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fukuショートショート集
作:隆伊



そしてすべてがとまった


                そしてすべてがとまった


 私は世にいうマッドサイエンティスト。私財をなげうち寝食を忘れ昼夜兼行不眠不休で研究したかいあって、つひに『時を止める装置』を完成した。

 時を止めることは理論上ではさほど難しいことではない。時が止まるくらいまで重力をかけてやればいいのだ。が、この方法では人間が押しつぶされてしまう。とてもではない。さればどうすればいいのか。それが第二案である。
 宇宙の膨張を止めてやればいいのだ。宇宙はビッグバン以来ずっと膨張を続けている。現在もそれは止まっていない。つまりその膨張とともに時が在る。ゆえに膨張を止めてやれば時も止まるのである。

 はたして宇宙の膨張を止めるなど荒唐無稽できっこないと諸君は思われるかもしれない。が、私は私財をなげうち寝食を忘れ昼夜兼行不眠不休で研究したかいあって、つひにそれを完成したのだ。

 それでも諸君は思われるかもしれない。時を止めたらこの私の『時』まで止まってしまうのではないか、と。
 心配ご無用である。全宇宙の時間が止まっても、リモコンのスイッチを押した人間にだけは時間の経過が起こりうるように装置は作られてある。

 さて。

 今、私は装置のリモコンを持ち、屋敷の近くの喫茶店に来たところである。
 記念すべき装置の試運転をこの喫茶店で行うのだ。
 というのも。
 ここのウェイトレスがはなはだ鼻持ちならないのである。
 私を不審者を見るような目で見る。
 確かに私は身なりにはかまわない性質である。だが、私は断じて浮浪者ではない。
 人をして浮浪者あつかいするこのウェイトレスをまずは血祭りにあげてやるのである。時を止めてカウンターの上に担ぎ上げ、ドジョウすくいの格好でもさせてやれば、多少は反省するのではないか。
 
 現に今も、私がいつもの席に座っているというのに水も持ってこず、人を上から下まで怪訝な目をしてねめまわしている。
 こういうやつなのだ。だがそれも今日までだ。思い知るがいい。
 
 スイッチオン。ボタンを押そうとした瞬間、誰かがものすごい勢いで入り口のドアを開き何かを大声で叫んだがかまわずボタンを押した。

 装置は正確に作動した。目に見える範囲の店内の人間がすべて止まっている。あのウェイトレスも歩く途中で止まっている。壁の時計を見た。止まっている。4時5分。
 パーフェクトだ。
 私はスイッチを押す瞬間飛び込んで来た客を見ようと首をひねった。とたん。


 ものすごい衝撃を体に受けまるでどこかから落ちる感覚とともに椅子にしりもちをついた。
 そこは今いた喫茶店。なにもかも普通通り。みんな動いている。例のウェイトレスが不審な顔つきでお冷を持ってきた。なにがなんだかさっぱりわからぬ。
 時計を見れば3時50分。なんと時間を逆戻りしているではないか。
 私はふらふらと席を立ち、何も注文せずに店を出た。

 いったいなにがどうなったのか? 歩きながら私は考えた。装置は完璧だった。そこに問題はない。ではいったいなぜ私は15分前の過去に来てしまったのか? 考えた末一つの仮説を立てた。

 時間には異分子をはじき出す性質があるのではないか。

 つまりスイッチを入れたあの時、ただ一人だけ動くことのできた私は異分子であり、その世界からはじき出されたのだ。そうして15分前の世界にやってきた。

 そこまで考えて私は猛烈にダッシュした。喫茶店に戻るのだ。今、4時4分。4時5分に装置を作動させた私がここにいるということは、装置を解除する人間が存在せず、あの4時5分の時点で全宇宙がストップしてしまう。ウェイトレスが不審な顔をしたのはいつの間にか私が店内にいて、何も注文せずに出たかと思うと、すぐに戻ってきたからだ。

 私はものすごい勢いで喫茶店の扉を開いた。叫んだが言葉になっていなかった。スイッチを押す私の後姿が見えた。

 そしてすべてがとまった。












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