。そのついでにスーパーの袋からおかずのとんかつとカップの味噌汁を出した。
ヤカンが鳴り出したので火を止めて、カップの中に熱湯を注いだ。
佐々木はテーブルにカップを置いて、ようやく夕食に在り付けた。ご飯を食べていると、猫が佐々木の膝の上に来て体を丸めた。佐々木は手早く夕食を済ませ、猫の背中を撫でた。猫は気持ち良さそうに目を閉じている。
「……お前が彼女だったらな」
佐々木は溜め息を混じらせながら呟くと、猫は佐々木の顔を見上げた。すると、突然両目を閉じた。佐々木は瞬き一つして、もう一度見たが両目はちゃんと開いていた。見間違いの様だ。
佐々木は相変わらず膝の上で体を丸めている猫を見ながら、本当に彼女だったらなと考えていた。
ここまで読んで下さってありがとうございました。本当に感謝します。
この作品を読んで、「何だ?」と思った方が沢山いると思います。反論はしません。だって自分でもそう思いますもん。
でも、このお話はこれで終わりではありません。今は忙しいですが、落ち着いたらこの続きを書きたいと思っています。
以上。暇潰しにならない5分でした(^^;