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ネコのねがいごと

作者: 光太朗

5分企画参加作品です。

 オレは鳩。仕事熱心な鳩。

「あとひとつだな」

 書類に目を通しながら、上司がため息と一緒に言葉を吐き出す。上司というのは烏だ。その大きなからだ、長いくちばしで、いつだって偉そうに指令をくだす。それが嫌で、この仕事から抜けた仲間は数知れない。

 だが、オレは仕事熱心な鳩。そんなことはどうでもいい。

 あとひとつといわれたなら、あとひとつ、寝る間も惜しんでノルマ達成に努めるのみ。



 ──────



 あたしはネコ。ちょっとかわいそうなネコ。

 優太くんととっても仲良し。ううん、正確には、仲良しだった、ってことになる。

 あたしは、優太くんがうんと小さいころから知ってる。

 最初は泣いてばっかりだったのに、いつのまにか歩けるようになって、気がついたらランドセルを持って、あたしとはちがう時間を過ごすようになった。寂しいけど、それはしようがない。人間ってそういうものだって、あたしはちゃんとわかってる。

 あたしがかわいそうだっていうのは、そんなことじゃない。

 だって、あたしはまだ、優太くんといたかった。

 一緒に遊んで、一緒に笑って、一緒にあたたかい空気を感じていたかった。

「なんだ、暗い顔して」

 鳩があたしの隣に降り立った。あたしは思わず警戒したけど、公園で見る鳩とは、なにかがちょっとちがう。第一、いまのあたしに話しかけてくるっていうのが、もうふつうじゃない。

「あなたは、なに?」

「オレは鳩さ、仕事熱心な鳩。あんたは、いかにもかわいそうってふうだな。望みがあるなら、いってみな」

「いったら、叶えてくれるの?」

「それがオレの仕事なんだ」

 見るからに胡散臭かったけど、ほかに相手もいないから、あたしは話すことにした。

「優太くんに会いたいの。優太くんと一緒にいたいの。優太くんは、あたしのせいで、毎日悲しそうにしているから」

 鳩は、ガラス玉みたいな目をぱちくりさせて、ふぅむ、とうなずいた。

「なるほどね。いいだろう、オレがなんとかしてやる。まかせときな」

 

 

 ──────



 ぼくはにんげん。たぶん、世界じゅうでいちばんワルイにんげん。

 だいじな友だちに、ひどいことをいった。

 ずっといっしょにいて、ずっとなかよくしてきたのに、あの日ぼくは、とてもひどいことをいった。

 ダイキライっていった。

 シンジャエっていっちゃったんだ。 

 リィが、ぼくのだいじなものを、ぐしゃぐしゃにしちゃったから。

 母の日のプレゼントに、学校でかいたママのかお。すごくじょうずにかけて、すごいね、じょうずね、ってママがいってくれるのが、たのしみだったのに。

 そしたら、リィは、ほんとうにしんじゃった。

 車にはねられたんだってママはいったけど、ぼくは知ってる。

 ぼくがシンジャエっていったから、しんじゃったんだ。

「リィにあいたいな」

 ぼくは石ころをけとばした。

 学校からのかえり道だって、おうちについたらリィとおひるねしようかな、それともいっしょにあそぼうかなって、そんなことを考えてたらつまらなくなんてなかったのに。見えるものがぜんぶ笑ってるみたいで、きらきらしてて、なんだって楽しかったのに。

 でも、いまは、こんなにつまんない。

 リィにあいたい。

 あいたいよ、リィ。

「いたい」

 しんぞうのとこがいたい。かなしくて、いたい。でも、リィはもっといたかったはずだ。

 いたいところをつかんで、そのまま立ちどまる。

 そのとき、信じられないものを、みつけてしまった。

 大きな道のむこうがわに、小さな黒いネコ。

 そんなハズない。

 そんなハズない。

 わかっているのに、もう、そこしか見えなくなった。

 ママといつも行く、小さなスーパー。リィはお店のなかには入れないから、いつも入り口のとなりでちょこんとすわって待っていた。

 ぼくが出てくると、ニャアって鳴いて、ぼくにとびついてきた。

 ネコじゃないみたいに甘えんぼで、やさしくて、かわいいリィ。

 だいすきなリィ。

 まちがいない、ぼくが見まちがえたりなんてするわけない。

 リィだ。

 リィがいる。

 入り口のとなりにすわって、こっちを見ている。

 ここから見ると、リィはほんとうに小さくて、もしかしたらしんだから小さくなっちゃったのかもしれなくて、ぼくはどきどきした。

 ぼくとリィのあいだを、車が行ったりきたりする。それでもぼくは、リィから目をそらさなかった。

 あいにきてくれたんだ。

 むねのあたりが、ぎゅうってなった。うれしいのか、かなしいのか、わかんなくなった。なんだか、はながツンとして、泣きそうになる。

「ニャア」

 たしかに、聞こえた。

 リィが鳴いた。

 まちがいなく、リィの声だ。

 ぼくは、たまらなくなって、そのまま道へとびだした。


 

──────



 私は烏。動物たちの願いを叶える烏。

 といっても、いってしまえば中間管理職だ。部下にノルマを催促し、上司からはノルマを催促される、実につまらない日々。胃薬はもはや常備薬だ。

 しかし、私なりに、この仕事を気に入っている。

 動物たちの喜ぶ顔を見るのは、なかなかに気分がいい。

「ノルマ達成しましたよ」

 部下の鳩がやってきた。脇には小さなネコと、小さな人間。

 なぜ人間を連れてくるのかと、疑問を覚える。しかし、そのネコには見覚えがあった。私は、すべてを理解した。

「なるほど、君か。君の願いはなかなか興味深かった。死した身でありながら、大好きな人間に会いたい、一緒にいたい……君の願いを叶えるにはどうしたものかと思ったが──ふむ、私の部下はなかなか上手にことを運んだようだ。さあ、これからはずっといっしょだ。思う存分、楽しむといい」

 鳩が満足げに胸を張る。なぜだか、人間は泣いている。

 ネコは、満面の笑みを私に向けた。  







読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ブラック……ですね。 なんかものすごく。 それがまた世の中の無情有情を際だたせている感じがします。大人のメルヘン? 本当は恐い童話みたいでした。 面白かったです。 特に読後感がなんともいえ…
[一言] どうも、遅くなりました(-.-;) 心温まるお話でしたね。凄く良かったです。猫と鳩と鳥と人間のお話。一見まったく関係ないと思っていた話も次第に繋がり、最後は完全に繋がり一つすっきりとしまし…
[一言] ほのぼのとしたお話だなーと読みすすめていましたが、ラストにびっくり。 無邪気なネコが逆に怖いですね。色々想像をかき立てられて、ゾクゾクしながらワクワクしました。 ダークな話が大好物なもんで、…
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