「だって、薬指に指輪をしてなかったのよ。私、だまされてたのよ。・・・でも本当は最初から気づいていたんだけど。」
彼女はうつむきながら僕に別れ話の詳細を話す。
彼がどれだけ彼女を大事に扱っていたか、彼女が彼の事をどれだけ好きだったか、そして今どれだけ傷ついているか。
客のまばらなカフェで僕たち二人は、まるで別れ話をしているカップルのように見えるだろう。うつむきながら涙ぐむ彼女。そっけない相槌を打つ僕。
彼女の言葉はずっと別れた彼氏を責めている。でも僕がそれに同調して彼の事を責めたら、彼女はきっと彼をフォローするだろうから、僕は何も言わずに聞いている。
時折訪れる沈黙は、彼女が何かを思い出しているとき。
そしてふっとまた涙ぐむ。僕は窓のほうを向く。僕なんかここに居ないみたいだ。
くやしいから僕は、どうしたの?なんて聞かない。
また沈黙だ。今日も空が青いなぁなんて考えてみたりする。
ふと彼女の指先に目を落とすと、彼女はぎゅっとこぶしを握った。
長い沈黙のあと、彼女は言った。
「私、結局都合のいい女だったのかな。会いたいときだけ会って。偽善の愛情をそそいでさ。」
「さあね・・。」
今までの会話と同様に、僕はそっけない相槌を打った。
すべてを失ったかのように思えている彼女は、今はきっと辛いだろうけれど、それでもはっきりとした結果の前に小さな灯りが見えているだろうと思う。
「僕は都合のいい男かい?愚痴を言いたい時だけ会って。僕はそこに愛があるんじゃないかって思っちゃうんだよ。」
そう言ってやりたいけど、まだ言えない僕よりは、ずっと。 |